《竜神の加護を持つ年》87.デスラード皇帝と謁見!
オルナスとクロとの會話から一夜明け、早朝。睡眠時間は長くは無かったが珍しくコータは早めに目が覚め、リビングへ顔を出すとまだ誰もきてはおらず、一人で紅茶をれて飲む。
今回の帝國の問題を解決したら、両親にまた會えるかも知れないと考えると不思議と不安も消え心も穏やかでいられた。コータにとってはそれだけ両親の存在が大きかったという事なのだろう。
しばらくしてアルテッザ達が揃ってリビングへって來て第一聲が――。
「コータさんが早起きしているにゃ!」
「コータさん、おはよう座います。何かあったんですか?」
「いったい、何事ですの?」
「ついにコータさんも目覚めたんですね! 早朝からトレーニングですか?」
「地震でも起きなければいいだに!」
「お前が早起きしても、誰も喜ばないんだぞ!」
「………………」
やっぱり、散々であった。
「いよいよ、帝國へ乗り込むから張しているのかもね!」
俺はおどけてそう言ったが、実際は全然張はしていない。
寧ろ心は穏やかである。
「コータさんは張とは無縁の人だと思っていましたわ。私の毒を見てくれた時も、あれだけ大勢の王族の前で堂々としていましたし」
「それは、メテオラのステータスを見ちゃったし。しかもその治療法を知っていたから自信があっただけだよ」
「という事は?」
「うん、今日も自信がある!」
この世界では未だに日本と違って地震にはあっていないけどね。
「しかし、コータの駄灑落はつまらんのぉ!」
大きなお世話だ!
そんな馬鹿な話をしながら朝食を取り、俺達は全員で帝國を目指す。
今回も當然中型のクロに乗ってだが、いつもと違うのはそのサイズのままガルラード帝國の王城へ乗り込む予定になっている。普通なら災害認定間違いなしではあるが、エルフにも、獣人にも、アルステッド國にもばれているので今更である。
この大陸はそれほど大きくは無い。それこそオーストラリアと同じ位だ。他の大陸はもっと大きく、そこには當然の様に魔王もいれば勇者も、聖もいるらしい。ダンジョンもあるにはあるらしいが、魔族と呼ばれる人が住むとクロが話してくれた。
こっちのダンジョンはパワーレベリングやお寶探しじゃなく、ただの住居って所で俺のテンションも下がった。
俺達が上空に飛び立ち焼け焦げた森を抜け、水気の失われた砂漠化した所を眺めてし経つと下方に街らしきものが見えてきた。
外壁は円形で中央に尖塔の様な尖った建が見える。
地球のピラミッドに近い構造の建らしかった。
おりる場所は城門とピラミッド型の城の間の、昔は庭園だったのだろう。
池の跡や花壇の址が痛々しい場所に降り立った。
降下し始めて、漸くクロによって作られた大きな漆黒の影に気づいた兵達が慌てふためいているのが視界に飛び込んでくる。逃げ出すもの、怒聲をあげ弓を掲げあげるもの、腰を抜かすもの、大勢の兵が慌てているのがはっきりと分った。
クロが地面に降り立つとクロの目線と王城の尖塔部分の高さが同じ位になっていた。尖塔の遠見臺で監視をしていた兵に向け聲をかける。
「私はアルステッド國で伯爵位を賜っております。コータ・ミヤギと申します。皇帝陛下にお取次ぎ願いたい。尚、この竜は私の仲間ですから何もしなければ安全です」
竜に人が乗ってやってくるなど、それこそ伽噺の世界である。中々現実に戻って來られない兵達に再度聲を張り上げ伝える。
「私はアルステッド國のコータ・ミヤギである。皇帝陛下にお取次ぎ願いたい!」
しばらく呆然としていた兵が駆け出すのが見えた。恐らく皇帝に伝令に行ったのであろう。俺達は周りを見回す。弓を抱えているものは數で殆どの兵は腰を抜かししゃがみ込んでいた。
しばらくすると、大臣らしき恰幅がよく髭を生やした老人がやってきて自己紹介される。
「私奴はこのガルラード帝國で執政を取り纏めております大臣のトカレスと申します。伝令に聞いた限りですと、アルステッド國の使者様でいらっしゃるとか。いったいこの様な禍々しい竜に乗り出向かれるとは何様でしょうか?」
「先日、俺の滯在していたエルフの里の森がそなた達の兵により延焼させられた。その件と貴國の抱える水問題の件で皇帝陛下に提案が座います。是非、お目通りをさせて頂きたい」
「なっ!」
俺がエルフの里に居たのを聞いた大臣は、今回のエルフ討伐の作戦失敗を知る事となる。それと共に我が國の最大の問題、水問題で提案があるという。いったいそれはどういう事なのかと、不安になりながらも再度、竜の頭の上に乗るコータに問いかける。
「エルフの森へ行った我が軍はどうなったのでしょうか、それとその水問題とは?」
コータも面倒だなとは思いながらも、今回の顛末を話す。エルフが協力を申し出て水源の確保に乗り出すと聞いた大臣は急ぎ謁見の準備をいたします。しばしお待ち下さい。といいその場を走って奧へと戻って行った。
それから約1時間は経っただろうか? コータ達がイライラし始めた頃に漸く大臣が戻って來て謁見の間まで案を致しますと申し出てきた。大臣の案で石の壁で囲まれた通路をコータ達一行は歩く。壁に肖像畫の類はかけられてはいるが、花などの生花は一切無い事がより一層、この帝國の現狀を表していた。
やがて大きな扉の前にくると、両脇に立っていた騎士が小窓を開けて中に俺達の來訪を伝える。
「アルステッド國よりの使者、コータ・ミヤギ様、一行おり下さい」
その聲で扉が開き、俺達が中へ足をいれるとそこには両脇を兵、騎士に囲まれた真っ赤な絨毯が敷いてありそれは奧の皇帝の椅子まで真っ直ぐにびていた。俺達はとりわけ足踏みを合わす事もせずにゆったりと奧へと歩いていく。絨毯が切れている所で止まれという事なのだろう、俺は特に跪くわけでもなく直立の姿勢で対峙した。
「アルステッド國の使者殿、その態度はあまりにも……」
そう大臣が言うが気にしない。
俺はそのまま口を開く。
「ガルラード帝國の皇帝陛下とお見け致します。私はアルステッド國で伯爵位を賜っているコータ・ミヤギと申します。この度はエルフと貴國の問題と貴國が抱える水問題の解決方法を伝授しに參りました」
俺が助けに來てやったんだから跪く必要はないでしょ?
――と遠まわしに言うと。
「此度の來訪、心より謝いたします。余がこの國の皇帝でデスラードである。それでエルフの件と水問題の解決方法を教えて下さるとか。伺いましょう」
「はい、先日私は貴國が拐したエルフの民を送り屆けた為にアルフヘイムに滯在しておりました。そこで貴國の水問題の解決を統括理事の皆さんと話し合っておりました。所が――貴國は大規模殲滅兵の魔道でエルフの森を焼き払った。これで貴國の水問題解決の協力も破算になると思われた所、幸いにもエルフの皆さんの溫により協力を取り付けることに功いたしました。今後二度とアルフヘイムへ兵を差し向けたり他國を侵略しようとしたりしないのであれば、エルフの皆さんのお力をお借りしてこの國に水源を齎せましょう」
「この國を見てミヤギ殿はどう思われた、もはや枯れきって死ぬのを待つだけの有様だ。それを救って頂けるのであれば何でもお約束いたしましょう」
この皇帝、もっと強気なイケイケだと思ったら以外に普通だな。侵略國家の皇帝かと思ったら自暴自棄になっていただけかよ!
「分りました。その方法ですが……アルフヘイムの水源の下流に巨大な水溜りを設けます。その水溜りから貴國が伐採した森林と貴國の川へ水を流れるようにいたします。ただし、巨大な水溜りは全てエルフが管理し、必要水量を帝國に流す様に致します。この條件でよければエルフとの正式な調印をして頂きたい」
「それでは、我が國の命綱が、ずっとエルフに握られるという事になるではないか!」
「はい。貴國の先祖が侵略をした事は過去の事として不問に出來ても、貴國が今回行った暴挙はエルフの皆さんをより苦しめました。命綱を握られたから何だと言うのです――貴國は放って置いても滅びの道しか座いません。それをエルフの溫で助けてもらえるのです。それ位けれても何も問題はないでしょ。それとも貴國は復興再生したらまた侵略行為を繰り返すというのでしょうか……それなら今直ぐにでも私がこの國を潰します」
「何を!」
ここでピクシーサイズに変化して、學迷彩で姿を消していたクロが姿を現す。
「我は永遠を生きる古竜である。此度の條件も飲めんと言うなら、そこのコータの言うとおり我のブレスでこの國を灰燼と化す。我の真の姿の一部はそちらも先程目に焼き付けたであろう?」
クロが放った威圧で、席を立ちかけていた皇帝が椅子へ押し戻され大粒の脂汗を流し始めた。
「わ、わかりました。エルフにこの國の命綱を預けましょう」
最初からそう言えばいいものを……自分たちが仕出かした事を忘れているんじゃないよ!
まったく。
「それじゃ正式な調印の日程を詰めるから、早急にエルフの森に皇帝と大臣で出向いてね。あっ、妙な事を考えたりしたら分っているよね?」
「それは、もちろん承知した」
あれだけの事をしておいて、これで済ますんだからもっと腰低くしてもらわないと!
ねっ。
それじゃ。と言い殘し俺達はクロに乗り込みアルフヘイムへと飛び立った。
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