グラディースに纏われた風刃をエリルは無數に飛ばす。だがそれをカルヴァンは叩き落としながら応対する。

「神技『華槍』！！」

「捌ノ太刀『翔風仙燎』！！」

振り払ったログザリアからの槍がエリルへと向かい、同じくグラディースからも風刃がカルヴァンへと向かう。互いの技がぶつかり合うが、手數の多さで僅かにエリルが勝利した。そのまま風の刃がカルヴァンへと殺到する。

「ふんっ！」

だがしかし、無數の風刃はカルヴァンの一薙で振り払われた。

「なんで神髄が1回で振り払われるかなぁ........」

「我の剣技に打ち勝ったのは褒めてやろう。しかしそこまでだ」

「だけど相手は僕一人じゃないさ！」

エリルの背後からアリスがカルヴァンへと突貫する。その突きはログザリアであしらわれるが、それが分かっていたかのようにノータイムで勢を建て直したアリスとカルヴァンが競り合う。

「次から次へと......っ！神技『流紋』！！」

憎々しげに呟きながらさらにが波紋のように広がる。アリスはそれを察知して距離を取ると、先程までアリスのいた場所が切り刻まれていた。

「ほんと厄介な剣ね！」

「だけどまだまだ行くよっ！」

2人は同時に地を蹴りカルヴァンを挾んだ。左右からの剣技がカルヴァンに飛來するがそれを神剣とで作りあげた剣の2つで対応してみせる。しかし、やはり片方だけであるならば2人の実力が上回り、結果的にカルヴァンを押す形となる。

「手數ならお前を上回れるっ！」

「このまま押しきってあげるわ！」

「舐めるなぁ！」

カルヴァンはアリスの剣を弾いてその間にエリルの攻撃をけ止めた。そのままアリスの腹部へ掌底を叩き込み吹き飛ばす。

「かはっ！」

「アリスさん！」

だがアリスを気遣う余裕もなくエリルも対応に遅れた。同様に剣が弾かれると足を払われそのまま顔面へ向かって剣が突き立てられる。だがそれを間一髪で橫に転んでよけ、そのままカルヴァンの顎を蹴りあげると回し蹴りで神ごと吹っ飛ばした。

「アリスさん！大丈夫かい！」

「.......ええ、なんとかね。私はいいからアイツを！」

視線を外していたエリルがカルヴァンへと視線を戻した。吹っ飛ばしたカルヴァンは既に勢を建て直しこちらを見據えていた。

「ふむ、案外やるではないか」

「そりゃ僕だって負けられないからね」

「だが殘念だ。貴様の剣はどうしようとも我には屆かん」

「........どういうことだ？」

「単純な技量だ。そこの娘も筋は良い、しかしまだ力が足りぬ。お前の剣も同等よ、この剣神の前には石ころも同然よな」

奢ることなく、冷徹に言い放つ。しかしその言葉にエリルは笑った。

「何が可笑しい？」

「いいや、お前は変わらないと思っただけだよ。.............この力、使うしかないか」

困ったように微笑んだ次の瞬間、エリルの魔力が極限まで膨れ上がった。直後、エリルを中心に魔力の奔流が荒れ狂い、辺りを支配する。

「この力は本當に神お前達にしか意味が無い。だからこその神殺しの力。僕の隠し玉だ」

「ほう、二ルフィーナがいた時には現さなかった力か。まさか可がられる為に偽ったか？」

「まさか。この力はあの後発現した力さ。僕がフェンリルとなった元だ」

深緑の髪が艶のある銀の長髪へ、穏やかなエメラルドグリーンの雙眸は攻撃的な紅い瞳へと変化した。そこにいつもの溫厚なエリルの姿はなく、変わりにカルヴァン同様刺すような殺気を放つ彼がいた。

「この姿も隨分と久しぶりだ」

「雰囲気.........いや、魔力量も桁違いだな。そっちが本というわけか」

「まぁ、そんなところさ。この姿になるとどうもし荒っぽくなるから嫌いなんだがね」

「ククク.........面白い。神殺しの力、存分に振る舞えッ！」

剎那、2人の姿が消える。正確には消えた訳ではなく視覚で捉えられない程の速度で移しただけだ。そうして激しい剣戟が繰り広げられる。先程までのエリルとは太刀筋からの使い方まで全てが違っている。故にカルヴァンは予測ができない。

「どうした？先程までとは隨分と対応が違うみたいだけど」

その剣速はカルヴァンと同等か、はたまたそれ以上か。ただの軽い攻撃ではなく、手首から放たれる鋭い攻撃、先程のエリルとは比べにならないくらいの力の上昇。もはや人外だけが繰り広げられる常軌を逸した戦闘なのだ。

「まさか、これで終わりなんて言わないよね？」

「それはこちらのセリフよ」

カルヴァンが意味ありげに口角を釣り上げた瞬間、その太刀筋が変わった。まるでエリルの剣筋に適・応・したかのようにエリルの優位が無くなったのだ。

「なっ！？」

「我の権能の1つ、『他剣』よ。千差萬別の閃を攜えてこその剣神よな？」

そこからはまた同じ景が続いた。エリルが攻め、それを簡単にカルヴァンがあしらう。勝つかもしれない、そんな淡い希は直ぐに潰えた。

「っ！この！」

「貴様はよくやった。このカルヴァンの権能を使わせたのだからな。故に――」

ザン！

能力を解放したエリルですら捕えられなかった、神速の一撃。首は狙わない、ただ、右手。グラディースを持つ右腕が簡単に宙を待った。翡翠の剣は宙を舞い地面に突き刺さり、その柄を右腕が摑んでいた。

「がっ！あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ！？」

「これが貴様に送る、敗北の剣だ」

激痛に、エリルは思わず膝を著いた。その一瞬が隙となり、簡単に眼前まで接近を許してしまう。だがしかし、そのカルヴァンへ向かって天使の軍勢が押し寄せた。

「っ！天空騎士だと！？」

見れば、先程吹き飛ばしたアリスが『殲滅天使エインヘリアル』を展開していた。そのまま勢いに押されカルヴァンが後退していく。

「エリル君！.........待ってて、今回復を............」

エリルの片腕に跪きながら回復を施そうとしたアリス。が、しかし。

「なるほど、まさかこんな所に生・ま・れ・変・わ・り・がいるとはな」

「っ、しま.........」

咄嗟に剣を抜こうとしたアリスにカルヴァンの手刀が首へ叩き込まれた。そのままカルヴァンへと倒れたアリスは軽々と持ち上げられてしまう。

「お前！何を！」

「ふむ、これは良い収穫であった。もはや神樹などどうでもいい」

「ま、待てっ！........っ！」

追いかけようとするエリルが立とうとした瞬間、視界がぼやけて地面に倒れ込んでしまう。

「もし次會うのならば、その時は殺す。そして今回はこの娘に免じて見逃してやろう」

「ま.........て...........！」

だが弱々しく呟いたエリルの言葉など気にもとめず、カルヴァンはその場から消えた。意識が朦朧とする中、悔しそうに地面を叩く。

「アリス............さん...........」

どこからともなく聞こえてくる足音を耳に殘し、彼の意識は暗転した。

え？もう31日？うそん............