《悪役令嬢のままでいなさい!》☆308 互全會議
鳥羽と白波は、激怒している東雲というものを久々に見た。
「ほう……僕が留守をしている間に、月之宮の人間が八重を拐し、栗村さんを人質にとったと……」
何かが切れたような音と共に。無表の東雲椿は、ぐしゃりと持っていた書類の束を握りつぶした。
時間をかけて作ったであろうその紙の塊を放り投げ、振り返る様子もない。それを見て、自分も頭にきていた鳥羽はし脳が涼しくなった。
「……正直、ウィリアムが殺されるなんて俺は思わなかった。アイツの不死度は俺達の中じゃトップレベルだ。それが破られるということは生半可な相手じゃねえ」
正直、本音を言えば鳥羽だって今の月之宮幽司に勝てる自信はない。あの日之宮奈々子が怯えたということはそれ相応の人間だということだ。
白波は東雲に迫った。
「どうしたらいいですか!」
「ひとまず、二人を浚った場所の見當はついている。だが、僕の予想だと警備が大幅に強化されているはずだ。
下手な人員を連れていくと、そこから狙われて崩れかねない」
暗に、足手まといだからお前は付いてくるなと言われていることに小春は気が付いた。
確かに、自分はどんなに頑張っても戦力にならない。剣も振れないし、できることといえば植を茂らすことぐらいだ。それですら、八重からの借りの力でしかない。
「どうして月之宮の浚われたところが分かるんだよ」
疑いの眼差しを向けた鳥羽の言葉に、白波も頷いた。
「そうですよ、月之宮さんにGPSでも付けていたならともかく……」
「確かにGPSならついていたけど、肝心のデータを山崎さんが管理してる以上意味ねーよ」
月之宮家に雇われている山崎が、その意に反する行いをするとは思えない。
友人であるウィリアムを殺された鳥羽が悔しそうに吐き捨てる。
「俺はダチが傷つけられて最悪の気分なんだ。手のはさっさと明かしてもらうぜ。九尾先輩」
「……つまりは、こういうことだ」
東雲椿は、ブレザーのポケットから一本のUSBを取り出した。青く反して輝くその端末に、皆の注目が集まる。
「これは、夏の終わりに僕が日之宮邸から盜み出していたデータ諸々です。八重と白波小春に関わるプロジェクトの名簿などがっています。
この中に、非合法のVR実験を行っていた研究所の報が含まれていました」
一を聞いて十を知るタイプの鳥羽はその言葉で悟る。
引きつった顔で人を凝視し、んだ。
「糞! そういうことかよ! アイツら、隠れて未完のVR機の人実験を天才養のプロジェクトと誤魔化して人間を集めて試していたんだ!
恐らく失敗した白波の頭が墓場のアルジャーノンみたいにパーになったのもそのせいだ」
「人のことをおバカみたいに云わないで! 今は真剣な話し合いをしてるんだから!」
怒った白波を放置して、腕を組んだ八手が喋った。
「……それで場所は分かったとして、何人ぐらいで助けに行くんだ。オレは學校に殘る気はないぞ」
話を聞いていた福壽はもの靜かに笑う。
「そうね~。私もできたら一緒に行きたいわぁ。月之宮さんには私の子どもを産んでもらうって決めてるしぃ」
それを聞きとがめ、柳原が顔をしかめた。
「いや、流石にそれは無理だろ。助けに行くなら相手に見返りを求めちゃダメだって、姉さん」
「えー、そんなこと分かってるわよお」
いや、コイツ絶対分かってなかっただろ……。そんな冷ややかな空気になったのをじたのか、雪はふくれっ面になった。
「はいはい、噓をつきました。ちょっとは邪念もあったかもしれないけど、あの子が心配なのもホントよ。話を聞く限り、質の悪いストーカーに捕まってるようなものだものね」
「ストーカー……」
くしゃりと遠野ちほは顔を歪めた。その様子に、柳原が彼の頭を優しくぜる。
「まあ、遠野は留守番をしといてくれ。必ず月之宮を連れて帰ってくるから、な?」
「……分かった」
ここで駄々をこねても何も変わらないことを理解した遠野は、悔しく思いながらも頷く。
「白波もそういうことだけど、お前分かってんのか?」
「……私は、ここに殘りたくないです」
「おい!」
眉をつり上げた鳥羽を無視して、小春は東雲に向かって直訴した。
「私、月之宮さんと……いえ。八重と約束したの。絶対に、あなたのことを助け出すって。何もできないかもしれないけど、この借りている力を使ってでもしでも役に立ちたい!」
「だからって、一緒に敵地に行くのは無茶だ! 誰もお前のことを守れないかもしれないんだぞ!?」
「それでもいい。待っているだけじゃダメなの――私から八重に會いに行きたい。その為にこの力があるんだと思う」
東雲椿が何かを考える表になる。
それをハラハラした気持ちで見守っていた周囲に、しばらく沈黙していた彼はこう言った。
「……いいでしょう。正直僕は、君のことを軽く見積もっていました」
「でも……っ!」
「ただし、條件がある。鳥羽の側を絶対に離れないことだ。天狗には僕等の戦力から外れて白波さんの護衛を主に擔當してもらいましょう。
聞いている限りでは、月之宮幽司の攻撃は地上の方が危ない。逆に云えば空を飛んで移すればしは安全だということになる」
「…………」
痛恨の表になった鳥羽が、片手を額に當てる。しかしながら、文句を言ってくる様子がないことに「決定だな」と柳原が笑った。
「教師のオレとしては、生徒が危ない真似をするのは賛できないんだが……もしかしたら白波がいないと手づまりになる可能もあるんだよな」
「何故だ?」
「ほら、奴さんの能力って毒をる力だろ? ということは、白波さんなら解毒に使える植から特効薬を作ったりなんか……」
「あの、私、そこまでのことはできないと思います……」
申し訳なさそうに小春が呟く。
「でも、やってみたことはないんだろ?」
「えっと、薬草とかの知識はないですし……」
「こうなってくると瀬川がいないのが痛手だな。調薬は本來、河カワウソの領分だぞ」
柳原、白波、八手。好き勝手なことを喋っていると、東雲が冷ややかな笑みを浮かべた。黒い不機嫌なオーラが辺りに撒き散らかされる。
「今から付け焼刃でそんなことをしても意味がない。なるべく早く助けに行かなくてはならない狀況だと貴様らは理解しているのか?」
「あ、でも植をるぐらいならできそうです! 一杯練習したから……」
そういって、白波はこっそりポケットに隠し持っていたエンドウ豆の種子を握る。それは異能を注ぎ込むと同時に発的に太く大きな蔓となって福壽の足下に絡みつこうとし、雪は悲鳴を上げた。
「きゃー! 何これ気持ち悪い!」
「……けど、戦力としては悪くないな」
柳原は心をする。
「早くこの蔓とってよ政雪! なんだかウニョウニョ蠢いていて……っ」
「空からバリケードみたいに植の壁を作ってくれれば大分楽に戦闘ができるんじゃないか? 人間を殺すわけにもいかないんだろ? 東雲さんや」
「ふん」
鼻を鳴らした椿は、ダークな表になる。
「僕の大事な八重に手を出した人間なんて、全人類皆殺しにしてしまった方が世の為のような気がしますがねえ……」
「洩れてる洩れてる、東雲さん。心の聲が洩れてる」
柳原が慌てて宥めにかかる。その景を見た遠野は青ざめてすすっと後ろに下がった。
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