「なるほど、〈神耐〉のレベルを上げると、神的ダメージの回復につながるのか……」

再度グロウの家で眠らせてもらったあと、目覚めた敏樹は救出したたちをなんとかできないか考えあぐねていた。

そして、そのヒントはシーラにあると考えた。

シーラはたちの中で最も酷い狀態だった。

的には言うまでもないが、神的なダメージも相當酷かったはずである。

実際回復前に敏樹が近づいたときは、相當怯えていたのだ。

それが昨夜は當たり前のように話し、嫌悪と恐怖の対象の男である敏樹に後ろからとはいえ抱きついていたのである。

となれば考えられるのは回復の【癒しの】か、回復の過程で襲い來る激痛を耐えるために與えたスキルのどちらかが有効に作用したのだろう。

そこでまず敏樹は、神的なダメージを癒やすのに役立つ回復がないかを『報閲覧』で調べてみたのだが、殘念ながらいまだ回復は人の心を癒やすには至らないらしいことがわかった。

的な傷を治すことで間接的に神を癒やすことはあっても、傷ついた神に直接作用する魔はないらしい。

ならばあとはスキルだろうとさらに調査を進めた結果、〈神耐〉のレベルを上げることで神的なダメージの回復につながるという報を得ることが出來たのだった。

『報閲覧』によれば、神にけた傷も同様放っておけば自然に回復するものらしい。

しかしと違って神というのは意図的に休めるのが困難だという。

例えば辛い経験をした人は、むとまざるとにかかわらず、その辛い経験を思い出してしまい、思い出す度にまた神が傷ついていく。

その辛い記憶を思い出しても傷つかないだけの耐を手にれてしまえば、後は時間とともに壊れた神は癒やされるのだとか。

「へええ……」

ただし、これら神云々の話はこちらの世界にしか通用しないことかもしれない。

『報閲覧』はあくまでこちらの世界の報を網羅しているに過ぎないのだ。

魔法というものが存在し、その影響をけながら歴史を紡いできた人類と、まったく異なる文明とともに発展してきた元の世界の人類との間で、神構造に本的な差異があっても不思議ではない。

「トシキよ、そろそろよいか？」

「あ、はい。大丈夫です」

グロウに促されて立ち上がり、彼について家を出ると、そこにはロロアが立っていた。

「あ、あの……トシキさん。みんなから伝言が」

「みんな？」

「トシキさんが山賊から助けた――」

「ああ、俺たち・・・が助けた、な。えっと、伝言って？」

「“ありがとうございました”と」

「ん？」

「その……、みんな、まだトシキさんにお禮を言ってないというか……言えないというか……。だから代わりに伝えてほしいって」

あのとき。

アジトに囚われていた人たちを助けて集落に著いたとき。

彼たちは怯えるように怖れるように遠巻きに敏樹を見ていた。

しかしいま思い返すと、皆一様に戸いがあったように思える。

それは恩人である敏樹に禮のひとつも言えないことに対する申し訳なさのようなものではなかっただろうか。

「そうか……」

別に謝されたくて彼たちを助けたわけではない。

ただ見過ごせなかったというだけのことだった。

だとしても、この先ずっと彼たちにそのような想いを抱かせたまま過ごさせるというのは、どうにも後味が悪い。

せっかく助けたのだ。どうせならこの先いい人生を送ってもらいたいものだ。

「あの、ところでこれは……？」

家の前の集會場に、そこに集落の住人の、おそらく全員が集まっていた。

その八割ほどが蜥蜴頭であり、その蜥蜴頭の水人が數十人ひしめき合っているというのはなかなかに壯観であった。

「うん。ちょっとみんなに集まってもらって――、そうだ。悪いけど彼たちも呼んできてくれないかな」

「わ、わかりました」

々しい雰囲気と、どこか真剣な敏樹の様子に押され、ロロア場慌てて自分のテントへと走った。

「トシキ殿、全員集まっています」

集合した住人の中から、ゴラウが進み出てそう告げた。

「わかりました。し待ってください」

しばらく待ち、ロロアがたちを連れて住人のし後ろに待機したのが見えた。

たちはただ事では無い雰囲気をじ取って怯えてはいたが、ロロアが彼たちの神的な支柱になっているのか、なんとか踏みとどまっていた。

「みなさま、お世話になっております。トシキです！」

たちがそろったところで、敏樹は全員に聲が屆くよう、まずは挨拶をした。

どこか場違いな挨拶ではあったが、普通の社會人にできるのはこれが一杯だろう。

「先日俺とロロアで山賊のアジトに忍び込み、一部人質のみなさんの救出をしたのはご存じかと思います」

住人たちがどよめく。

敏樹自はグロウとゴラウ、帰還時にゴラウとともにいた一部の住人に対してのみ正式に報告していたが、狹い集落なのでその事実は全員が知っていた。

「それ以降、俺が調べた山賊たちの狀況をお知らせします」

そこで敏樹は、昨日ふらふらになりながら調べ上げた報を朗々と話し始めた。

未だ囚われているゲレウたちに危害を加えられていないこと、今回の救出劇と集落との関連はまだ疑われていないことなどである。

「連中がくにはまだ時間があると思います。なのでそのあいだ、しっかりと準備を進めましょう。そのお手伝いはさせてもらいます。なので時が來たら――」

そこで言葉を區切り、敏樹は集まった人たちをぐるりと見回した。

そして大きく息を吸う。

「山賊団・森の野狼を叩き潰しましょう！！」

おおー！！　とゴラウを中心とした十數名の住人から歓聲があがる。

しかし大半の住人は不安のほうが大きいようで、戸うように互いを見合ったり、敏樹を伺ったりしていた。

「みなさん。何が不安ですか？　アジトの場所がわからない？　俺とロロアはそのアジトに潛しました。誰にも気付かれずにたどり著ける方法もルートもわかっています」

その言葉に、住人の間からざわめきが起こる。

そう、いままでこの集落が森の野狼に逆らえなかった最大の要因はそこにあった。

何度か一部の武闘派が集落から帰る山賊一味を追跡して襲撃をかけようとしたのだが、なぜか事前に察知され、森のゲリラ戦で撃退されていたのである。

そのときに多くの住人が囚われ、あるいは命を落としたため、それ以降はほぼ言いなりの狀態であった。

しかし敏樹とロロアは実際にアジトへ忍び込み、十數名の人質の救出に功しているのだ。

これは、はったりでも何でもないのである。

「武が足りない？」

そう言ったあと、敏樹は予備も含めた片手斧槍４丁、トンガ戟２丁、ダガーナイフ８本、コンパウンドボウ５張と矢を百本以上、なんとなく使えそうだと思って持っていたサバイバルナイフなどを〈格納庫〉から取り出し、地面に並べた。

「俺が用意しましょう！　戦い方も俺がなんとかしましょう。というか、そもそもみなさんが本気になれば２００人そこらの山賊団なんてひとひねりでしょう」

それもまた事実である。

人の能力は人類を遙かに上回るのだ。

多の犠牲を覚悟するのなら、５０人いれば素手であっても制圧できるはずである。

「あとは……連中の後ろにいる奴らが怖いですか？」

これも大きな懸案事項である。

森の野狼のバックには、なにやら大きな権力がひかえているようだった。

そこを下手に刺激することで、人と人類とが敵対するようなことになっては困るのだ。

「ご心配なく。この世界にあるどの國も、人のみなさんを害することは法でじられています。である以上、義は俺たちにあるんです」

これも『報閲覧』によって調べ上げた事実である。

人を害しようなどというのは、人類のでもごく數であり、だからこそそういった連中は山賊などという非合法な組織を使わざるを得ないのだ。

「森の野狼を殲滅すればそのバックにいる連中は當分の間けません。それに、どういう人や組織が後ろにいるかもすべて調べ上げています。なら、そういった連中が妙なきを見せたら、片っ端から潰していけばいいだけです」

そこでもう一度敏樹は集まった人たちをぐるりと見回した。

「もう一度言います。森の野狼を潰しましょう！！

『おおおおおおおおおぉぉぉぉぉ！！』

怒濤のような歓聲が上がった。