《【新】アラフォーおっさん異世界へ!! でも時々実家に帰ります》第12話『おっさん、裝備を整える』

敏樹が山賊討伐宣言を出し、たちのカウンセリングを始めてから十日ほどが経った。

彼はときおり実家に帰っては武になりそうなを持ち込み、集落にいる間は一日の半分を住人の強化に、殘りの半分をたちのカウンセリングに努めた。

この期間に持ち込んだ武類だが、長柄の農10丁、鉈、斧、金槌が各10丁ずつ、ミリタリーマチェット20本、サバイバルナイフ30本、コンパウンドボウ20丁に矢を500本、それとは別に狩猟用の鏃を千個ほど調達できた。

まず長柄の農は分解して柄だけを使い、ダガーナイフやサバイバルナイフを組み合わせて簡易の槍や長柄刀を作った。

これらは戦いが終わったあと、一部は農に戻す予定だ。

元々あった農の柄や、切り出した木を加工して新たに柄を作るなどして、50本近い槍の製造に功していた。

砕石用の金槌や薪割り用の斧はそのまま使う者もいたが、例えば農の柄を合わせてポールアックスや長柄のメイスのようなを作っている者もいた。

人の手で振り回すのは困難な代だが、膂力に優れた水人にとっては軽々扱えるものらしい。

もっと早く山賊団がき始めると思って慌てて長柄の農などを用意していた敏樹だったが、山賊団は先日集落を訪れた2人が帰ってこないことを不審に思いつつも、どちらかといえばたちが消えたことのほうを重視しており、アジトの設備點検や裏でつながりのある人や組織への連絡などにかなりの人員と時間を取られていた。

これは敏樹にとって嬉しい誤算だった。

たちも最初の頃と比べて見違えるほど狀態がよくなっていた。

たちは、神的ダメージはもちろんのこと、的にもかなり傷つけられており、そういった傷を『報閲覧』で解析しながら適切な回復を使って治療することで、それがうまく神に作用することも多く、みんな思ったよりも早く回復していった。

「トシキさん見てくださいよ! 髪さらっさらですよ、さらっさら!!」

そう言いながら長い茶の髪を自慢しているのは熊獣人のベアトリーチェである。

以前敏樹がロロアに買ってやったシャンプーとコンディショナー、それにトリートメントを使ったところ、ゴワゴワだった髪質が幾分かマシになったのだ。

それから毎日のように手れをしていたら、隨分とよくなったらしい。

「あー、うん。よかったな」

元々の髪質がかなりそうなのでさらっさらというのはし違うような気がしないでもないが、當初よりはかなり綺麗な髪になっているし、何より本人が満足しているので問題ないのだろう。

「あ、トシキっちー、おかげさまで手が荒れずにすんでますよぅ」

浣熊アライグマ獣人のラケーレが水場で洗濯をしながら敏樹に聲をかけてきた。

種族の特なのか個人の嗜好なのかは不明だが、彼は食洗いや洗濯などを進んで行なっていた。

綺麗になるのが嬉しいのか、敏樹が日本から持ち込んだ洗剤はもちろん、漂白剤まで使って素手で洗いをしていたので、手がかなり荒れていた。

『あのなぁ、洗剤はまだしも、漂白剤につけたやつはれずにまず洗い流せって言ってるだろう?』

『でもぅ……、これつけてゴシゴシすると真っ白になるんですよぅ』

『それでこんなに手をボロボロにしてちゃだめだろうが』

『えへへ……トシキっちが治してくれるからぁ』

『あのなぁ……。いつまでも俺が面倒見てやれるわけじゃないんだからな?』

獣人であっても人である以上、金さえ用意すれば魔だろうが回復だろうが習得は可能であるが、それは庶民がおいそれと出せるような額ではない。

敏樹であればタブレットPCでちょいちょいとチェックをれるだけで習得させてやることも可能だが、魔は魔師ギルドが、回復は治療士ギルドが厳しく管理しており、モグリで魔や回復を習得していることがギルドにばれると大変な目に遭うのだ。

ここにいる間は覚えさせてやってもいいが、敏樹の手を離れるときにはチェックを外す必要がある。

『次からはこれ使え』

と、敏樹がゴム手袋を渡して以降、ラケーレはゴム手袋をして洗いをするようになり、手が荒れることもなくなった。

たちは皆すでにローブではなく普通の服を著ている。

元々村にあった素材や、敏樹とロロアが狩っていた魔や獣の革を使って作られたものである。

中には敏樹が日本で買ってきた服をリサイズ、あるいはリメイクしたものもあった。

「ねぇ、強調しすぎじゃないかなぁ?」

「アホかっ! そのを隠すのはむしろ罪やで」

「せやせや! コルセットベストっちゅうんはファランのためにあるような服やでぇ」

一人のの周りを、背の低い二人がくるくるとき回っていた。

ファランと呼ばれたのは商人を父親に持つヒト族のである。

碧眼で長は160センチ前後。

どこかさの殘る顔とは裏腹に、らしい大きなと、しなやかで長い手足の持ち主である。

その周りをくるくるとき回っているのはドワーフの姉妹で、姉のほうがクク、妹はココという。

ドワーフのは手先が用で、製や革細工を得意としているため、敏樹によってそのスキルをばされ、現在はたちの服を製作している。

「うーん。ボクにこんなの子らしい格好は似合わないよー」

「あのなぁ。ウチの知っとる中で、ファランほどらしいの持ち主はおらんで?」

「せやせや。その格好がファランに似合わんのやったらそれが似合うなんかどこにもおらんわ」

「そうかなぁ……。あ、トシキさん!」

「おう」

「ねぇねぇ、このカッコどう? 変じゃない?」

そう言いながら、ファランは敏樹の前でくるりと一回転した。

現在ファランは、しゆったりとしたシャツにコルセットベスト、下はロングスカートという格好だった。腰回りをキュッと締めるコルセットベストのせいで、ゆったりとしたシャツの下にある大きなが強調されているように見える。

「うん。似合ってると思うよ」

「ほんとに? やったっ!!

「さっすが兄やん! 見る目あるでぇ」

「兄やんのそのもっさりした服もなんとかしたるからな」

「あー、俺のは後回しでいいよ」

「遠慮せんで、もう兄やんの裝備も用意してあんねん。ついでにロロアんのもな」

「ええっ!? 私のも?」

と、そんな流れで敏樹とロロアの替えがはじまった。

「お、ええやんええやん! 兄やんなんかシュッとしたで」

「せやなぁ。さっきのもっさりしたのんよりだいぶマシになったでぇ」

ククココ姉妹がぱたぱたとき回りながら敏樹に裝備を著せていく。

「お、おい。自分で著れるから」

「まぁまぁ照れんと」

「せやせや。ウチらみたいな可い子ちゃんが著せたってんねやから、じっとしとき」

対山賊戦に向けて姉妹が指揮を執りながら、集落の非戦闘員たちによって新たな裝備が作られており、どちらかといえば先ほどのファランの裝などはそのついでと言っていいのかも知れない。

「どやロロアん。兄やんの男前度がグッとあがったやろ?」

ちなみに“ロロアん”のアクセントはふたつ目の“ロ”である。

敏樹はククココ姉妹が作った異世界風の服の上から革の甲と手甲、すね當て代わりのロングブーツをにつけていた。

兜代わりのヘルメットは引き続き裝備する予定だが、いまはかぶっていない。

「あの、はい。すごく……その、かっこいい、です……」

「そ、そう。ありがとう」

ストレートに褒めるのが恥ずかしいのか、ロロアの聲が徐々にしぼんでいき、そんな調子で褒められた敏樹のほうも恥ずかしくなったのか、あらぬほうを見ながらポリポリと頬をかいていた。

「なんやんねんな、自分ら」

「あぁー、なんか背中ぃなってきたわ」

「あ、いや……。そうだ、それ、ちょっと裾短すぎないか?」

敏樹同様ロロアも著替えを済ませていた。

しくすんだカーキのワンピースの上から革の甲とフード付きの短いマントをにつけている。

手には前腕の大半を覆う指抜きグローブ、足には膝まであるロングブーツという裝備だった。

腰に巻いたベルトには、護用兼解用のナイフと小れ、そして矢筒が取り付けられている。

“ザ・弓使いってじだな”というのが、ロロアの格好を見た敏樹の印象だった。

ワンピースの裾はミニスカートレベルで太もものほとんどがわになっており、そこを敏樹は指摘したのである。

ちなみにロロアはマントのフードをかぶっているのだが、これまで著ていたローブのものに比べるとすこしサイズが小さいのか、フードの端をつまんでうつむき加減になっている。

「アホ抜かせぇっ! は生腳出してなんぼやろがいっ!!

「せやせや。シーラなんか見てみぃ。ケツ半分出とるやないかい! 出し過ぎいうんはあれのこっちゃで!」

「あーあれな。あれちょっと引くなぁ」

「ホンマになぁ」

「誰が誰の何に引くってぇ?」

「せやからシーラの半ケツにやなぁ…………あー、その…………男はメロメロ~って話を……」

「…………してたんやで?」

突然現われいきなり割り込んできたシーラの存在に最初は気付かず調子に乗っていたククココ姉妹だったが、途中からその存在に気付き話を無理矢理修正した。しかし――、

「はべらっ」「ぶべらっ」

そんなことでごまかせるわけもなく、シーラに鼻先を指で弾かれ、大げさに倒れるククココ姉妹であった。

「ったく」

シーラは呆れたように頭を振ったあと、敏樹とロロアの格好を見て心したように目を瞠った。

「へええ。いいじゃんふたりとも」

かくいうシーラはヘソ出しチューブトップと引くぐらい・・・・・裾の短いホットパンツ姿である。

「腳……出し過ぎじゃないかな……?」

「んー、いいんじゃない? ほらおっさんも鼻の下びてるし、効果は抜群だよ」

「誰の鼻の下が――」

「いつもの倍ぐらいになっとんなぁ」

「ほんまやなぁ。計畫通りやで」

「いやだから鼻の下なんて……ん? 計畫……?」

いつの間にか起き上がったククココ姉妹が、敏樹の両脇に立っていた。

「ロロアんの服は兄やんのために作ったからな」

「は、俺の……?」

「せやで。後ろを歩くロロアんが気になってふと視線を移したとき、白い生腳がバッチリ見えるように」

「ロロアんの後ろを警戒するとき、ふと前を見たらぷりんとしたおのラインがほんのちょっとだけ見えるように」

「「そこにウチらは命かけてデザインしとんのんじゃあぁー!!」」

と、ククココ姉妹が拳を握って意味不明な宣言をする。

「あぅ……」

敏樹とシーラはやれやれとばかりに頭をり、フードからわずかに覗くロロアの頬が真っ赤に染まる。しかしククココ姉妹の話は止まらない。

「ええか兄やん。ウチらはロロアんの長と兄やんの目線の高さを緻に計算した上で裾の長さを決めとんねや」

「せやで。兄やんの視點からやと見えそうやけど絶対見えへんという絶妙な長さやねん」

「うぅ……」

ロロアは片手でフードの端をつまんだまま、もう片方の手でワンピースの裾を持って引き下げようとした。

「ったく。もうちょっと裾長くしてやれ」

「嫌やっ!!」

「そこは絶対譲りまへんでぇ!!」

「いやいや、ロロアも嫌がっててるだろ?」

「そうなん!? ロロアんその服著るん嫌なん!?」

「ロロアん、兄やんに生腳見られんの嫌なん!?」

「え? え? あの……その……嫌じゃ……ないけど、でも、お見苦し――」

「そうなん!? 兄やん、ロロアんのむっちむちの太もも見苦しいん?」

「ロロアんのぷりんっぷりんのお、見苦しいん?」

「とんでもない!! そりゃ見事な……、あ、いや……その……」

「「ふむふむ」」

敏樹とロロアの間に並んで立ったククココ姉妹が腕を組んで心したようにうなずく。

そしてククはロロアのほうを、ココは敏樹のほうを向いた。

「ロロアんは見られて幸せ」

「兄やんは見れて幸せ」

そしてふたりは橫並びになり、拳を高らかに振り上げた。

「「どこに問題があるんじゃ――」」

「調子にっ、のるなっ」

「はべらっ」「ぶべらっ」

結局シーラにのされるククココ姉妹であった。

そしてロロアのワンピースの裾は、ほんのしだけ長くなった……らしい。

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