と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について》42話目 ピクニック! ピクニック!

俺からの説教が終わった後しばらくの間『グルグル』と不満げにドラ助は唸り続けたが、サックリとそれを無視してシャルとの空の旅を楽しむことにした。本來ならばシャルに歌をもう一度歌ってほしいのだが、それをしてしまうとドラ助が再度眠ってしまうので泣く泣く諦めることにしたのだ。

はあ、歌を聞くシチュエーションとしてこれ以上無いだというのに……。このポンコツめ……。

嫌がらせに奴の後頭部目がけて消しカス並の大きさの魔力弾をぺしぺしと飛ばして憂さ晴らしをすることにする。當然ダメージなどは皆無なのだが、ドラ助が非常に鬱陶しそうにしている姿を見ることでいくらか溜飲が下がった。

「あ! 師匠! あそこの湖きれい!」

シャルが指さすそこには澄んだ湖が広がる場所があり、ドラ助が降りたりき回ったりすることのできる広さもあった。水中にはいくらか化けの気配もじられたが、そいつらも俺の存在をじ取っているためか、俺から隠れるように水中の奧底に沈んでいた。

ふむ、これなら丁度よさそうだな。

「よし、ドラ助、あの湖の所に降りてくれ」

俺はその言葉と共にケシカス弾をマシンガンの如き勢いでドラ助に放ってやる。苛立ちながらも俺に言い返すことが出來ないドラ助は『グアア!』と一言吠えると、湖の近くに広がる土地目がけてすっと降下していった。尚、反抗的な返事をしたのでケシカス弾の勢いは更に増した事を記しておく。

「わあ!」

ドラ助の背から降り、目の前に広がる景にした様子のシャルはそう嘆の聲をあげた。

「危ないからあんまり近づくなよー」

「うん!」

シャルはまだ泳ぐことが出來ないので、湖に落ちてしまうのはやはり危険である。聞き分けの良いシャルは俺の言うことを守り、湖の水際からやや離れた場所でうっとりとした顔をして立ち盡くした。

空から見下ろした湖も綺麗ではあったが、地上から見るというのもまた別格である。湖や遠くに見える山々、それに木々が織りなす風景はとてもここが悪名高い魔の森の中と思えるものではなく、ここがどこかの観地であるといっても十分通用するであった。無論俺達以外が立ちれば、化けどもによってたちまち地獄と化してしまうが。

シャルが風景に見っている間、俺は清潔なシートを用意して座れるように準備しておく。ふふふ、そしてここに遠足、もといピクニックの最大の楽しみの一つであるおやつをしこたま作り出すことにする。

ん? おやつは三百円までだと言っていたはずだと? 何を言っているんだい、これは全て俺の魔力で作ったものだから全部タダに決まっているじゃないか。そんなわけで案外食いしん坊であるシャルが我に返りおやつに気付くまで、俺はシャルの姿を穏やかな気持ちで眺めることにした。

「師匠、それ何ですか?」

そしておやつの存在に気が付いたシャルは見たこともないを目にして俺にそう尋ねる。

「これはな、俺が前に住んでた所で売られていたお菓子だ」

「お菓子なんですか?!」

俺の説明を聞いたシャルは大層驚いた様子を見せる。前にも説明したがこの世界では砂糖は貴族様専用の調味料であるため、間違ってもシャルのようにげられていた存在が口にできるものではない。

それが今、目の前に山のように用意されているともなれば驚くのも當然と言えよう。俺はシャルが間違って包裝紙を食べたりしないように、それらから取り出して皿に盛りつけて、シャルにシートの上に座るよう促す。

「あの……、もしかしてこれを……」

皿の前に座った彼は期待のり混じった顔で俺に伺いを立てる。

「おう、けどこの後お弁當もあるから食べ過ぎるなよ」

「はい! いただきます!」

俺の返事に顔を輝かせ、彼は皿へと視線を移してどれから食べるべきか悩み始める。しばらく悩んだ彼は板チョコへと手をばし、恐る恐るといった様子でそれに口を付ける。そして口に含んだ直後彼の目が大きく見開かれ、想を述べることもなくどんどんとチョコをその口へとれていき、ついに一枚のチョコを全て食べきってしまった。

「果より……、ずっと甘いです」

いつものようにはしゃぐでもなく、極めて落ち著いた様子で彼はそう言った。想像したこともないような甘さが彼に與えた衝撃はあまりに大きく、一周して冷靜になったらしい。この世界では本の貴族ですら食べることが出來ないような質のお菓子を食べたことを考えれば、ある意味當然の反応なのかもしれない。

「まだそれ以外にも々なお菓子があるからな」

俺の言葉を聞いたシャルは、そこでハッとした顔になる。今口にした真黒なお菓子だけでも衝撃的だったというのに、それ以外にも様々なお菓子が、それも大量にあるということの意味を彼は理解し、そして戦慄・・して震いする。

これ以上どのようなお菓子があるというのか、そして殘酷なことにそれを食べ過ぎてはいけないのだ。一口食べれば夢中になってしまうというのに、自分はそれを律しなければいけないのだ。

シャルの目つきは先程よりも更に真剣なものとなり、皿に置いてあるお菓子をまるで睨みつけるようにしている。やがてどれを食べるか決斷してはそれを一口食べ、顔をとろけさせると夢中になって食べ始め、そしてハッとして顔を左右に振り次のお菓子を選ぶ、ということを繰り返していた。

なんというか、見ていて超和みます。

そしてそんな微笑ましい景が展開されている中、視界の端には目障りなり込んでいる。白くて長い尾のようながぷらーりぷらーりと揺れており、『我もここにいるんだがなー』とそいつは自己主張をし続けている。

そんなものは知らんとばかりに俺は無視をしてみるが、終いにそれは勢いを更に増し、地面をビタンビタンと叩き始めて非常に鬱陶しくなる。いい加減イラついてきたので俺はその尾の主の方へと向き直り、ツカツカと歩み寄った。

そんな俺の態度に危険なじたのか、ドラ助は『あっ、やっべ、やり過ぎた』という表をして固まってしまい、先程までの尾による自己主張は何だったのかという程にきしなくなった。

俺はそんな間抜けなトカゲに対してつくづくと呆れつつも、今日はある程度までは優しくしてやろうと決めていたのでドラ助の要求をのむことにした。

「お前も食べていいぞ。だけど、シャルが手渡したのだけ食え」

「グア?」

ドラ助は『え? いいの?』と目を丸めて返事をする。そもそも俺がお前にお菓子を食わせようとしなかったのは、お前の場合俺の言うことを聞かずに包裝紙ごとお菓子を食べて、後で死ぬほど苦しむ無様を曬しそうだからだったんだよ。

「いいか、シャルが手渡した分だけだぞ。絶対だからな」

「グゥア!」

『わかっておるわ!』と元気よく返事をしたトカゲはシュタタタタタとシャルの方へと駆け寄ると、餌を待つ犬のように行儀よくそこに座った。シャルはドラ助の意図をすぐに理解したようだが、俺とドラ助の會話が聞こえなかったためか、俺に許可を求めるような視線をこちらに向ける。

それに対して俺はこくりと頷き了承する。俺からの許可を得たシャルは皿の上からお菓子を一つ取ってドラ助へと渡すと、ドラ助はそれをぱくりと食べ『キュオオオオオ!』と大聲で吠えてその喜びをあらわにした。そして早く次のお菓子をちょうだいと目を輝かせ、尾をブンブンと振り回してシャルを見つめた。

シャルはその様子に苦笑いしつつもドラ助に次のお菓子を手渡し、その度にドラ助は喜びの聲をあげる。俺は魔法を使って自で包裝紙を取り除く仕掛けをしてからそのれ合いを眺めているわけだが、どう見ても犬と飼い主のそれにしか見えなかった。

そうやってお菓子を食べた後にフリスビーをして遊んだり、早めの夕食としてお弁當を食べたりしてピクニックを大いに楽しんだ。フリスビーを取ってくる犬役をしているにドラ助は段々と熱がって全力で取りに行ったり、その後の夕食で特製の弁當を遠慮なく食べたりと更にドラ助の犬化が進んだが、些細なことであるため省略する。

そうこうしているに、俺の魔法無しでは目の前すら見えないほどに辺りは暗くなってしまう。夜になり、俺が前もって伝えていたことは全て終えたため、我が家に帰るべく、シャルはおもむろに立ち上がりドラ助の背に乗ろうとした。

「シャル、もうちょっと待ってくれ」

「へ? う、うん、わかった」

だが俺はそんな彼に聲をかけて引き留める。確かにピクニックというならばここでお終いだろう。しかし、俺としてはこの後にすることこそが本日のメインイベントなのだ。

うシャルをシートの上に座らせ、俺自もシートに座り、不用心なことをしないよう念のためにドラ助をそばに待機させておく。そして俺はシャルに夜空を見上げるように伝え……。

「わあ……」

シャルはそう短く、嘆の聲をあげた。

口笛のような微かな音の後、よく響く炸裂音と共に夜空に一の花が咲いた。それを皮切りに次々と花が咲きれては夜空へと溶けていく。俺の魔法で再現したそれは、いつか日本で見たそれと遜ないに思え、自で作っている景だというのに魅られてしまいそうになる。

前が見えなくなるほどに暗いからこそその花はよく映はえ、真っ暗な夜空はとりどりの花のしさをより一層際立たせた。木々のざわめきも、湖に映り揺らめく花も混然一となり、それは一つの蕓品へと仕上がる。

正まさしくこの世のとは思えぬ景にシャルは心を奪われ、瞬きすらせずに見っている。俺は頃合いを見計らって懐からあるものを取り出すと、彼に呼びかけた。

「シャル」

はその聲に辛うじて反応し、視線をこちらへと向ける。返事をしなかったのは、恐らく目の前の景の虜となっているからだろう。そんな彼の反応すら俺はおしく思え、顔が綻びる。

「シャル、今日は伝えたいことがあるんだ」

今朝決心した想いを、俺は彼に伝えたくてここへ來たんだ。

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