《悪役令嬢は麗しの貴公子》16. 責任と義務

 「覗き見とは、隨分趣味がいいな」

 「……先ほどは大変申し訳ございませんでした」

 木影から出ていって開口一番に言われたのはそれだった。確かに褒められたことではないし、素直に謝る。

 「見ない顔だな。お前、名は?」

 「初めまして。私はルビリアン公爵家が長子ロザリーと申します。以後、お見を知り頂ければ幸いです」

 先ほどリディアと接した時とは口調も態度も異なり、素の狀態のアルバート王子に跪いて挨拶する。

 基本的に、アルバート王子は人前では完璧な王子様の仮面を被っていることが多く、素を見せるのは一部の気を許した者だけだ。

 ゲームでも、好度を上げれば素を見せてくれる事が多くなる仕様だった。

 まさか、いきなり素を見せられるとは思わなかったけど…。

 「あぁ、お前がルビリアン公爵の隠し子か」

 おい、隠し子ってなんだ。失禮な。

 ここには私たち以外誰もいないからいいけど、誤解を招く言い方は止めてほしい。

 「殿下、失禮ながら私は隠し子ではありません」

 「実際、隠し子みたいなものだっただろ。いつデビューしたんだ?」

 「今宵にございます」

 自分から質問してきたくせに、私の回答に『ふーん』と気のない返事をする。

 ゲームでも俺様系のキャラだったが、実際に接するとこの人喧嘩売ってるんだろうか?と思いそうになる。

 表筋に力を注いで笑顔が崩れないように注意する。

 「見た目だけでなく、名前までのようだな」

 「覚えやすいでしょう?」

 いつかツッコまれると思っていたので、用意していた臺詞を言ってみる。ついでに貴公子スマイル付きで。

 「お前、変わってるな。」

 「お気に召しませんか?」

 「いいや、気にった。

 俺は、アルバート・リリークラント。お前とは、今後関わる事も多そうだ。よろしく頼む」

 ふっと口元を緩めて跪く私に右手を差しべてきた彼は、月のに照らされてキラキラって見える。

 彼の手を取って立ち上がり、「こちらこそ」と笑顔を向ける。なのに、顔ごと逸らされてしまった。

 會場にいた令嬢達といい、アルバート王子といい、私の笑顔はそんなに酷いのだろうか? 流石に傷つきますよ。

 「しかし殿下、第一王子ともあろうお方がいつまでも會場に現れないのでは皆が心配なさいますよ」

 「『殿下』はよせ。親しい者はアルと呼んでる」

 知ってますよ。ゲーム全オールクリアしてるんですから。

 「ではアル様、會場へは行かれないのですか?」

 「……」

 「…アル様?」

 「……面倒くさい」

 後頭部を掻きながらボソッと言ったアル様の一言に、あぁそう言えばこういうキャラだったなと改めて思う。

 私と違って神年齢も11歳のアル様にとっては、公の儀式に出ること自が面倒になるのも分からなくはない。

 私も前世での行儀とか面倒だと思うことは多々あったから共できる。

 だが、この世界では子どもだとか分だとかは言い訳にならない。それが王族であれば尚のこと。

 

 今日は建國記念日ということもあり、同盟國をはじめとする多くの諸外國から使者が招かれている。

 そこに次世代を擔う第一王子の姿がなければ、諸外國からの信頼は薄れ、外問題に発展しかねない。

 私は「殿下」といつもより一段低い聲でアル様に呼びかけ、真正面から彼を見據えた。

 「今宵は年に一度の建國記念日。王族が公の場にいないのでは周りに示しがつきません。王族として生きるのであれば、その責任と義務を全うする覚悟をすべきです。覚悟がないのであれば、それらを放棄すればいい。責任と義務を全うしてこそ、真に王族を名乗る資格を得るのですから」

 ゲーム開始より4年前とはいえ、現時點でコレではこれから先が危ぶまれる。教育で大事なのは直せる時に直すことだ。

 

 間違ったことは言っていないつもりだが、目をぱちくりさせたアル様は押し黙ってしまった。

 「アル様、仮にも王族である貴方にこのような無禮を働き申し訳ございません」

 再度頭を下げようとした私を、アル様は手で制す。

 「……いや、お前の言う通りだ。では、俺も王族としての責任と義務を果たそう」

 眩しいくらいの笑顔に目を細める。なんだ、こういう顔も出來るんじゃない。まださが殘る表は、彼の決斷と共に威厳あるものへと変わる。

 きっと彼はいい王様になるだろう。

 

 今日初めて會ったけど、この一瞬での彼の長を微笑ましく思う。

 アル様は『行くぞ』と私の腕を摑み、會場へ続く道を歩いて行く。私はというと、アル様にズルズル引きずられる形で會場へと戻ることになった。

 本日もありがとうございました(´˘`*)

 次回もお楽しみに。

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