朝日が窓から差し込み、俺は眠りから覚める。段々と覚醒していく意識の中、『こんこん』と優しくノックする音が聞こえた。

「師匠ー、朝ごはんの用意が出來たから起きてー」

その後、シャルが俺を呼び起こすために扉越しに聲をかける。その聲に俺は『起きてるよー』と適當な返事を行い、のそのそとベッドから這い出した。

二度寢したがるを無理矢理かしてだしなみを整え、シャルが待つリビングへと向かう。そこには既にシャルが用意した朝食が置かれており、食をう香りが俺の鼻をくすぐる。

俺が部屋から出てきたことに気付いたシャルは俺の方を向くと改めて朝の挨拶をした。

「おはよう、師匠」

らかな微笑みと共に迎えられ、俺の意識は嫌でもハッキリとする。毎朝この微笑みを見ているため、どうやら俺のは彼の顔を見ると覚醒するようになってしまったようだ。

「ああ、おはよう。今朝も味そうだな」

お世辭抜きで心から賞賛を行う。彼はあれからも研究を続け、ついには日本の料理に慣れた俺でさえ『味い』と言わざるを得ない程の出來となったのだ。

それからというものの、俺は料理を彼に任せっきりにしてしまったのだ。そもそも料理をしていたのも暇つぶしの一環なので、彼と一緒にいることでめっきり暇をじることの無くなった今、料理をしようという気が起きないのだ。

「いつも通り師匠が中々起きないせいで時間はたっぷりあったからね」

俺の聲を聞いた彼は満面の笑みでそう嫌味を述べる。だけでなく神的にも長した彼はたまにこうして嫌味を言うようになってしまった。ただ、慣れあいの延長のものであることは互いにわかっているため、俺はわざとらしく顔を歪めて謝罪をする。

「へーへー、駄目な師匠ですいませんでしたー、っと」

そう言いながら俺は席に著く。

「それじゃあ、冷めないに食べよ？　頂きます」

「頂きます」

そして俺とシャルは朝食を食べ始める。彼の研究によりこの森の食材は見た目も味も素晴らしいものへと変貌しており、今では食卓に乗っている料理は全て魔の森でとれた食材によって作られているくらいだ。特に、毒のある食材の毒抜きに功したことは彼の執念やら何やらに驚愕したものだ。

その方法がどうにも気になるが、何度聞いても『これは私の仕事だからヒミツ！』と言って譲らない。無論知識魔法を使えば知ることが出來るが、それは彼に失禮というものだろう。

そんなわけで彼の研究結果の集大とも言える朝食を終えた頃、最近ではお馴染みとなったうるさい羽音が庭から聞こえてくる。それを聞いた彼はキッチンから大量の料理を持ち出して庭へと向かった。

そこにはが一回り程大きくなったように思えるドラ助が鎮座しており、シャルの姿が見えるのを今か今かと待ちけていた。シャルが姿を現すとドラ助は興をあらわにして尾をぶんぶんと振り回す。

シャルがドラ助の前に料理を置くと、ドラ助は我慢できずに口の端からよだれを垂らしながらシャルの言葉を待った。

「それじゃあ、食べていいよ」

「グアアア！」

シャルがそう言った途端にドラ助は料理を貪り食う。こいつは普段は森の食材をそのまま食べていたので、味い料理と言うものに目が無い。俺が作った料理もそれなりに気にってはいるが、森の食材から作ったシャルの料理は何やら々と衝撃的だったらしく、初めて食べた時などはのあまりドラゴンブレスを辺りにして、俺にシメられる有様であった。

それ以來、シャルの料理がいたく気にったドラ助は毎食と言っていい程にシャルに飯を集たかりに來るようになったのだ。

ガツガツと料理を食べるその様は非常にけないであるが、すっかりお馴染みの風景となってしまった。シャルはドラ助の頭をで続け、俺はそんな様子を欠をしながら窓から眺める。

俺がシャルにイヤリングを渡してから十年が経ち、そんなやり取りが生活の一部となっていた。

食後、ドラ助はシャルにお腹を見せてわしゃわしゃとでてもらって満面の笑みで悶えており、トカゲと犬の中間的生へとなってしまっている。日を追うごとに、元々無いも同然だったが、ドラ助の尊厳はぼろぼろになっていっているが、そのことについて注意する者はここにはいない。

「シャル、そろそろ準備しなくていいのか？」

だが本日はちょっとした用事があるため、ドラ助に構うのを止めるよう進言する。その聲にドラ助は不満そうな顔をするが知ったことではない。

「そういえばそうだったね。準備してくる！」

そう言うとシャルはドラ助に『またね』と挨拶をして自室へと向かう。ドラ助は去りゆくシャルの背中を名殘惜しそうに見つめるが、そうしていても無駄と悟ったのかどこかへ飛んで行ってしまった。

シャルがこの十年で上達したのは料理の腕だけというわけではない。魔法の方も相當に上達しており、大抵の事ならば彼の一つで行うことが出來るようになった。とはいえ、知識魔法や創造魔法を行使できる程の魔力はまだ持っていないので、これからも要修行といったところだろう。

それに比べて純粋な近接戦闘能力の方はそれ程長しなかった。元々膂力が低いという種族的特のためか、短剣などを持たせてもどこかきがぎこちなく、まともに使えたのは弓くらいなだが、それなら魔法を使った方が威力も正確も上という結論に落ち著いた。

単純にが大きくなったのでその分リーチなどがび、保有する魔力の量が大幅に増えたことで大抵は強化の魔法のパワーでゴリ押せるが、それならやはり普通に魔法で焼き払う方が早いため、それをメインウエポンとして使う機會は無いだろう。

また、的に長した彼の見た目は人間でいうところの十八歳程度のものである。エルフという種族は他種族よりも長壽であるにもかかわらず、一定の年齢になるまではほとんど人間と変わらないスピードで長し、が最盛期を保ったまま壽命の數年前まで過ごすのだ。それもまた、財産として相続しやすい等の理由から奴隷として狙われる要因となっているが……。

閑話休題。

本日の用事とは十年経った街の様子を伺うことである。俺自どうにも人が多い場所、特にシャルがこれから向かう街はあ・の・村・が前なので余計に苦手であり、シャルが一人でその街まで向かうこととなった。

俺としては最早魔の森の外の様子などどうでもよいのだが、元々魔の森の外で暮らしていたシャルはある時ふとそのことが気になってしまい、どうしても街に行かせてほしいと俺に頼み込んできたのだ。

俺は外に行きたくないので、シャルが育つのはまだまだ先のことだと思い『一人で行けるくらい強くなったら行ってもいい』と約束してしまったのだが、それから早數年で外見の作やら自の年齢を弄ったりやらと、壽命が意味をさなくなる程度には育ってしまったため、本日街へ行くことを許可せざるを得なかったのだ。

シャルが自室に行ってからしばらくして、準備が終わったシャルは部屋から出てきて俺に出発を告げる。

「それじゃあ行ってくるね」

「おう、いってらっしゃい」

笑顔で家から出ていくシャルを、俺もまた笑顔で送り出すが正直凄く心配である。いつか使った魔法で監視すればいいと思うかもしれないが、シャルは事前に『私が街で何をしているかぜーったい見ないで！』と念押ししており、しかもこちらがその魔法を使えばそのことを察知できる程に長してしまっている。

危険度で言えば、子供の時に魔の森で食糧調達をさせた時の方が余程上である。街にいる冒険者は恐らくシャルを浚った冒険者程度の力しかない奴がほとんどだろうから、例え街の人間全てがシャルの敵に回った所で難なく逃げてこられるだろう。

いつもの護衛もちゃんと腕として待機しているので、の危険は絶対にないと理は俺に訴える。それでも心配が盡きない俺は、やっぱり過保護なんだろうなあ。シャルの居なくなった我が家にて、俺は自分自に呆れてため息を吐きながら頭かぶりを振るのであった。