※注意書き

 ほんのしですが過激な表現が含まれています。

 苦手な方はスルーしてください。

 ダンスに合わせて奏でられる伴奏、會話を楽しむ者達の聲。

 そのどれをとっても、今の僕には煩わしいだけの喧騒としか思えない。

 （やっぱり、どこにもいない…）

 いつもなら、どんな雑音の中にあろうと一目で容易く見つけ出せるのに。

 気づいた時には、既にどこにもいなくて。

 に広がるのは、揺と焦燥、そして後悔。

 時間の経過と共に大きくなっていくソレに駆り立てられるように、忙しなく視線だけが會場を彷徨い続ける。

 「困りました……」

 いつかの夜會でも零した気がする獨り言を呟いて、周囲に悟られないように馬鹿みたいに必死に探している。

 カレンとダンスに興じ、彼をエスコートして休憩スペースまで行ったのは見ていたから知っている。

 その後、クランが接したことも。

 先程カレンをダンスにった時にさり気なく尋ねてみたが、彼も居場所までは知らないようだった。

 會場にいないなら、考えられるのは一つだけ。

 細い風が流れてくる方向、會場と繋がるバルコニーへと目を向けた。

 「ニコラス、今いいかい？」

 「…手短にならどうぞ。ヴィヴィアン様」

 初心な令嬢ならに落ちてしまうだろう微笑に、態わざと嫌悪を表に出して応える。

 隣にいる鮮やかな深海の瞳と髪を持つ王子様にもしっかりと見えるように。

 「久々の再會なんだ。よそよそしくしないでほしいな」

  「……ご要件は？」

 用があるから聲をかけてきたんじゃないのか…暗にそう伝えてみても、目の前にいる男は無駄に形のいい眉を下げて苦く微笑むだけだった。

 計算されたその仕草が僕の神経を逆でするのを、この男は知っててやっているに違いない。

 「ローズを知らないかい？ てっきり一緒にいると思っていたんだけれど」

 それは嫌味だろうか。

 今まさに探していたところを引き止めたのは貴方達でしょうに、とは言わないでおいた。

 「兄上ももう獨りではありませんから。僕なりに気を利かせたつもりです」

 「君の忠誠心には銘をけるよ」

 ホラ吹きめ。

 エメラルドグリーンの瞳を鋭く睨みつけ、この不な會話を終わらせようと踵を返す。

 「兄上に用なら僕はもう行きます。失禮」

 略式の禮をとってさっさとこの場から離れようと試みる。

 それなりに時間が経ってしまっているから、もうロザリーは移しているかもしれない。

 「待てニコラス。お前もローズを探しているんだろう？ なら、一緒に探した方が効率がいい」

 「むしろ非効率ですから結構です」

 今度は今まで口を閉ざしていたアルバートに引き留められる。

 もう振り返るのも面倒になり、不敬と承知の上でおざなりに返した。

 これ以上、時間を無駄にしたくなくて彼らの返事も待たずに背を向ける。

 さすがに大人げなかったかな……という心配は、ロザリーの元へと向かう自分の足音で次第に忘れていった。

 きっとクランも一緒にいるはずだ。それに態々わざわざ會場から出たということは、な話でもしているのだろう。

 人気がなくて會場からは見えにくい場所を脳にリストアップしながら歩く。

 後方では、いつ王太子に聲をかけようかと窺っていた者達が我先にとアルバートの元へ集まっていく。

 一國の王子というのも々と大変らしい。

 毎度のこととはいえ、王族に気にられようと必死な貴族は見ていて稽だ。

 次期國王の座がほぼ確定していてそれなりに顔も整っている。更に獨ともなれば令嬢にとってはこれ以上ないくらいの最優良件と言えるだろう。

 群がる令嬢達が煩わしいとよく愚癡っているが、いつまで経っても婚約者を決めていないアルバートが悪い。

 言うなれば、自業自得だ。

 まぁ僕には…いや、ルビリアン家にはもう関係ないことだけれど。

 僕も隨分と薄だな、と自嘲的な笑みを浮かべる。

 兄の元へと向かう足取りは軽やかで、それなりの関係を築いてきた筈の王太子の事など簡単に切り捨てられてしまうのだから。

 ダンスにってほしそうな令嬢達の視線にも気づいていたが、それに態々わざわざ足を止めてやる義理もない。

 いつだって彼達など眼中にはなくて、下手をすれば認識をしているかどうかも怪しい。

 それくらいにどうでもいい存在。

 ただ一點、ロザリーを除いては。

 いつだってニコラスの世界にを添えてくれるのは、唯一ロザリーだけなのだ。

 ロザリーが笑ってくれるなら、戦爭が起ころうが傾國しようが、それこそどうだって良い。

 けれど、ロザリーを傷つける者は許さない。

 例え、ロザリーに直接的な被害がなかったとしても、ロザリー自が気にしなかったとしても。

 ロザリーの世界を脅かそうとする事自が許されざる大罪だ。

 本當は、顔も見たくなかった。

 婚約者探しなんて面倒事を押し付けたくせに、ロザリーに熱のこもった視線を向けるあの綺麗な深海の瞳を抉えぐり出してカラスの餌にしてしまいたいとさえ思う。

 ロザリーへの気持ちがどれ位罪深いか知りもせず、これから起こるであろう災厄に彼を巻き込もうとしていたのだ。

 その事実だけでニコラスの腸はとっくに煮えくり返っている。

 それなのに、あんな気軽に聲をかけられて不快に思わない訳がない。

 「…心底嫌いだ、あんな奴」

 あまりの不快に顔が醜く歪みそうになるが、視界の端にしい銀の煌めきを見つけたおかげでそうならずに済んだ。

 間違いない、兄上だ。

 早足で彼の元に向かうと、すぐ傍に見慣れた赤髪の年がいることを認識できた。

 どうやら予想は的中したみたいだが、何か様子がおかしいことに気づく。

 対面している二人の距離は人と見紛う程に近い。

 チラリと覗くロザリーの耳も、なんだか赤みを帯びているように見える。

 一、何をしているというのか。

 「兄上…？」

 「ッ！ に、ニコ……？」

 恐る恐る聲をかければ、ビクリと肩を上下させて振り向いたロザリーと目が合った。

 驚きと焦りのりじった表と薄く付いた頬。

 その先に見えた、クランに握られた白い陶の様な指達。

 「何を、しているんですか…？」

 全くもって理解し難い狀況に、零れ出たのは率直な疑問だけ。

 目に見えて慌て始めるロザリーとは違い、クランはのよめない不敵な笑みを作った。

 「いつも通りロザリーをからかっていただけさ。コイツの反応は面白いからな」

 戯れていたと言うクランの言い分を審議する為、今度はロザリーへと視線を向ける。

 ロザリーはニコラスの視線に何度も頷いてみせた。

 ただの戯れだと言い切るには疑問な點が多かったし、何よりニコラスはクランへの信頼など殆どない。

 「…分かりました。兄上を信じましょう」

 「ありがとう、ニコ」

 ロザリーの瞳には分かりやすく安堵のが滲んだ。

 聞きたいことは山ほどあるがロザリーがそれをんでいないなら、決して聞いたりなどしない。

 何かを隠しているとずいていても、ニコラスがロザリーにとって不利益になるような言をとることなど有り得はしない。

 それでも、クランがいつまでもロザリーにれているのが気に食わなかったのでさっと二人の間に割ってる。

 クランはそんなニコラスの行に苦笑していた。

 本日もありがとうございました(´˘`＊)

 次回もお楽しみに。