《と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について》9話目 ペットです
「シャル、こいつが今日お前に會せたかったドラ助だ。見てのとおりドラゴンだが、長生きしてるせいもあって知能は高いからこっちの言葉はわかってるっぽいぞ」
やはりドラゴンというのは化けの中でも別格なのか壽命が非常に長く、長く生きればその分知能が高くなるようだ。知識魔法によれば壽命は個差もあるが最低三千年、場合によっては一萬年にも屆くらしい。
「は、はあ」
「で、ドラ助、今日お前の所に來たのはシャルに會わせるためだ」
「グルルル……」
ドラ助はプルプルとチワワのように震えながら返事をする。うんうん、お前も俺に會いたかったんだな!
「あ、あの……」
俺がドラ助と舊を溫めているとシャルが恐る恐ると話しかけてきた。
「ん? どうした?」
「ドラ助って名前、ちょっと適當すぎでは……」
「そんなことないよ! お前も気にってるよな?! なあドラ助!」
シャルはなんと失敬なことを言うのだ! こいつを発見した時に1秒も考えてつけてやった名前なのに!
「グ、グルルル……」
俺の確認に対してドラ助は首をブンブンと橫に振って答える。
「ほら! こいつも気にっているって言ってるぞ!」
「嫌がっているようにしか見えませんが……」
うーむ、どうやら俺とシャルとではドラ助に対する考え方が違うようだ。まあいい、おふざけはこのくらいにしておこう。
「まあそんな細かいことは置いておいて本題にろうか。ドラ助、シャルは今日からこの森に住むことになった。こいつは俺が保護しているが、他の住人に何かされるようなことがあれば…………わかるな?」
ドラ助に會いに來た理由はシャルが他の化けに襲われないようにするためだ。長くこの森に住んでいる俺の恐ろしさを化けどもは理解しているため、俺の住んでいる場所の近くにこようとはしない。
俺の臭いがついているシャルを襲うような真似をするような奴も恐らくはいないだろうが、それでも萬が一はあり得る。
俺はシャルを保護すると決めた。保護すると決めたからには化けに食われるようなことはあってはならない。無論死んだ程度ならば魔法で生き返らせることも可能ではあるが、出來ればそんなことはしたくない。
死なないようになるだけならまだしも、やはり死んだ者が生き返るのは俺とて抵抗がある。それに生きながら食われることの恐ろしさはこの世界で俺が一番知っている。
今までの全てを否定され々にされるような覚、と共に命が流れ出ていく覚、痛み、恐怖。最初に死にかけた時は全を食われることはなかったが、それでも尚恐ろしかった。
二度目に襲われた時、俺はなすすべなく全をキラーウルフどもに食われた。『死なない』とわかっていてもひどく恐ろしく、二度と験したいようなものではない。死なない俺でさえそれ程のものであったのに、自力では死なないことも生き返ることも出來ないシャルではどれ程のものであろうか。
そのような恐怖をシャルに絶対に経験させぬようにドラ助とシャルの顔合わせをさせに來たのだ。この森の支配者であるドラ助ならば化けどもに言い聞かせることなど簡単であるし、俺を恐れるならば必死になってその役目をこなすだろう。
この世界で俺の恐ろしさを一番知っているのは恐らくドラ助だろう。なにせこの森のドラゴンでドラ助以外を皆殺しにしたのは俺なのだから。
閑話休題。
俺の要求を聞かされたドラ助は首を縦に振るより他はない。そりゃあもう、さっき橫にブンブンと振った時よりも激しく縦にブンブンと振っている。
「ん? さっき『気にってるよな?』って聞いた時は首を橫に振ってたような……? つまり縦に振っている今は俺の要求を聞きれる気は無いということか……?」
なんということだ、俺がどれ程に恐ろしい存在かわかっているはずなのにドラ助は真っ向から俺と対立すると宣言したのだ!
俺の呟きを聞いたドラ助はビクリとして一度きを止め、逡巡した様子を見せるとまたしても首を縦に振り始めた。
「ふむ……、首を縦に振るというのは一般的に肯定を示す、ということは俺の言葉を肯定するということであり、やはり俺に盾突くということか。いやはや、我が子のように思っていたお前がそこまで長しているとは思わなかったよ」
わざとらしくポーズを取り、やれやれと首をふりながら俺はそう言う。首を縦に振るってのは普通は肯定だからね! 首を縦に振ったら否定とか普通は無いよね!
「キュオォォォ……」
ドラ助はシャルを見ながら犬が飼い主に縋りつく時のような聲で鳴く。おいおい、俺と戦うにしては隨分とけない聲を出すじゃないか。
「あのリョウ様、ドラ助をいじめるのはそれくらいにしてあげてくれませんか……? 流石に可哀想です」
なっさけないドラ助に対してシャルは助け船を出す。しょうがないにゃあ……。
「わかったわかった。ドラ助、シャルに免じて今回のことは不問にする。シャルに謝するように」
「グルルル……」
うむうむ、素直でよろしい。それじゃあ二つ目の目的を果たすとしますかね。
「よし、じゃあドラ助! シャルを乗せて俺の家まで飛んでってくれ!」
「ええ?!」
「ほらほら! さっさと外に出た出た!」
そう言って俺はシャルとドラ助を転移魔法で窟から引っ張り出し、有無を言わせずにシャルをドラ助の背中に乗せる。
「ドラ助! シャルに怪我させたら承知しないからな! 気を付けろよ!」
「グオオオオオ!」
俺の注意喚起の言葉を聞いたドラ助は威勢の良い鳴き聲で答えてその羽をかして浮かび始める。
「わ! わ!」
「シャル! 落っこちないようにしっかり摑まるんだぞ!」
「は、はい! わかりました!」
二つ目の目的はシャルに楽しい思いをさせることだ。元居た世界では空を飛ぶというのは人類の夢であり、恐らくはこの世界でもそれは同じだろう。飛行機があるのに『鳥人間コンテスト』なんてものがあるくらいに空を飛ぶことへの憧れは強い。
奴隷として捕まり、辛い思いをした彼にはそれを忘れて生きてほしい。辛い思い出を消すには楽しい思い出が一番であるし、俺と一緒にいればまたいつか辛い思いをするかもしれない。そんな時に思い出せる楽しい思い出というのは一つでも多い方がいい。
そして段々とシャルとドラ助の姿が小さくなっていく。特にび聲も聞こえてもこないため怖くて仕方がない、ということもなさそうだ。俺の家に向けて飛んでいくドラ助の姿を見屆けながら俺は一息つく。
「俺だけだとシャルも息が詰まるだろうし、ドラ助には良いペットになってもらおうかね」
今回の一番の目的は、シャルに良き友を用意することであったりするのであった。
悪魔の証明 R2
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