《悪役令嬢は麗しの貴公子》#閑話 舞踏會のその後
 (※以下、アルバート視點)
 ゆったりした音楽と弾んだいくつもの聲達が混ざり合う舞踏會場。
 その場に力ずくで連れ戻された俺は、自分の娘を売り込む者達と會話をさせられている。
 「それに私の娘は裁も上手でしてね。の贔屓目を差し引いても量が良いと思うのですよ」
 「手先が用なのは良いことだ」
 「おぉ、殿下もそう思われますか! であれば、一度會話の席を設けて…」
 「いやいや殿下、用という點では私わたくしめの娘も負けてはおりませんぞ。この娘はダンスが得意でしてな」 
 「ダンスが上手だとパーティでは映えるからな」
 「そうなのですよ。殿下も一曲いかがでしょう?」
 かれこれずっとこの調子である。
 正直に言って、そんな話をされても彼達にほども興味が湧かない。
 平坦な聲で當たり障りない返事を事務的に繰り返す単調な作業だが、これが中々に疲れる。
 
 「お話中に失禮致します。所用がありまして、々殿下をお借りしますよ」
 
 笑顔をり付けたヴィヴィアンに腕を引かれ、の中から連れ出される。
 「助かった」
 「お禮を言うくらいなら自分で抜け出すように努力しなよ」
 呆れ顔で言われてしまってはぐうの音も出ない。
 會場の隅の方まで避難すると、ヴィヴィアンは片手を上げて踵を返した。
 「俺はもう戻るよ。次は助けてあげれないから自力で頑張って」
 「お前が休憩しないなんて珍しいな」
 「…ローズをあんな目に合わせてしまったんだ。せめて後始末だけでもしないと」
 いつにない真剣な表でそれだけ言うと、ヴィヴィアンは再び群衆の中へと戻っていった。
 (ローズは…そろそろ家に著いただろうか)
 柱の影にを潛めていても考えることはやはりローズの事。
 口からが出るほど強く叩かれたというのに、どこまでも凜としく振る舞うアイツに見惚れてしまった。
 ただ見ていることしか出來なかった自分が恥ずかしい。
 権力や地位があっても友一人助けられないのでは意味がない。
 だから醫務室に見舞いに行った時、ローズは俺にあんな態度をとったのだろうか?
 「本當に、何をやっているんだろうな…」
 「何がですか?」
 「ッ!!」
 急に橫から聲をかけられて驚く。
 完全に気を抜いていたせいか、近づいてくる気配に気づけなかった。
 だが、聲の主が誰か直ぐに分かってしまった俺は不躾に顔を覗き込んでくるを睨んだ。
 「何の用だ」
 「あ、あのアタシ、急に聲かけちゃってごめんなさい! なんだか落ち込んでるみたいだったからどうしたのかなって思って…」
 
 両手の指を元で組んで上目遣いでそんなことを言ってくるのは、常々俺に付きまとってくるリディア・クレイン男爵令嬢。
 俺はこのが苦手だ。
 
 「休憩していただけだ。悪いが一人にしてくれ」
 視線も合わせず態わざと冷たい聲であしらう。
 ただでさえ疲れているんだ。このに構ってなんていられない。
 「そんなことっ…出來るわけないじゃないですか!」
 「は?」
 
 「そんな悲しいこと言わないで下さい! アタシがそばにいます!」
 俺が言いたいのはそういうことではないんだが、どうやらこのには伝わっていないようだ。
 「大聲を出すな。煩い」
 「あっご、ごめんなさい! でもアタシ、アルバート様には笑っててほしいです! その為ならどんなことでもしますから!」
 心からそう思っているなら俺に付きまとわないでほしい。
 聲の音量もほとんど下がっていないし、本當に面倒な奴に捕まってしまったものだ。
 「…ロザリー君ですか? 貴方にそんな顔をさせているのは」
 急に何を言ってくるんだこのは。
 コイツのこういう全て見かしてくるような瞳や俺のことをなんでも知っているような口ぶりが気味悪くて苦手だ。
 「…やっぱりそうなんですね。ロザリー君のせいでアルバート様は傷ついているんですね」
 「何を……」
 「大丈夫です! アタシが癒して差し上げますから!」
 「はぁ?」
 戸う俺にずいずいを寄せてくる。
 恥じらいというものはないのかこの!
 「アルバート様はいつもお仕事でお疲れなのにロザリー君は何も分かってない」
 「どういう意味だ」
 「だってそうでしょ? さっきだって、カレンを守って扇でぶたれてたけど、あれって同士のいざこざに首を突っ込んで喚き立てて大事にしただけじゃない。アルバート様がその拭いをするなんて微塵も考えてない人の行よ!」
 …本當に何を言っているんだこのは。
 さっきというのはルミエラ嬢がカレン嬢に扇を投げつけた件だろうが、ちゃんとあの出來事を見ていたのか?
 いや、見ていたらこんな馬鹿なことは言わないはずだ。
 「外國の偉い人達もいるのに悲劇の主人公ぶって、あれじゃぁまるでーーー」
 「もういい黙れ」
 「え…」
 これ以上は聞くに耐えなかった。
 
 「俺を怒らせたくなければ、今すぐこの場から立ち去れ」
 「どうして…? 何がダメだったの?」
 どうしてだと?
 隨分と笑わせてくれる。
 俺は何も応えず、泣き出しそうなに背を向けた。そして、近くにいた近衛警備隊にを連れて行けと命じる。
 近衛に腕を捕まれたは俺に向かってんだ。
 「ねぇなんで! なんで主人公アタシがそんなこと言われなきゃいけないの!? それを言われるのはーーー……」
 俺は後ろで喚くの聲には耳をかさず歩き出した。
 だからあのが最後に言った言葉を聞き逃してしまった。
 もし、この時にリディア・クレインの言葉を最後まで聞いていれば、俺は違った道を歩んでいたのだろうか?
 『それを言われるのはーーー
                      ーーーロザリー・ルビリアンのはずでしょ!?』
 本日もありがとうございました(´˘`*)
 次回もお楽しみに。
 インフルエンザが流行ってきてますね。
 皆様も調にはお気をつけ下さい。
                                                       (1.11.20)
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