《能無し刻印使いの最強魔〜とある魔師は來世の世界を哀れみ生きる〜》EP.123 穏やかな日常の慌ただしい一幕
前話よりは長いですが、またし短くなってしまいました、すいません........。
クルシュが起床し、その後すぐに國王の元へ報酬を取りに行き、セレスと対話をして家に戻ってきたのはちょうど正午辺りであった。なお、彼の顔を見るなり自の顔から火が吹き始めたアリスとリアだったが、気にしてはいけない。
彼の起床後1時間ほどして同じく起床した彼達が當然最初に目にしたものは彼達の間にぽつんと置かれた置き手紙。ぼやけた意識のままそれを共に読んだ彼達は、そこに書かれていた容と昨日自分たちが何をしたのかようやく理解し、恥に悶えた。それを引きずって今に至り、結局また再発してしまったのである。
「それで、何故お前がいる?」
「あらあら、師匠が弟子の様子を見に來るのがそんなに不自然ですか?」
「様子を見に來ただけならばそれで帰ればいい」
「しかしちゃんとレオからあなた達の面倒を見るように頼まれているのですよ。それにいくら実踐が強くても病み上がりのあなたもいますしね」
仕方なく図書館にだけは出りを許していたが、ついに彼らの母屋にまで侵してきた3強のうちの一人、『刀姫』ユリアに若干威嚇の視線を向けながら質問するクルシュに対して、それをも丸めてしまうような微笑みで返すユリア。割烹著を著てキッチンスペースに立っていた。
「ちなみに言えば、殘り2人のメンバーも既にこの家に出りするようになった。魔師、諦めるといい。後の祭り」
そう進言するイルーナの言葉に結局手遅れだと早々に理解したクルシュはため息をつくことも無く椅子に座る。目前に晝食が並んでいるところを見ると、やはりユリアが作ったものらしい。
「まぁ別に怪しい人でもなんでもないし、ね?クルシュ」
「.........確かにこの家の決定権は俺にはないからな。素直に諦めよう」
苦笑しながらそう話すエリルに肯定の意を示して目前の料理を口に運び始める。基本的に彼が作る料理は和食で、健康を考えて作られたものばかりだ。白米、味噌、焼き魚、漬や野菜の浸し。どこかの世界の朝食に似ている気もするが、決して気にしては行けない。
なお先程から沈黙を守っているアリスとリアであるが、明らかにクルシュが帰ってきてから揺しており恥で震えて食事を行っている。當然彼がそれを気にするはずもない、がしかし。
「ごちそうさま」
カチャリ、と箸を置く音が響く。リアが食べ終わったのだ。そのまま彼は食をシンクに浸けて、早速皿を洗う。その作はやはり自炊者故に手慣れており、あっという間に片付けまで終わらせた。
「ありがとう、ユリアさん。晝食、味しかったわ。じゃあ、クルシュも無事に目が覚めたみたいだし、そろそろお母さんのところに戻るわ。さようなら、お邪魔しました」
――噓である。
いつも以上に優雅に微笑んで家を出ていく彼にアリスからの急信號が送られる。しかしそれを堂々無視して我関せずと背中を向け、扉は閉まった。
母親のことを理由に立ち去ろうとしているリアだが、全く以て噓である。この、先程から溢れんばかりの恥で己がを支配されており、限界ゆえに自分の家へ避難しようとしているのである!
アリスからの視線がガンガンと突き刺さっているが、そんなこと知ったことではない。同じ家に住む自分を恨めと、足早に立ち去ったのだ!友の助けに反応しない裏切り、しかしなんとでも言うがいい。彼に無様な姿を見られる方が嫌なのである!なお本人は、ここまでよく揺もなくやり切った、と自分を褒めているのだった。
「リ、リアぁ................」
「?、アリス、どうかしたか?」
「な、なんでもない!なんでもないの!」
リアからの裏切りに心恨めしく思うが表に出たのか自然と呟いてしまうアリス。故に地雷を踏んだ。クルシュの問いかけに否定で反応を示すが、結果的に自分の中の恥をさらに高めてしまうだけとなった。
「ジーク、アフターティーを持ってきた」
「ん?ああ」
またしても厄は再來する。
イルーナがティーセットを積んだトレーを持ってきた。それに対してジークは読んでいた片手サイズの本をパタンと閉じると、テーブルの上に乗せようとこちらへ持ってくる彼へ向けて後ろを振り返った。
しかしお忘れではないだろう、彼がどういう立ち位置なのか。
「あっ.................」
果たしてそれは神.................いや、悪魔のいたずらか、はたまた気まぐれか。偶・然・にもしだけ差が生じていた床板にヒールの先をぶつけたイルーナはそのまま前のめりの勢になってしまう。いくら神とはいえ、そのはそのもの。突然の不意打ちに対応できるはずもなく、結果的にジークのに飛び込む形で収まる。
ならばティーセットはどこか、答えは明白だ。
「アリス!」
「えっ........?きゃっ!?」
咄嗟の出來事に魔をも使うことを忘れたクルシュはアリスへ手をばす。正午過ぎの住宅にしだけ荒々しい音が響いた。
「っとぉ..............あぶなー!」
ティーセットは結果的に無事であった、だけは。エリルがその足を以てもうしで破片と化しそうになる全てをけ止めたのだ。なお床に落下したのはトレーのみ。結果的に中は全て臺無しになってしまった。
ではその中はどうなったのか。
「あ..............あ........」
「やれやれ。大丈夫か?アリス」
クルシュがそのを以て全てをけ止めた。彼の頭から背中にかけて紅茶が服に染み込んでいる。
「大丈夫ですか!?、ん?..............あらあら〜」
「ふぅ、危なかったね.................って、わーお」
師弟揃って彼らの方を向いてニヤケ顔である。その理由は當然彼らの勢だ。クルシュがアリスの代わりにを浴びたが、代わりに彼は彼を椅子から押し倒した。顔の両側に手をついて、彼の両足の間に彼の右足、文字通り目と鼻の先には互いの顔。アリスには一滴もそのが屆いていないところを見ると、完璧に庇ったらしい。
クルシュの完璧とも取れる行は、しかし事を知る彼らにとっては微笑む原因としかなりえない。
「あっ.........ああ............」
「?、本當に大丈夫か?アリス。顔が赤いが...........」
そうして彼の手の甲が彼の頬にれた瞬間。
――恥は臨界を超えた。
「きゅうぅぅぅぅ〜...................」
「ちょ、アリスさん!」
「あああ!大変です!氷水!氷水!」
茹でダコのように顔が真っ赤に燃え上がったアリスはそのまま目を回して気絶してしまった。穏やかな日常の、慌ただしい正午の一幕である。
思想神イルーナはドジっ娘である。
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