《【新】アラフォーおっさん異世界へ!! でも時々実家に帰ります》第4話『おっさん、町に到著する』

「娘がお世話になりました。なんとお禮を申し上げていいか……」

ファランの父親で、ドハティ商會の會長でもあるクレイグ・ドハティは敏樹に対して深々と頭を下げた。

結局あのあとファランは泣き疲れて眠り、クレイグに抱きかかえられて馬車に乗せられた。

そしてクレイグのはからいで他のメンバーも全員乗せてくれることになった。

「無事合流できることを見屆けられてよかった。我々は長にこのこと報告しますので、これで」

と、ギリウたちはそのまま集落に帰ることにしたようだ

はかなり広く、乗り心地もよかった。

外から見たじでは10人乗りのワゴン車ぐらいのだったが、中はマイクロバスレベルの広さがあり、どう考えても外観との帳が合わない。

「空間拡張の効果を付與してますからな」

ひとしきり禮を述べ、落ち著いたところで敏樹とクレイグは雑談を始めていた。

見たところ歳は近いようであるし、さすが商人だけあって話しやすくもあった。

「揺れがまってくないのも?」

「ええ。振ですね」

「じゃあ、走り出したとき負荷がないのもですか? 停まるときも不自然にピタっと停まってたし」

「ああ、それはクァドリコーンの能力ですね。有角馬には〈慣〉と〈重力制〉の能力がありますから」

「慣に重力、ですか……」

「はい。その力を増幅させ、この車を覆っているので、ほとんど揺れることがないのですよ」

どうやらこの點に関して、日本の科學に勝ち目はなさそうである。

さて、來世紀に追いつけるかどうか……。

「そろそろ到著ですな」

いつの間にか景の流れが止まっていた。

前方の窓を覗くと、高い石壁が見えた。

「ファラン、起きなさい」

「んぁ……ふぁい……」

クレイグの腳に頭を乗せて眠っていたファランが、眠い目をこすりながら起き上がった。

その直後、トントンと馬車のドアがノックされる。

「どうぞ」

「失禮します」

挨拶とともに警備兵らしき男が馬車に乗り込んできた。

「どうもクレイグさん、って隨分大人數で……え?」

警備兵はクレイグの橫で眠そうに目をこするの姿に目を奪われた。

「や……あ……、ファラン、ちゃん……?」

「んぅ? やー、兵隊さんおひさしぶりー」

「ク、クレイグさん……、本當に?」

クレイグは警備兵に対してゆっくりとうなずいた。

「そ、そうか……ファランちゃん、無事に……よかった……」

警備兵は目頭を押さえてプルプルと肩をふるわせ始めた。

「あー、君。娘の帰りを喜んでくれるのは嬉しいのだが、仕事をしてもらってもいいかな?」

「はっ!? あ、すいません、失禮しました。では分証を」

クレイグが懐から取り出したカードを渡しながら、警備兵に話しかける。

「それでなんだが、娘も含めてここにいる人たちはだれも分証を持っていないのだよ」

「え……?」

「皆、ファランの恩人と友人たちだ。私が全員の元を保証するから、ここは通してくれないかね?」

「あ、はい。クレイグさんの後見があるのなら問題ありません。ではこちらに皆さんのお名前を」

と、警備兵は何もないところからバインダーとペンを取り出した。

「んじゃボクからー……、ほいっと。じゃあ次トシキさんねー」

「おう」

渡されたバインダーには誓約書のようなが挾まれており、そこに全員の名を書き連ねるようになっていた。

最後にクレイグが署名をし、その元を保証するということだろう。

ペンは萬年筆のようである。

(そういや文字を書くのは始めただけど……)

普通に日本語で名前を書いてみたが、実際に現れた文字は見たことのない文字だった。

〈言語理解〉の効果であろう。

「おっさん、あたしのも書いといて」

「あ、ウチらのも」「頼むわー」

「あいよ。ロロアは?」

「大丈夫です」

その後、ロロア、クロエ、メリダ、ライリーは自分で名前を書き、最後にクレイグが署名をしてバインダーとともに紙幣を數枚、警備兵に渡した。

おそらく保証金か何かだろう。

「あ、お金ならありますけど」

「いや、ここは私が」

山賊のアジトから結構な額の現金をせしめていた敏樹にはそれなりの余裕はあったのだが、ここはクレイグの顔を立てる意味でおとなしく引き下がることにした。

アラフォー社會人は空気が読めるのである。

「はい、確かに。ではこれが仮の分証になります」

警備兵の手からバインダーが消えたかと思うと、今度は木札のようなが現れた。

そして警備兵はひとりひとり名前を呼びながらその札を渡していく。

札にはどういう原理か、先ほど署名した各人の名前が表に、裏にはクレイグの署名が焼き印のように刻み込まれていた。

「以前この街の住民証をお持ちで紛失された方は役所で、どこかのギルドに所屬されていた方は各ギルドで分証の再発行ができます。どちらもお持ちでなかった場合は、役所に行って住民登録をするか、どこかのギルドに所屬してください。クレイグさんの裏書きがあるその札があれば、なくともこの街ならどこに行っても大丈夫だと思います。仮の分証は10日で効力を失いますのでご注意を。では、このままお進みくださいませ。ファランちゃん、おかえり」

諸注意の説明を行なった警備兵は最後にファランへ軽く手を振ると、そのまま馬車を降りていった。

ドアが閉まると同時に、景がゆっくりき出す。

ほどなく馬車は門をくぐって壁の側にった。

「ねぇねぇ、トシキさん」

「ん?」

ファランに呼ばれ敏樹がそちらを向くと、彼は誇らしげな笑顔を浮かべた。

「ボクの故郷、ヘイダの町へようこそ!」

**********

馬車は大通りを悠然と進み、ひとつ角を曲がってさらに奧へ進んだところで停まった。

「クロエッ!」

全員が順番に降りていき、クロエが降りたところで彼の名を呼ぶ者があった。

見ればそれは、どこにでもいそうな――下手をすれば日本で見かけそうな――中年の夫婦だった。

「え……、父さん、母さん……?」

それはクロエの両親だった。

ふたりは馬車を降りた娘の元に駆け寄ってきた。

「え、なんで……?」

その疑問に答えたのはクレイグだった。

「ギリウくんが、クロエさんのことも知らせてくれましたからね」

クレイグとクロエ、そして彼の両親との間に面識はない。

しかし、食堂の娘という報は得ており、ファランがさらわれて以降、クレイグは行方不明者の報を隨時集めていたので特定は簡単だった。

「クロエ……よく無事で……」

「ああ、クロエ……クロエ……」

両親は娘に抱きついて涙を流したが、クロエはどこか戸った様子だった。

「あの、ふたりとも……お店は?」

「馬鹿をいうな! お前が帰ってきたのに店なんかやってられるか!!」

「そうよっ! お客さん追い出してすっ飛んできたわよっ!!」

「あ、あはは、駄目じゃまい、ふたりとも……」

そう言いながらも、クロエは目に涙をためて嬉しそうに笑った。

「あ、そうだ、その……トシキ……さ……」

敏樹のほうを振り返ったクロエだったが、何かを言おうとするも口元が震えだして聲が出なくなった。

いま何かをしゃべろうとすると、が決壊してしまうのだろう。

だが人前で泣きわめくことをクロエはんでいないようだったので、ゆっくりとうなずき、そのまま両親とともに帰るよう目で促した。

それを見てクロエは深々と頭を下げた。

そしてそれに倣うように彼の両親も頭を下げたため、敏樹もお辭儀を返した。

「では、お送りしますのでこちらへ」

商會の従業員と思われる男がクロエたちを促し、小型の馬車に乗せた。

その男はそのまま馭者席に座り、馬車を走らせる。

走り出した馬車からクロエの泣き聲がれ出てきたが、敏樹は聞こえないふりをした。

「さて、みなさんはぜひ我が家に――」

「いえ、今日はファランと父娘水らずで過ごしてやってください」

クロエを見送ったあと、クレイグは敏樹らを家に招待しようとはしたのだが、どう見てもファランと過ごしたそうな顔をしていたので、辭退させてもらった。

「む……どうやらお気を煩わせてしまったようだ……」

「はは、お気になさらず。どこかいい宿を紹介していただければ、それでいいですよ」

「そうですか、では」

そう言ってクレイグは懐から紙とペンを出すと、さらさらと何かを書き始めた。

続けてペンをしまったあとに封筒を取り出して紙をれ、封をする。

特にのり付けなどはしていないが、封筒の口をさっとなぞるだけできちんと封が施されるようである。

「これを持って『バルナーフィルド』という宿にお越しください。便宜をはかってくれるはずです」

「ありがとうございます」

「よろしければ馬車を出しますが?」

「いえ。せっかくなので、この街を見がてら行きたいかな……って、みんなもそれでいい?」

特に反対意見は出なかったので、宿には歩いて行くことになった。

「では私どもはこれで。いい街です。たっぷりとご堪能を」

「じゃーねートシキさん、ロロア、それにみんなもー」

各々簡単な別れの挨拶を済ませ、敏樹らはヘイダの町を歩き始めた。

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