《【新】アラフォーおっさん異世界へ!! でも時々実家に帰ります》第8話『おっさん、魔と戦う』後編
「うえぇ……なんかの辺りがムカムカする……」
敏樹はかなくなったゴブリンを見下ろした。
「俺が……殺した……んだよな?」
醜悪な姿をしているとはいえ、人に近い姿である。
その命を絶つという行為は、スライムを殺すことよりも遙かに忌避を伴うものであり、敏樹は想像以上の神的なダメージをけていた。
「うぷ……、この不快をなんとかする……スキル……!」
敏樹がタブレットPCを取り出してつぶやくと、畫面が自で『スキル習得』に切り替わり、〈神耐〉というスキルが表示された。
「これを、覚えれば……」
今にも吐きそうになっていたときは、わずかに震える手で〈神耐〉にチェックをれた。
すると、わずかに気分が楽になったような気がした。
「あ、レベルアップ……」
習得直後はグレーアウトしていたレベル表示がタップできる狀態になっていたので、すぐさまレベル2にあげたことでなくとも吐き気はなくなった。
それからしばらく呼吸を整えていると、數分ほどでレベル3に上げることができた。
「ふぅ……だいぶ楽になったな」
この短時間で一気にレベル3にまで上げることができたということは、それだけ強い神的な苦痛をけたということなのだろう。
さらに數分たつころには〈無病息災〉による神的なダメージの回復が行なわれたのか、すっかり平常心に戻っていた。
「こいつも解しとくか……」
都合10分ほどで立ち直った敏樹はゴブリンの死骸に近づき、すぐそばから見下ろしたが、先ほどのような不快を覚えるようなことはなかった。
その場にしゃがんでれると、死骸は瞬時に消え去った。
そして敏樹はすぐに〈格納庫〉にったゴブリンの死骸を解する。
「……意外と平気なもんだな」
〈格納庫〉の収納を把握できる覚は、言葉にするのが難しい。
頭の中で思い浮かべているのと実際に目で見えていることのちょうど中間のような覚とでもいえばいいのだろうか。
そして収納に関してはいろいろな角度から細部まで確認することが出來た。
『分解』機能を使って解されたゴブリンは、一瞬でや骨、皮、そして魔石などになったが、その過程が見えなかったのがよかったのか、いま呟いたとおり意外と平気であった。
解されたあとのや皮は適當な大きさに切り分けられて整頓されたので、例えばなどはスーパーに並んでいるブロックとさして変わらぬ印象である。
ただし、みるからに不味そうなではあるが。
ひとまとめにされた臓類はさすがにしグロテスクではあったが、ホルモンだと思えばなんとかスルーできた。
「……1回帰るか」
ゴブリンを倒し、予想以上の疲労をじた敏樹は、一度に戻ることにした。
**********
「どうせならカセットコンロがしかったよなぁ……」
フライパンで山菜やキノコを炒めながら、敏樹はし不満げにつぶやいた。
に戻った敏樹は、り口のすぐ外にスコップで淺めのを掘り、周りに石を並べて簡易のかまどのようなを作っていた。
そこに拾ってきた枯れ枝をれて火をつけ、その上にフライパンを置いているのだった。
「しっかし、魔ってのは便利だね」
敏樹は數あるスキルの中から、100億ポイントを使って〈全魔〉というものを習得していた。
それはこの世界に存在するすべての魔を使えるようになるというもので、現存するはもちろん、過去に失われたものも使用可能であり、さらに新しい魔が開発されるとそれもすぐに使えるようになるというとんでもないスキルであった。
その魔の中に【點火】という魔があったので使ってみたところ、見事火をつけることに功したのだった。
「よし、こんなもんでいいか」
フライパンの上にはとりどり……というにはし地味だが、數種類の山菜とキノコが油で炒められ、ほどよく焦げ目がついていた。
味付けは塩こしょうのみである。
油の絡んだ食材から、いい香りが漂っていた。
「では、いただきます」
左手にフライパンを持ち、右手の親指に箸を挾んだ狀態で拝むように食事の挨拶を終えた敏樹は、箸を持ち替えたあとフライパンの上からダイレクトに料理を取り、口に運んだ。
「おう、イケるなぁ」
日本ではお目にかかったことのない山菜やキノコ類であったが、味や食、香りにそれほど大差はなかった。
取れたての食材にシンプルな味付けというのは間違いではなかったようだ。
ちなみにこれらの食材が無毒であることは『報閲覧』で確認済みである。
「ふぅ……、食った食った」
結構な量の山菜を平らげた敏樹は、満足げにつぶやいた。
「しかし、こうなるとがしいよなぁ。あと米も」
米はともかく、に関して言えば現在〈格納庫〉にゴブリンのがあるにはある。
しかしこの世界においてゴブリンのは食用に適さないとされており、使い道と言えば乾燥して砕するなり、糞尿に混ぜて発酵させるなりして料するぐらいのものであるらしく、たいていの場合は焼卻処分されるそうだ。
「ま、そのうち見つけりゃいいか」
そう言いながら立ち上がった敏樹は、そのままに戻ると寢袋にくるまって眠りにつくのであった。
**********
敏樹が異世界に飛ばされて10日ほどが経とうとしていた。
彼はいま、右手に斧を、左手に金槌を持ち、森の中を歩いている。
斧には牛刀が、金槌には出刃包丁が、それぞれ先端から飛び出るように取り付けられていた。
あれから敏樹は數えるのも馬鹿らしくなるほどの戦闘を経験していた。
の周囲1キロメートルほどはほとんど魔がいないか、いてもスライムやはぐれゴブリン程度なのだが、それより外に出ると驚くほどの數の魔がひしめいていた。
最初手にしたトンガ戟だが、スキルレベルの低い敏樹にとって接近された場合の対処がどうしても甘くなってしまうという弱點があった。
単のゴブリンであれば問題ないのだが3匹以上になるとどうしても対処しきれなくなり、結果〈格納庫〉から斧や金槌を取り出してがむしゃらに振り回し、難を逃れるということが何度か続いたのだった。
また、きの速い魔を相手にする場合も、小回りのきく武のほうが対処しやすいことがわかったので、斧と金槌に包丁を組み合わせて斧槍ハルバードもどきの武を作っていたのだった。
「こいよ犬っころめっ!!」
例えばいま姿を現した半人半犬のコボルトなどは、かなりすばしっこい部類にるだろう。
頭は完全に犬の形をしており、上半は人、そして下半は人とも犬ともつかないしいびつな型をしている。
どう考えても二足歩行には向かない形狀の下半であるにもかかわらず、コボルトは軽いのこなしであっという間に距離を詰めてくるのである。
「ガルルァァッ!!」
敏樹の間合いに素早くり込んできたコボルトが、手にした棒を振り下ろす。
そのきをある程度予測していた敏樹は、左手に持った金槌の柄でけると、そのままヘッドと柄に棒を絡めるようにして振り払った。
コボルトは素早いが力は弱く、ここ數日の戦闘や訓練でそれなりに鍛えられた敏樹にしてみれば、その攻撃など軽くいなせる程度の威力でしかないのだった。
「オラァ!!」
棒を持った手を振り払われ無防備な姿をさらけ出したコボルトの側頭部に、敏樹が勢いよく振り下ろした斧の刃が叩き込まれた。
「ギャウンッ……!!」
側頭部から斜めに叩き込まれた斧の刃は、コボルトの頭蓋骨を砕しながら目を破壊し、鼻のあたりまで食い込んで止まった。
脳を破壊されて即死したコボルトが力なく倒れ込んでくるのを、敏樹は蹴飛ばし、その勢いを利用して斧を引き抜いた。
コボルトの片や骨片がこびりついた斧を引き抜いた勢いでをよじった敏樹は、それを予備作とするようにを反転させ、その勢いを生かしつつ左手を橫薙ぎ振るう。
「ギャンッ!!」
すると、敏樹の左後背から忍び寄っていた別のコボルトの目を金槌の先端につけた出刃包丁の刃が切り裂いた。
そして敏樹はその回転を利用し、引き抜いた狀態で振り上げられたままだった斧を振り下ろすのだった。
「ふぅ……。これくらいならなんとか対処できるな」
最後に振り下ろされた斧の一撃は、そのまま振り抜くような形でコボルトの頭を砕しており、そちらも即死であった。
二丁の斧を扱う〈雙斧〉や雙剣という片手剣よりし短めの二本の剣を扱う〈雙剣〉、レイピアやエストックといった刺突に特化した剣を扱う〈細剣〉といった武系スキルを習得し、うまく組み合わせることで、敏樹はこの奇妙な形のオリジナル武をある程度使いこなせるようになっていたのである。
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