――長い夢を見た。

幾度となく死線を乗り越え、その度に死にかけ、やがて最強となった男の夢だ。彼は未來を夢見て転生した。そこに至るまで、実に2800年、通常の人間単位なら考えられない歳月を、彼は生きた、そして飽きた。自らのみを形にするために、飢えたを潤すように自らを捧げた、そんな男の夢だ。

アストは目を開けた。いや、自分は今は目を開けているのか、閉ざしているのかもわからない。その場所はそれだけ暗かった。

「確かこうやって..............」

その耳は確かに聞き屆けた、き年のようなまだ未な聲帯を。その目は捉えた、何かをかしその隙間からってきたに照らされた若かりし日のき手を。そしてかしたのは石碑で、ここは自分で掘った墓だと今思い出した。彼はムクリと起き上がり、背びをして辺りを見渡す。

一面緑が溢れるそこは、自分が転生時に使った場所だ。まるで過去の映像を抜き出してり付けたように、その場所に何ら変化はなかった。全く、変わりのない、過去の映像がそこにあった。

「..........今は朝、だな」

太が差し込む向き、西だ。それもかなり低い。おそらく今は午前6時ごろ、太暦が変化していなければの話である。そして溫度からして今は夏だ。改めてあたりを見回してみると、ボロボロになって地面に転がる石碑、どうやら経過によって崩れたらしい。前見た時は草花1本もなかった地面は、今や緑に溢れ転移魔法陣は無くなっている。しかし変化はそれだけだ、あとは何ら変わりない。この狀況と石碑の狀況から見て、優に億年は経過していると思われる。

「刻印は.............やはり星寶か、當たり前だな」

彼は右手の甲に刻まれた黒く星の形をした刻印を天に掲げて頷いた。そして改めて自分を見てみる。腕も、足も、當然ながら転生前より小さい。

「んじゃあとは顔だな。鏡面魔、鏡面魔っと............」

と、星寶魔のうちの一つ、鏡面魔を使用するが、そこにはなんの変化もない。不思議に思い何度も魔力を込めるが、何も出てこない。

「ああ、そうか。そういやまだこの歳は...........」

彼はこの歳の時點ではまだ星寶魔を知らない。つまりまだ無知な子供であったというわけだ。いくら知識、能力、自我を引き継いだとは言えが覚えていなければ意味が無い。

「............仕方ない、訓練するとしよう」

と、諦めて彼はこの時點で既に使えるようになっていた『広範囲探知』を作させる。範囲にいる生命活を送っている生を探知できる魔だが、転生前の彼は世界全土を探知できた。ちなみにこの歳では半徑3キロが限度だったようだ。

「さて、特に変わったことは...............なるほど」

彼が同時に発させていた『探知魔《魔》』に反応があった。ここから1.5km先で魔力の胎が激しいものが2つ、どうやら戦闘中のようだ。片方が優勢で片方が劣勢、當たり前ではあるが。

彼は強化魔を使ってその場所へと向かった。

◇

まだ活している者もない早朝、こんな時間にも関わらず苦境に陥っている者が1人居た。全に切り傷が出來ており、そこから幾度となくが流れ落ちている。今やその流で纏っていたはほとんどが真紅に染まっている。

「はぁ.......はぁ.........はぁ、ここまで、か？」

「ギュォォォォォ！！！」

相対しているのは熊型の魔獣。だが通常時ならばいとも簡単に勝てる相手である。ならなぜ今は劣勢に持ち込まれているのか、それは度重なる傷のせいだ。連戦を続けていると、もちろんのこと疲弊し弱くなっていく。そんな時に相対した魔獣にどうやって勝利を収めよう？

答えは、斷じて勝利などできない。どんなに強い者でもどんなに力を保有していようとも、不意を突かれればそれがどんな小さな敵であろうとも敗戦を喫す。故に今はそういう狀況に陥っている。

「グギャァァァァァァァァ！！！」

「くっ................」

ここまで度重なる傷と流により貧の狀態に陥っていたためもう歩くことすら葉わない。そのまま膝をついた瞬間を、もちろん魔獣が見逃す訳もなく、その巨腕に搭載された鉤爪を振り上げる。そして死を覚悟し目を閉じた。

「.................？」

しかし一方に痛みは來ず、代わりに聞こえてきたのはを斷つ音だけだった。恐る恐る目を開けてみると、魔獣の首が眼前に落ち、主を無くしたが後ろに倒れるのと同時にその先に全をに染める年を見た。

「大丈夫か？」

「あ、ああ...........すまない」

だが命を救われた當の本人は何が起こったかわからないような表を浮かべる。それもそうだろう、まだ初々しい10代の子供が剣を片手に今の今まで自分が苦戦していた魔獣をいとも簡単に倒してしまったのだから。

「君は..........一？」

「俺は.........」

そこで彼は思考する。ここで自分の名前を言えば々と厄介な事になるかもしれない、偽名を使うしかないだろう。そう考えた彼は偽りの名を口にする。最も、本當に自分の名前を出さなかったことを安心するのだがそれはまた別のお話だ。

「俺はクルシュだ」

「...........名前は？」

「名前？名前はクルシュだが？」

「...............本當に言っているのか？」

「あ、ああ............」

何だ？苗字は貴族が付けるものであって平民の俺たちはつけないだろ？まさかこの世界のヤツらには苗字があるというのか！？

「まぁその話はあとだ。私はレオ・ヴォルフォードだ、先程は助けてくれてありがとう」

「隨分と男らしい名前だな」

「それは言ってくれるな、親がつけたのだからしょうがない」

と、彼は苦笑しながらそう言った。會話からもわかるようにレオはである。セルリアンブルーと白銀が混ざったようなしい髪とそれを引き立たせるコバルトブルーの瞳、どこからどう見ても人としかいいようがないその貌を兼ね備え、スタイルも締まっており理想の像、と言った覚だろうか。刻印は必ずのどこかに顕現するが、今見たところ刻印は見當たらなかった。

「とりあえず君を一旦保護する。私の家に.............っ！！」

「の至る所から流して貧を起こしている。今歩けば死ぬからやめておいた方がいい」

「はは............これくらい、ししたら治る...........さ」

「し待ってくれ」

『回復魔、治癒魔、同時発』

『合魔、《快癒》実施』

どうやらこの魔は使えたらしい。と言うよりも先程の強化魔で覚をしだが取り戻しつつあるのだろう。発した魔はレオの傷をみるみる塞ぎ、やがて全ての傷は跡形もなく消え去った。

「傷が.........！！」

「これで立てるはずだ。それに歩きも出來ると思うぞ」

「君は金の刻印の所持者か？」

「いや、俺の刻印は星寶の刻印だが？」

「星寶の刻印...........？」

と、彼はあからさまに顔をしかめる。だがその表の意図が彼は全く分からないでいた。

「そうか、そうだったのか...........」

「？、星寶の刻印がどうかしたのか？」

「どうやら君の育て親は事実を告げていないらしいな」

と、一區間開けて、彼からクルシュに驚きの事実が告げられる。

「――星寶の刻印は"能無し"の刻印だ」

「...........は？」