《悪役令嬢のままでいなさい!》☆55 あんころもち(3)
己の先祖の逸話に項垂れてしまった月之宮家の年へと、青火は、手ずからヤカンでお湯を沸かして茶を淹れてやった。
麥茶なんて気のきいたものは社になかった為、真夏だというのに熱い緑茶を出すことになった。……粋という言葉で納得してもらうしかない。
前もって來ると予告があれば、準備もしてやれたろうに。
蛇口からの真水でも構わないと五季は言ったのだが、青火自の味覚がそれを拒んだ。
ゲテモノを食べたことがあるといったって、この重箱にった出來損ないのマズさといったら尋常ではなく、口を清める飲みの一杯はないとやりきれない。
「……青火さま、話をきく限り、初代はただの山賊のような気がしてきたのだが……」
「公家のふる舞いとして落第していたことは確かだな。……あいつらが晩年にをれかえるまでは、僕は、これほどまでに最悪な人間はいないと思っていたぞ」
子ぎつねだった僕は、アヤカシの命を楽しみの為に殺していく兄弟の姿にいつも怒鳴っていたものだ。2人が丸くなるまでは軽蔑すらしていた。
「をれかえてくれたのか!? 誰がこのような山賊に説教ができたというんだ!」
「説教ではなかったが、より深く恥じることになったともいえる」
「うちのご先祖にも恥があったのか!?」
「僕もその時に初めて知ったさ。話しを聞いて3日は疑ったものだが、信じられないことに兄弟が寮にきちんと出仕するようになったんだ。アヤカシ狩りにも無差別に行くことはなくなった」
何があったんだ……、と。
五季から食いるように見つめられた狐は、居住まいを正して、その恐れ多い奇跡を懐かしむように語った。
「――上直々に、彼らは日と月を名乗ることを許されたんだ」
五季がそのセリフの意味にびっくり仰天して、ぽろっと湯呑を取り落とした。
つばき柄の有田焼の湯呑から、飲みかけの緑茶が地面にぶちまけられてしまったが、本人はそんなことに気付かず呆然としている。
「都の化生を退治してまわっている兄弟のことを知った春宮が、その功績を重んじながらも、歳の近かった2人が次第に恐怖されていくことを憂いてくださったんだ。
余りにも霊力が強すぎる兄弟が、化けと罵られ、人の世から想をつかされてしまわぬようにと――兄には日の宮、弟には月の宮という呼び名を其々に與えることによって、兄弟に『天に背く行いをしないように勵みなさい』とさとしてくださった」
しばらくの沈黙。
青火は、この素直な子孫が絶句しているのが分かった。
五季にとって當たり前になっていた己の姓が、それほどまでに尊いものであったとは思いもよらなかったのだ。
青火は、黙り込んだ五季を橫目にして――その名を賜った後に兄弟が屋敷で男泣きに震えていたことを思いだす。
輝く春宮からのお言葉を頂いたことに激したのと、己がこれまで奪ったアヤカシの命の多さに気が付き愕然としたのがあいまったのであろうが……
その時、そのような事をサッパリ知らなかった子ぎつねの僕は、帰って來た2人が夕餉も食わずに部屋に閉じこもったものだから、自分が作った雑炊が冷たく放置されてしまったことに拗ねていた。
「青火さま……、俺はお天道様に叱られるようなことをしてしまったかもしれぬ」
「今頃気がついたか、バカ者が」
高価な食いをだめにしてしまった五季は、己の苗字の由來を知って、罪悪がこみあげてしまったらしい。
膝の上にのせた重箱の中を眺め、眉を下げて気まずそうにしている。
青火はため息をついて、落ちた湯呑を地面から拾い上げた。幸い割れてはいないが、黒土が濡れた飲み口についていた。
……仕方ない、この小さな客のために湯呑をすすいでやるか。
青火がその場を立とうとした時、五季が一大決心をしたようにあんころ餅に噛みついた。
「につまらせぬようにしなさい」
むぐむぐ頬張った五季は頷いた。
好き嫌いが激しい、偏食なボンボンだと聞いていたはずだったが……。この昔語りがにきたようで、五季は懸命にあんころ餅を口に運んだ。
青火が水道で子どもが落とした湯呑を洗ってくると、ちゃんと悪戯を反省した五季の姿に、しずかに笑った。
「こっちにもよこせ」
甘えたは好かんが、この様子なら平らげるのを手伝ってもいいだろう。
青火は重箱の蓋にあんころ餅を2つほど貰っていく。歴代の月之宮による凄まじい手料理の數々を胃に収めてきたのだから、これも今に始まったことではない。
……かくして青火は、甘ったれ小僧が持ってきた苦いあんころ餅を平らげるのを手伝った。
どうにか社にあった中でも安い緑茶と一緒に腹におさめきって、きれいに証拠隠滅がすんでしまうと、昆布とキュウリの淺漬けと瓶から出した梅干しを小皿で出してやった。
どうも、口直しに塩気のあるものがしくなったのだ。
あれほど餅を食ったというのに、皿の上を見た五季ときたら目を輝かせる。び盛りの年は、嬉しそうに楊枝をとった。
「うまいっ」
悪い気はしない。
歓聲に、青火は涼やかな表を取り繕った。
漬けもの作りの塩梅を覚えるのには月日がかかったが、近ごろは納得のいく出來になってきていると自負している。
初代に小間使い代わりにされた時に散々こき使われたせいだろうか、自分にできることは自分でやってしまう習が、悲しいことに神の位についてもに染みていた。
ほっと一息、緑茶と漬で和んでいる五季は、ようやく父親と長男の叱責をまぬがれたと安心したのだろう。杉の木からなる日蔭に座りながら、不思議そうにたずねた。
「――そんなに散々な目にあったのに、青火さまは、どうして今も月之宮の面倒を見てくれているんだ?」
初代からここまでの仕打ちをされて、なぜその子孫である自分とこうして過ごしているのか?と、五季が素樸な疑問を抱くのは當然だ。
生まれた時からずっと遊んでくれた土地神の狐は、五季にとったら傍に居るのが當たり前だった。
剣や書道の半紙に才能があると褒めてもらい、描いた風景畫を見せれば酷評され、新年に詠んだ短歌を披すれば耳が腐ると言われる――その度に喜び、むくれ、しょげて。
時間をみつけては、厳しくも優しい、はるか年上の友達に會うために社への參道を歩くのが楽しみだった。
「最初は、あいつが死んだら逃げてやろうと恨んでいたのだが……、そのうちに初代の妻が気の毒になった」
「ああ……」
「最初はとても奧ゆかしい姫君だったんだ、が……。
そのうちに會いに來ない夫に、ニッコリ微笑みながら枯れ枝を折るようになり……。子ぎつねをでると、嫉妬した初代が姿を現すことに気が付いてからは、なぜか僕に文をおくってくるようになった」
「なんて返したんだ、青火さまは」
「……返歌の心得がなかったから、墨で球をついて誤魔化したら大層喜ばれた」
その答えに。なんともいえない眼差しを五季から向けられ、
青火は気まずく咳払いをして、
「ずいぶん年下の姫で、夫が流行り病で亡くなった後も彼は長生きしたんだ。ただ、気丈なわりに魑魅魍魎ちみもうりょうの貴族社會では々抜けたところのある方でな……、々恩もあったからあとしくらいは留まって支えようと思ったら。その子どもらに慕われて、初代の妻が他界したこの家から出て行くと言えなくなってしまった」
「折角自由のになったのに……」
なんて優不斷な。
と呆れ半分の顔をしている五季に、青火は懐かしみながら言う。
「なんとも、あの破天荒な男に似たり、姫君に似たものがいたりと中々安心できなかったんだ。
そのに僕から學を教えればどうにかなるかと悪戦苦闘しながら子守りをして、4世代くらいが過ぎたら――ちゃんとした社を建てたから、屋敷の部屋からそちらに引っ越して広々暮らしてはどうかと月之宮の當主に親しみのこもった笑顔を向けられた」
その話しを聞いて、五季は目を丸くして振り返った。
もう、とっくに見慣れたはずのこの神社のいわれを知って、改めて境を眺めた五季は、ごくりと唾を呑んだ――。
――何度も塗り直された朱い鳥居。改築がされた本殿。瓦屋に賽銭箱。年を重ねた境の神木がそこにはあって。
時代によって何度か土地を変えてきた社が、その當主からの青火さまへの親がちゃんとここに繋がっている。
いつになく新鮮味さえじさせる杉の香りと、太が目も眩みそうなくらい暑く照りつける中、想像もつかない遠い過去が急に押し寄せてしまったかのようにじられた。
ここで數えきれないほどのご先祖が、にほだされたこの狐と遊んではしゃいだのだろうか……。と、そんな考えに至った五季の心は嬉しさで一杯になった。
「ナイスプレイだ、うちのご先祖は」
「そうか?」
「だって、そのご當主が青火さまの暮らしてくれる社を建ててくれたから、俺はこんな最高の友達に會えたんだ」
「友人ではない、これは子守りだ」
その當主に勧められた社への引っ越しを。
すなわち、ちゃんと一族の守り神として祀られることをけれた、今は亡き初代の式であった狐はハッと笑う。
そんな冷たい言葉をけたって、年の若々しい心はめげない。空になった重箱に、大きく息を吸いこんで、
「俺、明日からはもう座學から逃げないっ」
「それは、それは」
「信じてないな、青火さま!」
「そういう決心をした子どもは、ごまんと見た」
風呂敷を広げて、長い指で重箱を片付けていく青火に、月之宮五季は聲高らかに宣言した。
「己の苗字を名乗っても恥ずかしくないように、まずは逃げてることから挑戦してみる!」
「……頼むから、料理だけはしてくれるなよ」
青火は努力を建設的な方向に向けてしいと心底思った。
料理と絵と詩の才能が欠落しているこの年は、この分野に関しては一生かけても大すまい。
まあ、座學に真面目になることは良いことだ。
そう心してやると、五季は照れくさそうにしながら笑った。
――きっと、自分たちはこの狐に褒めてもらうのが、先祖代々嬉しくて仕方ないんだ。
青火さまに軽蔑されるのが嫌なのは、今も昔も一緒で、これから先もずうっと続く未來なのだと信じられる。なくとも俺はそうだし、うちの家族はみんな同じ気持ちだ。
この國のためになるような男になって、青火さまに譽れに思ってもらえるようになりたいと――そのような大それたみをいえるはずもない年は、頬を上げる。
塩のふいた梅干しを口の中で転がすと、その酸っぱさを殘した種をかつんと噛み砕いた。
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