と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について》54話目 人攫いは死んだ!もういない!

守るということを、軽く考えすぎていました。

を続けていると盜賊まがいの冒険者達が私の目論見通り私たちに襲い掛かり、矢が掛けられ、十數人の男たちが雄たけびと共に私たち目がけて飛び出してきました。エルフの中でもこういった事態を予期して不安げな様子だった人たちは即座に逃げ出そうとしましたが、襲撃者たちは挾撃を仕掛けてきていたためにすぐにきを止めてしまいました。

しかし、この程度の襲撃ならば私にとって問題にはなり得ません。師匠との訓練では矢とは比べにならない程の速度で放たれる魔法の応酬や、目にも止まらぬ速度でく標的に魔法を當てていたため、達人ですら無いただの人間が放った矢や突撃など、簡単に防げると思っていました。

事実、彼らの放った矢を空中で一つ殘らず焼き盡くことは容易でしたし、それでも尚止まらぬ襲撃者たちを捉えることもすぐに出來ました。そして彼らに向けてほとんど反的に魔法を放とうとしたその時、私はふと気づいてしまったのです。彼らを無力化するということは、彼らを殺すということなのではないかと。皆をかくまうためには彼らを一人殘らず殺さなければならないのではないかと。私は今から人の命を奪おうとしているのではないかと。

そのことに気付いてしまった私は咄嗟に狙いをずらしてしまい、放つ魔法もいつもの発の魔法ではなく殺傷力の低い、土塊つちくれを撃ち出す魔法を使ってしまいました。その結果、數人のきを止めることは功しましたが、ほとんどの襲撃者は止まることなく近づいてきます。

早く魔法を放たなくては……。

早く彼らのきを止めなくては……。

早く彼らを殺さなければ……。

思えば私は今までに一度も命を奪ったことがありませんでした。師匠との模擬戦ではもちろんですが、魔法を當てる標的さえ師匠が作った魔法生であり、彼らに私の魔法を當てても死んだりはしません。そしていざこうして初めて命を、それもではなく人の命を奪うという場面になり、私のきを止めてしまいました。

「う……あ……」

かなければならないのには言うことを聞いてくれず固まったままで、口からは意味の無い言葉が零れ、の気が引いていくのがじられます。襲撃者たちの先頭を走る男の人がそんな風に直している私を見やると遠くからでもハッキリとわかる程に口元を歪め、周りに指示を出して勢いを強めます。

そしてとうとう襲撃者たちはすぐそこまで來てしまい、その中の一人が、よりにもよって、お父さんへと切りかかりました。武も無く、抵抗するを持たない父は後ろにいる母をかばうためか避けようともしておらず、このままではお父さんは命を落としてしまうと思い至り……。

「だめぇ!」

私はそうび、使い慣れた魔法を放ちました。放った魔法は父に襲い掛かっていた襲撃者を炎に包み込み、黒い何かへと変えました。

「あのがやりやがった!」

「魔法使いはあのだけだ! 抑え込め!」

口々に罵聲を放ちながら多くの襲撃者が私に殺到してきますが、一歩踏み出してしまった私は何も考えずに、いえ、考えることが出來ないまま彼らを黒い何かへと変えていきます。

「ひぃ!」

「ば、ばけもんだ! 逃げろ!」

私に襲い掛かってきた人たちの半數ほどを黒い何かへと変えると、殘りの人たちは逃げ出そうとしました。私たちを挾み撃ちにするために回り込んでいた人たちも同様に逃げ出そうとしていましたが、私は構わず魔法を打ち続け、彼らを黒い何かへと変えていきます。

「た、助け――」

「許し――」

只管に、ただ只管に魔法を撃ち続け、彼ら全員を黒い何かへと変え終わって、ようやく私は息が苦しいことに気が付きました。息を吸えばいいのか吐けばいいのか、それすらもわからない程に呆然としていると不快な臭いが鼻を突き、はっとして周りを見回し……。

「あっ……」

いくつもの燃え盡きた死が無造作にあたりに転がっており、そしてその全てはたった今まで生きていたものであり、その全ては私が命を奪ったものであり……。頭の中が真っ白になり、何も考えられないにもかかわらず悸が激しくなっていき、が震え、視界がぐらぐらと揺れています。

「う、うぇぇぇ……」

私は耐えきることが出來ずにとうとうその場で嘔吐してしまいました。辺りに漂うの焼けるは消えることなく嗅覚を刺激し、私がしてしまったことを否応なく私に突きつけます。胃の中に何も殘っていないのに吐き気は一向に収まらず、立ち上がる事すら困難になった私は蹲うずくまり胃を吐き出し続けました。

しばらくしてしだけ気分が楽になったように思えたので顔を上げてみると、母が私の背中をさすっていることに気付きました。果たしていつからそこにいたのか、母のそばには父も立っており、やや困した顔で私のことを見ています。

何と聲をかけていいのかわからずにいると、母が口を開きました。

「助けてくれてありがとう」

ただ一言、そう言われて、朧げになっていた記憶の中のお母さんの顔と、今目の前にあるお母さんの顔が重なって、悲しいのか嬉しいのか、自分でもよくわからないと共に涙がこみ上げてきて。

「う、うああぁぁぁ、あぁぁぁぁぁぁ……」

私は顔をくしゃくしゃにして母に抱き著いて、しばらくの間泣き続けてしまいました。

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