《【新】アラフォーおっさん異世界へ!! でも時々実家に帰ります》第6話『おっさん、商會へ行く』

ヘイダの街に到著し、冒険者ギルドへの登録を終えた翌日、敏樹とロロア、そしてシーラ達は、ドハティ商會を訪れていた。

ドハティ商會はヘイダを拠點に、州都や商都、そして迷宮都市へも支店を出しているかなり大きな商會だった。

生活雑貨から料、武から寶飾品に至るまで、手広く扱っている。

「ふむう、かなりのこれは量になりますなぁ」

「すんませんけど、よろしくお願いします」

敏樹は山賊・森の野狼のアジトから奪った現金以外のを商會の一室で取り出し、會長であるクレイグにそれらの買い取りを依頼していた。

「これだけの量ですので、2~3日頂きたいのですがよろしいでしょうか?」

「ええ、いいですよ」

ファランによってある程度分類されてるが、量が量だけに、手続きには時間がかかるようだ。

「しかし、なかなかうまく分類されておりますな。これはトシキ様が?」

「いや、仕分けはファランにお願いしました」

「ほぅ、そうでしたか」

並べられたの幾つかを手に取って確認するクレイグの口元が僅かに緩んだ。

現在この場には敏樹とクレイグしかおらず、陣は別室で裝備品や服類を見繕っている。

「ありがとうございます。では一旦彼たちの元へ――」

「トシキ様」

敏樹がその場を辭そうとすると、クレイグが居住まいを正した。

「この度は本當にありがとうございました。改めてお禮を述べさせていただきます」

「ああ、いえ、そんな……」

「私は商人です。多くの人と関わりを持っております。中には私のように家族をろくでもない連中に攫われた人たちもいました。運悪くその家族が帰らぬ人となったという方にもお會いしたことがあります」

クレイグは淡々と語る。

「しかし、帰ってきたほうがより不幸になることもある、ということも知っております。攫われた家族が運良く帰ってきたにも関わらず、當人の変わりように接し方がわからず、不幸な結果を招いたという方も見てきました。“こんなことならいっそ死んでくれていたほうが――”という言葉も聞いたことがあります」

酷なようだが事実である。

敏樹のいた世界でも、拐や拉致監から帰ってきた被害者が、結局社會に適応できず家族を含めて不幸な結果を招くという事例はなくない。

「私は怖かったのです。娘が生きていると、帰ってきたと知った時、ちゃんと迎えれてやることができるだろうかと。再會した直後は自然と抱きしめてやることが出來た。そのことは本當に嬉しかった。でも、一夜明けて今日目が覚めた時、やはり私は怖かったのです」

クレイグは無表のまま淡々と喋っていたが、いつの間にか目から涙がこぼれていた。

「もし、娘が別人のようになっていたらどうしよう。以前のようにしてやれるだろうかと。しかし、娘は、ファランは以前のように明るく元気な娘のままでした」

無表だったクレイグの口元に、自然と笑みが浮かぶ。

「それだけじゃない。辛い経験を経て、〈目利き〉や〈算〉などの天啓を得ていた。私の仕事をサポートしてくれると言ってくれた。こんなに嬉しいことはないですよ。ただ生きて帰ってくれただけでも嬉しいのに。これから、私はまたあの子と一緒に人生を歩んでいける」

そこで一度クレイグは鼻をすすり、服の袖で涙を拭った。

「聞けばロロア様が隨分親になってくれたそうではないですか。彼のおで、自分は自分を取り戻せたのだと、ファランは言っておりました。そしてトシキ様の言葉も大きかったと」

「俺の?」

「はい。助かって、ただ生きているだけで、普通に生活出來るだけ満足していたところに、あなたから『この先何をしたいか?』と問われたことで、あの娘は私の店の役に立ちたいと、そう思ったそうです。それを強く自覚した時、天啓を得たと」

それはそのタイミングで敏樹が〈管理者用タブレットPC〉を使っただけのことであるが、そのことを彼たちは自覚できない。

だからこそ敏樹が彼たちに與えた影響を、誰も自覚していないだろうと敏樹は思っていたのだが、どうやらそうでもないようである。

「ファランは言っておりました。ロロア様はこれまでの自分を取り戻してくれた第二の母であり、トシキ様これからの自分を與えてくれた第二の父であると」

「それは……、また隨分と大げさな」

「いいえ、大げさなことではありません。十代前半の多な時期を山賊どもに奪われたあの子が普通に生きていけるだけでも奇跡だと言うのに、未來に夢を持って歩み出せるなど、それこそ生まれ直すぐらいのことがなければありえないですよ」

「そうですか……。まぁたまたま運が良かったというか、縁があったというか、とにかくそこまで恩に著てくれなくてもいいですから」

「いいえ。運も縁も、そして恩も商人にとっては大事なものです」

クレイグは再び涙を拭い、姿勢を正すと、深々と頭を下げた。

「私、クレイグ・ドハティと我がドハティ商會は、この先何があろうと……例え世界を敵に回そうともトシキ様とロロア様のお味方であるということを、覚えておいてください」

なんとも大げさな宣言であるが、これは素直にけ取っておかねばこの場は収まるまい。

いや、いっそ彼を利用することが、彼のためになるだろうと思い、早速敏樹は、恩に報いてもらうことにした。

「わかりました。では早速ですが、ききたいことがあります」

「なんなりとお申し付けくださいませ」

**********

「おい、ファラン!! これは一どういうことだ!?」

敏樹とクレイグが話を終えてたちのいる部屋にると、そこには服や下著、武が所狹しと散らかっていた。

「あ、父さん!! ごめんね。あとで片しとくから」

ファランは父の方を一瞥した後、すぐに他のたちの方に向き直った。

この場にはロロアとシーラ、メリダ、ライリーのみであり、ククココ姉妹は商會の事務方と今後のことを話しているようで、クロエは家族と過ごしているとのことだった。

「あ、トシキさん!! いいところに來た。ちょっとこっち」

とファランが敏樹を手招きする。

「じゃーん!! どう?」

手招きに応じて敏樹がファランの方へ行くと、彼は自分のにいたロロアを敏樹の前に披した。

「ふむ……」

そこには新たな服や裝備をに著けたロロアの姿があった。

基本的にはククココ姉妹が提供したカーキのワンピースにフード付きの短いマント、革の裝備という部分は変わっていないが、服のが多鮮やかになっているのと、革の防類も素材のグレードが上がっているようだった。

シーラ、メリダ、ライリーの3人も新たな裝備に著替えていたが、基本的なところはあまり変わっていないようである。

「うん、相変わらずザ・弓使いってじだな」

「やっぱロロアちゃんはこうでないとね?」

「お、ワンピースの裾が長くなってるな」

「あ、これは既製品だからね。あとで裾直ししとくよ」

「いや、せんでいいから」

「とかなんとか言っちゃってー、ホントは短いほうがいいんでしょ?」

「そ、そんなことは……、って、大人をからかうなよ」

「にしし……」

そうやって無邪気に笑う姿は、ファランがまだ15のであることを再確認させる。

その様子を見ているクレイグの目に涙が溜まっているようだが、それは見ないことにしておいたほうが良さそうだ。

「あの、トシキさん……、変じゃないですか?」

「似合ってるよ。はいチーズ」

それほど大きな変化はないものの、服や防類が変わったことが気になるのだろう。

そんなロロアの姿を、トシキはタブレットPCを使って保存した。

「でも、既製品とは言えこれだけの品を揃えるとなると…………お高いんでしょう?」

敏樹は通販番組のようなセリフをファランに投げかけてみた。

「ふっふっふ。我がドハティ商會を舐めてもらっちゃあこまります。この裝備に、矢100本と弓をつけて、なんとお値段100萬Gポッキリ!!」

「安ぅーい!!」

「あははー。トシキさんて意外と面白い人なんだねー。っていうか、この裝備見て100萬で安いって言葉が出るのも驚きだけど」

「いやいや、服と防だけでも150萬はいくだろ?」

「ほうほう。なかなかの見立てじゃない」

「見りゃ分かるさ。鋼鉄並の強度を持つハイオークの革に強化魔を施して重ね合わせたこの甲と手甲だけでもなかなかのもんじゃないか。その上ブーツはワイバーンの革だし、マントはクラウドシープので織られたものだし」

「すごーい!! 冒険者より商人のほうが向いてるんじゃない?」

敏樹の見立てにはさすがのクレイグも目を瞠った。

無論、『報閲覧』のおかげである。

「しかし、そうなると弓の方が安なんじゃないの?」

と、わざとらしく訊いてみる。

「ちっちっち。ドハティ商會を舐めちゃダメっていったでしょ。今回ご用意した弓はこちらになります!!」

ファランが取り出した弓は、金屬や木材等を組みわあせて作られたコンポジットボウであった。

「これは強度の高いトレントの木材をメインに、魔の骨と皮、の高いミスリルをあわせて強化した弓になります!! ちなみに弦はグレータースパイダーの糸を撚り合わせて錬金で強化したものだよ!!」

この世界にはまだ車を組み合わせたコンパウンドボウは存在しないので、敏樹が用意した弓を人前で使うのは難しい。

しかし、魔や魔の素材、そして元の世界に存在しないミスリルといったを組み合わせて作られたこのコンポジットボウは、敏樹が用意したコンパウンドボウ並に強力なものらしい。

ククココ姉妹には扱えないミスリルが使われているおかげで、強度がかなり増しているようだった。

「普通のヒトには扱いにくい剛弓だけど、ロロアちゃんは獣人だからね。ちゃんと扱えることも確認済みだよ」

15歳のファランが40歳のロロアをちゃん付けで呼んでる件だが、種族ごとに壽命が異なり、年齢あたり長度合いも異なる事が多いこの世界において、年齢を基準とした長の序というものはあまり重視されない。

「そうか。ありがとな。でも、いくらなんでも安すぎじゃないか?」

その言葉に、ファランは眉を下げ肩をすくめた。

「あのねぇ。本音を言えば全部タダでもっていってもらいたいんだよ? でもトシキさんもロロアちゃんもそういうの嫌がるでしょ?」

「まぁ、な」

「だから、赤字にならないギリギリのところでキリの良い価格にさせてもらったってわけ」

クレイグは娘の勇姿に、涙を流しながらうんうんと頷いていた。

「まぁ、ボクの見立てでは――」

「あれ、ファランってボクっ娘だっけ?」

途中で言葉を遮られたファランが“今さら?”とでも言いたげなな様子で敏樹を軽く睨んだ。

「ああ、ごめん。なんでもない」

「こほん。えっとね、ボクの見立てではトシキさんもロロアちゃんもすぐに有名な冒険者になると思うんだよね。だから、2人がドハティ商會の商品をに著けてくれているっていうのは、いい宣伝になると思うんだよねぇ」

「ファラン!! 我が娘ながら見事な見識だ。父さんは鼻が高いぞぉ!!」

いつの間にかファランの近くにいたクレイグが、ワシワシと娘の頭ので始めた。

「ちょ……父さん、やめて……、恥ずかしいよぉ」

といいながらも、満更でもない様子のファランだった。

「じゃあ、買わせてもらうよ」

「まいどありー。あとそっちにトシキさんに良さそうなのも見繕っといたから、そっちも見ていってよ」

敏樹の裝備もククココ姉妹が集落で用意してくれたものを一段グレードアップさせたようなものが揃っていた。

「じゃあ全部合わせて――」

「150萬Gってとこかな」

「オッケー」

支払いに関しては、山賊のお寶を買い取ってもらう分から引いてもらうことにした。

「トシキさん、そろそろいきましょうか」

「お、おう……」

ロロアに聲をかけられ、そちらに視線を向けた敏樹は、再びその姿に目を奪われることになった。

「あ、あの……トシキさん……?」

敏樹の視線をじたロロアが思わずを覆う。

現在ロロアは防を外して〈格納庫ハンガー〉の共有スペースに収納していた。

先ほどまで甲に隠されていた元がわになったわけだが、以前よりも彼満な雙丘が強調されているように見えた。

「ブラジャー、こないだニホンに行ったとき可いの選んどいたよ」

「なっ……?」

と、ファランが耳元で囁く。

先日デパートに行った際にいろいろなところを連れ回されたが、その中に向け下著売り場があったことを思い出す。

流石にそこではし離れて様子を見ていたが、まさかロロアの分まで購しているとは思わなかった。

ロロアの外見〈・・〉がし変わったのは、どうやら下著のせいであるらしい。

「もちろん、下もセットでね。にしし……」

いたずらのように笑うファランの姿に呆れながらも、敏樹は自分の顔が熱くなるのをじていた。

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