と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について》46話目 サプライズ

が出発してからそれなりに時間が経ち、そろそろ辺りが暗くなろうとしていた。その間俺は久しぶりに一人で晝食を終えたり、シャルが居ないのを忘れて飯を集たかりに來たドラ助で遊んだり、修行をするもあまり集中できなかったり、シャルの新しいトレーニングメニューを考えたり、そんな風にして無為に時間を過ごしていた。

の強さを実としてわかっているせいか、以前よりも早く立ち直ることは出來たと思う。だがそれはそれとして単純に暇であったのだ。シャルが居ない頃はどうやって暇をつぶしていたのか、全然思い出せねえ。マジでどうしよ。暇すぎて死にそう。こんなことになるならいっそのことドラ助と出かければ良かったかもしれないなあ。

ああそうだ、と俺は膝を叩くと臺所へと向かった。ここのところずっとシャルに任せっきりだったので、今日くらいは俺が夕食の準備をしようという腹積もりだ。

は十八歳となりしく長したものの、そのっこはあまり変わっていなかったりする。俺と一緒にいる時には取り繕おうとするが、味しいを食べた時に緩む頬は隠しきれていないし、たまに行くピクニックではおやつに思いを馳せて足取りが軽くなっている。

頻度こそ減ったものの今でも同衾を願い出たりしているが、俺の方がちょっと辛抱たまらないのでそろそろ止めるように言うべきだろうか。

ともかくそんなじでまだまだ子供っぽい所が殘っている彼のために、今日はご馳走を用意することにしよう。何かを祝うためというわけでもないが、たまには脈絡無くこんなことをするのもいいだろう。

しかし、シャルは一何をしに街へ行ったのだろうか。彼はここ十年は森から出ていないので、まさか誰かと待ち合わせをして、ということは無いだろう。彼の努力のおかげもあり、この森の中の方が外よりも余程良い食事が出來る。洋服は……、品質自は創造魔法で作る方が上だが、流行とかは外でしか知ることは出來ないかもしれない。

それくらいしかもっともらしい理由が思いつかないが、貴族ならまだしも、平民におしゃれなんかを気にする余裕はまだ無いだろう。そもそもシャルは恐ろしい程にしく長したので、並大抵の服なんて著る方が余程ダサくなってしまう。あ、いや、別にになれとかいう意味じゃないぞ。

ああでもない、こうでもないとシャルの目的を想像しながら夕食を用意していたが、その途中で家の前に気配が生まれたことに気付く。恐らくシャルが転移魔法を使って帰って來たのだろうが、なんと間が悪いことか。まだ料理は全然出來上がっていないぞ。

大量に日本の料理を見せて驚かせる計畫だったのに、これでは失敗してしまうではないか。主義に反するけど仕方ない、魔法でさっさと仕上げてしまおう。調理から盛り付けまで、全てを魔法で一気に片づけてしまう。何とかサプライズ失敗だけは避けられたと安堵するが、おかしなことに気付く。シャルの気配がさっきからいていない。

「シャル?」

一向にく気配が無いため、もしや何かがあって深く傷を負ってしまいけないのではないかという考えが頭に浮かび、俺は急いで玄関へと向かいシャルの様子を確かめに行く。

玄関のドアを開けるとすぐそこでシャルが蹲うずくまり、カタカタとを震わせていた。顔は真っ青になっており、目は虛ろで普段の快活さは影も形もない。

「シャル! どうしたんだ!」

俺はシャルに呼びかけながら屈み込み、彼の顔を覗き込む。魔法で確かめたところ外傷は見けられなかったが、現在の彼の様子は明らかにただ事ではなく、街で何かがあったことが容易にわかる。肩をゆすり、必死に呼びかけることでようやく彼は俺のことに気付いたのか、その時初めて俺の方を向いた。

「あ……、師匠……」

消えてしまいそうなほどにか細く、彼はそう呟いた。

「シャル、早く部屋に行け。ともかく休め」

何があったのか、彼に問いたい気持ちはやまやまなのだが、今の彼にそれをするのは酷だと判斷した俺は、彼に肩を貸して部屋まで連れて行くことにした。

本來ならばつきっきりで看病してやりたいところだが、當の本人から『一人で考えたい』と言われてしまったため、俺はリビングで彼のことを待つ。もしかしたらもう彼は寢ているかもしれないが、それでも俺は彼を待った。不用意に彼を街へと行かせてしまった事への後悔、自分の不甲斐なさへの怒り、彼の容態への不安。

頭の中がぐちゃぐちゃになり、どうしてよいのかわからず、眠ることも出來ずにただただじっと彼を待った。どれ程時間が経っただろうか。焦りから時間の覚が曖昧になり、正確にどれくらいの時間が経ったかはわからないが、『がちゃり』と音を立てて扉が開き、シャルはリビングに姿を現した。

幾分立ち直ってはいるようだが、その表は険しい。何かの決意をめているような面持ちであり、俺はそのことに言いようのない恐怖をじる。

「シャル……」

無意識のうちに彼の名を呼ぶ。彼は悲し気な顔をすると機を挾んで俺の向かい側に座る。俺の方から話しかけることが出來ず、彼が口を開くのを待つ。嫌な予が止まらず、妙な汗が背中に流れる。

席についてしばらくの間俯いていた彼はやがて決心したのか顔を上げ、こう言った。

「師匠、私は、この森を出ます」

それは、俺が最も恐れていた言葉だった。

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