《められていた僕はクラスごと転移した異世界で最強の能力を手にれたので復讐することにした》33・西願寺の仲間たち
翌朝。
いつも通り窓からのが優希を現実の世界に引き戻す。
寢起きを襲う倦怠や力が今日はじられない。
本來ならしっかりと目を覚ますまでを起こさないのだが、今日は瞬く間に意識を取り戻した。
「……」
目覚めの良い朝というのはいつになってもいいものだ。
そんなことを考えながら優希はを起こす。
いつも通りコートを羽織り、武やアイテムを裝備する。
一通り準備を終えると何がなく窓の外を見る。
時間はまだ六時頃というのに、外には大人だけでなく十歳くらいの子供まで、元気よく過ごしている。
どこかに出かけるのか、荷を抱えて準備をする人。今日一日頑張ろうとしている人。家事をする主婦と渋々それを手伝う子供。特に何も考えてなさそうに道の中央を歩く銀髪の。
「……」
その存在を確認し、優希はすぐさま外に向かう。
一階の酒場には朝食を食べている人が多く、朝早いのに晝間並みの活気が酒場の雰囲気を支配する。
その景を流し見しながら優希は外へ。
「おはよう。よく眠れたか?」
待っていたのか、扉の前でしたり顔をするメアリー。
普段と立場が逆なことに違和をじつつ、
「ぁあ、これ以上にない目覚めだった。そっちこそどうした、こんな朝早くに。いつもならまだ夢の中だろ」
「そうだなぁ……これから楽しいことが待ってるから、かな」
寢付けないのではなく、気持ちよく目が覚めたことは彼の笑顔から想像できた。
機嫌が悪いときの彼はめんどくさいが、機嫌が良すぎる彼はそれよりも遙かにめんどくさい。
今日も大変になりそうだと覚悟を決めて、
「まぁ早起きしたのなら丁度いい。早くいくぞ」
両手はコートのポケットにれたまま、優希は南區の外門の方に歩き出す。
その姿にメアリーはキョトンとして、
「おいどこに行く。朝食がまだだぞ」
早起きしたなら先食っとけよ。
心の中で文句を吐して、優希は朝食を食べに行くメアリーについていった。
朝食は軽いものですまし、優希とメアリーは待ち合わせ場所に移する。
まだ時間が早いことに疑問を持ったメアリーは、
「なぁ、晝前まではまだ時間があるぞ。どうするつもりだ?」
「ちょっと下見をな。正直、低級魔界に行くまで誰にも邪魔されたくないんだよ。魔界にれば人と會う確率は低いからいいけど、それまでに邪魔がる強制イベントは回避したい」
帝都周辺の治安はあまりよくない。
途中で盜賊などに遭遇した場合、優希はジークを演じ切れるかという不安がある。
なら、早めに一度出発し、不安要素をしでも取り除いておきたい。
「一応お前はか弱い商人って設定だからな。練度三千越えでか弱いとは何なのか疑問だがな」
練度を確実に確認するすべを優希は持ち合わせていない。
眷屬プレートは名前とそれが本であることを証明する細工のみ。
マナによるプレート作ではなく、書類による作だったため、優希は眷屬プレート上では恩恵者ですらない。
練度3000は超えているだろう程度の大まかなことしかわからないのだ。
「そうでもないさ。鑑定士はわざわざ魔族と戦闘しなくても、何かを破壊することなく練度上げが可能だからな。町にこもってひたすら恵使ってりゃ練度三千くらい……なるのか?」
自分で言っときながら疑問に思ってしまう。
確かにその方法で最初は練度上げを行っていたが、練度三千を超えるぐらいになる程、その方法に効率の良さはじられない。
一応優希は十八歳だ。やや設定に無理があったかもしれないと優希は今更ながらに後悔する。
「向こうは疑問にじてないみたいだし大丈夫だろ」
あくまでそれは西願寺のみの話だが。
元の世界の彼は、変なところで抜けている所があるので、違和をじていなかったのかもしれない。
なら他のメンバーなら気付かれるだろうか、遅めの不安に駆り立てられる。
「まぁ別になんか言われたら言われたで適當に誤魔化すさ。練度上げが効率よくできるアイテムかなんか使ったとかな」
実際、練度上げの効率が上がるアイテムや、場所は存在する。
なら誤魔化す容などいくらでも作れるのだ。
特に商人となればそのアイテムを手にれていたとしても不思議ではない。
気付けば待ち合わせ場所の外門。
高さ三十メートルほどの石壁にある門は外開きで開かれる。
衛兵が監視し、都しようとする人が今日も行列を作っている。
対して出ていく人もちらほらおり、眷屬プレートを見せているものは手続き無しで出て行っている。
優希とメアリーも銅のプレートを見せ、何事なく帝都を出て行った。
「それにしても、都合良く標的が依頼を請け負うとは、お前も運が良いな」
「まぁあいつらが依頼をける確率は高かったからな」
依頼は特定の眷屬を指名することができる。だが、それをしてしまうと、優希から近づいたようにじられる。
向こうからこちらに近づいてもらうには、直接指名するのではなく、標的が選びそうな依頼をすること。
「そもそも集會所で仕事してる奴は、だいたい集団行が苦手な奴だ。ギルドの方がメリットが大きいのにもかかわらず、集會所でちまちま稼いでるからな」
優希の指定した條件には最低五人以上としている。この時點でだいたいの人は選べない。
「それに西願寺が依頼を選んでいた時に七人で報酬を分ける的なことを誰か言ってた」
あの時他の人に紛れていたため、西願寺の傍にいた人が誰か分からなかったが、おそらくクラスの誰かだろう。
そして優希の報酬は金貨七枚。
こちらも彼らに都合の良いように設定してある。
「それに今日行く低級魔界ノマルドは低級に指定されてるとはいえ、上級どころか中級魔境ぐらいのレベルだしな」
低級魔界ノマルドは地の林地帯だ。
魔族などはそれほど強くはなく、眷屬からは絶好の狩場となっている。
なぜノマルドが低級魔界に指定されているかというと、広大な敷地と四方八方似た景が続き、初めてれば迷うことは確実なため、眷屬からは大迷宮と呼ばれている。
だがこれは一度安全ルートを知っていればなんてことのない話だ。
つまり遭難さえ気を付けていれば比較的安全なため、それで金貨七枚となれば味しい話だ。
「で、お前はその安全ルートは調べているのか?」
「もちろん。この前バジルに調べに行かせた」
ボロボロになりながら凄い剣幕で安全ルートの地図を手渡したことはまだ記憶に新しい。
帝都からノマルドまでは一つ山を越えたところに存在する。
風竜種なら一時間ほどで到著する。
優希とメアリーは徒歩だが、メアリーの【索】が屆く範囲まで近づけばいいわけだ。
「そのバジルって奴は信頼できるのか? どんな奴だ?」
「最近俺の部屋の前で朝騒いでる奴がいるだろ? あいつ」
「あぁアイツか……おっとここで大丈夫だ」
一時間は歩いた頃、メアリーは【索】の効果範囲の端にノマルドを捉えた。
彼は立ち止まり、の力を抜く。
「――ッ」
メアリーの【索】が瞬く間に展開される。
マナの海につかるような慣れない覚を我慢して、優希は【索】の結果を待つ。
と言ってもおそらく山賊などはいないだろう。
魔界の傍を拠點にしている人などそうはいない。
「……人の気配はない。まぁ問題ないだろう」
その結果を聞くなり優希は踵を返す。
戻った頃にはちょうど待ち合わせの時間だろう。
今回は素材調達ということで、竜車は必要ないので時間的には丁度いい。
と思っていたのだが、
「あ、ジークさん、メアリー……なんで外から?」
優希達が戻った頃、まだ三十分ほど時間はあるというのに、待ち合わせ場所には西願寺含め他のクラスメイトが。
「……」
全員見知った顔。
いい思い出も嫌な記憶も蘇る。
がなくなった瞳で彼らを見る優希。瞳を閉じて高鳴る鼓を抑え込み、
「皆さんお早いですね。まだ時間はありますよ」
笑顔で答える。
その変化に気が付いたのはメアリーのみで、彼らは先ほどの優希の形相など一切気にも留めていないようで、
「アンタがジークね。パーティリーダーの古家柑奈こいえかんなよ。よろしく」
「ちょっと柑奈、相手は依頼人よ。初めまして相須恵実あいすえみです」
ツーサイドアップの髪を揺らして、腕を組み小柄なを大きく見せようとを張る。自に溢れた元気な聲の柑奈。
その態度を注意するのはセミロングの恵実。想よく自己紹介するが、腰に攜えたボウガンサイズの弓が優希の眼を引く。
「オレは坊垣春樹ほうがうちはるきだ。短い間だろうけどよろしく」
「やばい。隣の子めっさ人じゃん。俺は最上健もがみけん、こいつはテイミー。よろしく」
「キュルルルルッ」
この中で一番高長の春樹。ガタイの良いにオールバックという野的な風格の男。弓兵なのか、背中にはその図と同じくらいの弓が背負われている。
そして、優希には目もくれず真っ先にメアリーに自己紹介するのは最上。肩に乗っている空の小さなドラゴンは可げのある聲で鳴く。
「ちょっと健! 何鼻の下ばしてんのよまったく。あたしは谷燈きくたにあかり。よろしくね」
「まぁそう嫉妬すんなって。俺は釘町朝日くぎまちあさひ。よろしくジーク」
メアリーに目を奪われる最上に、ポニーテールを揺らしながら怒る燈。
二メートルほどの槍を肩に乗せる燈をなだめるのは、スポーツ刈りの釘町。腰のサーベルがくたびにカチャリと音がする。
そして、同じく杖を抱える西願寺も、流を深める柑奈達を見守っていた。
一通り話した後、依頼について切り出すのは自稱リーダーの柑奈だ。
百四十センチ臺の長は、彼の自信溢れる振舞によってその存在をアピールする。
場を區切るように手をパンっと鳴らすと、
「さて、そろそろ行こっか。で今回はどれくらい白髄集めるの?」
白髄はノマルドに生息する骨百足から採取できる素材だ。
頑丈だが僅かに弾力があり、耐久力の高い武を作るのに使用される。
一の骨百足から百ブラムほどしか採取できないが、骨百足自は弱く、數も多いので採取自はそれほど苦ではない。
「とりあえず三キロ分くらいですかね。多ければ多いほどいいですけど、時間的にもそれぐらいが限界でしょうし」
ノマルドは地な為、野宿するのは気分が悪い。
地面も草木もっており、もたれたり座ったりすれば服は濡れてしまい、非常に気持ち悪いを殘すことになる。
今回は夜までに集めるだけ集めて暗くなれば帝都に戻るという段取りで行うつもりだ。
「それだけで金貨七枚だったらもらいすぎな気もするけどいいのか?」
春樹は再度報酬について優希に確認する。
柑奈や燈などは春樹の確認に対して、貰えるものは貰っとけばいいのと言われている。
二人の意見に同調するように、優希も笑って、
「えぇ、金貨七枚で大丈夫です。容次第ではもうし出しますよ」
肯定するのと同時に、気前が良いところをアピールする。
歓喜の空気が漂い、柑奈はその空気に呑まれたまま、
「じゃぁ行くわよ。柑奈についてきなさい!」
右こぶしを天に掲げて先行する柑奈。
同じように士気を挙げるように呼応する他全員。
久しい覚を味わいながら、優希は前を歩いていく彼ら彼らの背中を見ていた。
蘇る記憶を脳裏で再生しながら。
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