《められていた僕はクラスごと転移した異世界で最強の能力を手にれたので復讐することにした》10・銀髪の
「あぁ~洗いてぇ」
優希のは魔族のがべっとりと付著している。
首の骨を鳴らし、凝り固まった筋をほぐしながら、今最も優先させたいことを口からこぼす。
腕や髪を濡らすはまだ新しいが、服などについたはすでに乾いてパリパリになっている。
「……何ともないよな」
だが、を洗い流す前に、優希は自分のを見わたした。
パンドラとの邂逅で、優希のは完全治っていた。まるで、何もなかったかのように。
そして、弾丸鼠ガンガル―自攻撃特化で防力は無いとはいえ、いとも簡単に腕を引きちぎるほどの剛腕を手にしている。言うまでもなく優希のマナは枯渇し、今じゃ魄籠の中は空っぽだ。これ以上のマナの使用は命に関わる。
優希は靜寂に包まれた森の中を一し、行指針を定める。
このまま『始まりの町』に戻るのもありだが、自分の狀態も確認できないまま生徒に遭遇するのは不味い。
優希の心境はとても不安定だ。いくら力を手にれても何の策も無しに行して、にを任せることがあれば意味がないのだ。に任せても挑めるくらいに力を理解する必要がある。
そして、そのために必要な人が今この場にいない。
「パンドラって言ったけな。あいつはどこにいるんだ?」
し歩いて探ってみるが彼どころか、人一人見當たらない。それに無數に刺さる視線の針。
――どうしたんだ?
そんな疑問が脳裏を過る。視線の主は魔境の魔族。行きと同じならすでに數十くらいは襲い掛かっている。それなのに、優希を見つめる魔族は襲い掛かるどころか様子を伺ったまま一向にそのを現さない。
「あぁこれか」
優希は首にかけてあったプレートを見てみる。銅だったそれは銀にへと変わり、そこに記載されるは異世界の文字。
サクラギ ユウキ
“鑑定士”
練度 ――
「1320……隨分上がったな。ま、魔界の魔族を殺したらそれくらいは上がるか。多分最初だけだろうけど」
練度のびしろは徐々に減る。上がれば上がるほど練度は上がりにくくなる。
一でここまで上がったのは、低い練度のまま魔界の魔族を倒したからだろう。
「近寄らないならそれでいいか。俺も大分疲れてるしな。とりあえず休みたい」
気怠そうに呟きながら、優希は魔境を散策。そして、優希の角は微かながら完全に捉えていた。
何かが落下する気配が。
そして、立ち止まって瞳を閉じ、全神経を聴覚に捧げる。
空気のれる音、敵の巣窟にいるためギンギンに研ぎ澄まされた聴覚は集中することでその微かな音にも気が付いた。
「この音、割と大きいな。まるで……人!」
そこまでじ取ると、優希は近くの徐目を猿顔負けののこなしで上り、幾重にも重なる葉の表層を超えて、空が見渡せる位置まで移する。そして、青空に浮かぶわずかな雲と、燦々と輝く太が、優希の視界を覆う。その中で、異様に落下する何かを目を凝らして確認する。
日のを反する銀の髪は上へと流れ、自然の法則に従うままから力をじない。
そのの突然すぎる出現に、優希は微かに揺しながら、とっさに反応する。
「あいつ――ッ!」
優希は地面に降り、染めの足に力を籠める。
が落ちると予想される場所へ走り出す。疎らに並ぶ樹木を最小限のきでかわし、風を切る覚をでじながら、優希はの元へと走る。
しかし、予想される落下位置は思ったよりも遠い。
今の優希に【迅腳】を使用するほどのマナは殘っていない。それでも優希は彼を見捨てるわけにはいかなかった。
「クソッ! このままじゃ――」
〖機能向上アップデート〗――――ッ。
魄籠の中は空、魄脈にマナが流れた覚は無い。それでも優希は風をより強くじた。
どこから溢れた力なのか分からない。けれど、今はそのことはどうでもいい。
「これなら――」
曇った表から、僅かに笑みがこぼれる。
徐々に近づくとの距離。幾重に重なる葉の屋で、優希にはの姿が視認できない。今は研ぎ澄ました聴覚のみで位置を把握。たまに木の葉の屋の隙間から、誤差を修正する形での位置を捉える。
そして、思った以上に優希の足は速かった。
予想落下位置誤差三メートルの範囲に辿り著き、優希は再び瞳を閉じて集中する。
先ほどのように木に登って目で確認したいが、登ったタイミングで距離がほとんどなかった場合、け止めることが出來ない可能があった。それ故に意識を集めて、木の葉の屋から姿を現した瞬間に反応できるように萬全の狀態で構える。
「この辺りなのは確か……音は――ッ!?」
その時、優希のに急な重みが加わる。
そこまでは重くないのだろうが、他の力も加わって、優希は地面に押しつぶされそうになった。
いきなりで揺したものの、その原因が何かはっきりした途端、四つん這いの狀態のまま、ジト目でその正を見つめる。
「いくらなんでもいきなり過ぎる。もうし余裕があったはずだが?」
「気配と空気の音だけで落下位置と時間が完全に読み取れるほどお前は超覚に慣れているのか?」
そう告げる彼は、長い銀髪をかき上げて、優希に座って見下ろしている。
相変わらずの揶揄う、それでいて謎めいた笑みを浮かべた。
「改めて名乗ろう。私の名前はパンドラだ」
********************
その、腰までびた艶やかな銀の髪を持ち、黒真珠のような知的な瞳、純白のキトンから出されるきめ細かい白。
一言で言うと人だった。
「自己紹介の前に早くどいてくれないか?」
「それは遠回しに重いって言ってるのか?」
「分かってるなら早くどけ」
「ほぅ、今の発言は宣戦布告とけ取った。どくどかないの前にその辺の上下関係ははっきりとさせようか」
座ったまま優希の言葉を揶揄う笑みを浮かべて返すパンドラ。彼の言葉を他所に優希はそのまま立ち上がる。優希を椅子にしていたパンドラは急に立ち上がられてよろめくが、華麗なのこなしで事なきを得た。
そして、「いきなり立つな」と文句を言うパンドラを橫目に優希はの変化に気付いた。
パンドラはかなりの高さから落ちていた。落下時の衝撃はかなりあっただろう。いくらが強くなっているとはいえ、け止める準備もなく潰された場合、それなりの衝撃はあるだろう。しかし、
「全く……痛くない」
「それはそうだろう。お前は力の代償に痛覚を無くしている。それだけじゃない、今のお前は泣きたくても涙が出ないし、そもそも悲しいというもない。その姿を見る限り気気付いてるだろうが、殺す事に一切の躊躇も持たない」
これが、あの空白の世界で彼に支払った代償。改めて聞かされ思わず苦笑い。
「なんか人間から離れた気がする」
「それでもお前はんだ。みを葉えるには他は捨てなければならない。お前は力と引き換えに人間として必要なものが欠落した。今後それが戻ることはない」
喪失は多あるものの、後悔はしていなかった。
彼の言う通り、優希がそれをんでいたからだ。
「ま、いろいろ聞きたいことはあるが、まずは移する。方向は……そうだな、とりあえず北に行こう」
「北? 『始まりの町』なら東じゃないのか?」
「『始まりの町』には戻らない。特に必要なものは持ってるし、あそこには今は會いたくない奴らがいる。それなら、帝都で一から揃える方がマシだ。まだ生徒のほとんどは『始まりの町』にいるしな」
帝都はシルヴェール帝國の首都だ。
八大都市で最大の人口と広さを誇り、大陸中の文化、風習がここに集まっている。
ただ、帝都に行けば大のものは揃えられるが、普通はすぐに行くことは無い。他の都市や町で金銭、道を萬全の狀態で揃えてから出向くものだ。なぜなら、帝都で貴族の稱號を持つまで上り詰めた者もいるが、反対に他の都市で大富豪だった男が、帝都でさらに稼ごうとしたところ、多額の借金を背負い自殺した話もある。
つまり、帝都では功か破産の二つしかない。
ちなみに優希の所持金は金貨一枚とし、服やはに染まり、今持っているのは安のタガーのみ。當然帝都に向かう狀態ではない。今帝都にったところで価の高さに一日で所持金は消えるだろう。それ以前に帝都にる前に中を染めているの説明を求められるだろう。最悪騎士団に捕まる。
「帝都に行ってどうするんだ。を揃えるなら他の町の方が――」
パンドラはそこまで言うと、優希の表を見て言葉を切る。
歪んでいる不気味な笑み。
「何を言ってるんだ。確かに帝都には向かうが、もちろんそれまでに準備は整えるさ」
「どうやって? なくともここから帝都へ向かった場合、町など一つもないぞ。せいぜい都市間の行路にでるくらいだ」
「『始まりの町』の図書館で調べたんだが、帝都には毎日のように行商人が出りしてる。帝都に住んでいる奴もいるが、他の都市に拠點を置いてたまに帝都で店を出す商人もたくさんいる」
「それがどうした?」
「奪うんだよ。服も、馬車も、売りも、奪えばただで手にる。どうだ、主婦顔負けの節約だろ?」
帝都に居住し店を出している者もいるが、他の都市を拠點にしてたまに帝都に店を出す商人も多くいる。そのため、帝都と他の七都市を結ぶ行路は、數多くの商人が行き來している。一時間も待っていれば二、三臺の馬車は通るだろう。
「だが、商人は眷屬を雇っている。そう簡単に行くのか?」
盜賊に襲われるのは日常茶飯事の商人は、普段から眷屬を雇っている。それもし高くても腕利きの眷屬をだ。奪われれば元も子もないから。
そして、そんなことは優希も承知だ。その上で言う、大丈夫だと。
優希は首にかけているをパンドラへ放り投げる。パンドラはそれを片手でキャッチして、鎖につながれたそれを持ち上げてぶら下げ、顔の前にプレートをやる。
「これはお前の眷屬プレートだろ? これがどうしたんだ?」
彼は疑問と共に手に持ったプレートを優希に投げ返す。
優希はそれをけ取り再び首にかけると、
「まぁ見てろって」
そう言って北に向かって歩き出す優希。しかし、パンドラは立ち止まったまま優希の背中を見ていた。
優希は首だけで振り向き、
「どうした? とっとと行くぞ」
「おい、私の姿を見てそのまま向かうとはそれでも男か?」
「姿?」
優希はパンドラを頭から見てみた。
銀の髪は腰あたりまでび、黒真珠の瞳は優希を映している。抜群のスタイルを包むキトンのような純白の服は優希に染みついているがし付著し、隙間から見えるはきめ細かくとてもきれいだ。そして、出している足は地面の草を踏みつぶしている。
「あぁ……安心しろ、この森は意外に小石はない。足で歩いても怪我しないさ」
「か弱きが小石に躓き怪我をする可能があるのにお前はブーツをこれ見よがしに履いて先に進むのか、か弱きの前で」
か弱きを強調する優希はその言葉に異議を唱える。
「あの高さから落ちて無傷なはなくともか弱くはない。が、そういうことなら」
優希はブーツをいでパンドラに渡す。が、彼はそれをけ取らなかった。
「誰がそんなが染み込んでる靴なんか履くか」
「じゃぁどうすりゃいいんだよ」
「そうだな、歩くのも疲れるし、お前が四つん這いになって進め。私はお前に座る」
「卻下」
優希はの染み込んだブーツを履いて彼の提案を間を開けず切り捨てる。パンドラは腕を組んで煌びやかな銀髪をいじりながら、
「仕方ないな、じゃあおんぶで我慢してやろう」
どこまでも上からの言いに溜息をつきながら、優希は屈んで背中を見せる。
彼は優希の行に笑みを浮かべ、流れるように優希の脇下に足を通して優希を後頭部に顔を近づける。優希の元で手を組んで落ちないようにしがみ付く。
優希はパンドラが乗ったことを確認しを持ち上げる。
背中に伝わるらかい、彼の香りが鼻腔を癒し、僅かに聞こえる吐息。
鼓を早めながらも、めんどくさそうな表を浮かべて濡れた年は歩き出した。
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