《悪役令嬢は麗しの貴公子》53. 家に著くまでが遠足
アルバートが姿を現した途端、室は沈黙に包まれた。
 …なんでここにアルバートが?
 「顔に怪我を負っただろ。手當は済んだのか?」
 唖然とする私の頬にさり気なくれようとしてきた彼の手をサッと避ける。
 そして、気を逸らすように尋ね返した。
 「殿下こそ何故こちらへ?」
 「俺もあの現場にいたからな。お前が心配で抜け出してきた」
 抜け出してきた、その一言に私の頬は更に引くつく。
 一悶著起こした側から言えることではないけど、彼は今夜がどれだけ重要な催しか分かっていないのだろうか。
 なくとも一國の王子が抜け出していいなんてことはない。
 一、保護者ヴィヴィアンは何をしているんだか。
 「アルバート様、私を気遣って足を運んで下さったことは謝しています。しかし、事には優先順位というものがあるのです」
 「なんだ、いきなり畏まった言い方をして。お前らしくもない」
 「話をはぐらかさないで下さい。きっと國王両陛下やヴィヴィアン様も心配していらっしゃる筈です」
 遠回しに會場へ戻るよう言ってもアルバートには伝わらなかった。
 「兄上の言う通りです。子ではないのですから聞き分けのないことを言わないで下さい、殿下」
「そう急かすな。ヴィーに任せてきたし、後數分は大丈夫だ」
 やや強めな口調で退出を促すニコラスにもアルバートがじることはない。
 
 「ーーーチッ……面倒な」
 重低音で呟いたのはニコラスだった。
 ニコラスは怒気を含んだ無表のままアルバートの元へ來ると、彼の腕を捻りあげるようにして引っ張った。
 「何をするニコラス! 離せッ、おい!」
 「ほら、行きますよ。王子だと豪語するのであれば、それ相応の義務は果たしてきて下さい」
 相當イラついているのか、ニコラスが加減しつつも強引にアルバートを引きずっていく。
 そして、アルバート付きの護衛にポイ、と投げると會場へ連れていくよう頼んでそのまま扉を閉めてしまった。
 「驚かせて申し訳ありません。兄上、そしてカレン嬢」
 「確かに驚きはしたが、私は気にしていない。ニコラス殿こそ大変だったろう」
 「このぐらい、普段から學園で共に生活している兄上に比べれば大したことはないですよ」
 
 再び靜寂が訪れた室で、ニコラスは肩を竦めて苦笑した。
 「陛下からも許可を頂きましたので、兄上達はもうお帰り下さい。馬車は既に手配してあります」
 おそらく、この対応は陛下からの謝罪を意味するのだろう。
 貴族たちが集まる催しで何か問題が起きた場合、責任を取るのは主催者の義務だ。
 しかし國王という立場上、容易にそれを認めることはできない。
 だからこそ、この『配慮』なのだろう。
 こちらとしても好都合なので甘えさせてもらうことにした。
 ニコラスに禮を言ってソファから立ち上がり、カレンをエスコートしながら城門へと向かう。
 そこには、既に二臺の馬車が到著していて私達を待ってくれていた。
 
 カレンを彼の家まで送り屆ける気でいた私は、馬車の臺數に疑問を抱く。
 
 「君の紳士なところは素晴らしいが、己のも労ってやってくれないか。これでも武家の出だ、夜道を怖がるほど弱くはない」
 手當を施した方の頬に手を添えたカレンが苦笑する。
 そんな風に言われてはけれるしかないじゃないか。
 「ありがとう、カレン」
 
 「禮を言うのはこちらの方だ。君のおかげで夜會を楽しむことが出來た」
 目を緩ませた彼の表は、心から楽しめたことを言葉以上に雄弁に語っていた。
 そのことにほっとをで下ろす。
 「では、次も楽しんでもらえるよう努力しなくては」
 引き寄せてカレンの手の甲にを落とす。
 婚約してから初めて參加する夜會なのに、完璧なエスコートを出來なかった。
 だから、そのリベンジの誓いの意味を込めて彼に別れのキスを送る。
 「おやすみカレン。良い夢を」
 「お、おや、すみ…」
 頬を朱に染めたカレンが、し上ったぎこちない聲で返答してくれた。
 その反応がらしくてもうしこのまま見つめていたいけれど、そろそろ彼を家に帰してあげなければ。
 
 馬車に乗るその瞬間までエスコートは続く。
 扉が閉まる間際、そっと離れた手に寂しそうな表をみせたカレンを乗せて馬車は走り出した。
 一先ず役目を終えた、と肩の荷をおろしながら馬車を見送っていると背後から不意に聲をかけられる。
 「王子様の役目は終えたか」
 低く、それでいて威厳のある聲が響く。 
 驚いて振り返った私は、聲の主を認めて更に驚くこととなった。
 向けられた鋭い雙眸。
 襟足だけばした長い髪を後ろで一纏めにしている男。
 黒を基調としたドレスコードを纏うも、まるで軍人かと錯覚してしまうほどに男のは引き締まっていた。
 何故、ここにいるのか。
 張が全を駆け巡った。
 「初めまして。ロザリー・ルビリアンと申します。このような格好でご挨拶させて頂く無禮をお許し下さい」
 
 揺を理で抑えつけ、膝をつき頭を垂れて『最上』の一禮をする。
 それが、この場で一番正しい対応だと思った。
 「構わん。楽にしろ」
 
 しかし、返ってきた言葉はそれだけ。
 名乗りもしない男を心で非難したが、顔には決して出さない。
 言われた通り禮を解き、失禮にならない程度に男を見る。
 男も私を冷ややかな雙眼で観察するように見つめてきた。
 剎那の沈黙が生じる。
 無言の攻防をしているようだった。
 「驚いた。この國にもお前のようにマシな・・・貴族がまだいたとはな」
 
 ふ、と冷笑する男。
 あまりに骨な侮辱に元までが押しあがってくるのをじた。
 だが、直ぐに理が働いてくれたのでなんとか耐えられた。
 ーーー落ち著け。
 心に言い聞かせてから男をもう一度見つめ直す。
 彼は私を試している。
 目的は不明だが、今のやり取りを考えればそこに行き著く。
 私は曖昧に微笑んで片手をに添え、先程よりも軽く頭を下げてみせた。
 褒められた訳ではないから謝の言葉は不要だと省く。
 「ほぉ……。度だけでなく聡明さも持ち合わせているか」
 私の行をどうけ取ったのか、男は形の良いを楽しそうに吊り上げた。
 怪しい輝きに満ちた瞳に捉えられる。
 本能が警告音を鳴らし、視線を逸らす。
 しかし次の瞬間には、男はぐっと私との距離をめ、鼻先がれそうなほど近くまで迫ってきた。
 「な、」
 反的に後ろへ下がろうとして、男に腕を摑まれる。
 まるで、逃がさないとでも言うように。
 「お前、面白いな」
 しだけ弾んだ低く艶のある聲が囁く。
 
 「來い」
 混する私の手を引き、待たせておいた馬車とは別のーーおそらく男が手配したであろうーー馬車に乗せられる。
 パタン、と扉が閉められたかと思えば、そのまま走り出してしまった。
 「殿下……!」
 これには流石に耐えきれずそう呼んだ私に、彼は薄く微笑んだ。
 「家まで送ってやる。その代わり著くまでの間、俺の話し相手になれ」
 有無を言わさぬ威圧的な言いとは裏腹に、切れ長の瞳は新しいおもちゃを手にれた子どものように輝いている。
 ーー早く家に帰りたい。
 既に向かっている我が家をしく思いながら、私は口を開いた。
 「では、殿下を退屈させないよう一杯務めさせて頂きます」 
 本日もありがとうございました(´˘`*)
 次回もお楽しみに。
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