《能無し刻印使いの最強魔〜とある魔師は來世の世界を哀れみ生きる〜》EP.110 魔王は真相を知る

靜かな結晶の廊下に一人分の足音が響く。コツ、コツ、コツ、ゆるりと確実にジークは歩みを進めている。  

彼の脳裏に思い出されるのは、彼、イルーナの事。彼の聲も、も、笑顔も、全てが何者かによって奪われてしまった。だからこそ、彼は知りたい。知る必要があるのだ。だかこそ――

(この先にやつ傀儡神が居ればいいのだがな)

この先にもし違った神がいた場合、クルシュからの『思念伝達』が來て自分の場所とれ替わる。しかし手間という意味でも魔力消費という意味でも真相を知るのに余計な魔力を割きたくは無い。それに、一刻も早く真相を知り、復讐をしたかった。

出口は確実に近づく。そして彼の視線の先の景がわになった。

「予想よりも早い到著じゃのう、ジークよ。カルヴァン、セリギウス、エルモラ、メギルストスはどうした?」

「他の者が戦っている。まさかアストの方に分魂神が用意されているとはな」

「一応誰が來ても良いように対応したつもりじゃが。ふむ、アストの方が行ったか..........そうかそうか」

ジークが見上げた玉座から、キリシアが意味ありげに笑った。

「何が面白い?」

「いいや、まぁ妥當な相手じゃろうと思っての」

「アストが分魂神程度に負けると思っているのか?」

「まぁ、そうじゃのう。メギルストスでは確かにアストには勝てんよ。メ・ギ・ル・ス・ト・ス・ならのぅ」

「どういう意味だ?」

「そのままの意味じゃよ。.........それよりも、お主が知りたいのはこんなことでは無いじゃろう?」

確かにジークが求めている報はこれではない。故にジークは素直に肯定した。

「ああ、確かに今はアストの相手の事などどうでも良い」

「ふむ、その素直さは嫌いじゃないのう」

「まぁとりあえずだ」

「っ!」

瞬間、ジークの姿が消える。咄嗟に殺気をじたキリシアは橫に飛び退いたがその先にジークが現れるとそのままキリシアの頭部を鷲摑みにして地面に叩きつけた。

「誰の許可を得て俺の上から語りかける?頭が高いぞ」

今度はジークが玉座からキリシアを見下ろす。土煙から這い出たキリシアは何かでを守ったのだろう、無傷であった。

「やれやれ、年寄りは敬えと習わんかったのかの?」

「悪いが俺にする者は全て捻じ伏せて來たのでな。さぁ、場は整った、話せ」

「ふむ、まぁいいわ。話してやろう」

キリシアが笑った瞬間、その背後にぬるりと白いが出現する。そしてそれはだんだんと人の形を形して行った。やがて現れたその姿に、ジークは目を見開く。

「まぁ、思想神イルーナを殺したのは儂じゃよ」

腰までびた銀灰の長髪、銀の無機質な目、長150cmほどの華奢なを包むコート。何度もその姿を見たジークが見間違うはずもない。間違いなく、思想神イルーナその人だった。

「...........なぜ殺した?」

「なぜ殺した、か。そうさな、目障りだったから、そして権能がしかったから、じゃろうな」

思い出すようにキリシアは語る。

「元々気に食わんかった。何事も見かしたようなこの瞳が、他人を理解したように話すその口振りが、他を嘲笑うかのようなその権能が。だがよく良く考えれば思想神の権能は神々の中でもかなり上の部類に能じゃ。モノにできればどんなに良いかと毎日思案したものじゃ」

と、突然、興したように目を輝かせた。

「ちょうどそんな時じゃ、お主と思想神がに落ちたと聞いてのう。これはチャンスじゃと思った。元々世界の危険因子であるお主と我ら神々は相容れぬ存在同士。その間に生まれる斷のなど、大罪という汚名を背負った愚行に過ぎん。だからこそ儂は大罪を犯した神を斷罪するという大義名分の元、思想神を殺した。そして魂を抜き取り、我が力の一部としたのじゃよ。じゃからはどこかに捨てたのう」

そう言って、さらに続けた。

「いやはや、この、とんでもない権能のようでのう。使いこなせば、敵など皆無に等しいのう。............どうじゃ?ジーク、真相を知った気分は。貴様が真に相手するのはこの儂じゃったわけじゃよ」

まるで子供が自慢話をするように、キリシアは得意げに語って見せた。自分こそが貴様の殺す相手だと。復讐する相手がここにいると。するとジークは興味を失ったように酷く冷靜に口を開いた。

「...........は、俺がイルーナと誓いを立てた場所で見つけた。最初は眠っているだけかと思ったが、呼吸の音が聞こえぬ。確認してみれば、死んでいてな。...........我が最を殺した者がどんな神かと思っていたが」

ふぅ、と一息を著いたジークは、今まで彼が見せたこともない、零度の視線をキリシアに向ける。

「まさか貴様のようなに忠実な愚神だったとはな」

直後、空間ごと鳴した。地震のような地響きが激しく轟き、分離された巖石が空中で碎ける。押し潰されそうな、否、押しつぶさんと迫る尋常ならざる殺気。憎悪、怨念、憤怒、そんなでは言い表せないほど強大な力。そこに有るのは、何者にも止められぬ破壊の因子、究極の世界悪。神を以てしてその様子に背筋を凍らせる。

――忌にれた。

――怒りにれた。

――魔王の逆鱗にれた。

――決して犯してはならぬ領域に足を踏みれた。

――世界を容易に破滅へ導く力が、ここに有る。

止めどなくジークからダムが決壊したように溢れ出す魔力、それにれるだけで空間ごと消し去っては、結合する。本気とはまた違った、未知の恐ろしさ。同じ空間に存在するだけでも、その殺気だけで並の人間ならば殺せるだろう。それほどまでに、重厚で、濃な怒り。その様子に、無意識にキリシアの足は後ずさっていた。

「っ!!?」

「............許さぬ、などと軽い言葉を言うつもりは頭ない。貴様にこのような言葉を送ったとて、意味はないだろうからな」

直後、ジークの背後の壁が吹き飛び、2対の竜が彼の左右に著地した。しかし、その表には黒い何かがまとわりついている。そして衝撃で空間に亀裂をれるほど劈く豪咆を発した。まるでジークの怒りを代弁するかのように。

そのまま2対の竜はそのを剣に変え、さらにはその2本が融合していく。やがて黒よりも暗く、闇よりも昏い、純黒の刀がジークの手に収まる。剎那、空間が黒に染った。

「だからこそ、覚悟しろ。そして思い知れ、貴様が誰の、何に手を出したのかを」

その破壊の魔力は彼の怒りを、その殺す目は彼の行を、その純黒の刀は彼のを語る。さえも飲み込む昏い闇の中心で、最を殺した相手を視線に収め、魔王は。

「楽に死ねると思うな。愚神」

その言葉に抑揚はない。ただ淡白に、そう言った。魔王を怒らせた代償は高いと。

ついに知った真相、彼の復讐が始まる。

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