ロロアのテント近くの空き地にたちが並んでいた。

先ほどの集會が終わり、ある程度住人たちの熱が収まったところで、敏樹の指示によりロロアが彼らを集め、橫一列に並ばせていたのだった。

これから何が起こるのかと戸っているも多いが、こちらに來てから彼らをかいがいしく世話したロロアに対するたちの信頼は篤い。

戸いはするが、不平を言う者はひとりもいなかった。

そのたちの背後、彼らに気付かれないし離れた位置に立つ敏樹は、タブレットＰＣを構えていた。

ひとりひとりカメラに収め、パーティに加えていく。

別に正面からでなくとも個人を特定でき、パーティに加えることは可能だった。

あとはそれぞれの〈神耐〉レベルをあげていく。

レベルの差はあれど、全員が〈神耐〉や〈苦痛耐〉のスキルを習得していたことに、敏樹は軽いの痛みを覚えた。

しかし傷に浸っている場合でもなく、冷靜にタブレットＰＣを作して各人の〈神耐〉レベルを上げていく。

レベルの差はともかく、全員がレベルアップ可能な狀態であった。

『レベルアップ可能な狀態』から次の段階にスキルレベルを上げるという行為だが、本來これには相當な努力や経験、時間が必要なであるらしいことが、敏樹には最近わかってきた。

この『レベルアップ可能な狀態』というのは、努力や才能の壁にぶつかっている狀態といえる。

本來はそこに到達してから、さらに多くの時間をかけて努力や経験を積み重ね、人はようやくスキルレベルをアップさせるのである。

人によってはそこが才能の限界となり、一生かけてもレベルアップできないということもあるだろう。

しかし敏樹はタブレットＰＣを使ってトントンと畫面をタップしていくだけでその壁を越えることが、そして越えさせてやることが出來るのである。

これこそ敏樹が手にれた最大のチート能力といっていいのかもしれない。

「１０００億ポイントは伊達じゃないな」

たちの中にはなにやら首をかしげたり、辺りを見回したりと、自のに起こった何かしらの変化に気付く者が數名いた。

まったく様子の変わらない者もいたが、レベルの高い者ほどその変化をじ取っているようだった。

「さて、ここからだな」

スキルレベルをひとつあげたぐらいで彼たちの神が復調に至るとは限らない。

可能な限りレベルをあげてやりたいところだが、そうなるとスキルの経験値とでもいうものを積ませてやる必要がある。

「〈神耐〉スキルのレベルを上げるには……、神的な負荷を與えてやる必要があるのかぁ…………」

憂げにため息をついた敏樹だったが、ここまで助けた以上最後まで面倒を見るのは自分の役目だろうと覚悟を決めた。

そのプレッシャーのせいか、彼の〈神耐〉スキルも『レベルアップ可能な狀態』になっていたので、ついでに上げておいた。

「お、ちょっとだけ、楽になったかも」

そう呟きながら、敏樹はタブレットＰＣを片手にたちのほうに向かって歩いていく。

「みなさんに大事なお話があります」

橫一列に並ぶたちの背後から、敏樹が聲をかけた。

『――っ!?』

程度の差はあれど皆一様に驚き、各々恐怖、あるいは嫌悪の表を浮かべて後ずさる。

アジトで救出されたときは真っ暗で周りがほとんど見えなかったことと、なにより助かるかも知れないという希が恐怖に勝っていたため、誰も欠けることなく敏樹にれることができたのだが、いざ助かって落ち著いてみると、男に対する言いようのない恐怖や嫌悪は隠すことも出來ないようだった。

それでもいま目の前に現れた男が自分たちを救ってくれた張本人であり、憎き山賊を討伐するために立ち上がったのだとわかったところで、なくとも嫌悪の表を浮かべる者はいなくなったが、男に対する恐怖だけはどうにもならないようである。

「みなさんが俺を怖がっている……、というか、男を怖がっているということはわかっています」

敏樹はたちに語りかけ、自分が彼らの力になりたいこと、そして力になれることを言って聞かせた。

しかし長年多くの男たちから酷い目に遭わされ続けたたちの信用を得るのは難しい。

たとえ恩人であってもだ。

こうやって敏樹と向かい合っているだけでもそれなりの神的ストレスになるようで、幾人かはこれだけでスキルレベルを上げることはできた。

しかし一定以上は上がらないようであり、彼たちが立ち直るにはもうし高いレベルが必要であると『報閲覧』は答えるのだった。

「みんな。この人は信頼に足ると、あたしは思うけどね」

そんな中、援軍は思わぬところから現れた。

シーラである。

「あたしがどんなだったか、みんな覚えてるよね」

たちは信じられない者を見るような目でシーラを見ていた。

し前までのシーラの狀態を知っているだけに、いま當たり前のように立って歩き、普通に話せていることが信じられないようである。

「あたしはこの人に、トシキさんに救われた。も心もね」

そう言ってトシキのすぐ橫に立ったシーラは、トシキの肩にポンと手を置いた。その様子に、たちの間からどよめきが起こる。

それもそのはずだろう。

自分たちの中で最も酷い狀態だったがシーラが、あろうことか男のすぐそばに立ち、軽くとはいえれているのだ。

たちの雰囲気が変わったことをじた敏樹は、一歩前に進み出た。

「ここから先、無理強いはしない。今のままでも時間が経てばある程度心の傷は癒やされるだろうしね。でも、シーラのようにしっかりと立ち直りたいのなら、これからどう生きるのかという問題に向き合ってほしい」

そう言ったあと、敏樹は地面にし大きめの円を描き、その中に椅子を二腳、向かい合うようなかたちで設置した。そして円を境界にした【結界】を張り、〈音遮斷〉の効果を付與する。

そして〈格納庫〉から鍋とお玉を取り出し、お玉で鍋底を叩いてカンカンと音を鳴らした。

「この円の中にったら、外には音がれない」

敏樹は鍋底を叩きながら鍋とお玉を結界にれた。そして敏樹の言ったとおり、カンカンと耳障りな音を立てていた鍋底は一切音を発しなくなる。

「この円には出り自由だ。周りにはみんないる。でも話している容は聞こえない。もし俺と話している様子を見られたくないというのなら――」

敏樹は結界に〈擬態〉の効果を付與すると円の中にあった椅子が消えた。正確には見えなくなったというべきか。

「こうやって周りから見えなくすることもできる。ちなみに中から外はちゃんと見えるから安心してほしい」

〈擬態〉が解除され、二腳の椅子が再び姿を現す。

「この中で、俺と一対一で會話をしてもらう。それで、まぁ男に慣れてもらおうかってじかな。誰からでもいいから心の準備が出來た人から來てほしい」

「あの……」

敏樹が円にろうとしたところで、ひとりのが聲をかけてきた。

大柄なボサボサ頭ので、確か熊獣人で名前はベアトリーチェといったか。

明るい茶の髪はび放題でかなり傷んでおり、頭にあるはずの熊耳がゴワゴワの頭髪に隠れてしまってあまり見えない。

びた前髪のから小さくつぶらな瞳が見え隠れしていた。

「なに？」

「なにを、話せば……いいんですか？」

「なんでもいい……じゃ、逆に話しづらいか。じゃあこの先どういう人生を送りたいか、とか、子供のころ何になりたかったとか、夢語でいいからさ、自分がこうありたいっての聞かせてもらえると嬉しいかな」

「わかり……ました……」

こうして敏樹のカウンセリングが始まった。

タブレットＰＣを片手にたちの話を聞きながら、彼たちの〈神耐〉レベルを上げつつ、要に合いそうなスキルも習得させていった。