《と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について》17話目 不味いはどうやっても不味い
シャルは一通り味見をし終わると調理を開始した。この世界での調理は『煮る』か『焼く』かの二種類しかない。『蒸す』や『炒める』といった手法が存在しないので料理の幅も相応に狹い。
そういった手法にここ數日だけとはいえれているシャルは一生懸命に調理している。茸を蒸してみたり炒めてみたり、果や山菜をミキサーにかけたりととにかく々試した。
その他にも、分からないことがあれば逐次俺に質問をしたりと一切手を抜かずに本気で調理していることが見て取れる。異様なまでに真剣に料理する様子はある種の恐ろしさすらじさせる程であり『もしかして料理に適があるんじゃね?』と俺に思わせた。
そうして彼は々と試して味見をするわけだが……。
「…………」
その度にシャルはやはり無言になる。まあ、うん、わかってた。ちょっとやそっと手をれたところで味しくなるほどこいつらは甘くない。俺が『滅茶苦茶不味い』と言ったのは伊達ではないのだ。
手を変え品を変え、試行錯誤を繰り返すもやはりなんともならないまま無にも時間は過ぎていく。そしてとうとう晝食の時間となってしまったため彼は一応の晝食を皿に盛りつけた。恐らくはそれらが試した中ではマシな部類だったのだろう。
「……」
「……」
俺とシャル、両者共無言のまま食事へと手をばす。食事が始まってもシャルの表は暗いままだ。『せっかくリョウ様から與えられた仕事なのに……』といったところだろうか。
シャルが懸命に頑張ったのは目の前で見ていたし、稚拙ながらも綺麗に料理が盛り付けされていたりしていることからもそれがわかる。調理中のシャルの様子からして味の方は火を見るよりも明らかなため、彼の熱意に敬意を表して俺は料理を口に運ぶ。
「…………」
そして想を言うことも出來ずに無言を貫く。うん、本當に久しぶりに食べたけど、マジで死ぬほど不味い。苦みを醤油で誤魔化したり酸っぱさを甘さで中和したりしようとしているのはわかるが、それでも尚不味い。ぐにゅぐにゅした食は気持ち悪いし味は尖っていて纏まりがないし、々と酷い。努力の跡が見られるだけに余計にむなしさが募る。
反的に口から吐き出したくなる衝を抑えつけながら無理矢理飲み込むがお世辭にも『味しい』とは言えない。かといってそのまま『不味い』と言うことも出來ず俺が変な顔をしているとシャルも一口料理を口へと運びボソリ、と一言呟いた。
「不味い、です」
あなた、言いにくいことをズバッと言うのね。あなたのそういうところ、私嫌いじゃないわ!
「不味いです」
心の中でそう思っていると、俺がなにも反応を示さないためかシャルは先程よりもはっきりとした口調で同じ言葉を繰り返す。大事なことだから二回言ったんですねわかります。
「そう、だな。不味い、な」
その言葉を否定する材料が俺には無いため肯定の言葉を口にする。この場で下手に取り繕っても彼には何のめにもならないだろう。
俺の言葉を聞いたシャルは顔を伏せて目をつむり、膝の上で両の手をぎゅっと握る。それからこちらに顔を向けて、言い訳をするような、自分自に言い聞かせるような、なんとも言えない口調で言葉を零す。
「私、頑張ったんです。師匠に教えてもらったやり方を試して、でもやっぱり不味くて。師匠が言ったみたいに本當に不味くて、びっくりです」
彼はその眼にうっすらと涙を浮かべ、『あはは』と泣き笑いしながらここの食材が如何に不味かったか、如何に手ごわかったかを次々と口にする。
俺はその言葉を流すことなく、きちんと耳を傾けた。うんうん、そうなんだよなあ、この森の食いは『煮ても焼いても食えない』って言葉が生ぬるい程なんだよなあ。
そして彼は思っていたことを全て吐き出したためかその表を泣き笑いから『泣き』へと割合を大きく変えた。
「師匠、ごめんなさい。一生懸命頑張ったけど、味しくなくてごめんなさい。せっかくお仕事させてくれたのに、失敗しちゃってごめんなさい」
その言葉を皮切りに彼は作った料理を口に詰め込んでいく。今にも泣きだしそうな顔をして、明らかに無理をしながら不味い料理をどんどんと飲み込んでいく。
いやいや、そんな風にしたら絶対吐くって。だが俺の心配をよそに彼は勢いそのままに自分の分を全て食べてしまうと今度こそ、わあ、と泣き出してしまった。
「ししょお! 不味いよお!」
その言葉を延々と言い続けながら彼は盛大に泣いている。そんな彼の様子に苦笑いしながら俺は彼の隣に椅子をかし、そして彼を抱きしめる。
「だーから最初に言っただろ? 『滅茶苦茶不味い』って。そんな簡単に味しくできるわけないだろ」
「ぐすっ、でも、ししょお」
「泣くなって。今回は失敗しちまったけど、まだまだ時間はあるんだ。滅茶苦茶難しいけれども、まだお前は一回しか挑戦してないんだぞ? それなのにお前はあんなに々試したんだ。これからたっぷり時間はあるんだから他にも々試せばいいじゃねえか」
『俺はどれだけ時間があっても嫌だけどな』とその後に付け加える。俺のの中でぐすぐすと泣いていたシャルはその言葉にくすっ、と笑うと俺から離れ、鼻をぐしぐしとこすってから俺に宣言した。
「師匠。私、頑張って味しい料理を作ります」
「おうおう、頑張れ頑張れ。あと敬語止な。俺がかたっくるしいから」
「で、でも師匠」
「『でも』じゃない。わかったか?」
「わかり……った」
なんだか妙な返事をシャルがしたので俺は『ブフッ』と吹き出す。それに対してシャルはムッとするが何も言ってこない。何だか悪いことをした気分になったので謝ることにしよう。
「あはは、すまんすまん。ともかく、これからどれだけ時間がかかるかわからんけど、味しく作るんだぞ? 魔法の練習もちゃんとするんだぞ?」
「はい! 頑張ります!」
「だから敬語止だって」
「あっ……」
この調子じゃ敬語使わないようになるまでだいぶ時間がかかるな。
それから他のない會話をしてそろそろ寢ようかという段になった時。
「師匠、あれ本當に不味いね……」
彼はしみじみとそう言った。そうなんだよなあ……、しみじみするほど不味いんだよなあ……。
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