この學園に在籍してから數え切れないほど使った闘技場にSクラスの面々が集まっていた。舞臺の上には2つの影。朱の髪を風に揺らせると、彼と近しいである赤いローブをにまとった仮面の男。

「これより、學園長ジャックと、Sクラス1年、リア・ニルヴァーナの決闘を始める。殺傷力のある攻撃は無し、相手が気絶、もしくは戦闘不能になるまで終わらないものとする。場外失格は認められない」

レオがそういうと、當たりが靜まり返る。エリル達も、靜かにその景を見守っていた。

「では、始めっ！」

開始の聲と共にいたのはリアだった。いきなり彼の周りを暴風が荒れ狂い、風で象られた龍が姿を現す。幻想のから聞こえる実の聲が闘技場に轟いた。

「行きなさいティアマト！」

リアの指示とともに風の霊はそのを煙で包みながら直進した。顎門が開かれ、焼き刻まんとクルシュへ迫る。

當然ながら、クルシュは本人とバレる訳には行かないためいつもの魔が使えない。『凍結魔』を使わずに対応するということで、既にリアへ幾分かのハンデを與えていることになる。

(まぁ対応するなんていくらでもあるが)

そのままティアマトの顎門がクルシュを包み込んだ。暴風で起こったカマイタチと風で濃された高溫度の炎がクルシュのを躙する、外部からはそう思われた。しかし直後、風が炎ごと吹き飛んで霧散した。

「おいおい何が起こったんだ！？」

「確かに飲み込まれたはずよね！？」

口々に驚愕の言葉を呟く生徒を目に、クルシュはリアへと視線を向けた。案の定、ティアマトが意味をなさないことは分かっていたのだろう。眼前に彼が魔道の剣を構えて現れた。

「はぁっ！」

振るわれる剣閃、その全てをクルシュは手刀で対応する。生であるというのに、そこには金屬同士がぶつかる音が響いた。

「なんで魔法使わないのよ！」

「使えば俺だとバレてしまうからな」

「だからって、他の魔法もあるんでしょ！」

「まぁそうだが、今は魔法を使わずとも対応出來てしまうからな。本気を出せ、リア。お前がどういうつもりで俺に決闘を申し込んだのかは分からないが、エリカのところで修行したんだろう？」

「っ！言われ............なくてもっ！！」

リアがクルシュを弾き飛ばす。そのまま空中を舞ったクルシュは回転して綺麗に著地した。その瞬間、地面が震える。

ゴウ！と激しく燃え盛る円柱が4つ、彼の周りを取り囲んでいく。

彼が『黃昏のトワイライト・サン』を発する時には火花が散っていた。しかし今回はまるで別。魔力の底は同じだが、様子が違う。

「これが私の今の全力、『暁のディアウン・サン』よ！！」

解き放った魔力が白炎となり、蒼炎となる。その炎はまるで、エリカの『炎裝纏』のように彼の周囲を漂い、あらゆるものを焦熱させる。

彼は蒼く染まる火球を空中へ無數に展開し、一気にクルシュへと飛來させる。その威力は、通常の魔法とは比べにならない程早く、かつ外れた火球が著弾した床は亀裂をれるほど。

しかしリアも伊達にクルシュと付き合いがある訳では無い。彼がこ・の・低・度・で沈むとは思えなかった。

「........なるほどな」

土煙が晴れた床の上、無數に亀裂と陥沒が存在するその場所で、しっかりと立っていた。相変わらず表の伺えない仮面を一切傷つけることなく。

「噓だろっ！？ニルヴァーナもすげぇけど學園長もやべぇよ！」

「あんなのけて立ってられるなんて.......クルシュにしか無理だと思ってた........」

相変わらず驚愕の聲が鳴り止まない観衆を背景に映す闘技場、自分の全力を乗せる連撃を無傷で止めたクルシュに対して、リアは頬に汗が伝る。

冷や汗ではない、焦燥からの汗でもない。

膨大な力を制するには、それ相応の『』が居る。それこそクルシュのような極みに至る場所に位置するならまだしも、リアは神でもなければ天才でもない。先祖から恵まれた力を貰っただけの、『凡人』。

故に彼のような『凡人』に、年數経過での『』はまだ小さい。故に『暁のディアウン・サン』を抑え切る『』が彼には存在しないのだ。

今の彼にとって、それを制できる時間は限られる。持って、5分。完全に制できるようになった『黃昏のトワイライト・サン』を昇華させたその力は、代償とて大きい。

(あと、2分くらい.........かしら......)

クルシュへの攻撃を辭めず、そんなことを冷靜に考える。制限時間が迫るにつれて、負擔も大きくなっていく。故に引き際は考えなければならない。

「エリカとの修行でこんなものをにつけるとはな。予想外だったぞ」

「涼しい顔で言われても嬉しくないわよっ！」

遠距離から彼がクルシュへ向けて踏み込んだ。握った拳が振られる。

それをクルシュは避けるが、その瞬間に彼の焦熱にれたのだろう、ローブがジッと焼け焦げる音が聞こえた。

彼の周りには焦熱が展開され、今、リアは歩く太の如く熱を発している。その上で弾戦を持ち込まれたなら、鬼に金棒もいいところだろう。

「熱いな」

なおもクルシュは、涼しい顔で彼の連撃をいなしていく。クルシュのような相手には、もちろんリアの焦熱など魔力でをおおわれるため無駄に終わる。しかし並一般の相手ならほぼ負けることは無いだろう。

(あと、1分........！！)

はやる気持ちが、制を難しくする。しかしそれでも殘りの時間、決め時を探していた。

(........あと、40秒っ！)

まだ突破口は開いていないのだ。おそらくクルシュを倒せるであろう、そんな一撃を叩き込むその瞬間が、まだやってこない。

(あと、30秒っ)

焦る気持ちのせいで、きに隙が出來てしまう。そんな狀態を、クルシュが見逃すはずがない。

「甘いぞ」

クルシュは突き出した拳を避け、そのまま腕を摑む。そして彼を空中へ投げ捨てた。

「っ！」

クルシュは彼の顔を見やる。その顔は

ーー笑っていた。

「これが『崩星アルマゲドン』を超える私の魔法っ！」

蒼炎が激しく胎し、一つの塊にり上がる。その場所で1番のを放つそれは、言い換えるなら『蒼き太』。紅蓮の炎は蒼炎へと変わり、全てを焦がす炎へと昇華した。その名も

「蒼き灰燼ヴィアス・サファイアッ！！」

海が空から落ちてきたかのような、幻想的な炎がクルシュへ降り注ぐ。しかし炎が宿すのは優ではなく苛烈。

彼を倒しうるかというその力に、當人は小さく仮面の奧で笑った。

「お前が進化したなら、俺とて変わらないはずがない」

彼の手に握られるのは、『製造魔』で作り上げられた鉄の剣。何の変哲もないその鉄の剣を、下段に構えた。

「さすがに決闘と言えど殺意はないからな。1割、俺も本気を見せるとするか」

下段に構えた鉄の剣に力を込める。『付與魔』で鉄の剣に乗せるのは、『魔力撃』、『逆証魔』、『絶対両斷』、『瞬間消滅』。

度重なる魔の付與に、剣の剣が青白い閃に覆われる。

「穿て」

短くそう呟き、上段へ向けて鉄の剣を振り上げた。剎那、剣から放たれた閃が蒼き炎の海へ真っ直ぐに直進していく。

たった一撃、その閃は炎の海にれろうとも消滅せず、むしろその海を切り裂き、消滅させていった。

「まずっ........」

空中にいたリアへもその閃は屆き、彼を切り裂く。

迫る痛みに対し目をつぶったリアに対して、飛び散ったのは鮮ではなく魔力そのもの。殘り數秒という『暁のディアウン・サン』の魔力は、跡形もなくその場で霧散した。

「あっ..........」

突如、リアのから力が抜けていき、まともにきが出來ないまま彼のは垂直に落下していく。誰もが息を飲んだ大技の両斷で、彼への意識はなくなっていた。

しかしクルシュがそれを忘れるわけがない。跳躍して彼を抱きとめた。

「やはりリミットがあったみたいだな。............俺を倒そうと意気込むのはいいが、無理はするな」

「..........ごめんなさい」

そのまま著地して、審判の方へ視線を向ける。先程の両斷に魅了されていた彼は、ハッとしたように気がつき、慌てて聲を上げる。

「リア・ニルヴァーナの戦闘継続不能により、ジャックの勝利！」

レオの張った聲が響き、魅了されていた生徒達がようやく我に返った。床に力したまま寢かせられたリアへ、醫務室の先生が駆け寄った。

「さて、勝負は私の勝ちだ。........だが、彼の魔法は見事なものだ。先程の私の失言は取り消そう」

そう言うと、そのままクルシュは闘技場を降りて言ってしまった。

この後、エリルに若干からかわれたのは言うまでもなく。

ーーの茶番