《められていた僕はクラスごと転移した異世界で最強の能力を手にれたので復讐することにした》39・復讐の狼煙
「こっちです。この奧」
沈むような気のある空気が蔓延している窟の奧は、源というものがなく、はっきりと見えるのは數メートル先だけ。
それ以上奧はひたすら漆黒の闇に包まれている。魔族の気配は今のところじないが、ここが魔界である以上、いつどこで魔族が現れても不思議ではない為、現在の報は當てにならない。
ここは優希が見つけた(と西願寺達は思っている)窟。地面に進むように空の道が続いている。
最初は西願寺とメアリーの三人でこの場所に行き、上手く話して他全員をここに連れてきた。最上の代わりにメアリーを拠點に置いて。
「結構奧まで続いてそうねぇ。まぁ行ってみる価値はあるわね」
小柄なをばして覗き込むように柑奈は窟の奧に目を凝らす。
最上がここにいるのは、しでも戦力をこちらに注ぎたいという理由だ。誰か一人でも拠點に殘れば最上を通じて戻れるため、拠點に殘るのはメアリーで十分なのだ。優希は案人ということで同行している。
一向に事態が変わらないこの狀況で、謎の窟というのは手がかりとしては十分だ。安全ルートに戻れるか納稅もある。だが、ここが魔界である以上はなるべく多くの戦力で臨むのが一番だ。全滅の可能もあるが、柑奈達は全員一緒で一番力を発揮するチームだ。
なら、全員でしづつ進んでいった方が安全に狀況の進展が見込める。
メアリーを一人にするのは柑奈達はあまり乗り気ではなかったが、本人と優希が問題ないということで意見を尊重してくれた。今のところ襲撃されたことはないし、なるべく早く戻れば問題ない。
「いつも通りのフォーメーションで進んでいきましょ。皐月、燈お願い」
「分かった、【魄燈はくとう】ッ」
西願寺の魔道杖の先端にマナが集められ、球の形を形してその姿を現した。
宙に浮いて輝くそれは、西願寺の意志で鵜退かせるようで、西願寺が杖で窟の奧を指すと燈は窟の奧に進み、闇に包まれた空間で白に輝く球のが顕著に存在を全員の瞳に焼き付ける。
源を確保した上で柑奈は再び覗き込む。
「下へ続く距離は二十メートルといったところね。あとは平坦な道が続いてるみたい。ここからだとどこまで続いてるかは分からないわ」
「じゃあとりあえず降りてみるか。ジークはこの距離、飛び降りそうか?」
「問題ありませんよ。このくらいなら僕でも全然」
一般人ならこの深い窟に飛び降りるのは危険だ。ロープでゆっくり降りるのが普通だ。
だが彼らは恩恵者。二十メートル程度なら平気で飛び降りれる。一応春樹が優希も大丈夫か気にかけたが、優希も鑑定士とはいえ恩恵者、この距離なら大丈夫だ。
「なら行ってみるか、よっと」
まずは春樹が軽く飛んで窟に落下していく。
音も無く著地の負荷を、屈運で相殺し、華麗且つ綺麗に著地を功させる。
そして柑奈達の場所では見えなかった窟の奧に目を凝らしてみる。
「結構奧まで続いてるぞー」
反響して春樹の聲はエコーがかかって柑奈達に屆く。
春樹の言葉を聞いた後、柑奈達もり口が狹い為一人ずつに窟へ飛び降りる。
殘ったのは優希と西願寺。
「ジークさん、お先にどうぞ」
西願寺に進められて一応依頼人であるジークはお言葉に甘えて、先に飛び降りる。
優希も難なく著地し、次いで飛び降りるはずの西願寺の方に目をやると、外のが差し込むり口はとても眩しくて、逆に照らされた彼はシルエットしかわからないが、ただ一點は桃の世界が広がっていた。
「きゃぁッ!?」
著地後、屈んだままスカートを握りしめて頬を赤く染めると、上目遣いで優希を見た。
その表は恥に支配されており、今の彼の心理狀況は優希でも簡単に理解できた。そして、彼が次に発するセリフも予想でき、
「み……見ました?」
気まずそうに頬を掻き、優希は彼の顔を真っ直ぐ、真剣に見つめた。
「ピンクなんか見てませっ――パンッ!」
乾いた音が窟にないに響き渡った――
********************
「あの……すいませんでした。私が先に降りていれば良かったのに」
「ハハハ……気にしないでください」
自責の念に囚われている西願寺に優希は紅葉マークがついた頬を抑えながら笑って返す。
痛みは無いが覚はあるため、優希の頬はこそばゆい覚に陥っている。
「そこのふたり~そんなところでラブコメしてないでとっとと行くわよ~」
気まずい雰囲気を漂わせる優希と西願寺にお構いなく柑奈達はどんどん奧に足を進める。
り口からが注ぐ優希達のいる場所以外の源は、西願寺の【魄燈】しかなく、そのが照らしていないところは目が慣れても暗い闇しか見えないでいた。
水の滴る音が窟に反響して柑奈達の鼓に響く。水分が多く、踏み込めば簡単に沈む地ではなく、い巖盤が道となって続いていた。
「ひたすら一本道だな。これ出口はあんのか?」
壁に手をついてほかに道がないことを眼だけではなく手でも確認しながら進む朝日はぼやく。
反対の壁を手で伝って歩く春樹は、溜息をこぼす朝日に笑って見せて、
「それでも進むしかないだろ。実際今まではどこに行っても似たような場所ばかり。正直ここが外れたらまた一から探索を進めないといけないんだから」
その言葉は勵ましのつもりだったが、あまり効果はない。
かれこれ三十分は歩いているが、未だ分かれ道や広場、魔族などイベントなどは一切発生しておらず、このまま何もないんじゃないかという予想が割と鮮明に彼らの脳裏に浮かびあがっている。
一応食料などにも抜かりはないがそれでもせいぜい一日が限度、この窟で食料を確保できる場所が見つけられれば、今日は引き返すこともできるが、せめて何か報を得られるまでは不平不満が出ようと進むしかない。
そして、ようやくと言わんばかりに狀況が進展した。
次第に重くなる空気に新鮮な風が吹くように現れた二本の分かれ道。
「やっと分かれ道か。どうする柑奈」
春樹がふると、柑奈は腕を組んでそれぞれの道に自ら【魄燈】で燈して覗き込むと、腕を組んで深々と溜息。
「ダメね。どっちも當分歩くわ。どうしよっか」
「二手に分かれるか?」
「でもこんな何が起こるかわからない場所で戦力を分けるのは危険じゃない?」
どちらに進むのが正解か、柑奈達は悩む。
テイミーを片方の道に進ませて狀況を確認する手があるが、その提案が出る前に、優希が狀況を変えるように手を挙げて、
「あの~僕に任せてくれませんか?」
「ジーク? まぁ何か方法があるなら……」
柑奈に続いて他の皆も優希が前に行けるように道を作る。
優希は全員の間を通り、分岐點で足を止めると、まずは右の道に視線をやる。
【鑑識】ッ――
魄籠で練り込まれたマナは魄脈を辿って優希の眼に移する。
それと同時に優希には瑠璃の世界が広がる。その世界で両方の道を見據えると、
「右の道ですね」
自信に満ちた聲で柑奈達に言う。
優希が使用した恵【鑑識】は、指紋や足跡、その他目では見えない報を浮かび上がらせるものだ。
それが使える優希の言葉は誰よりも真実味が出てくる。
「左の道に続く足跡はこちらに戻って來てます。形狀や歩幅の変化からかなり急いでますね。おそらく奧で何かあったんでしょう。対して右の道は奧に続いて行くだけです。もちろんこっちが安全という保障はありませんが、左は確実に危険、右は安全且つ正解の可能が含まれます」
淡々と述べる優希の言葉を、彼ら彼らは疑わない。
右の道に足を進めるまでそれほど時間は要さなかった。
當然、優希の【鑑識】を以てしても足跡など出てこない。
この窟に行きつく自幸運な為、人など訪れる事はない上、安全ルートが確立された今ではこの窟に足を踏みれるものはいない。
包帯の男からこの窟への行き方を知っている優希がいなければ、柑奈達も來る事は無かっただろう。
優希の見立てでは十年は人が來ていないと思える。そんな窟で足跡など【鑑識】を使ったとしても見つかるわけはない。
だが、それでも彼達は優希の言葉を疑う事はできなかった。
この數日間で築いた信頼関係が疑念を生み出さず、優希の言葉が噓と証明できる者はこの場にはいなかった。
「ほんとになんもないわね。さっきから気臭くて嫌になってくるわ」
やっと著いた分岐點を進んでも、景はあまり変わらない。
い巖盤に滴る水滴の音が耳に響き、燈で照らされている場所以外は闇に包まれている。
度が高く服がに染み付き、が重くじる場所を、終わりの見えないその道を延々と歩いていく。
だが、どんな道でも終わりというものは存在する。
今回はそれが唐突だっただけなのだ。
「――なッ!?」
最初に気付いたのは柑奈だった。
鼓にこすれる程度の微かな音が彼の視線を背後に導する。先頭の彼の背後、朝日と最上、燈、恵実、坊垣が続いて、そのさらに後ろに西願寺と優希が後へ続いている。
彼の視線が真っ先に捉えたのは、坊垣と西願寺の間、トンネルのような窟の天井から、壁のような石板が落下する。
「きゃあっ!?」
その石板に挾まれるところだった西願寺を優希は腕を摑んで後ろに投げ飛ばす。
軽いは優希の後ろに飛んでいき、ふらつきながらも著地に功する。そして何が起こったのかわからない脳は、それでも現実をしっかりと捉えた。
彼が揺しながら見たのは、石板が落ちきる寸前、優希の靴が僅かに見えただけだった。
「みんなーッッ!!」
彼はぶ。だが、その聲は石板に閉ざされて自分の耳に響くだけだった。
その石板は壁となって彼の前に立ちはだかる。勢いよく落下したというのに、石板自は一切の割れ目や傷がない。代わりにい巖盤は砕かれて石板がめり込んでいる。
彼は立ちはだかる石板をどうにかしようと押したり、當たりと々試みるもどれも失敗、攻撃系の恵をぶち込み、風が彼の髪を後方に揺らすが、それでも壁は一切破壊されることはなく、その存在を彼の瞳に叩き込む。
「みんなっ! 大丈夫ッ!?」
が切れるほど強くぶも、彼の聲を聴いたのは、
「……」
優希一人だけだった。
優希の聴覚でも壁越しの籠った聲が聞こえるだけで、意識していなければ幻聴と思ってしまうくらい、不明な聲だった。
黙然と優希は彼の聲を聴きながら、目の前で警戒している柑奈達を見據える。
西願寺の【魄燈】はまだ燈を殘しているが、背後の石板が彼のマナを遮斷しているせいか、燈は徐々に暗く小さくなっていく。
それが消えると代わりに柑奈が【魄燈】を使用し、再び燈を確保する。
「困ったわね。完全に閉じ込められた」
柑奈が先の道に明かりを移させると、そこは完全に行き止まり出口がなく、帰り道も石板で閉ざされている。
このような狀況でも全員まだ冷靜さを保っている。だが、そういられたのはほんの數分だけだった。
「……ッ、燈、危ないッ!」
最上がそうびながら燈を抱きしめて橫に飛ぶ。
一何があったのかわからないが、突然抱き著かれて赤面する。だがすぐにその顔は真っ青になった。
自分のいたところに巨大な斧が振り下ろされていた。
「なんだ? 壁から人が――」
壁から生み出されるように出てきたそれは、が染み込んだ武を持ち、屈強なに二メートルほどの長、顔は布で覆われている。その姿はまるで死刑執行人とでも言いたげな、恐怖心を掘り起こされる姿だ。
「こいつら……やばいぞ! みんな気をつけろ!」
坊垣が警告するが、全員その聲が屆くよりも先に各々武を構えて、背中を共に任せる。
狹い窟で次々と現れる敵は、十人ほど出てきたときにようやく生が収まる。
「何よこいつら。人……じゃないわね」
見た目は人間。だが、人間にしては生気というものがじられず、まるで木偶人形を見ているようだった。
布で覆われた顔は、目の部分にが開いているが、眼球がないのか、奧行きがじられる。だが、その目で確かに柑奈達を無言で見つめる。
取り囲まれ、その圧迫が柑奈達の冷靜さを消し去った。
そして敵の一人が手に持った大剣を振り下ろす。その巨と変わらない、鉄塊のような剣でも、奴らが扱えば普通の剣と変わらず、速度もほどほどにある。
「なろっ! ……ッぐぁああああああああ!!」
「春樹!」
坊垣はその攻撃をけ止める。彼の矢は頑丈で、防にも最適だった。はずなのに、それをいとも簡単に両斷し、坊垣の右腕を肩から切り下した。
落ちた腕は両斷されて使いにならない矢を握りしっめたまま、ぼとりと生々しい音を立てながら落下し、その腕を鮮が上から染め上げる。
その姿を見た途端、全員に戦慄する。春樹は決して弱くない。むしろこのチームでは総合的に彼が最強と言ってもいい。そんな彼が赤子の手をひねるようにあっさりと致命傷を負わされたのだ。
この時、全員の脳裏に浮かんだ言葉は同じだった。
――死ぬ!
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