《拝啓、世界の神々。俺達は変わらず異世界で最強無敵に暮らしてます。》拝啓、❬教皇❭殿。流石の腕前で。
「……隨分と久しぶりだな、その名前で呼ばれるのも」
いつの間にか❬大神父❭の顔からは笑みが消えており、代わりに真剣な表が浮かんでいた。
「かつて最強とわれた男が、今では常人族の領土の端で神父をしているなど、誰も想像できんな」
「勘違いするなよ、❬教皇❭。今でも私は神なんて信じちゃいない」
「だから、お前は神と契約・・したのだろう?同胞の魂をあの世に導いてもらう代わりに、この世界の爭いからは手を引き、神の監視下にいるようにする、という容で」
「ああ。それが私が王としてできる最後のことだったから」
「仲間を弔うのが、最初で最後の仕事か。哀れだな」
❬教皇❭が❬大神父❭に向けて冷えた口調で言ち放つ。
「……昔話はここまでにしないか。そろそろ秤君も❬法王❭……レイクの所に著くだろう」
「……結局、私達はどちらも哀れな存在だな」
❬教皇❭が皮げに笑って見せた瞬間。戦いは再び始まった。
❬大神父❭が目を覆っていた包帯を勢い良く外す。
そのとたんに、❬大神父❭のがみるみる変化し始める。
真っ白だった髪は、艶のある黒に。もより逞しく変貌を遂げる。
若返った❬大神父❭はとても整った顔つきをしており、左右の瞳のが異なっていた。その風貌から穏やかな人柄に見えるが、その瞳の奧には戦いにえるが故に激しく燃える激の炎がみてとれた。
「この姿になるのも久しぶりだな」
❬大神父❭が自らのを見ながら言う。
「不老不死の権能……。封印を解かなければ、あと數十年のに安らかな死を遂げれたものを」
「ハッ!私が安らかに死ねるとでも?」
若返った❬大神父❭が顔に獰猛な笑みを浮かべる。
大神父が著けていた包帯は《不死殺し》という神・・。
彼が神と契約した際に、つまり遙か昔に神々から贈られたものである。
能力は対象の『不老不死』という能力そのものを打ち消す力。
これにより、❬大神父❭は年老いていった。
しかし、❬大神父❭の『不老不死』は々変わっており、が全盛期の頃を保とうとする。
結果、❬大神父❭は《不死殺し》を外すとたちまち全盛期へと若返ってしまうのである。
もはや、❬混沌王❭は死ぬことを赦されていない呪いをかけられていると言われた方が納得できる。
「さあ!ここからが本番だろう!」
❬大神父❭……いや❬混沌王❭は今まで持っていた槍を❬教皇❭へと投擲した。
速度が最高點に達した瞬間、周りに衝撃波が押し寄せた。所謂、ソニックブームと呼ばれる現象。
過去、聖霊の加護が付與された防にすらを開けたと言われる❬混沌王❭の《槍投げ》。
それを❬教皇❭は三重に展開した防魔法で対応した。
かろうじて槍を防げたものの……一枚一枚が普通の防魔法の何倍も丈夫なのに対して、殘った防魔法は一枚だった。
「フッ!」
殘った一枚を、瞬き一回分の間に接近した❬混沌王❭が新しく取り出した槍で破壊する。
「《疾風シュトルム》!」
❬教皇❭が足元に魔法を展開する。❬教皇❭の足元で業風が吹き荒れるが、それを❬教皇❭は乗りこなし❬混沌王❭の接近を抑えつつ距離を取った。
「《氷槍アイスランス》!」
❬教皇❭の背に水の魔法陣が六つ、展開される。
なお、『無詠唱』は魔法を一度に四つ以上使おうとしたり、自らに適正の無い魔法を使おうとすると使用できなくなる。
そのため、❬教皇❭は不得意とする風屬の《疾風シュトルム》や、複數を同時使用した《氷槍アイスランス》は詠唱しざるを得なかった。
魔法陣から人一人分ひとりぶんの大きさほどの鋭い氷が勢い良く出される。
本來ならば細かく、鋭い氷が相手に降り注ぐ魔法だが、❬教皇❭は即興で魔法を改変し、威力重視で一つの魔法陣から巨大な氷槍ひょうそうを一つ打ち出すようにした。
空気を凍てつかせる冷気を周囲に振り撒きながら、氷槍ひょうそうが❬混沌王❭を貫かんと一直線に飛翔する。
「《煉獄フレイム》!」
これを❬混沌王❭は高位の炎魔法によって相殺しようとする。
❬混沌王❭は魔法の腕前も一流。でなければ『最強』など語れない。
《煉獄フレイム》ほどの熱量を持つ魔法ならば《氷槍アイスランス》を溶かすことなど容易……なハズだった。
並みの魔法使いが相手ならばそれで迎撃は十分可能だっただろう。
だが、❬混沌王❭が相手取っているのは魔法を極めたとされる❬教皇❭。
魔法の扱いならば右に出る者が居ないとまで言われる彼が、そう簡単に迎撃できるような魔法を放つ訳が無かった。
❬混沌王❭を貫かんとする氷の槍。それを喰らおうと大口を開けて待つ、轟々と燃え盛る煉獄。
煉獄が氷槍を呑み込もうとした寸前に……氷槍が砕け散った・・・・・。
一撃必殺の槍はその瞬間に拡散弾へと変化する。
本來ならば、氷を細かくしたところで結局は炎に溶かされてしまうので拡散弾へと変化させるのは無意味と言わざるを得ない。
しかし……❬教皇❭はこの先を見據えていた。
氷槍が砕けた次の剎那。
炎の壁を一條のが穿うがち、そのまま❬混沌王❭をも共に貫いた。
❬教皇❭の魔法付與。❬教皇❭は《氷槍アイスランス》に破魔法と、《砲ブラスト》を付與していた。
氷槍が砕けると氷が包していたが飛び出すというしくみの、常人離れした魔法の使い方をしている。
これこそが❬教皇❭が長年の戦いの中でにつけた魔法技の真髄。即興とは思えない完度の魔法を絶え間なく放つことが可能。
故に❬教皇❭を前にした者は否応なく迎撃に困難を強いられる。
「……!」
線にを貫かれた❬混沌王❭が無言で顔を苦痛に染めた。
その隙を❬教皇❭は逃さない。殘り五つ殘った氷槍が❬混沌王❭を襲う。
❬混沌王❭が出している部分を押さえながらその中の一つを回避しようとするが、先程と同じように氷槍がぜる。
広範囲の拡散弾に対して回避の一手は悪手だった。
直撃とはいかずとも氷の拡散弾は、❬混沌王❭のを掠めていく。
回避した先に待ち構えていた四つの氷槍が❬混沌王❭を囲む。
そして……一度に全てがぜる。
が放される寸前に❬教皇❭が❬混沌王❭を中心に半球狀の結界魔法を展開する。
展開されたのは『鏡の世界』と形容するに相応しい結界。
鏡が❬混沌王❭の姿を寫す。それと共に……氷の部から飛び出た線が鏡に反する。
反した四本の線が、段々と❬混沌王❭を追い詰めていく。
「流石❬教皇❭!魔法の腕前は落ちていないか!」
それでも❬混沌王❭は実に楽しそうに笑った。
自らが負ける訳が無いという自信からか、はたまた『不老不死』の権能によるものか……それとも戦闘の展開をここまで『読みきっていた』から出た余裕なのかは分からない。
ただ……あれほど日常において穏やかだった神父は戦闘狂へと変貌し、純粋にこの戦いを楽しんでいた。
さながら、スポーツやゲームに熱中する年のように。
「❬空間認識の魔眼❭!」
❬混沌王❭の左目が魔力ので輝く。
❬空間認識の魔眼❭。自分が存在する空間にある全ての報を取得できる。
自分の視界の外にあるだろうが関係無い。
そのの大きさ、魔力量、運……。見えていなくとも認識が可能。
❬大神父❭が目を《不死殺し》で覆っていたのにも関わらずあれほどの戦闘を行えたのはこの魔眼の力である。
❬空間認識の魔眼❭の副作用として、保有者は脳のの報処理速度が常人離れしたものになるというものがある。
常人と比べて、取得する報量が桁外れに多いので當たり前といえば當たり前だが、❬混沌王❭はその側面がより顕著に現れていた。
❬混沌王❭の『読み』は日常、戦闘問わず、もはや『未來予知』に近いへと昇華されている。
❬混沌王❭は自分に迫る線のきを、反した後も含めて、全て一瞬で『読みきった』。
「……ここかな」
そしてゆっくりと歩き出す。が迫っているのにも関わらず、だ。
それなのに……線は❬混沌王❭のに掠りもしない。まるでが❬混沌王❭を避けているかのよう。
「ハッ!」
❬混沌王❭は結界の端に辿り著くやいなや槍で結界の一點を突いた。
そこは❬教皇❭が展開した結界の中で最も脆弱な箇所であった。《空間認識の魔眼》で見つけていたのである。
パリィンッッ!!
と、鏡が割れる音を響かせながら結界は壊れた。
「……まったく末恐ろしい男だ」
一連の流れを傍観していた❬教皇❭が呟く。
「いやぁ、危なかった。まさかこの私がまともに攻撃を食らってしまうとは!」
敗北の危機にあったというのに尚、愉快そうに笑う❬混沌王❭。
「バカを言え。自分から食らったくせによく言う」
「あ、バレてた?」
「お前の演技に引っ掛かる輩なぞ、そうそう居るまい?」
「うーん、レナとルナとか秤君とかは私の演技に気づいて無かったけどなぁ」
「ハァ……」
わざとらしく❬教皇❭がため息をつく。
「さて、と。そろそろ本當に終わりにしないとね」
「……そもそも何故お前は私を倒しに來たんだ」
❬教皇❭が訝しむ。
「ん?だから秤君を助けるためだって」
「逆だろう・・・・。私……いや、❬法王❭の力を分け與えられている聖人を倒したら、その力は❬法王❭へと帰るのは知っているはずだ。なれば秤彼方は、本來の力を取り戻した❬法王❭と戦うことになる」
「ああ、だから助けている・・・・・だろう?」
どこがおかしいのか理解していない様子の❬混沌王❭。
「なるほど、全力の❬法王❭を倒せてこそ英雄のか」
どこか納得した様子の❬教皇❭。
「だがな、お前の場合それすらも建前だろうが」
❬混沌王❭のを見かして❬教皇❭が言う。
「……なるほど、よほど私は演技が下手らしい。ああ、そうさ、その通り。ただ私自が聖人達と戦いたかっただけだよ」
「……呆れるほどの戦闘狂だよ。お前は」
「ハハッ!譽め言葉としてけ取っておくよ!」
皮をけ流して笑う❬混沌王❭と、呆れかえる❬教皇❭。
それはまるで……戦爭が始まる以前、數百年前、二人が友であった頃の再現のようであった。
「楽しかったよ、❬教皇❭」
今までの愉快そうな笑みとは違う、親友に向ける微笑みを浮かべてこの世界で唯一の聖魔族は言った。
そして、❬混沌王❭の右目が輝き始めた。
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