と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について》39話目 シャルの

シャルに指摘されてしまったためこれ以上こんな態度を取っていれば俺の株がどんどんと下がってしまうだろう。このままではドラ助と同等にまでなってしまうかもしれない。それは嫌だ。

……わかった、この話はやめよう。

ハイ!! やめやめ。

俺はもうこれ以上この話は引きずりません! 僕はメンタルの強い子です!

こうして俺は強引に普段の態度を取り繕ってシャルと接することにする。あまりに唐突な切り替えだったので、それはそれで何か思うところがあるのかシャルは怪訝な顔をしたが、それ以上何も言わなかった。

「ん?」

準備した朝食を卓へと運び席に座ると、俺は見慣れないXが存在することを認識した。はて、こんなものを用意したっけ? そう疑問に思った俺はちらりとシャルの方を見やると、彼はこちらをちらちらと見ており、俺の方に注意を向けていることに気付く。このXは彼が用意したのだろうか?

の行を不審に思いながらも、食事を殘すという選択肢は俺に存在しないので、その見慣れないXを口に運ぶべく箸で摘まむ。彼はと言えばやはり俺に注意を向けているものの、Xについて特に言及してこないため、食ったら危険ということもないだろう。そう思い俺はそのままそれを口にれる。

む?! これは!

が料理として認識するかしないかの境界線上でステップを踏んでいて!

判定は!

ギリギリ料理側!

無論普段の料理と比べれば不味いと言わざるを得ない一品であるため、何故彼はこんな『なんとか食えないこともない』ような料理をわざわざ……。そこまで考えた所で俺は彼のある言葉を思い出し、『あ!』と大きな聲でんでしまった。程、だからシャルはさっきから俺に注目してたのか!

「シャル!」

「は、はい!」

俺の言葉に反応してシャルはピンと背筋をばし、俺が続きを言うのを待つ。

「食えないこともない!」

そして俺は彼に率直な意見を述べた。普通ならば『味しい』とかいうべきなのだろうが、この場に限ってはそれは間違いだ。この料理は『食えないこともない』で正解なんだ。その証拠に、俺の言葉を聞いたシャルは顔を赤らめ、興した様子で返事をする。

「はい! 食べれないこともないんです!」

「そうだ! 食えないこともないんだ! やったな! シャル!」

「はい! やりました! 師匠!」

そう、彼はとうとうあのクソ不味い食材どもを『食べれないこともない』にまで引き上げることに功したのだ!

「シャル!」

「師匠!」

「シャルー!」

「師匠ー!」

俺とシャルは何が楽しいのか互いを呼び合って固く抱きしめる。だがから喜びが湧き出し、俺にそうしろと言ってくるのだから仕方あるまい!

「シャル!」

「師匠!」

それからしばらくの間、料理がすっかり冷え込んでしまうまで俺とシャルはその勢のまま互いに互いに呼び合うだけという何だかよくわからない儀式を行い続けた後、改めて朝食を食べ始める。冷靜に考えれば今朝やったことを俺は繰り返してしまったのでは……。

……わかった、この話はやめよう。

ハイ!! やめやめ。

気分を変えるためにもう一度Xを口へと運び、もしゃもしゃと咀嚼する。ほんとになあ、味も食もギリギリ料理と言っても良いくらいにはなっている。というよりも、あまりにも常識の範疇にあるため、元が何の食材だったのかすらわからない。

それが全く予想できず『うーむ』と唸りながら首を捻ると、先程から食事に手も付けず、こちらをニコニコと見つめていたシャルが俺に聲をかけた。

「師匠、どうしたの? やっぱり……、食べれない?」

俺がさっき噓を言ったのではないかという考えが浮かんだのか、シャルが表を楽し気なものから一転させて不安そうなものにしてしまう。いやいや、勘違いしないでくれ。

「ああ、いや、これの材料が何なのかわかんなくてな」

「それはね! あのキノコと……」

俺の釈明に合點がいったのか、シャルは機嫌を戻すと嬉々として俺にXの解説を始めた。ほう、あのキノコとあの果やら何やらをねえ。全然そんな風には思えないが、どうすりゃここまで底上げできるのだろうか。

「なあ、シャル、これどうやって作ったんだ?」

段々と気になってきたのでシャルに直接調理法を尋ねてみる。え? 今まで全然期待してなかった割に興味津々すぎやしないかって? そ、それとこれとは話が別だから……。だがシャルは俺の問いを聞いてもその笑みを深くするばかりで一向に答えてくれない。おかしいな、素直なシャルなら答えてくれると思ったのだが。

「シャル?」

もしかして聞き逃したのではないかと思い俺は再度シャルに聲をかけるが……。

「えへへー、ヒ・ミ・ツ!」

シャルは心底楽しそうな表で、歯を見せて笑いながらそう言った。くっ! なんてあざとさだ! これでは深く追及することなど不可能ではないか!

「えー! 教えてくれてもいいじゃん!」

「いくら師匠でもだーめ!」

「ケチー!」

そんな風に俺とシャルはじゃれ合いながら食事をする。そのおかげか不思議とXすらも味しく思えてしまい、いつの間にか料理は全て消えてしまっていた。

なんというか、こういう風に食事をするってのはいいもんだと思えた。

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