《められていた僕はクラスごと転移した異世界で最強の能力を手にれたので復讐することにした》78・たった一つの真実
それは不思議な覚だった。
ついさっきまでび聲を上げてしまうほどの激痛をじていたのに、今は完全に消えている。
徐々に寒さをじているのに、自然と意識は揺らめき、今にでも眠ってしまいそうだ。
――ぁぁ……僕……斬られたんだっけ?
ふと、薄れゆく意識の中で思い出した。
徐々に鈍になっていく中、薫の手は脇腹の傷口をなぞった。
じている寒さとは相反して、手に殘るは溫かい。
指の隙間からそのは外に流れていく。
こんな狀態でも、薫はどこか落ち著いていて、僅かにだが傷が塞がっていることを理解して、それがウィリアムのおかげだということも察した。
死が近づいているという狀況下で、薫の脳はいつも以上に冷靜だった。
ウィリアムが戦っている激しい音も、川の音のような靜かに聞こえる。
それはまるで海の底にいるような覚だった。
だからこそ、薫の意識は集中していた。
戦うことを忘れて、報を集めることだけに脳を使う。
仰向けの薫。
視界。
天井。ひび割れて、戦闘の衝撃で今にも崩れそうだ。
し視點をずらす。
天井の隅、影になっている部分に妙な膨らみ。
何かを覆い隠しているような、そんな膨らみがそこにあった。
またし視點を変える。
外かられる。柱のようにびる芒が、この建を明るくしている。
その輝きを一瞬だけ反した何か。
そこに寶石でもあるかのように、小さなを反した。それは一か所だけでなく複數あった。
また視點を変える。
の當たっていない壁。もう築何年経つのだろうか、壁自にが開いていて、外の世界がし覗ける。
そこにも違和。不自然に壁のが変わっている。影になっているため分かり辛いが、目を凝らすと布のようなもので覆われていた。
そして再び天井。
目を閉じる。視覚を遮斷し、雑音も聞き流し、薫はガントロイトの戦闘を想起する。
じていた違和と、集めた報と組み合わせていく。
――もしかして……
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「「――ッッ」」
ウィリアムは笑っていた。
その笑みはまるで玩で遊ぶ子供のようなものだった。
「フハハハ、どうした? さっきまでの威勢はどこに消えた」
二人のガントロイトを相手に、神を抜いたウィリアムは圧倒的な力を見せつける。
彼の一振りは、建を破壊しそうな衝撃を生み出し、いつ倒壊してもおかしくないことは、広がるヒビと、小さな瓦礫が証明していた。
だが、ガントロイトも食らいつく。
武生、瞬間移、分能力、攻撃範囲拡張。使える能力全てを行使して、目前の獅子――怪を相手にする。
しかし、形勢は徐々に傾いた。
「クソッ!」
「さっきの言葉を変えさせてもらう」
「さっきまでの威勢はどこに消えた?」
ウィリアムの表が曇る。
ウィリアムは薫とクラリスを助けるためにいている。
本気を出せばガントロイトは倒せるかもしれないが、肝心の二人は巻き込み殺してしまうだろう。
それでは意味は無い。建ごと破壊した為、敵は倒したが二人も死にましたなど笑い話にもならない。
「何故この場所で待っていたか分かるか?」
「……なるほど。貴様はかなり周到な計畫を立てていたようだな」
「おれがこの場所を選んだ理由はただ思いれがあるだけではない。むしろ、そんな理由では選ばない。この場所で戦うために準備したのではなく、勝てる條件が揃っているのがこの場所だったのだ」
ガントロイトはウィリアムが握る神を指さして、
「お前の神“エクスカリバー”はその威力故に最強の神と稱されているが、威力が高すぎる。軽く振っただけで凄まじい衝撃を生み出し、マナを込めて振れば萬人を吹き飛ばす斬撃となる」
ウィリアムが本気を出せばガントロイトは敵わない。
だからこそ、本気を出させない場所でなくてはならない。
「このままでは自分が殺される。だからといって本気を出せば二人は倒壊した建の下敷きになって死ぬ。場所を変えようとしておれから離れれば、おれは躊躇なくこいつらを殺す。お前を殺した後は二人を殺す。お前達に待っているのは全滅の二文字だけだ」
「オレを倒そうと人質を取る奴は結構いたが、ここまで苦しまされたのは初めてだ。反軍にいなければ騎士団の參謀としてほしいくらいだな」
「參謀か……その現実も面白いだろうな。だが、お前に見せるのはあったかもしれない現実ではなく、今ここに起きる真実」
そう言って、ガントロイトは再び両手を握る。
「武の生か? 殘念だが貴様の作る武はスペックが低い。いくら生み出そうとオレのエクスカリバーの前にはただの鉄塊に変わりない」
「そう思うか? おれがいつ普通の武しか作れないと言った?」
が生まれる。そのに包まれて、ガントロイトの手にはウィリアムと同じエクスカリバーが握られていた。
流石のウィリアムでも、これには揺を隠すことが出來ず、
「ほう、人間らしい顔も出來るのだな。武の生? そっちの都合でおれの力を過小されては困る。武の生ではなく、見た武の複製をつくることが出來る。こんな風にな」
ガントロイトはエクスカリバーを橫に一閃する。
振るというには遅い。剣先を橫になぞるようにかしたのに対して、ウィリアムのを後方に押し出すような風が襲い掛かった。
「この狀態のオレは散々怪だの化けだの言われていたが、オレ以上の化けを目の當たりにすると、奴らの気持ちが分からなくもないな」
「帝國の英雄にそう言ってもらえるとは栄だな」
ガントロイトはエクスカリバーを大地に突き刺し衝撃が周囲の空気揺らす。両手を組み今度はデュランダルを二本生み出した。
「いくぞ!」
聖剣を持った二人のガントロイトは、ウィリアムの力とマナを急激に消費させる。
本気を出せないウィリアムと、徐々に強くなっていくガントロイト。
最初にエクスカリバーを複製して揺をい、デュランダルで攻撃を始める。
「ぐぁは!?」
ガントロイトの一人が、デュランダルでウィリアムの背中を斬り裂いた。
鮮が噴き出して、片膝をついたところをもう片方のガントロイトが聖剣を振り下ろす。
表を歪ませながらもエクスカリバーでけ止める。
鍔迫り合いに持ち込んだ狀況ではマナを奪うデュランダルの方が有利。
この狀況では、一人しか対応できない。
つまり、ウィリアムの背後はがら空きなのだ。
それはウィリアムも分かっている。だが、背後に気を遣えば目前のガントロイトに押し負ける。
死を覚悟した。
だが、何故か一向に斬りつけられない。それどころかマナの消費も止まってただの力だけになっていた。
一何が起こったのか? そう思っているのはウィリアムだけではない。ガントロイトもまた僅かに首を傾げていた。
だが、心當たりがあるのか、ガントロイトはウィリアムから視線を外した。
「やっぱり……みたいだね」
ガントロイトの視線の先、に染まり立っているのもやっとな薫が、薄ら笑みを浮かべていた。
「カオルッ無事か?」
「やぁウィリアム……おかげでし回復したよッっと……」
ふらついて片膝をついた薫。けることは可能なようだが、戦闘に參加できないのは変わらない。
「そんな狀態では戦えないだろう。そこでおとなしくしていろ。今こいつを殺して次はお前だ」
「殘念だけどそうはならない……もうあなたに勝ち目はないよ」
薫の言葉に、ガントロイトの眼は鋭く変わる。
「勝ち目がない? この狀況を見てもそう言えるのか? 勇者は瀕死、英雄もこの通り重癥、超級魔族は人質を取られてけない。おれの計畫に支障はない」
「そうじゃないことはあなた自が一番よく分かっているはずだ」
「どういうことだカオル」
「彼の天恵は複數じゃない。たった一つだ」
薫の発言にガントロイトの表は歪む。
それは薫の言葉が的をていることの表れだ。
「最初に引っかかったのはあなたが破能力を見せた時。シュレイドの話だと何の準備もなく突然敵が発したみたいだけど、なくとも刻印を押さなければならない。もし敵チームとの抗爭の時に事前に刻印を押していたのなら何故味方が負けそうになるまで能力を使わなかった? 何故シュレイドは刻印に気付かなかった? 報の違いから僕はし疑問をじた」
ガントロイトは押し黙る。
「次にあなたは僕と対峙する際、一度手を組んで武を生しようとした。その時一瞬だけ表を変えましたよね」
「それがどうした?」
「あなたが僅かに表を変えた理由。それは能力が発しなかったからじゃないんですか?」
「どういうことだ?」
思わずウィリアムが尋ねた。
「ウィリアムも不思議に思わなかった? これほどまでに慎重な男がなぜ瞬間移や分能力を最初から使わなかったのか。戦いを楽しんでいるならともかく、彼は僕らを殺すことだけに集中している。何なら僕らが現れた瞬間に背後に瞬間移して破の刻印を刻めば終わりなはずだ」
「……能力発に何らかの條件を有するということか」
「そう。それに周囲を調べれば不自然なところはたくさんある」
薫はゆっくりと歩く。
それは建の壁で、しが変わっている場所。
薫はその場所を毆る。するとその壁は脆いのか簡単に壊れた。
「なッ、これは……」
薫が破壊した壁の向こうには大量の武が、糸に繋がれて置いてあった。そこにはエクスカリバーやデュランダルもある。
「あなたは両手を組んで武を生する。その際、が僕らの視界を僅かに奪う。その間にあなたはここから武を調達して、あたかも武を作ったように見せかけていた」
「だがカオル、あのは本當に僅かな時間だ。その間にその場所から武を取り壁を修復して同じ場所に戻ることは難しいだろ」
薫の理論では時間が短すぎる。だが、ウィリアムの指摘も薫は「可能なんだよ」と否定。
薫はデュランダルを投げる。
デュランダルは刃先を真っ直ぐに飛んでいき、壁に刺さった瞬間、薫の傍にある武の一つがガントロイトの方へ勢いよく飛んでいった。
「これは……」
「目を凝らせばわかるけど、所々何かがを反しているんだ。多分それは糸」
「糸?」
「そう。それを切ればこの武は出される。どの糸を切ればどの位置にどの武が飛んでくるのかはガントロイトしか分からない。つまり武生の正はの魔石を手の中に潛ませて砕き、が視界を奪っている間に武を自分の方に飛ばして摑む。壁の修復は【創】の恵で薄く作る」
「だが、それなら表を変えた理由は? そもそも能力が無いのなら能力が発しなくて表がれたという薫の理論はおかしくなる」
「いや、ガントロイトに能力はある。だけど、それはいつでも使えるじゃないんだよ」
薫は再び場所を移する。
そして、ガントロイトが地面に突き刺したエクスカリバーを摑んだ。
「武の複製も何故エクスカリバーを最初に選んだ? この場所が倒壊すれば僕と姫は死ぬけどその後ウィリアムは本気で戦える。エクスカリバーは一振りで倒壊させる危険があるのにそれをガントロイトが使えば自分もやり辛いだけだ」
ガントロイトもしエクスカリバーで戦っていたなら、建を壊さないように気を使わなければならない。それなら條件はウィリアムと同じということになる。
あくまであの狀況ではウィリアムを真っ先に始末しなければならない。その狀況下で有利な條件を自ら潰すようなことをするとは思えない。
「だが、それはオレの揺をう為かもしれない。現にガントロイトはデュランダルで戦っている」
「なんで揺をう必要がある? エクスカリバーを複製したくらいでウィリアムが確実に揺する保証はない。それならデュランダルを先に複製して戦った方が相手を殺すという意味では有効だ。それに、僕と戦っている時もデュランダルでならマナを消費せずに済んだ可能もあるのに」
「つまり、エクスカリバーの複製にはほかに意味があった?」
「そういう事。思い返せばガントロイトの多數の能力は一度見せてから頻繁に使っている。それまで一切に使わなかったのに、一度使ったら堂々と曬すようになっている」
薫はエクスカリバーを抜いて一閃する。
だが、何故かそこに衝撃は無かった。ただ見た目だけそっくりな玩のように。
「ここまで用意周到で合理的且つ慎重なあなたには不自然な行。ここから僕はあなたの天恵をこう睨んでいる。現実を真実にする天恵。つまり、僕らがその能力を使えると思った瞬間に使える天恵」
薫が言うと、ガントロイトは図星を突かれたように脂汗を掻いていた。
「攻撃範囲拡張も、刃先に合わせて針か何かを飛ばしてかすり傷をつければ可能だし、分能力も事前に用意してあったあなたのオブジェを構えて置き、そこから糸のからくりを使ってナイフを飛ばせば、あたかもそこに二人目のガントロイトがいるように思わせることが出來る」
そうやって分能力を使えるようになれば、薫の背後に分を作り羽い絞めにする。それと同時に気が逸れたガントロイトのオブジェを何処かに隠せば、分が瞬間移したかのように思わせることが出來る。
破の能力もわざわざ実踐したのはその能力が使えると思わせる為。元々裂石でも仕込んでいたのだろう。シュレイドの時も、一人に裂石を仕込んでおいて破させる。その時はリーダーの言葉が刻印替わりになっていた。破という命令を下してから破することで敵は破能力を持っていると勘違いする。
刻印は破する対象を明確にし、敵のイメージをより鮮明にする為だ。
「僕はまだその時あなたの能力を疑っていた。つまり、武生の力も疑っている。僕が相手の時は武生が出來なくて表を変えた。一度手を放し、の魔石を準備してからもう一度糸を切って武を手に取り実演して見せ、僕に印象を刻もうとした。天井にある妙な膨らみ。あそこにはあなたの形をした模型か人形が隠されているんじゃないのかな?」
ガントロイトは武を落とす。
そして顔を覆うと、こみ上げる笑いを抑えきれなくなって肩を震わせていた。
「ククク……そうだ、その通りだ。おれの天恵は相手が認識して初めて使える。これがおれの天恵【空想の真実リアルイマジナリー】。薔薇の刻印もマナスタンプ、ただの玩に過ぎん。シュレイドの話の時は裂石が胃でひびがるまでにかなりの時間を要した。だからすぐに使えなかった」
「なるほど。最初にエクスカリバーを見せつけたのも、実際に斬らないと効果を発揮しないデュランダルよりはイメージを與えやすいからか。風の魔石さえうまく使えば衝撃波を偽裝できる。そして、急に分が消えたのも、デュランダルの力が使えなくなったのも、カオルがその事実を認識したから。更に、その能力の裏を返せば――」
「種さえ分かればあなたは天恵が無いのと同じ」
天恵が使えないのなら、クラリスは人質ではなくなる。人質ではなくなるのならフォルテも戦闘に參加できる。
たった一つの真実が、形勢を一気に逆転させた。
「そういう事ならオレも本気が出せる。フォルテがけるなら建を破壊しても二人を安全な場所に連れてってもらえるからね」
それだけじゃない。フォルテがガントロイトを相手にすれば、ウィリアムは集中して薫を回復させることが出來る。
もはや、ガントロイトに勝ち目はなかった。
「どうしますか? もうあなたに勝ち目はありませんよ。おとなしく降參してください」
「確かにおれに勝ち目は無くなった。だが、勝ち目がないからと言って降參する道理はない」
するとガントロイトは恵を使う。
天恵ではない恵【移転】だ。ガントロイトの橫に現れたのは、車いすに座った年。
おそらく彼にマーキングして何時でも自分の所に來れるようにしていたのだろう。
眼には無く、魂が抜け落ちたような年が、ガントロイトの前に現れた。
「その子は……」
「こいつは貴族に飼われていたガキだ。その貴族は拷問が趣味でな、足の筋をやられて歩けないし、薬で耳は聞こえない。過度のストレスで心は壊れた」
その年の痛々しさに、クラリスは口元を手で覆い、薫も眉をひそめた。
「おれはこいつを連れ出していろんな場所に連れて行った。見た景を認識しているのかは分からんが、薄っすらと笑顔を浮かべるようにはなっている」
「いろんな場所に……まさかッ!」
ふと、薫は思った。
ガントロイトの天恵は対象がいないと使えない。なら、どうやってクラリスを拐したのか。
その時のウィリアムはガントロイトを知らないのだ。瞬間移が出來ると思い込ませることが出來ない。
そんな狀況でも瞬間移が使えたということは、この年はガントロイトが瞬間移できると思っているという事。
「こいつは俺が瞬間移できると完全に思い込んでいる。まぁ、こいつは思い込みが激しすぎるからこいつの周りでは瞬間移しか出來ないという欠點はあるが、逆に言えばこいつが傍にいればいくら能力がバレようと瞬間移は使えるという事だ」
「逃げる気だッ、ウィリアム!」
ウィリアムは薫の呼びかけに反応するが、思ったより傷が深く咄嗟のきが出來ない。
狀況を瞬時に把握したフォルテがガントロイトを攻撃しようと変化する。
「もう遅い。また會おう――――――――ッん?」
もう移してもおかしくないのに、ガントロイトはまだここにいる。
どういうことか。全員が戸う中、たった一人だけ、原因を理解し思わず笑みを零した。
「ハハッ……なるほどね。僕の天恵は思ったより使い勝手が良いらしい」
「何故だ。何故瞬間移が使えない」
「どうやら彼の過剰な思い込み真実よりも僕の認識真実の方が優先されるらしい」
薫の天恵【絶対的優先権アブソリュートプライオリティ】は全てにおいて薫が優先される。
いくら年の強い真実を前にしても、薫の真実の方が優先される。薫の真実はガントロイトに瞬間移は使えないという事。
ガントロイトに手はない。瞬間移によほどの自信があったのか、【移空】や【標転】の準備はしていないようで、諦観の表を見せた。
「これで、一件落著かな……」
ウィリアムはガントロイトを拘束し、ようやくといったじで薫は座り込む。
張狀態から解放されたからか、急激な眠気が……
「ぁ……これは……まず……ぃ……」
「カオル様!?」
「カオルッ」
朱に染まる床に薫は倒れこみ、クラリスとウィリアムは駆け寄った。
遠のく意識は、二人の聲を反芻させて――
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