《められていた僕はクラスごと転移した異世界で最強の能力を手にれたので復讐することにした》9・契約
神――エンスベルは言った。
お前たちは帰ることは出來ない。と――
「アルカトラに召喚者が現れたのは今回で五度目。僕たちが呼ばれた時、エンスベルは教室に魔法陣を描いて召喚していた。もしあれが元の世界とアルカトラを繋ぐために必要なら、エンスベルは毎回こっちに來ているということになる。なら、エンスベルはどうやって行き來してたんだ?」
顎に手をやり深く考え込む優希をパンドラはほくそ笑んで、辿り著く答えを持っていた。
映し出されていた記憶の映像は、妹の姿を映したまま靜止している。
「エンスベルに會えば元の世界に帰れるヒントが見つかるかもしれない」
その言葉を待っていたかのようにパンドラは沈黙を破って聲をかける。
「その通り。原理はどうであれ、現実に功しているのなら、それを利用するなり応用するなりいろいろ方法はあるはずだ。で、次は?」
導されるまま、優希は思考を巡らせる。
記憶から、狀況から、ヒントを見つけて今持たなければならない疑問を明確に表す。
疑問は目的を生み出す素材なのだから。
「エンスベルはこうも言った。「偶然は神の理解を超えるときがある」とか何とか」
この言葉の意味は二つほど思いつく。
一つは実際に帰った存在がいるということ。おそらくそれはほんの偶然か、はたまた仕組んでいたのかはエンスベルの理解も超えていたのだろう。現実にあったのならば、その方法を探し出せば帰えられる。
もう一つは、目的を作るため。いくら力と資格を與えても、ほんの數日前まで平和な生活を送っていた者がいきなり戦闘など出來るはずがない。能力がを言う戦いはただの喧嘩だ。実戦、殺し合いになれば、能力だけでなく、狀況、場所、能力などいろいろな知識と観察眼も必要になってくる。當然それを持っているわけはない。
このままでは怯えて町で引きこもられる可能がある。それを防ぐ手段として、帰る方法を見つけるという目的を作るためにほのめかす程度に言ったというもの。
「どちらにせよ、これはみんなも気付いてると思う。『始まりの町』にはみんな怯えているよりも行を始めてたし」
つまり、今まで気付かず怯えていたのか優希だけだったということ。自分の臆病さに呆れながら、優希は今だ映されている最の妹の姿を見る。
そして疑問を生み出し、目的を得る。
「帰りたい。もう一度香苗の姿を見たい。僕が支えなきゃいけない。香苗の家族は僕だけなんだから」
心から吐き出すみ。見えてきた希に縋るのを拒否できない。
映像だけでなく脳裏に浮かぶ妹の姿。しかし、その淡い記憶を包み込むように支配する何か。
「お前のみはそれだけか? お前の敵は一誰だ?」
敵? 敵とは誰だ。
優希は記憶を一から回顧する。
それは純白の世界に映し出され、パンドラも膝を抱えて座り込み、まるでの頃のビデオを見ているかのような表で見つめていた。
「これは……お前か? 隨分と可いな、隣の男は誰だ?」
映し出される稚園の頃の優希。茜に染め上がる公園で、他の子どもは家に帰りながらも、優希と男の子はブランコを漕いで遊んでいる。
忘れていた記憶の記録に、優希自も今思い出したかのように答えた。
「この子は確か……レン君だったかな。確かそう呼んでた。この頃から人との付き合い方が上手くなくてね、レン君だけが一緒に遊んでくれた。僕の唯一の親友かな」
「で、この子は今どうしてるんだ?」
「さぁ、突然の引っ越しで離れ離れになったから。今どうしてるか知らないんだ。けれど、この時僕はまた置いていかれた」
小學生になった時、環境の変化についていけず、相変わらず一人だった。けど、そんな生活にもが生まれた。
「お、生まれたぞ」
パンドラが反応したのは、香苗が生まれた時の記憶。病室に響く産聲は優希にとっては今も忘れないほどに嬉しくて。
「香苗が生まれた時は家族全員そりゃ喜んだよ。父さんなんか極まって號泣してたんだよ。僕が香苗の傍に手をやると、そっと握ってくれるんだ。これがたまらなく嬉しくてね。何度もその覚が味わいたくて香苗の傍に付きっ切りだったなぁ」
嬉しそうに語る優希を、パンドラは何も言わず見守った。
その笑顔はまるで母親のような、落ち著く心地良い笑顔。
「けど……」
表が一変、今度は心に雨が降り注いだような暗い表。
映し出されるのは、テレビの前で呆然と佇む優希の姿。
「両親は仕事で海外に飛んだんだけど、たまたま乗った飛行機が墜落して、行方不明のまま、死亡扱いになったんだ。どうけ止めればいいか分からなかった。けど、それ以上に香苗にこのことをどう伝えるか分からなかった」
両親との突然の別れに現実をけ止めたくなかった。けれど、自分だけならまだしも、もう一人この現実をけれなければいけない人がいる。
「葬儀の時、香苗が僕の制服の袖を摑んで言うんだ。「パパとママはどこに行ったの?」って。「學式には來てくれるよね?」って。泣きたかったよ。今にも泣いてんですべてを吐き出したかった。けど、僕は兄だ。これからは香苗と二人で頑張っていかなきゃならないって思って。そのを押し殺して笑い続けた」
そして戻る辛い日々、逃げ出したいというを殺して、妹のために生きてきた地獄に日々。
鬱になりながら登校して、められ、使われて、ボロボロにながら帰って、妹の今日の出來事を笑いながら聞いて、バイトして、また次の日と。
毎日毎日、毎日毎日毎日毎日、変わらぬ日々、変えれない現実。
なんで自分はこんな目に合ってるんだ。
努力は必ず報われる。そんな綺麗ごとを信じて頑張って頑張って裏切られて蔑まれてげられて、それでも頑張って頑張って。
一何が優希を追い詰める?
元の世界では優希の持つものはすべて奪われ、この世界では手にれたものはあまりにもちっぽけで。
何も殘らず、離れていく。
世界は優希にとって都合の悪いように出來ている。突きつける運命は優希にとっては理不盡で、殘酷で、すべてすべて優希の敵だった。
もう十分苦しんだはずだ。出來る事はしてきたはずだ。
ならどうすれば変えられる? 今の優希に何が足りない? 世界は優希に何を求めている? 運命は優希に何を期待している?
元の世界に帰れたとして、優希の運命は変わるのだろうか?
何をどうすれば負の運命から抜け出せる?
帰れたとしても、また変わらずめられる日々が続くのだろうか?
否、変える方法が一つある。
「元の世界に僕は帰る。だけど……」
震える聲は決心の証。その舌にのせて吐き出した言葉にパンドラはいつも以上の不敵な笑みを浮かべる。
世界が優希から何かを奪うのならそれに抗う力を、運命が厳しい現実を突きつけるのならそれを乗り越える力を、優希にとって不利益になるものを握り潰せるほどの圧倒的な力を。
「元の世界に、帰った世界にあいつあ・い・つ・はいらない」
「ならば、その目的を果たすためにお前は何を差し出す? 何を捨てる?」
「目的を果たす上に邪魔なものは何もいらない」
恐怖も、涙も、痛みも、躊躇も、けも、悲しみも、これから葉えるみに不利益になるものは全て捧げよう。
過去の優希を構するものは、枷となるものは、すべて捨てよう。たとえ、元の優希とは違っても、人としてのを失っても、それでも優希は最の妹の元へ帰る。しかしそれは、元の世界に帰るのは、
「僕だけで充分だ」
優希のみとそれを葉える代償。満足したかのように優希の隣で笑うは、長い銀髪をかき上げた後、両手を広げて優希の傍に駆け寄る。
――契約……完了だ。
その言葉と共に、彼は優希のに自分のを重ねる。
その行に優希は目を見開きながら、意識が遠のくのをじた。まるで夢から覚めるような覚。
ただ、をなぞる初めてのが高鳴る鼓と共に強く殘った――
********************
殺伐とした森の中、そよ風が生み出す木々の演奏。
そして、一定間隔で森を揺らす衝撃の振。
気に縛られるはもはや人の原型をとどめておらず、それでも微かに聞こえる吐息が再びその骨り混じったにを纏った拳が叩き込まれる。
「ィシィィィッ……」
この幾重に及ぶ破壊が弾丸鼠ガンガル―の拳を赤黒く染め上げる。
無意識にわずかなマナを使って発していた【堅護】が、衝撃をすべて自らのでけ止める。竜崎の腕を破壊した一撃を何度もけているのにも関わらず優希が縛られている木が折れない理由は、そこまで衝撃が屆いていないからだ。
そして、パンドラの思で勝手に送り込まれていたマナが、優希のマナ切れを防いでいた。
だが、わずかにじられたマナは今一切の面影を見せなくなった。
次で死ぬ、それを弾丸鼠ガンガル―は確信。魄籠に溜まったマナを巡らせ、引いた右拳に注がれる。最大の一撃。マナの収束が空気を弾丸鼠ガンガル―の方に引き寄せる。
木の葉が空気の流れに沿って宙を舞い、大地は怯えるように震えだす。
燃え盛るようにる拳固の弾丸。その引き金は、本能に宿る破壊衝に全てを任せて引かれる。
放たれる弾丸は、空気を力任せに切り裂くことで、衝撃と轟音を生み出し、傷と痕で彩る優希の顔面目掛けて貫く――
「キシィァァァ――――ッッ!!」
優希を縛り多量のが付著した太い樹木が、小枝のようにへし折れて、周りの木にを任せる。
そして、弾丸鼠ガンガル―の頬にじる生溫かい。に染み込んで、一部と化したそれを弾丸鼠ガンガル―は知らない。知るはずなどなかった。奴の住む『始まりの町』付近の魔界は大陸全土では下の下、最底辺も良い所だ。それでも奴はその魔界で圧倒的破壊力を持ち、魔族同士の生存競爭に勝って來た。一滴のも流さずに。
故に揺する。本能が警笛の鳴らし方を無意識に學習し実行する。
そして、初めての覚に陥らせた敵を認識する。
「プッ、やっぱり噛み千切るのはやめよう。こいつのは不味すぎる」
吐き出したには黃土のを數本えて、それを見た弾丸鼠ガンガル―はそれが自らの頬であることを理解する。そして、視界に映る年は明らかに別人だった。
赤みのを癒著させたまま外の世界に姿を見せていた骨はその姿を隠し、濡れた服はそのままだが、傷などは完全に塞がっている。折ったはずの両足で大地の上にしっかりと立つ。そして、年の眼は弾丸鼠ガンガル―は背筋を凍らせた。
「魔族と言ってもやっぱり獣だな。隠しきれてないぜ、恐怖のがな」
――憎め、怨め、蔑め、欺け、唆せ、奪え、盜め、刻め、騙せ、げ、爭え、れ、憤れ、卑しめ、疑え、疎め、陥れ、襲え、狩れ、狂え、絶やせ、滅ぼせ、砕け、壊せ、殺せ、殺せ殺せ殺せ……
「フフッ……凄い破壊衝だな。俺の中で怨嗟の嗚咽が響いてる」
殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ――――――――――――――――――――殺す。
邪魔をする者は殺す。
襲い掛かる者は殺す。
不利益になる者は殺す。
敵となる者は最大の絶と苦しみを與えて、
「 殺す! 」
「シィィァァァッ!!」
冷徹な眼差しを向ける優希に、弾丸鼠ガンガル―は飛びかかる。跳躍する足にマナを込め、大地をえぐって優希に一直線に迫る。
マナの流れが敏にじ取れる。集まるマナは、跳躍後も変わらず拳固に注がれる。
空気の揺れをにじる優希は、驚愕するも余裕の表。
「おうおう凄いマナだな。殘念だが今の俺に防げるほどのマナは殘ってないな。けど――」
優希は一歩前に踏み出した。弾丸鼠ガンガル―との距離は數メートル、コンマ數秒の世界で繰り広げられる読み合い。その読み合いを制したのは、
「當たるかよ――はぁっ!」
繰り出せれる弾丸の如き右ストレートを、右下に深く重心を下げて弾丸鼠ガンガル―の左脇腹に抉りこむようにかわし、そのまま、無防備になっている左腕を摑んで――
「キィシィ゛ィァ゛ァァッッッ!!」
ねじ切る、肘先の存在が無くなった腕から噴出する鮮。涙を流してあげる斷末魔が優希の鼓を刺激する。ただし、うるさいとか煩わしいとかではなく、心地良い音だった。
無意識にこぼれる不敵な笑みを殘しながら、優希は手に持っている弾丸鼠ガンガル―の左腕を捨てる。水のったコップを倒したかのように、腕の切斷面からがこぼれ、指先はピクリともかない。
「痛いだろう、待ってろ、今止してやる」
優希は斷末魔の絶えない弾丸鼠ガンガル―の左腕に、優希を縛り付けていたツルを折れている樹木から剝ぎ取り、強引に縛り付ける。
「ギィィァァィィッ!」
縛った腕からは押し出されるようにが噴き出し、その勢いを止める。
そして間髪れず弾丸鼠ガンガル―は優希を襲う。しかし不意を突いても結果は同じだった。
「おいおいいきなりくからつい足をへし折っちゃったよ」
片足があらぬ方向に曲がり、倒れこむ弾丸鼠ガンガル―。うつ伏せで倒れる弾丸鼠ガンガル―にまたがる優希は「ま、いっか」と笑みをこぼしながら、
「ギィェァッァィ――ッ!!」
右腕を千切る。まるで粘土細工を相手にしているかのように、何の躊躇もなく引きちぎる。吹き出すが優希の頬に數滴付著し、そのまま顎まで垂れていく。優希はそのを指でなぞり、舌で味を確かめる。
何とも言えない味。ただ、優希にはとても癖のある味わいにじられて。
そして、薄暗い魔境で響く斷末魔がだんだんとその勢いがなくなり、
「おいおいまだ死ぬには早いだろぅ。まだやりたいことが沢山あるんだからよぉ!!」
再び始まる木々の喧騒と斷末魔の協奏曲。
皮を剝ぎ、を砕き、を引き裂いて、優希をを朱の鮮で彩る。
出來る限り死なないように、出來る限り苦しむように、何度も何度も。
そうして、再び訪れる靜寂。
骨と鮮の絵は、森というキャンパスを彩る。
もはや原型を留めていない魔族を見下ろしながら、に染まった年はポツリと呟いた。
「 ぁあ~……楽しかった 」
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