《悪役令嬢のままでいなさい!》☆54 あんころもち(2)

「それは、間違いなく初代のだろう」

「……うちのご先祖のことか?」

青火が頷いて肯定すると、五季は、かなり嬉しそうな顔になった。

この様子じゃあ、あの奔放な先祖に強い憧れを抱いているのだろう。

「初代に青火さまは會ったことがあるのか?……聞かせてくれよ、どんな人だったんだっ!」

とぼける気はないが、興した五季に案の定そうねだられる。

……青火は、かなり複雑な思いで言った。

「……アレは、とにかくずる賢い脳筋だった」

「え!?」

五季は、予想外の報に石化した。

青火は、ため息をついた。いつも月之宮の子どもにこの思い出を話すと、豆鉄砲をくらった顔をされる。

「元々の僕は、見世で殺されたキツネの怨念から生まれた低妖怪だった。當然ながら人間嫌いでな……。

ある日。まだ獣同然の子狐だった僕に、2人の貧しい中流貴族の子どもが、野蠻にも棒を持って毆りかかってきたんだ」

「……まさか、青火さまはうちのご先祖に」

「本人たちには遊びのつもりだったんだろうが、あの2人ときたら霊力が並外れていたのを気がついていなくてな。命カラガラの思いを味あわされた」

五季は、絶句した。

青火は、その後の苦労を思い返して、目が虛ろになっていく。

「今から思えば、殺されてなるものかと異能で火を出してしまったのが運の盡きだったな……。

僕が妖怪だと知った子どもたちは、面白がって自分の屋敷に持ち帰ろうとした。

どうにか座敷キツネの屈辱から逃げ出した、その後日。

なんと耳に飛び込んできたのは、病みつきになったアヤカシ狩りを楽しみながら、飼おうとした狐を探している兄弟の噂だった」

五季が、頭を抱えている。

「まだ僕もかったものだから、よせばいいのに。

しばらくして、今度は自分から報復しにいってしまって……元服をしたあの兄弟に、當然ながらこてんぱんにされてしまった」

「……で、だ。アイツら、いつかに出會った狐の正が僕だったと殺す前に思い出したんだよ。

妙な顔をしていると思ったらころっと態度を変えて、

なんとぜひ詫びたいから屋敷に招待したいとまで、すまなそうに言ってくる。

僕は、この場で首をはねられるぐらいならと渋々承知して。寂れた中流貴族の家に行って、笑顔の奴らに持てなしとして手料理を振る舞われるに至った」

「そうして、あの弟は、自分の作る飯がクソ不味いと分かった上で、生まれたてのアヤカシの僕に無理やり食わせて!!

意識が混濁してる間に、式の契約を何食わぬ顔ですませやがってな……月之宮の初代が亡くなるまで、哀れな小さき狐はこき使われる運命になったというわけだ」

五季は、顔を覆った。

子孫があの初代の実態を知るとき、みんな同じように沈痛な面持ちとなる。

「どうして、青火さまはそんなに弱かったのだ……」

「長生きな僕にだって、期はあるに決まってるだろう。……むしろ、あの兄弟が々と人間離れしすぎていたんだ」

そう、常識外れの初代によって被害をこうむったのは、決してこの狐だけではなかった。

長して人の姿をとれるようになった青火は、主の使いで平安の寮へ何度も出向く羽目になったものだが……。涙ぐんでいる彼らに同してしまったものである。

「素人の2人が、妖怪退治を喜々としてやりすぎたせいで一番泣かされたのは本職の師たちだ……。

雇われた師が必死に準備して調伏を行っている中、

豪快に剣で衝撃波を放ってバッサバッサと狩り盡くしていくものだから、それを目撃した民人が次第に疑いはじめてな。

――師はあれほど偉そうにしているのに、この兄弟と比べて無能すぎやしないかと。

宮中の寮の立場がうわさ話で危うくなりかけても、初代たちは他貴族からの苦など気にしないで迷すぎる娯楽をつづける始末。

最終的には、

――沒落寸前の貴家を援助して盛り立てるのを手伝いますから、一般人ではなく寮にちゃんと所屬して下さい!とあちらが懇願してくることになった」

あの真っ青な顔に対し、2人のうちの兄は、平然と提案された條件をつり上げようと渉していった(後に日之宮の祖先となったわけだが)。

弟の方(月之宮初代)の式としてその現場に居合わせた狐には、彼こそが一番払われるべき悪鬼に見えた。

人間であるはずなのに、その笑顔はアヤカシよりも黒かった。

現に、貴族の連中ときたら、彼らを見ると不吉の元兇が顔を出したように怯えまくった。慌てて、忌みと言い訳して屋敷に引きこもった者もなくはない。

幻想が砕かれ、打ちのめされた五季が、何かに気が付いたように顔をあげた。

「あれ、青火さま。なんだか、その話をきくと我が家って、元は道と縁もゆかりもなかったんじゃあ……」

「あんなの面を保つための、寮の苦し紛れのうそっぱちだ。兄弟を師の実力者、ということに表向きはしておかないと、當時の宮中の秩序が滅茶苦茶になるところだったんだ」

平安の世では、貴族のつながりにも道は深く関わるようになっていた。

この兄弟を退けようとした一派や、

アヤカシから助けられた者、

己の派閥にかこいたい権力者たちの火花を散らした睨みあいは――。

頭ですら震いし、その自尊心を投げ捨てるくらいであった。

霊撃をぼんすか放てる化けじみた初代に、武力行使ができなかったのも大きな要因だろう。

たちの悪いことに民衆や下・中流貴族からの人気も高く、時のミカドですら、まがりなりにも都の治安を向上させている2人には好を抱いていたらしい。

「普通の師は、そもそも修行しても衝撃波はだせないものだしな」

――驚愕。

狐の呆れた言葉に、五季はびっくりして口を開いた。

「じゃあ、うちの教えはなんなのだ!?」

「日之宮と月之宮の、特異質を引き継いだ子孫を鍛えてるだけだ。どちらかと云えば、武家の修練に近いだろうな。

まだ日之宮の方は、そつがなく用に占や式をこなすが……。

初代の直系は、あの不用な脳筋と同じようになんでも力技で解決しようする傾向がある…………全く。作る飯が不味いところまで似ることはあるまいに」

己を省みた五季にも、思い當たるふしが多々あった。

月之宮家の中でもことに面倒なことが嫌いなこの五男は、いつも三・四男といっしょに座學から逃げているのだ。

「あの……青火さま。つかぬ事をお聞きしますが、2人の格ってどんなじで……?」

「日之宮の先祖は険な脳筋で、月之宮の方はずる賢い脳筋だ」

「すごく嫌だ!」

それって脳筋っていうの!?と、五季がんだ。

青火は遠い目をした。

「……どちらも、僕に寮の仕事を押しつけて、アヤカシ狩りばかりしていたのだから似たようなもんだろう」

「多分、それは脳筋とは違うと思う……」

それって、単に格が悪いだけじゃないか。

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