《【新】アラフォーおっさん異世界へ!! でも時々実家に帰ります》第5話『おっさん、ロロアを仲間に加える』
「やっほー。大下さんお久しぶりですー。おおっと、そちらが噂のロロアちゃんですかー? さっそく可いヒロインゲットとはやりますねー。このこのー」
タブレットPCのモニター上で、ビジネススーツにを包んだ、すなわち町田がニタニタと笑いながら敏樹をからかっていた。
「あの、トシキさん、この方は……?」
「町田さん。とにかくうっとうしい人」
「ええー大下さんひどーい! ぶーぶー」
「この方は、その薄い板の中に?」
「いやいや、これは離れた場所の様子を映すことができる道だよ。他にもいろいろできるけど、この町田さんはずっと遠くにいると思ってくれていい」
「はぁ……」
ロロアは分ったような分からないようなといった様子で首をかしげた。
「どうもー、ロロアちゃんはじめましてー、町田でーす」
「あ、はい、はじめまして」
「いや、相手しなくていいから。で、なんの用です?」
「ちょっとー、扱い悪くないですかー?」
「で、なんの用です?」
「むぅ……。ま、いいでしょう」
不満げな表を浮かべていた町田だったが、敏樹がノッてくれないと理解したのか姿勢と表を正した。
「大下さん、お困りではないですか?」
「なにがです?」
「ロロアちゃんがいなければ、ひとりでアジトに潛できるのになぁー、なんて?」
「む……」「うぅ……」
図星を突かれた敏樹は言葉に詰まり、自覚のあるロロアは申し訳なさそうにうつむく。
それを確認した町田は右手をに當て、左手を天に掲げて空を仰ぐようなポーズを取った。
「ああ、せめてしのロロアにスキル習得でもさせてやれればしは事態も好転するのにっ!! ……なんて?」
「しのって……」
「おや、しくないんです?」
「む……」
「っていうか、そこ突っ込むところじゃないでしょー」
「……できるんですか?」
「なにをでしょうかー?」
「いちいちとぼけんでくださいよ。ロロアにスキル習得、させてやれるんですか?」
「できますよ」
「……おねがいします」
敏樹はモニターの向こうにいる町田をしばらく見つめたあと、深々と頭を下げた。
「はい。ではタブレットPCの『パーティ編』機能を実裝しまーす」
「パーティ編?」
「そのまんまの機能ですよー。メニューから『パーティ編』を起したあと、カメラにロロアちゃんを収めます。あとは確認畫面で『はい』をタップ。これでロロアちゃんも大下さんのパーティメンバーになれるのでしたー」
「パーティメンバーになれば『スキル習得』ができる?」
「その通りでーす」
敏樹はちらっとロロアのほうを見た。ロロアはいまいち事態を飲み込めず、敏樹の視線をけても困ったように首をかしげるだけだった。
「……ありがとうございます」
「はいはーい。じゃあこの先も頑張ってくださいねー」
「あ、待ってください」
「なんです?」
「なんでここまで力になってくれるんですか?」
「……まぁ、大下さんの活躍を見るのが楽しいから、ということでいいんじゃないでしょうかー?」
「……ってことは、俺の行をいつも見てるのか、アンタ」
「あ……いや、そのー……あはは……」
「こののぞき魔めっ!!」
「いや、あの、違うんです!! プライベートな部分はちゃんと見れなくなってるんですよ? 大下さんの家とか、ロロアちゃんのテントとかー。それに野営のテントなんかもー。この先宿屋を借りてもそこは覗かないでーす」
「……まぁ、最低限そこが守られてるならいいですよ。いろいろとお世話になってますし」
「やー、大下さん理解があって助かりますー」
「今後も家の中とかはマジでやめてくださいね」
「わかってますよー。なので、大下さんに大切なお願いがあります」
そこで急に町田が真面目な表になった。
出會って以降、八割以上ふざけた態度であり、殘り二割も素になっているという程度で、ここまで真剣な表の町田は、初めてかもしれず、いささか張しながら敏樹は彼の言葉をまった。
「大下さん」
「はい」
「ロロアちゃんといいじになったら是非一度青カ――」
「セクハラだコノヤロー!!」
そうびながら敏樹はモニターの『切斷』ボタンをタップし、通信を切った。
「ったく、素直に謝させてくれよな……」
「あの、トシキさん、大丈夫ですか?」
「……うん。大丈夫」
大きく肩を落とした敏樹だったが、気を取り直してタブレットPCを作し始めた。
「ところで、さっきの人はなんでトシキさんのことオーシタさんって?」
「ああ、大下ってのは俺の家名だよ」
「え、トシキさんってもしかして貴族さんですか?」
「ちがうちがう。俺の故郷じゃみんな家名があるんだよ」
「そうなんですね」
「そうなんですよ……っと。じゃあロロア、こっち向いて」
ロロアに返事をしながらタブレットPCを作していた敏樹は、新たに実裝された『パーティ編』メニューを開いた。
メニュー選択と同時にカメラモードに切り替わったタブレットPCの背面レンズをロロアのほうに向けると、《ロロア をパーティに加えますか?》と表示された。
対象の名前は『報閲覧』で読み取っているのだろう。
「はい、チーズ」
「?」
初めて聞くかけ聲に首をかしげるロロアをよそに、敏樹は畫面上の《はい》ボタンをタップした。
「特に変化はなしか……。ロロア、なにか変わったことってある?」
「ん? 別になにも」
「そっか。じゃあ次にスキル習得……おお」
メニューを『スキル習得』に変更したところで、ロロアのスキルツリーと所持ポイントが表示された。
「ほうほう、ポイントがかなりあるな」
ポイントは経験に基づくのきによって獲得できると、町田は説明していた。
40年という長い期間を経て貯めたものもあれば、敏樹と出會っていろいろと経験したことで得たポイントもあるのだろう。
まずは現在習得済みのスキル一覧に表示を切り替えてみる。
さすが狩猟を行なっているだけあって〈弓〉〈気配察知〉〈気配遮斷〉〈忍び足〉といったスキルを、ロロアはそこそこのレベルで習得していた。
その辺りを上手くばしつつ、新たに隠系スキルを習得させてやれば今回の人質救出作戦は功に一歩近づくはずである。
そのためには、まず本人の意思を確認しておく必要があるだろう。
「ロロア、君の人生を俺に預けてもらってもいいかな?」
「へ? ……えぇっ!?
敏樹の言葉に、ロロアがあたふたとうろたえ始めた。
「わ、私のじじ人生を、ト、トトトシキさんに……? あわわ……その、あの……ふつつかものですが……その……」
「っ!? あーごめんっ! ……もうし詳しく説明するわ」
そこまで聞いたところで敏樹は誤解されても仕方のない言い方をしてしまったことに思い至った。
「えーっと、あれだ、そう『祝福』!!」
「え、祝福? 私たちの、ことを……? 誰が?」
「いや、そうじゃなくて、『加護』とか『祝福』とかの祝福だよ」
「あ、あー……、はい。『祝福』……」
そこでロロアのテンションが一気に下がったのを気にしつつも、敏樹は説明を続けた。
「そう、その『祝福』を、俺は與えることができる」
「はい?」
それはそれで驚きだったようで、ロロアは再び間抜けな聲を上げてしまう。
「俺が與えた『祝福』が、君のこれからの人生に大きく影響することになると思う。だから、“人生を預けてほしい”と……」
「あ、あー……そういうこと、ですか」
ロロアは落膽したような、しかしどこかほっとした様子で軽くため息をついたあと、口元を引き締めて敏樹のほうに向き直った。
「それでトシキさんのお手伝いができるんですよね?」
「そうだね」
「わかりました。ではトシキさんに私の人生を捧げます」
「さ……捧げ……?」
「あ、いえっ、その、預けます、です。お預けしますっ!!
「お、おう。じゃあお預かりします」
微妙な行き違いはあったものの最終的に話がうまく落ち著いたところで、敏樹はロロアのスキルを作していった。
「今回俺はこっそりアジトに忍び込んで、できるだけ誰にも見つからないように行したいと思ってる。だから、隠系の技能をばしたいんだけど」
「はい、お任せします」
「うん。まぁこの手の技能は今後狩りなんかでも役立つと思うし。決して今回限りで使い道がなくなるようなものじゃないから安心して」
「はい。大丈夫です。トシキさんを信じてますから」
「そ、そうか、うん。ありがとう」
さすがに一億ポイントを要する〈影の王〉の習得は不可能なので、手持ちのスキルをばしつつ、最低限必要になりそうなものを習得させていく。
まずは元々持っている〈気配遮斷〉や〈忍び足〉などはすぐにスキルレベルを上げることができたので上げておいた。
さらに〈擬態〉や〈臭気遮斷〉など、五での察知を阻害するスキルを習得させる。
魔の中には魔力を探知するものもあるので、〈魔力遮斷〉も習得させておいた。
萬が一戦闘になった場合のため〈弓〉スキルのレベルを上げ、さらに〈短剣〉を習得させてサバイバルナイフを持たせた。
素手での対処も可能なように〈格闘〉も習得させておく。
スキルというものは習得したからといって即座に使いこなせるわけではないが、それでもあるのとないのとでは大違いなのである。
「へええ、〈格納庫〉の共有ができるのか」
パーティメンバーに対しては、〈格納庫〉の一部をパーティションで區切って共有スペースとできることが判明した。
「わ、すごい……。これが【収納】ですか?」
取り出そうと思っただけで突然手の中にコンパウンドボウが現れたことに、ロロアは驚きの聲を上げた。
「ま、似たようなもんだ」
そこでコンパウンドボウや矢筒、ライオットシールドなどを共有スペースにれ、いつでも出せるように軽く練習してもらった。
他にも水や食料、タオル類など使えそうなものをれておく。
「あとは……、“彼を知り己を知れば百戦殆うからず”ってことで」
敏樹は『報閲覧』を使ってアジトの場所とそこに至るルート、現在のアジトの様子、防衛制、人員とその能力などをできるだけ分析し、さらに必要になりそうなスキルを自とロロアとで習得していった。
「出発しようか」
「はい」
準備が整ったところで、ふたりはアジトを目指して歩き始めた。
アジトと舊易路とを隔てる森を進んでいるうちにすっかり日も落ち、辺りは真っ暗になった。
時刻にして午後八時ごろだろうか。
「ロロア、常にを隠すこと意識するんだ」
「はい」
隠系のスキルは集中することで発し、その間魔力を消費する。
敏樹は〈影の王〉の一部の能力だけを発させて魔力の消費を抑えているが、ロロアには全力で隠系スキルを発してもらっていた。
作戦の功率を高めるため、この行程でしでもスキルレベルを上げようという算段である。
森の中の道なき道を歩いておよそ三時間。遠くにアジトらしきものが見えてきた。
このルートは『報閲覧』が導きだした最短かつ安全なルートである。
実際に山賊団が使っている道に比べても半分近い時間で到著できた。
タブレットPCを頻繁に見ながらでないとたどり著けないような、非常に迷いやすそうなルートであった。
「よし、一旦ここを拠點に追加するか」
アジトにそこそこ近いこの場所を拠點に設定することで、何かあったとき自前の魔力だけで〈拠點転移〉を発できるようになる。
仮に撤退となったとき、ここまで飛べればあとはうまく逃げ切れるはずだと敏樹は考えていた。
「よし、じゃあ寢るか」
「え? ここまで來て?」
「ここまで來たからだよ。おそらく明け方し前が最も敵の警戒が薄れる時間帯だろうから、休憩もかねて一度寢ておいた方がいい」
これは過去に観賞したアニメやスパイ映畫などの知識を総員したうえで導き出した予測である。
それに、ずっと隠系スキルを発し続けていたロロアは、自覚していないが力や魔力をかなり消耗しており、休息は必須だと思われた。
ただ、その努力の甲斐あって、各スキルはそこそこレベルアップしている。
「はやる気持ちはわかるし、いまは眠くないかも知れないけど、功率を上げるために必要なことだと思ってほしい。俺たちがここで焦って失敗したら、中にいる人たちがどんなひどい目に遭うか分らないからな」
「……わかりました」
敏樹は【結界】という魔を使用し、ふたりの周りに安全地帯を作り上げた。
かなり高度な魔であり、消費魔力は100ポイント超え、つまり敏樹の自前の魔力すべてを使っても足りないレベルのものである。
水人からもらった魔力があって初めて使える魔だった。
「じゃあ、時間になったら起こすから、ちゃんと眠るように」
「はい」
テントを立てるスペースがなかったので、各々地べたにし厚手のウレタンマットを敷き、その上に寢袋を敷いて寢転がった。
【結界】という魔は消費魔力量が大きいだけあって、範囲への敵の侵を防ぐだけでなく、雨風をしのいだり溫度や度管理までできるという非常に優れた魔である。
寢転がった直後はもぞもぞと何度も寢返りを打っていたロロアだったが、疲れたで快適な空間に寢転がったおかげか、間もなく寢息を立て始めた。
「おやすみ」
ロロアが寢ったのを確認した敏樹は、彼に聞こえないのを理解しつつも優しく聲をかけ、自も眠りにつくのだった。
ひねくれ領主の幸福譚 性格が悪くても辺境開拓できますうぅ!【書籍化】
【書籍第2巻が2022年8月25日にオーバーラップノベルス様より発売予定です!】 ノエイン・アールクヴィストは性格がひねくれている。 大貴族の妾の子として生まれ、成人するとともに辺境の領地と底辺爵位を押しつけられて実家との縁を切られた彼は考えた。 あの親のように卑劣で空虛な人間にはなりたくないと。 たくさんの愛に包まれた幸福な人生を送りたいと。 そのためにノエインは決意した。誰もが褒め稱える理想的な領主貴族になろうと。 領民から愛されるために、領民を愛し慈しもう。 隣人領主たちと友好を結び、共存共栄を目指し、自身の幸福のために利用しよう。 これは少し歪んだ気質を持つ青年が、自分なりに幸福になろうと人生を進む物語。 ※カクヨム様にも掲載させていただいています
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