《能無し刻印使いの最強魔〜とある魔師は來世の世界を哀れみ生きる〜》EP.114 二刀を以て全てを斷つ
彼が生涯、死を覚悟した相手を問われれば、2番手には神という言葉が出てくることだろう。ちなみに彼の場合、その神さえ上回るのが剣聖と謳われるである。彼の剣は鋭く、しく。しかしそれを習得する過程は決して容易な道ではない。地獄ですら生ぬるいとじたのかもしれない、死など常に隣り合わせだった、それ程までに険しい過程を経て、彼はここに立つ。それ程までにを賭して、理想を手にれた。しかしかの師を験してなお、死を覚悟する理由。
それは一重に、"得の知れない何か"だと彼の第六が訃げる。明確な殺気ではなく、おぞましい何か。いざ対面して、魔王以上に恐れるものは何もないとタカを括っていた彼の脳に警鐘を鳴らした。それは彼だからじて、例えばジークならばじ得なかったものかもしれない。
しかし現に剣聖とでも過言ではない彼の刀を、互角以上に鏡の剣で撃ち合うのがエルモラだ。彼の第六が間違っていないと、そう思わせる景がそこにあった。
一閃、また一閃、手本のような刀捌きを、け流す盡く、鏡の剣が煌めいた。
「ダメ元で剣なんてものを教わっておいて正解だったぜ、オイ」
「.........相當腕のいい師をお持ちのようですね」
「ハッ!、師なんて正式なもんじゃねぇがな」
皮ばかりの一言だった。だがそれをエルモラは易々とけ流す。本來、1ヶ月前ジークとの戦闘では魔法メインだった鏡映神だが、現在の戦闘スタイルは剣、それもユリアと打ち合っても余裕な程に。恐らくは権能が働いているのだろう。『吸収』と言えども一概に力を蓄えるという訳では無い。他人の技を吸収する、そういうことも出來るのが神に與えられた権能。1つ程度しかせない程の低能ではないという事だ。
「そら、一ヶ月剣をかじった程度の俺と対等なんざ悔しかねぇのか?」
「強さの先にあるものを必要とした覚えはありません。今の私はあるものを求めた付屬でついてきた力です」
「怠慢だな。この世は弱強食だ。力をつけねぇと生きていけねぇ」
「神が知った風に私達の世を語らないでくれますか?」
ふと脳裏に過った剣聖のとの毎日。しさを求めた修行、それを一言で否定された気がした。故に自然と彼の手にも力がる。
剎那、舞う一刀、放たれた剣撃は十數回、剣でけきれなくなったエルモラの神を壁際まで吹き飛ばした。一方で當の神は楽しげに口を釣り上げる。
「すこし荒々しくなったんじゃねぇか?」
「鳴ほざいて居なさい。直ぐに切り伏せて差し上げます」
「そうかよ、じゃあこっちも行くか。『多面マルチダッチ』」
ユリアが納刀狀態であるのに対して、エルモラは自を11人に増やした。これに対してユリアは苦蟲を噛み潰したような表を浮かべる。
「分..........ですか」
「単純に威力は11倍だァ。當然弱くなってねぇぜ?同じ強さだよどれもこれも。いくぜっ!!」
11人のエルモラが四方八方から迫る。圧倒的不利、それは彼とて分かっていることだ。だが當然死ぬつもりは頭ない。今も下層で戦っている戦友を思い、この程度で死んでなるものかと躍起する。靜かに柄へ手を添えて瞑想していたユリアはそのまま構える。そして一気に開眼する。
「抜刀『天地雷鳴』」
放つ技は、先程敵の大群を一刀にして屠った殲滅の刃。目に見ることすら葉わない刀が的確に11人のエルモラを穿つ。敵が見つめるのは終始納刀したままのユリア。切られたとじる頃にはもう既に死んでいる、まさに神技。チンと歯切れのいい音を立てて納刀されたのに合わせて、11人全てのエルモラの首筋がパックリと開き、次いで飛沫があたりに飛び散る。走りながらにして顔面から倒れ床に溜まりを作った11人のエルモラが、その場で絶命したのだ。
「ハハっ!痛てぇなぁ!?おい!」
「っ!」
ふとその聲は頭上からかかった。見るとそこにはさらに3人のエルモラが浮遊していた。
「11倍なんて言ったがよ、別に人數までは言ってねぇぜ!?」
そのまま宙を蹴り直線落下でユリアへと3つの剣が迫る。彼は刀を橫に刀を打ち付ける、が。
「っ!重.............っ!!」
「俺の権能『吸収』だァ!さっきやられた11人のダメージをこの3つに乗せてんだよ!!」
実際には宙からの垂直落下による重力も合わさり威力としてはさらに上乗せされている。競り合った刀と剣がぶつかり合い、ユリアの足が床へとめり込み周辺に亀裂をれる。
その頃には2人のエルモラが正面と後方から迫る。見れば頭上にエルモラは既に一人しかいない。心小さく舌打ちした彼は頭上の1人を弾き除けて、前方の袈裟斬りを避けては背面で刀に後方の剣を吸わせる。次いで空ぶった前方のエルモラにすれ違い様背中へ一閃、そのまま振り返って後方のエルモラの顎へ下段蹴り上げ、打ち上がったを上段に構えた刀で一閃、文字通り真っ二つに両斷した。
床での粒子に消えていく分エルモラを一瞥して、し離れた本のエルモラを睨んだ。
「ヒュー、やるねぇ」
「人を貶したり分を作ったり空から奇襲したり、忙しい人ですね」
「ハッ!、それを全部軽くけ流すあんたは相當だぜ」
「どうでもいいです」
淡々と返しては問答は不要だと、正眼に構えた刀をエルモラへ向ける。一方でエルモラはまたも楽しそうに口を釣りあげて『多面マルチダッチ』を使用、その數を8人に増やした。
「また同じ事を...........っ!!」
こちらへ向かうエルモラ達を迎撃すべく、彼は床を蹴った。
「灣切『時穿景観』」
走りながら振るった刀の先に4人のエルモラが點在する。剎那、そのどれも首の辺りの空間がズレた。それが戻る頃にはエルモラの首は切斷され、主を失ったから下が無殘に床に倒れ伏して4つの頭が転がる。それを構わず殘りの4人との応戦と相った。しかしその刃に乗るのは17人がけた攻撃分の威力、一太刀が龍が尾で薙ぎ払うほどの威力はあるだろう。だが流石は『刀姫』と呼ばれるユリアか、全ての攻撃を刀をらせながら別方向へと逃がす。
「っ.............!」
「さすがに一太刀がやられた17人分がけたダメージなのは辛いかぁ!?」
さすがに膨れ上がりすぎた威力をけ流すのには技も必要だが力もいる。先程と大群殲滅時の『天地雷鳴』、そしてこの17人分の攻撃、この2つに彼の腕は悲鳴をあげていた。いつ筋細胞が破裂してもおかしくないだろう。酸もありえないほど溜まっており、段々増えてきた切り傷で破けた服の先には出でもしたのか青白い腕が見えている。手數に腕を回復させる余裕もなく、著実に面的ダメージが増えてきているのだ。
「痛ぁ..........!?」
「ハッ!隙ありだぜ!!」
直後、活の限界とばかりに腕にピシリと激しい痛みが走る。それを見逃すエルモラではなく、正面で打ち合っていた1人の拳が彼の腹部へ突き刺さる。
「がはぁ...........!?」
蔵がやられたわけでは無さそうだが、代わりに肋骨はいくつか持っていかれただろう。そんな彼に左右2人の回し蹴りが迫る。咄嗟になんとかいた両腕で防ぐが、威力に負けてバキッ!っと鈍い音を立ててそのまま彼は壁にぶち當たった。背中から打ち付けて肺の空気が一気に放出され、さらに今度こそ蔵のどこかが傷ついたのか激しく吐する。
「おらこれでどうだッ!」
「っ!?」
ユリアが気づいた時には既に4人が1人に収束し、両手で純白の球を形させていた。それはどんどんと膨れ上がり、約3メートルほどのものとなる。
「俺のもう1つの権能、『凝』だァ。17人分を4つ、68倍の攻撃、くらいやがれっ!!」
そして放たれた68倍に圧されたエネルギー球は床を抉りながら遅くない速度でユリアへと迫る。當然彼の腕は先のエルモラ2人の蹴りを防ぐので折れてしまい、臓をやられ肋も折られているせいでまともにけない。結果、そのエネルギー球は有無を言わさずユリアを飲み込み大発を起こした。その衝撃で空間が揺れき、あたりに激しい風を巻き起こす。
「まぁ、良い肩慣らしにはなったんじゃねぇか?」
エネルギー球が消え去るのを見屆けてから目的の人がここには來ないと悟ったエルモラは上階へ進もうと踵を返した。だがそんなエルモラの背後、尋常ならざる殺気をじて背筋に悪寒が走るのを理解した。
「っ!!?」
振り返ったそこに、全からを流し、所々服が破けては危ない姿になっているユリアがゆらりゆらりと立っていた。まるで幽鬼のように一つ押してしまえば倒れそうなのに、それでも先程じ得なかったほどの殺気が彼から放出されている。それよりも前に、人分解してもおかしくない程の攻撃をけておいて全出だけで済んでいるユリアに目を見開いた。
「なっ............!?」
「隨分と効きましたよ、ええ。68倍ですか?自分で與えた攻撃の4倍ってかなり痛いものなんですね」
フフフと自嘲気味に笑ってはその含み笑いにエルモラは助かった理由にたどり著き舌打ちした。
「回復魔法か.......ッ!」
「おかげで殘りの魔力は小指3寸ほどですよ。まぁそのおかげでこの程度まで回復できましたが」
肩を竦めそう語ってみせる。そしてチラリと視線は彼の腰へと向いた。
(............抜くしかありませんね)
覚悟を決めたユリアは勝利を勝ち取るために奧の手を投じる。持っていた一刀を床に刺して、利き手で腰に刺さる2本目の刀を抜く。
「私の特殊能力『二刀絶界』は一を以て半を切り、二を以て全を斷つ、之即ち『二刀絶界』の手なり。..............比喩表現ではありますが、ええ、切れないものは無いと自負しております」
抜きながら語るユリアの姿はエルモラには酷く恐ろしく見えた。故に早々と行に出る。
「っ.........『多面マルチダッチ』!!」
「遅いですよ」
剎那、出現したエルモラの全てが消え去った。視線の先には二刀を構えたユリアが依然として立っているのみ。
(いつ切られた?いつそこをいた?やつはまだ抜刀途中だったはず........っ!!)などと思考をめぐらせるが、やはり見えなかったと結論づけるのが彼の中で落ち著いた。先程までエルモラには見えていた剣撃、されど二刀を抜いた瞬間見えなくなった斬撃。いつぞやジークと対面した時と同じような、明確なる死のビジョンをエルモラに想像させた。
「終わりにしましょう。忌凜『天変華郷』」
二刀が地面に刺さる。直後、ユリアを中心にして空間を埋め盡くすほど巨大な魔法陣が展開される。當然それに巻き込むのはエルモラ。その視界が真っ白に覆われた。
が止む頃には、いつの間にか別の空間にでも移ったかのような景が。小鳥のさえずりが聞こえ、さらには幾數先まで生えた桜並木。そこからひらひらと幾つもの桜が舞い、風流をじさせる。
「しいでしょう?」
「っ........!!」
振り返った先に、彼がいた。穏やかに笑う彼、ユリアが。
「てめぇ、俺と同じような技を..............」
「さて、あなたの技は知りかねますが。ここは私の想像の中です。小鳥が歌い、小河のせせらぎ、そしてあたりを埋め盡くす桜並木。とても風流ではありませんか」
フフフと口元を覆って笑う彼は、こんな戦時でなければ誰もが見惚れただろう。しかし相手は相手だ。その鋭い視線がユリアへ突き刺さる。
「なら破壊すればいいんだろ?」
「ええ、そうですとも。破壊するならばすればよろしいのです。當然、それらは全てあなたに刃を向けますよ」
笑みの上から向けられた細い目、その目は鋭い針のようにエルモラへ突き刺さり、神であるというのに恐怖をじさせた。
「先程言いましたね、終わりにしましょうと」
 微笑みながら、二刀を構えた。そして一振は縦閃、一振は橫閃で十字を切り結ぶ。瞬間、世・界・が・揺・れ・た・。
「っ!?」
「切れないものは無いと、そう言いましたね?ええ、それは當然世界とて同じこと」
「まさか..............」
「この世界を、私の想像を切りました」
桜の木が次々に倒れゆく。そこから散った桜の花びら達が、ユリアの周囲を浮遊し始めた。
「さぁ、踴りなさい、切り刻みなさい、この世界に萬と存在する億の花よ!」
手を掲げて、そうぶ。瞬間、彼の背後から桜の花びらという名の刃がエルモラを飲み込んだ。世界へ引きずり込めば、決して逃れることは無い彼の奧の手のの一つ。無限にも近い桜の刃が、エルモラを瞬く間に死へと追いやる。
世界が壊れ現世に戻り、眼前に敵がいないのを確認して、ユリアは膝を著いた。なんとか勝利した安堵をにもうしばかり力がらないに力が戻るのを待つ。だがしかし。
『ウゥググググガァガガガアガガガアガガギギガガァァァァァァァァ!!』
醜い、のような聲が聞こえた。瞬間、どす黒い渦が現れ、その中を這いずるようにして、先程死んだはずのエルモラがこちら側へと出てくる。だがその顔は腐り、目などは白目を向いて、さらには所々が欠損していた。
「...........あれでも殺しきれませんでしたか」
だがユリアは、それを見ても臆することなくただ自分の不始末を呪う。現在、彼のは膝直立のままかない。足に力がらないのだ。
「命命命命命命イノチイノチイノチイノチイノチイノチイノチイノチイノチイノチヲヨコセェェェェェェェェェェェ!!!」
それはもう既に生者を求める喰鬼グールや生人ゾンビの様。片手と片足だけで用に地面を這いずるようにしてユリアへと向かってくる。それは誰が見ようとも生理的に嫌悪を抱かない者はいない。
「..............神相手によくやった方でしょうか」
その姿を見て、だがどこか潔いユリア。奇聲を発しながらこちらへ向かうエルモラだったものを一瞥、目を閉じた。
「イノチィィィィィィィィィィィ!!!!」
「すいませんエリカ。死ぬようです」
最後にそう言い殘して、エルモラが、飛びつこうと宙に浮いた瞬間。
「上がってきてみればこれかよ、ったく」
ドゴォォォォォォォォォン!!
ユリアの耳元でブォン!と風切り音を発しながら何かがエルモラを吹き飛ばしては、脆くなったそのを散させて今度こそ死へと追いやった。目を靜かに開け放つと、そこには戦鎚モードのヴェルディンを抱えたエリカが立っていた。
「エリカ............?」
「何アホ面見せてんだよ。それでも最強の一角か?」
やれやれと肩を竦めるエリカに今、自分は助かったのだと理解した。
「まぁいいや。立てるか?」
「............いえ」
そうしてちらりと自分の足を見た。その視線にエリカは、はぁと溜息をついてユリアの腕を引きあげた。
「ほら、肩貸してやるよ」
「すいません............」
「帰るぞ。ここから先は多分アタシらが行っても敵わねぇだろうし。まぁお前の魔力とか元気とか殘ってたら有り得たかもしれねぇけど」
「あの..........敵は?」
「んなもんぶっ殺してきたに決まってんだろ。奧の手使わざるを得なかったけどな!」
「そうですか...........」
それを聞いたユリアは今度こそ安心したように表をほころばせた。
『ん、こちらルイズ。聞こえる?』
『聞こえてるぜ、アタシも、ユリアも』
『一緒?』
『ああ。ちょうど今から塔を降りるんだが、そっちはどうだ?』
『レオと一緒に殲滅............いや、氷漬け。今から國を占拠して回る』
『そうかよ、じゃあ迎えに來てくれ。ユリアが無理った』
『了解』
そうしてルイズからの『思念伝達』が切れた。
「.........帰りましょうか」
互いに笑い合う。そしてこの先の事全てクルシュ達を信じて任せ、塔を降りる2人であった。
全ては年たちに託される。
というわけでユリアの戦闘回でした。順番で言うと次はあの人ですかね。
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