《能無し刻印使いの最強魔〜とある魔師は來世の世界を哀れみ生きる〜》EP.109 魔師は塔を登る
結晶樓の塔部、明度の高い水晶でできた階段はまるで空中に浮いているような覚を覚えさせる。そんな空間に6人分の足音が木霊して忙しなく響く。 なお、羽織ってきたローブと仮面は既に外してある。 現在クルシュ達は途中に開けたから最上階、おそらくは制室のようなものがあると予想し、そこに向かっている。當然、あの灼熱の線を無効化するという目的も追加されたが、肝心なのはアリスの救出、そして帝國そのものを潰すこと。
「一何段あるのよこの階段.........」
「まぁ確かに、面倒だよね登るのは」
愚癡をこぼす彼らだが、警戒を怠っている訳では無い。故に、最後尾を登るフィオーネがその異変に気づいた。
「っ!皆さん!魔獣が登ってきていますわ!!」
その一聲で、全員の視線が自の眼下に移された。そこには、おびただしいほどの魔獣が、こちらに向かわんと階段を駆け上がっていた。
「ふむ、このまま無視しても良さそうな気はするがな」
「でもそうしたらあとから流れ込んでこないかい?」
「ならば滅ぼすだけだ」
「皆がルイみたいに火力特化な訳ではありませんのよ!?」
こんな狀況でも、フィオーネはツッコミを忘れない。やはり覚が染み付いたのか。
ため息をついた彼は腰に備え付けた革鞭を取り出すとゆるりと階段を降りていく。
「わたくしが殘りますわ。どうせわたくしがこの先に行っても戦えるかどうかは怪しいですもの。それにクルシュ達には目的があるはずですわ。ここで魔力を消費するべきではありません」
そのフィオーネを先越して、魔法が放たれる。寸分違うことなく現在進行形で階段を駆け上がっている魔達の群れに直撃した。
「私も殘りますよ、フィオーネさん。私もこの先ではお役に立てなさそうですから。..........行ってください、皆さん。ここは私たち二人に任せて。アリスさんをお願いしますね」
「分かった。頼んだぞ、2人とも」
「ミナさん。...........いや、ミナ。後でね、約束だよ」
「っ..........はい!」
「フィオーネ、お前の朝食は味い。必ず戻ってこい」
「こんな魔獣達に殺される程ヤワなではありませんの。ご心配無用ですわ。必ず後で作ってさしあげます」
「えっと..........二人とも死んだら許さないわよ!」
エリルの言葉にミナが花の咲いたように笑い、ジークの言葉にフィオーネが最初に出會った頃の高貴な彼に変わる。その様子を見てクルシュ達は階段を登って行った。対照的に殘った2人はゆっくりとその階段を降りて行く。
「良かったんですの?ミナ。エリルの側にいなくても」
「フィオーネさんこそいいんですか?ルイさんの隣じゃなくて」
「フっ.........」
「フフっ......」
互いに問いかけ、互いに笑いが生まれる。フィオーネは鞭をしならせながら一度階段に叩きつけ、ミナはその眼を発して。
「「愚問ですわね(ですね)」」
2人の聲が重なった。
「好きな男の人に見送られて」
「目の前には敵の山」
「力は當然湧いてきます。恐怖なんて、お戯れを」
「なら後は」
「「勝つのみ(です)(ですわ)ッ!!!」」
再度2人の聲が重なり合うと同時に、彼達は一気に駆け下りた。乙2人、気迫の戦いが今、幕を開ける。
そんな彼達の心知らず、クルシュ達4人は更に回廊を上がる。
「ミナとフィオーネ、大丈夫かしら」
「問題ないと思うぞ。1度戦場を験している王と聖ニョルズの序列1位だ、引き際くらい弁えてるだろうからな」
「そんなものかしら.............」
「ミナは僕と約束してくれたから。信じる以外はやることないよ」
「フィオーネもだ。言葉を曲げることは許さぬ」
「あんたらね............」
し心配もしたが、やはり今の彼たちには安心があったため、大丈夫だろうとリアはその思考を取り払った。
「そういえばどういう構造してるんだろうね、この塔」
「うち學園にあるものとおそらくは同じ造りだ。途中途中で広間があるんだろう」
「確かに、言ってたら見えてきたね」
彼らの視線の先に、天井のようなものが見える。その一部に階段がびていることから、辿り著くのも降りるのもあの場所からという訳だ。走行しているうちにその場にたどり著き、広間のような空間が広がると思えば、そこには巨大な扉が。
「なるほど、この先というわけか」
「..........嫌な魔力がするよ。これには覚えがある」
エリルの表が真剣なものに変わった。彼だけが覚えがある魔力、それはつまり、彼の好敵手がいるという意味だろう。エリルはゆっくりとその扉を開いた。その後に続きクルシュ達もゆっくりと先の空間へと足を踏みれる。
隨分と開けた場所で、やはり広間のような空間。その中心に一人の男、その先の上へと続く階段を守るかのように佇むその男を、エリルは睨みつけるように見た。
「全く、橫著をしたものだな。エルモラとセリギウスを無視するとは」
野太く、重圧な聲が響く。それと同時に殺すような鋭く冷たい殺気も彼らに突き刺さる。そんな中、エリルは平然とその男、剣神カルヴァンに向かって歩いていく。
「1ヶ月前までは我の殺気にきが鈍くなったが、ふむ。隨分と変わったようだな」
「當然さ。この一ヶ月間、僕は何もしていなかったわけじゃない」
直後、エリルはグラディースを抜き放つ。空中で泳がせた翠碧の刀を軽く床に突き立てた。
「クルシュ、ジーク、リアさん、後はお願いするよ。僕はこいつに用があったからね」
「ああ、分かっている。必ず勝て、エリル」
クルシュ達はそう言いながら彼らの橫を通り過ぎる。
「逃がすと思うか、魔師」
「させると思うかい?」
だが振り返ったカルヴァンがログザリアを振るう。しかし、その剣はエリルによってけ止めるのではなく、簡単に弾かれた。まるで「お前の剣は軽い」とでも言うように。しかしエリルの距離からはどうやっても屆かない距離のはずなのだ。つまりそれは自分の視力を以てしても見えない速度ということで、先程の位置から全くいてないように見えるカルヴァンにし笑いがれる。その間にクルシュ達は背後の階段に消えた。
「..........クク、確かに、何もしなかった訳では無いようだ」
「僕が強がる為だけに噓を言うわけが無い」
「忠告はしていたはずだ、次は殺す、と」
「さぁ、それはどうかな。なくとも約束があるから殺される気は無い」
「それに.........」とエリルは続ける。
「負ける気もサラサラない」
直後、エリルの魔力が極限まで膨れ上がる。銀の長髪に、以前の比では無い程殺気を放つ紅蓮の瞳。カルヴァンを以てして、以前と比べにならないほど変わったエリルにピクリと眉がいた。
「手加減とか、様子見とか、そんな馬鹿みたいなことはしない。最初から全全霊、本気で行く。隠し手なんて無しだ」
床に突き立てたグラディースを抜くと空中を數回泳がせ、構えを取る。
「だからこそ、忠告する。本気で來い、でないと直ぐに死ぬぞ」
直後、彼は床を蹴った。
エリルと別れた後、しまた階段を登ると2つの分かれ道があった。そこに現在クルシュ達はいる。
「ふむ、分かれ道か」
「なら探るしかないな」
クルシュが瞑目して『探知魔《魔》』を発させる。しの沈黙が流れ、彼は脳にってきた魔法線の報を理解した。
「左右どちらとも覚えのある魔力だ。だが左がしだけ弱い」
「ふむ、確か傀儡神は魂魄自を現化し、自らの手駒とする。その魔力は所持量に比例するはずだ」
「なら右が傀儡神だろう。左はおそらく分魂神か」
それが分かると、必然的に右にはジーク、左にはクルシュとアリスと形で別れる。
「もしもクルシュの方が傀儡神ならば『思念伝達』を飛ばせ。転移でれ替わる」
「ああ、分かった。後でな」
そうしてさらにジークとクルシュ達も別れた。その歩みを止めぬまま、クルシュとリアは上りの廊下を歩いていく。
「急に緩やかになったわね。っていうより、絶対にこんな所塔じゃないわよね」
「部を『時空隔絶』で外界と切り離しているんだろう。使い手によってはそんな事も可能だ」
「ほんと神って規格外ね」
呆れたように肩を竦めし先を歩く。
「アリスってどこにいるのかしら」
「この塔のどこかだろう。下から上がってくるならエリカとユリアが見つけるかもしれないが、見たところ下にはなかった」
「じゃあ上?」
「可能としてはな。帝國に地下がないとも限らない」
「この先にアリスがいたり.........なんてことがあればいいわね」
「ああ」
短くそう返し、再び先を歩くリアの背を見た。今、彼の脳裏を過ぎる、魔で流れ込んできた魔力線の報。2つの魔力、1つは十中八九傀儡神のもの、もう1つは分魂神のもの。
本當にそうだろうか。分魂神も傀儡神と同じような魔力の所持の仕方をする。だが、傀儡神よりも劣っていた記憶は俺の中にはない。
(あの魔力は.............それにし前からアリスの反応も.............いや、まさかな)
脳裏に過ぎる最悪の予想。考えたくはないな。
クルシュの考え事を他所に、リアは立ち止まっていた。必然と、その視線の先にクルシュも視線を移させる。
「アリス............」
ポツリと、リアがそう呟く。言葉の通り、その先の開けた空間に、ダークブラウンの髪を揺らす彼、拐されたアリスが立っていた。
ついに見つけた、彼。しかし........?。
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