《悪役令嬢は麗しの貴公子》#閑話 side ヴィヴィアン

 ※時間はし巻き戻り、前話(26話)の間にあったエピソードです。

 

 紅に燃えた太がゆっくりと沈みゆく時分、太の棟に設けられた自室のソファにだらしなく寢転がるアルバートを呆れた目で見下ろした。

 「こんなに散らかして…これでは王太子の風上にも置けないね?」

 「……勝手にってくるなといつも言っているだろ」

 「ノックをしても聲をかけても無視を決め込み、そのくせドアに鍵をかけておかなかった王子様にだけは言われたくないね」

 「……」

 いつもは軽口だとけ流すアルバートが、ふてくされた様子で自分に背を向けて寢返りをうった。

 どうやらご機嫌斜めらしい。

 (おや…)

 面倒だな、と思いつつ散らかした主人の部屋を片付けようと目線を床に下げる。そこには、これまでロザリーとニコラスが選定した婚約者候補達の姿絵と報告書が散していた。

 一切の興味がない。

 それを実際に行に移しているようなアルバートに呆れてしまって咎めるのも馬鹿馬鹿しくじ、無言でそれらをかき集める。

 『アル様は我がが強いから穏やかな人柄のご令嬢が似合うのではないでしょうか?』

 『アル様の好みはイマイチ解りませんね…ヴィー様は何かご存じですか?』

 『またボツでした…。政治的にもご令嬢の品格、格にも問題ないはずですが…一何がダメなんでしょう』

 

 一枚、一枚と拾う度に婚約者探しなんて阿呆らしいことに巻き込んでしまった友人の顔が眼裏に浮かぶ。

 貴族の派閥、政治的な影響、所有する領の狀況や汚職への関與、そして令嬢自の人となりや量等々。調査した結果から、更にロザリーが直接會って會話を重ねた上で選定した令嬢達。

 ニコラスはさておき、時にはアルバートと付き合いの長い自分にも相席を頼み、アルバートのためを考えて行していたロザリーの努力は無駄だったらしい。

 「ローズが悲しむな…」

 自然と口から零れた聲にアルバートが僅かに肩を震わせた。

 「どうしてこんなことをしたんだい? これは、ローズとニコラスの努力を踏みにじる行為だよ」

 「……」

 「自分から言い出したことだろう。婚約者を決めるつもりがないのなら、いい加減あの2人を解放してやったらどうだい」

 

 「……」

 黙だんまりを押し通す主人に苛立ちが募り、かき集めた書類を持つ手に力が篭る。

 

 (……ムカつく)

 ピリついた室にクシャリと書類を握りつぶす乾いた音が虛しく響いた。

 學園に學した頃くらいからだろうか…アルバートが注ぐ視線には気づいていた。それが誰に対するものなのかも。

 最初にじたのは、しの違和

 心を許せる『友人』として一緒にいた筈なのに、アルバートの彼に向ける視線は歳を重ねる事に別のものを帯びていった。

 それは言葉に表せるほど立派なものじゃなかったけど、今思えばそこには確かに慕のようなものが含ませていたのかもしれない。

 なのに、自分は見て見ぬフリをした。

 

 幸いにも、アルバートには自覚がない。

 もしその気持ちに気づいたとしても王太子という分で同とのなんて國が認める筈がない。

 出來たとしても、せいぜい妾にするくらい。

 (やはり…先に芽を摘んでおくべきだった)

 ロザリー・ルビリアン。

 あの俺様で面倒臭がり屋、加えて王太子の自覚がほとんどなかったアルバートを変えてくれた、今では自分達にとってかけがえのない友人。

 出會ってから3年経った今も尚、髪をばしての服を著せたら完璧になんじゃないかと思える程に彼はしい。

 陶のようにき通った白いも、寶石を閉じこめた輝く瞳や上質な髪も、男にしては高いが凜と響く聲も、まるで穢れを知らない一の薔薇のようで。

 本人はきっと知らないだろうが、學園中の生徒からは『白薔薇の貴公子』なんて二つ名までつけられている。

 たとえ、公爵家の付加価値を除いたとしてもロザリー・ルビリアンという一人の人間の価値は下がらないだろう。

 それくらい、彼は魅力的なのだから。

 しかし、あくまで彼は男。自分達とは同であることもまた事実。

 もしこれから先、アルバートがその気持ちを自覚してロザリーとの將來をむのであれば、自分は王太子の補佐として全力で阻止しなければならない。

 

 たとえ、ロザリーを…優秀で信頼出來る心優しい親友をこの手にかけたとしても。

 

 (だからアルバート、どうかその気持ちに気づかないでくれ)

 アルバートの背に向かって心の中で懇願する。

 寢てしまったのか、アルバートはこちらの心中など気付きもせず一定のリズムで肩を上下させている。

 部屋を散らかして自分に片付けさせておいて寢るだなんて…本當にいい格をしている。

 とりあえずムカついたので、アルバートの後頭部を先ほど握りつぶした書類の束で起きない程度に叩いておく。

 王族にこんなことをすれば普通は不敬罪どころの話ではないのだが、室には自分と主人の二人だけ、且つ當人が寢ているので実質ノーカウントだ。

 軽く叩いたつもりとはいえしは痛みをじたのだろう、無駄に端正な顔を顰めていた。

 「ろぉ、ず……」

 その瞬間、自分のが過剰に反応した。その拍子に側にあったテーブルに腳をぶつけて小さく音が鳴る。

 マズいと思った時には、既にアルバートが薄らと目を開けてこちらを見上げていた。

 

互いを見つめあったまま十數秒間沈黙した後、アルバートが突然覚醒したように目を見開いてガバッと上を起こした。

 「俺は何か言っていたか……?」

 否定してほしそうな顔と聲で、そう問いかけてきた主人を見て心臓がドクンと嫌な音をたてた。

 いやまさか、そんな筈はない。

 否定したいのに心臓の音は段々と大きくなるし、脳では警告音が鳴り響いている。

 気づかせてはいけない。

 だって、

 そんなことをしたらーーー

 頬は痙攣しているのか上手にいてくれない。いつもは達者な口や表筋が役に立ってくれない。

 (あぁ、マズい…早く否定しないとーーー

 

 そうしないと、アルも、俺も……)

 ぐるぐると、回らない頭を必死に回転させて最前の回答を考える。

 否定の言葉ならいくらでも思い浮かぶのに、口にする前に消えていってしまう。

 早く、

 早く、何か言わないとーーー

 散々混する頭で考えて乾いた口から出たのは結局ーーー。

 「……アルバート、君ーーー」

 

 その先を言おうとしたが、出來なかった。

 口元に溫かみをじて目線を下げると、アルバートの手が自分の口元を覆っていた。

 「違う……! ちが、う……これは、違う」

 自分に言い聞かせるように否を唱える聲は震えていて、いつもの俺様な彼とは別人なアルバートの姿に目を見開く。

 揺した聲で否定の言葉を口にする目の前の主人は分かっているのだろうか。

 自分が今、どんな表かおをしているのか。

 (どこまでも殘酷だなーーー君も、俺も)

 なんだかシリアスになってしまった…

 本日もありがとうございました(´˘`*)

 次回もお楽しみに。

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