と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について》51話目 シャル、説明する

私の言葉を聞いた師匠はその意味を咀嚼するためか瞑目し、しばらくして口を開きました。

「理由を、聞いてもいいか」

師匠にそう問われた私は街で見たことを説明します。本當は、私が街でどんなものを食べたのかとか、どんな人を見かけただとか、そんなとりとめもない話をしていたんだろうけど、今はそのようなことを話している場合ではないです。

私が寶飾店にって見た、エルフの奴隷たち。その中に私の両親がいたこと、自分がそうであったように奴隷であるエルフが今も猶いるのを忘れていたこと、そして私は彼らだけでなく、奴隷となっている人たちみんなを助けたいということを話しました。

師匠は私が話している間ずっと目をつむりながら聞いていて、次第にその顔を暗いものにしていきました。何か言いたいけど言い出せない、そんな顔です。だから私は最後に一言付け加えます。

「師匠、私は一人でみんなを助ける」

その一言を聞いた時、師匠はほっとしたような、それでいて寂しそうな顔をしました。恐らくは私の手伝いをしたいけど、大勢の人を助けるのは怖いから言い出せなかったんでしょう。

師匠はその顔を引き締め、言葉を放ちます。

「わかった。それなら護衛の魔法生の數を増やそう。間接的に手伝えることがあるなら何でも言ってくれ」

きりっとした顔をしながら、その容はやっぱり私のを案じるもので私は苦笑してしまいます。ですが、その言葉をけ取るわけにはいきません。

「師匠、私は一人でみんなを助けに行くから」

「ああ、だから護衛の數と……」

「私は一人で・・・助けるの」

私が何度も言い直すことで師匠はその意図を悟ったのか、その顔をさっと青くしてしまい、をわなわなと震わせながら確認を取ります。

「ま、まさか……」

「護衛も、杖も置いて行く。師匠の助けも、けない」

私がそう言った瞬間、師匠は弾かれたように立ち上がり『やめろ!』とびました。普段の様子を見ていれば、こんなことを言えばそうなることはわかっていました。でも、このことは譲れないんです。

「師匠、この森の外には師匠のくれた杖や護衛に匹敵するは無いよ。それだけ珍しいものなら、それを作った師匠に迷がかかるかもしれない」

あの寶飾店の店員さんは『耳飾りを作った人を紹介する』だけで大幅に値下げしていました。ただの耳飾りですらそうなのに、実用的な杖や護衛など、一どれ程の価値なのか想像すらできません。

「まだ私は恩を返してすらいないのに、師匠に迷をかけるわけにはいかない」

「そんな、恩とか迷とか、師匠と弟子なんだから別に……」

「師匠は『恩返しは大人になってから考えろ』と言ってた。そして私はもう子供じゃない」

私の説明に合點がいったのか、師匠は雷に打たれたような顔をして固まってしまいます。でも師匠なら雷に打たれても平気だろうなと考えてちょっとだけ笑ってしまいました。

私の言葉に反論できずにいる師匠は、何度も無言で頭を振り、それでも私を力ずくで止めようとはしません。やがて考えがまとまったのでしょうか、師匠はいくつか魔法を使ったようで、それが終わると私に話しかけてきました。

「今まで俺が溜めてきた金貨と、奴隷として捕まっているエルフとドワーフの居場所と特徴を書いたメモ、それと危機が迫った時に教えてくれる首飾りをシャルの収納空間にれておいた。せめて、それだけはけ取ってくれ。それくらいなら、俺につながる要素は無いはずだ」

師匠は『それなら問題はないだろ』と私に念押しをして、縋るような目で私を見ます。師匠にそんな顔をさせていることに、こんな恩知らずな私なんかのためにそこまでしてくれることに、私は泣きたくなりました。

「わかり、ました」

泣きそうになるのを堪えながら私は返事をします。

「師匠、もう、行くから」

「今からなのか?!」

「もうすぐ夜が明けるから、問題無いはずだよ」

それにこれ以上ここにいたら、せっかくつけた決心が、揺らいでしまうから。

「師匠、あの魔法で私の事見たら絶だからね?」

あえて私は、場の空気にそぐわない調子でそう言います。それに対して師匠は押し黙り、返事をしません。それを無言の了承とけ取り、私は席を立ちあがり玄関へと向かいます。

玄関の扉を開け、いざ森の外へ転移しようとしたその時、私の背後でガチャリと扉が開き、師匠がびます。

「いつでも、戻ってきていいからな!」

その言葉に、私は、背中をビクリと震わせてしまいます。

「俺、待ってるからな! ずっと、待ってるからな!」

私は、我慢することができず、一度だけと思いながら振り返り、師匠の顔を見ます。

この十年、毎日見た、ずっと若いままの師匠。見ず知らずの私を育ててくれた、優しい師匠。私が一人で何かするたびに、そわそわしてばかりの師匠。ドラ助と遊んでる時の、子供みたいな師匠。私のことを守ってくれていた、強い師匠。私の、する人。

口を開けば、泣いてしまいそうで、私は、師匠の顔を見てから、無言で森の外へと転移しました。見慣れた森の中から、見慣れない森の外へと景は姿を変えます。

護衛も、杖も無ければもしかしたら私は死ぬかもしれません。危機を教えてくれる首飾りがあっても、その時私が対処出來なければ意味がありません。もう、あの家には戻れないかもしれません。でも、私は、今までずっと幸せだった私は、彼らを助けなければいけないんです。

そう、私は自分の意思を再度確認し、街へと向けて足を一歩踏み出し……。

――――チャリ

その時、私の耳元から、音が聞こえます。ずっとに著けていたから、返すのを忘れていた耳飾り。師匠が、私のことを思って、誓いの証として、私にくれた耳飾り。私の、幸せな思い出。

「あ……」

私は小さく聲をらし、我慢できずに、そんな資格は無いのに、ポロポロと涙が零れ、その場に蹲り、聲を押し殺して、泣き続けました。

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