《と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について》6話目 冒険者は大嫌いです
この世界が大嫌いになった原因は大きく分けて三つある。貴族と奴隷制にまつわる差別意識と冒険者だ。
俺の関わった貴族共は他人を利用することしか考えておらず、貴族にあらずは人にあらずとすら考えているのがほとんどだった。
また、エルフやドワーフを奴隷として扱っていることに対して人間と獣人は疑問を持っていない。奴らにとってエルフとドワーフは貴重な資源と変わりないのだ。
山奧や地下に暮らして作りの技量の向上に道を上げるドワーフは質の高い品を作らせることのできる資材のように思われ、森でひっそりと暮らし、見た目がしく壽命が他の種族に比べて異様に長いエルフは寶石のように思われている。
そして冒険者と呼ばれる奴らはチンピラや人攫いと言ってもよい。大抵の場合エルフやドワーフを攫うのは冒険者である。小さい頃は薬草を集めたり畑の見回りをしたりと穏やかな仕事をしているはずなのに、何故大きくなると人攫いになるのかが俺にはわからない。魔の討伐等を行うのも冒険者なので必要な存在なのはわかるが、やはり嫌いだ。
あたりがすっかりと暗くなってしまった頃、魔の森と呼ばれる広大な森の前に十人の冒険者の男たちが集まっていた。男たちはそれぞれ統一のない裝備を著ているが、一人の苛立った様子の男を除いてみな薄ら笑いを浮かべている。
「あのガキはこの森に逃げ込んだって話だ。手間かけさせやがったからにはお仕置きが必要だよなあ?」
「そうだ! あのガキにはもういっぺんの程ってもんを教えてやらなきゃいけねえなあ!」
薄ら笑いを浮かべた一人の男が他の男たちに問いかけ、同じように笑っている者は『そうだそうだ』と同調する。
「チッ、見つかってもてめえらが壊しちゃ意味ねーだろうが」
他方、苛立った様子の男がそれに不満を述べる。先程の男たちは普段から『あのエルフをさっさと使わせろ』とうるさく、今回のことはその良い口実となったのだ。
二年前は運よくあのエルフのガキを捕まえることが出來たが、が出來ていないに暴に扱われては簡単に壊れてしまう。それ故まとめ役であるこの男は彼らの要求を突っぱねてきたのだが、今回ばかりはそれが出來なかった。
とはいえ、二年も奴隷として飼ってやったのに逃げ出すような欠陥品ならば壊してしまっても惜しくはない、と考えたため彼らを止めようという気が起きなかったのもある。最悪、新しく年頃のエルフをなんとかして捕まえれば良いと自を納得させたのだ。
「しかしよう、この魔の森にはおっかねえ魔法使いが住んでるって話じゃなかったか?」
ゲラゲラと笑っていた男たちの一人がふと疑問の聲を上げる。そもそも何故彼らが魔の森にシャルがいることを知ったのかと言えば街の住人に聞き込みをしたからである。當然、魔の森の恐ろしさについて知っている街の住人は男たちに注意を促したのだ。
「はっ! お前馬鹿じゃねえか? 魔法使いなんて々火か水しか出せねえじゃねえか。そんな奴が魔だらけの森なんかに一人で棲めるわけねえだろ」
「ちげえねえ。森にガキ共がらねえように話を盛ったんだろ」
それに対して他の男たちは馬鹿にした様子でそれを否定する。火や水をることが出來るのが一般的に知られる魔法使いというものであり、無論例外は存在するがそれでも何百という魔を相手にできるような存在ではない。
「まああのガキが見つからないでその魔法使いが見つかったらガキの代金の要求でもしてやろうじゃねえか。『お宅の森でうちの奴隷が死んじまったんだから弁償しろ』ってな!」
「そりゃいいや!」
まとめ役の男はそうしてギャハギャハと笑う男たちを見て深いため息を吐く。いくら森に親しんでいるエルフと言えど、魔だらけの森で生き延びられる確率はほとんど無い。當然、ただの魔法使いが本當に森に住んでいるなど欠片も信じられる要素が無い。
「あれが死んだ跡しかみつかんねえだろうなあ……」
今回の捜索は骨折り損のくたびれ儲けであることがわかっているため、『さっさと死骸がみつかんねえかな』と男は願うばかりであった。
「なあ、何かおかしくねえか?」
最初に異変をじたのは斥候役の男であった。
「何かって、何だよ」
「なんてーか、同じ場所ばっか回ってねーか?」
索敵及びマッピングを擔當する彼だけが気付けたのだが、先程から景が変わっていないのだ。不可思議に思い彼は木に跡をつけておいたのだが、しばらく歩くと跡をつけた木の場所に戻っていたのだ。
斥候役の男の言葉に対して別の男が怒鳴り聲をあげる。
「この馬鹿! 迷わねーためにお前がいるのに何で迷ってんだよ!」
「けどよう……」
「じゃあ真っすぐ歩けばいいだろうが! さっさと行け!」
『おかしいなあ』と首を捻りながらも斥候役の男は先へ進む。実を言えば違和の原因はそれだけではないのだ。聞き込みした報によれば魔がそこらじゅうにいるはずなのに、それらしき気配が一切じられない。初めは単なる偶然かと思っていたが、今起きている異変と合わさり何かよくないことが起こっているのではと思えてしまう。
そしてその予は的中したことを男は知る。
「おい、この森はおかしいぞ。俺たちは間違いなく真っすぐ歩いていた。だが同じ場所に戻ってる」
斥候役の男が皆に異変を伝えた。そこにあったのは跡をつけた木。またしても彼は同じ場所に戻っていたのだ。これには他の男たちも危機を覚えることとなった。言こそ下品だが彼らは全員腕に覚えのある冒険者であるため、事ここに至って馬鹿にするようなことはしない。
「おい! あれを見ろ!」
一人の男がある方向を指さす。その先には森の雰囲気に釣り合っていない家があった。男たちは顔を見合わせると互いに頷き家へと向かう。
玄関の扉と思わしき場所まで殘り十メートル程の場所に來たとき、突然その扉が開く。思わぬ事態に男たちにどよめきが起こるが、更にその扉の向こうから一人の男が出てきた。
「こんな夜更けに何の用かな? 冒険者さんたち」
その男は冒険者たちの前まで來るとそう質問した。男の年は十五程だろうか、こんなガキが何故この森の中の家から出てくるのかが冒険者たちにはわからなかった。
「おい、ガキ、てめえ何もんだ」
故に冒険者はそう返す。
質問を質問で返されたにも拘わらず機嫌を悪くした様子も見せず、男はなんてことのないことを言うように軽い口調で答える。
「俺はこの森に住むただの魔法使いだ」
その言葉を聞いた冒険者たちはまたしてもなくない衝撃をける。しかし逆にその言葉である程度落ち著きを取り戻した。森は訳がわからないが、目の前にいるのはただのガキ。魔法使いを名乗っているとは言え出來ることは高が知れている。まさか本當に魔法使いが住んでいるとは思わなかったが、それならば森にる前に考えていたことを実行すればよいだけのことだと考えた。
ただの魔法使いが魔だらけの森に住めるわけがないと自分たちで言っていたのに。
「俺たちゃ奴隷を探してるんだ。エルフのガキがこの森にったって聞いてよう。なあお前さん、ここらでエルフのガキを見てねえか?」
『知らない』と答えれば代金を請求してやろうという考えと共に、カマをかけるつもりで冒険者の一人が魔法使いにそう尋ねた。
「ああ見たよ。今俺の家で保護している」
あっさりと白狀した魔法使いに男たちは目を丸くする。普通は知っていてもしらを切るものなのに、こいつはなんと世間知らずなんだ、と。そして同時にこの魔法使いはカモなのだと確信する。
「そいつぁ良かった。じゃあそいつを連れて帰るからガキの所に案してくれねえか?」
こんな森に住む魔法使いならばさぞ珍しいをため込んでいることだろう。どのようにして縛り上げて無力化するか冒険者たちは算段をつけ始める。
「斷る」
「あ? 舐めてんのか? その奴隷は俺たちの持ちなんだぞ? 優しく言っているに案した方がのためだと思うんだがなあ?」
魔法使いの気にらない返答を聞いた男たちは各々の武を手に持ち始め、『強を張ればどうなるか、わかっているよな?』という無言の圧力をかける。
「斷る。家の中に案するのも、あの子をてめえらに渡すのも斷る」
しかしそんな脅しなど無意味だとばかりに魔法使いは堂々と斷る。
「なら代金を渡してもらうしかねえなあ。そうだな、金貨千枚ってところだな」
舐めた態度をとった魔法使いをタダで済ませるつもりは冒険者たちには頭無い。到底払えない額を要求はしたが、どうなってもこの魔法使いを殺すつもりでいた。
しかし
「斷る」
「じゃあ死ね」
ある意味想定通りの返事を聞いた男たちは返事を聞くか否や魔法使いに切りかかり、男たちにとって必殺の距離で一撃を放つ。目の前の自稱魔法使いが本當に魔法使いだろうがそうでなかろうが関係ない。この距離で一撃を放てば確実に當たる。
「本當、予想通りだよなお前らって」
そんな言葉を聞いた冒険者たちのきが止まる。いや、正確には止められた。傍目には何が起こったはわからないし、當事者の彼らにも正確なことはわからなかったが、何かが起こったことはわかった。
「て、てめえ何しやがった!」
一人の男が狼狽しながらそう言葉を吐いた。男たちが止まったのは彼らの得に何かがぶつかったため。凄まじい攻撃を得で防いだ時のように弾き飛ばされそうになった彼らはその場で止まることがいっぱいだった。
「何って剣で攻撃したんだよ。こんな風に」
気が付けば魔法使いの手には長剣が握られていた。そして気が付けばその剣は既に振り終わっており、いつのまにか一人の男の首から上が消えていた。
「は?」
間抜けな聲が誰かかられるがその間にも一人、二人と首から上が消えていく。そしてようやく事態を飲み込んだのかその聲は悲鳴へと変わった。
「う、うわああああ!」
冒険者たちは一斉に逃げ出そうとする。彼らとて魔と戦ったことがある。加えて他國との戦爭に參加したこともあり、目の前で人が死ぬことには慣れていたし度もあった。だがそれにも拘わらず彼らは逃げ出すことを選択した。
巨大なに押しつぶされて死ぬのはわかる。魔法で焼かれて死ぬのもわかる。相手に剣で貫かれて死ぬのも、爪で引き裂かれて死ぬのもわかる。だが、今目の前で起こっていることはわからない。何の前れもなく、ただ死んでいく。首から上が消えていく。音すら聞こえず、何も見えず、わからないままみな死んでいく。その恐怖に対抗するすべを彼らは持っていなかった。
「何なんだよ! 何なんだよお前えええ!」
どんどんと死んでいく仲間を見ながら、たまたま一番後ろにいたまとめ役の男がそうぶ。
「だから言ったろ? ただの魔法使いだよ」
『噓をつけ』とも『本當に恐ろしい魔法使いはいたのだ』とも思う中、やはり彼の首から上も気付けば消え去ってしまった。
こういう場合、わざと街まで逃がしてみたり森に逃がして追い詰めて殺したりするんだろうけどなあ。面倒だなあ。
『面倒だから』という理由で絶技を放ち殘りの冒険者たちをまとめて殺す。だが俺からすれば何の捻りもなくただ単に剣を振っただけ。音速を超え、『空間すら切られた』と見た者に思わせるような一撃だが……、つまらん。
うーむ、やっぱり外の奴らはつまらんな。百年経ってどんだけ長したか気にはなっていたが、この分じゃあまり期待は出來ないな。
わざと逃がして結界で迷わせて絶させた上で殺して、何人かは見せしめにモズの早贄にでもして森の近くに飾ろうかと思っていたが、面白くなさそうだから中止だ中止。
何はともあれシャルを狙う奴らはこれで消えたはずだ。いつかやつらとばったりと出會ってしまう心配もなくなったので良しとしよう。さて、用事も終わったし風呂にって寢るとするかね。
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