《と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について》38話目 夢の桃源郷はそこにあった(過去形)
「こちらへいらっしゃ~い♪」
今、俺の目の前では魅のナイスバディなおねいさんがそのナイスなボインボインをバインバインに揺らし、くねくねと腰をくねらせながら彼方へと走り去ろうとしている。
あははははー。待て待てーー♪
俺は彼の聲に逆らうことが出來ず、必死になって彼を追いかけて捕まえようとする。彼の方も心得たもので、その距離を段々とめることで俺のことを上手にじらす。
だがそのお遊びも終わりだ! とう!
俺は掛け聲とともに某怪盜のように彼へと飛びかかって捕まえる。
ぐにゅり
「いや~ん♪ そこはボインよ~♪」
おや、これはしまった。捕まえやすそうな場所があったからとっさに摑んじゃったよ。
ぐにゅりぐにゅり
「んぅ…………」
彼のらかなボインは俺がむたびに小気味良く形を変え、そのを俺に伝え……。
ぐにゅりぐにゅりぐにゅり
「んにぃ……」
ん? おかしいな、何か思っていたと違う気がするんだが……。
彼のボインをむたびにその違和はどんどんと大きくなっていき、ついにはおねいさんの姿すらも次第におぼろげになっていく。
ああ、待ってくれおねいさん! あとしだけ! もうしだけそのボインを……!
しかし俺の懇願も虛しくおねいさんの姿は完全に靄に包まれてしまい、逆に俺の思考から靄のようなものが取れていく。
せめて……、せめてそのだけでも今は味わわせて!
ぐにゅぐにゅぐにゅぐにゅ
そして俺の目がぱちり、と開かれる。眼前には綺麗な流れるような金の長髪と、先程のバインバインなおねいさんとは似ても似つかない、ちんまりとした形のシャル。
そして私がボインだと思ってずっとんでいたのは彼の可いお。なるほど、道理で違和があるわけだ。そんなことをされれば、あれ程ぐっすりと寢ていたシャルも目が覚めてしまったようで、彼の目もぱっちりと開いており俺と彼の視線はがっちりと合ってしまう。
俺は彼に向けて何も言うことが出來ず、その手をゆっくりと何事も無かったかのように彼のから離すことしかできない。すすす、と手を引いたものの、俺とシャルの視線は絡み合ったままである。無論意味深な意味ではなく。
「あの……」
重い沈黙をシャルが破り、俺は一どんな罵聲が浴びせられるのかとびくりとを直させる。
「おはよう、師匠。私、先にキッチンに行ってるね」
あ、はい。そうですか。
そして彼はそそくさと部屋から出て行ってしまい、パタリと扉が閉まる音が辺りに広がる。
…………。
「ああああああああああああああああ!! うおあああああああああああ!! 心があああああああ!! 心が痛いいいいいいいいい!! あんな小さな子供に気を遣わせるってええええええ!! あり得ないだろおおおおおお!!」
ベッドの上をびながらゴロゴロゴロゴロと激しく転がりまわる、非常に気持ち悪いへと俺はジョブチェンジを果たした。そうしてしばらくの間転がりまわった俺はおもむろに立ち上がり、どこかで聞いた臺詞を呟く。
「最低だ、俺って……」
うふふふふふ……。いくら人との関わりに飢えていることを自覚しても、相手の了解の無い一方的な関わりを求めるのはいかんと思うのですよ。
もうね、この間なんとか決心してシャルに教育もしたんだよ。だからね、俺がどんなことをしたのか、ってのは何となくでもシャルはわかっているはずなんだよ。それなのにね、『私は気にしてないですよ』ってじでね、うん、いたたまれないです。
そうだ。私は貝になろう。文字通りの意味で貝になり、そして海の底に沈んで人知れずその一生を終えるのです。今の私にはシャルが一人前になるように育てるという義務があり、それを放棄することは出來ませんが、それが終わったら心置きなく貝になることが出來ます。
私はそのように決心しましたが、私のような人間のクズが人を教え導くなどという崇高な仕事を全うできるのでしょうか。それが心配でなりません。ああ、しかしこれでは私が忌み嫌っていた冒険者と全く同じことをしているではありませんか。眠っている子に対してそのようなことをするなど許されることではありません。やはり私は今すぐにでもこの世から消え去るべきかもしれません。
死ぬべきか、貝になるべきか、昨夜と同じく答えの出ない問いに悩まされていますが、これ以上彼を待たせるわけにはいきません。そのことに気付いた私は著替える時間すら惜しくなり、魔法を用いて著ている類を作り替えます。
無心です。無心になるのです。
そのように自に念じながら私は扉を開くと、既にシャルがエプロンを著けて私のことを待っております。急いで正解だったようですね。彼は自分の視界を汚すゴミムシの存在にお気づきになられたのか、ゴミムシめに聲をお掛けになりました。
「それじゃあ師匠、よろしくおねがいします」
「はい、わかりました。本日も頑張りましょう」
この場で自分自を毆りつけたくなる衝を抑えつけつつ、を殺して極めて模範的な笑みを浮かべます。そしてやはり彼は今朝のことを気にしていらっしゃるのでしょう、ゴミムシめの顔を見るとそのお顔をひくりと引き攣らせてしまわれました。
「えっと師匠、これはどうすれば……」
「はい、これはですね……」
それからは彼の心遣いもあってか、滯りなく朝食の準備が進められます。気を紛らわすためでしょうか、彼はいつもならばしないような細かい質問までもお聞きになられます。そういったやりとりを幾度か繰り返し、そろそろ朝食も出來ようかという頃に再度彼は聲をお掛けになりました。
「師匠」
「はい」
どのようなご用件でしょうか。私のようなゴミムシに出來ることならばなんなりとお申し付けくださいませ。
「その喋り方やめて」
「はい」
ごめんなさい。
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