《【新】アラフォーおっさん異世界へ!! でも時々実家に帰ります》第8話『おっさん、さっそく依頼をける』
翌朝、日の出前の早い時間に、敏樹とロロアはレストランでシーラたちと合流していた。
前日、ホテルに戻った際にフロントで伝言をけていたのである。
「悪いね、早くから」
「いや、俺は大丈夫」
「あー……、ロロア、ごめんな」
「ぁい? たいじょぶれふよぉ……くぁ~」
眠い目をこすりながら敏樹の隣に座るロロアに対し、シーラが申し訳なさそうに言う。
ロロアは朝が弱い。
「さっそく依頼をと思ってね。一応訊くけど、ランクアップした?」
「いきなりEランクだってよ」
「お、ギルドのおねーちゃんの予想通りだな。じゃあちょっとけたい依頼があるから、ご飯食べたらギルドについてきてもらってもいい?」
「あー、それでこんな朝早く」
「そゆこと」
バルナーフィルドホテルの朝食はビュッフェスタイルだった。
日の出前の早い時間にもかかわらずメニューは富で、人もそれなりにいた。
ここはそこそこいいホテルだが、グレードに結構幅があるので、若い商人や中級の冒険者でも利用している者は多い。
そして商人や冒険者の中には、早朝から活を開始する者もそれなりにいるのだった。
「これなんだけど、いいかな?」
朝食を終え冒険者ギルドに著いたあと、シーラが示した依頼表はヘイダの東に位置するヌネアの森に生息する魔の討伐依頼だった。
ヘイダの街から東へ進むとヌネアの森という森林があり、そこを抜けるとジニエム山というそれほど標高の高くない山に行き當たる。
その山を越えてしばらく進むと、迷宮都市ザイタという街へ至り、ここヘイダの街とザイタの間にはそれなりに立派な街道が整備されている。
街道周辺はある程度森も切り拓かれているのだが、それでも森に住む魔を完全に駆逐するということは不可能だった。
なので、ここヘイダの冒険者ギルドでは街道周辺の魔の討伐依頼は常に出されているのである。
街道によく出現するのは、ゴブリン、コボルト、オークといったもので、まれにラビット系やハウンド系の魔が出現する。
元々町の道周辺はラビット系やハウンド系のテリトリーだったのだが、街道が整備され、その付近で頻繁に狩られるようになったことで、難を逃れるように森の奧へと棲家を移してしまったという経緯がある。
知が低く繁力が異様に強いゴブリン、同じく繁力が強く逃げ足の早いコボルト、そして繁のために他種族の雌と配する必要があり、低ランクの冒険者では太刀打ちできない強さを持つオークは、よく街道に現れて旅人や商隊を襲うのだ。
一度大規模な討伐隊が組まれ、森の中のゴブリン、コボルト、オークを絶やしにする勢いで駆逐したこともあったのだが、どこから発生したのか半年もしないうちに數が戻ったので、対癥療法的に討伐するしかないのだった。
「オークの討伐ランクがDだから、トシキさんたちといればオークのいるあたりまで行けるんだよね」
「シーラ達ならオーク相手でも楽勝なんだけどな」
「ギルドの規定がありますから、Fランクのわたくしたちだけではオークの生息地近辺までは行けないんですよ」
「ん、殘念」
シーラを始め、メリダとライリーもし不満げであるが、規則は規則である。
「そうだな。せっかくランクアップしたわけだし、権限を出し惜しみしてもしょうがないか」
「ありがとね」
とりあえず敏樹ら5人はパーティを組み、依頼をけようとしたのだが……、
「申し訳ありませんが、新規にパーティを組む場合はメンバーの最低ランクがパーティランクとなりますので……」
ギルドにパーティ申請をすると、個人ランクと別にパーティランクというものが割り當てられる。
それはパーティ単位での活に対する評価によって昇格するものであり、個人ランクよりパーティランクのほうが高い、という冒険者はかなり多い。
しかしそれはあくまでパーティとして実績を積んでこその評価であり、今回の敏樹らのように新規でパーティを組む場合は、メンバーの最低ランクの者がパーティランクの基準となるのだった。
「あー、ってことは俺らはFランクパーティってことになるか」
「ありゃりゃ、じゃあ結局淺いところまでしか行けないか……」
「ふむ、どうした、困りごとか?」
敏樹とシーラが軽く頭を抱えていると、奧から聲をかけてくる者があった。
ギルドマスターのバイロンである。
「ああ、バイロンさん。おはようございます」
「うむ。挨拶とは心心」
「こんな朝早くからお仕事ですか?」
「ふっふ。老人は朝が早いでの。で、なにか困っておるようじゃが」
そこで敏樹がバイロンに事を説明すると、彼はシーラたちをじっと観察し始めた。
「ふむ。Eランクパーティでええわい」
「はい?」
突然告げられた付嬢がし間抜けな聲を上げる。
「儂が許可を出しておるのだ。Eランクぐらいなら問題あるまい」
「は、はぁ。では皆さまをEランクパーティとして登録させていただきますね」
そんなわけで、偶然であったバイロンの計らいにより、敏樹らは無事目當ての依頼をけることができたのだった。
**********
「はーい、皆さん馬車に乗りましたね? では出発しまーす」
馭者の掛け聲とともに、6臺の馬車がヘイダの街を出発した。
この馬車は商人ギルドが手配した冒険者向けの乗合馬車であり、早朝と晝にそれぞれヌネアの森へと冒険者を運んでいるのだ。
この討伐用乗合馬車は商人ギルドが2~3日に一度手配しており、冒険者の力や安全を考えて必ず半日で代するようになっている。
商人ギルドが手配する馬車だけあって、馬も車もそれなりのものだった。
馬はディケムコーンという有角馬の中では最下位の品種である。
頭に生えているの十本の角は、角と言うよりはこぶに近い。
見た目は普通の馬とそれほど違わないが、それでも能力は優れているし、なにより〈重力制〉や〈慣制〉といった固有能力もわずかながら持ち合わせているので、時速30~40キロメートル程度の速度を3~4時間ほど維持できるだけの能力はある。
そして馭者は基本的に回復を使えるので、その回復を併用することで半日は休憩無しで走り続けることが出來るのである。
車にもちゃんと振軽減の効果が施されていた。
ヘイダの街からヌネアの森まではおよそ50キロメートルなので、1時間としで森に到著できる計算だ。
また、用意された馬車はランクごとに分けられている。
Gランク向けが2臺、Fランク向けが3臺、Eランク以上向けが1臺という訳だ。
Gランクの馬車は森の手前から口付近にあふれてくるゴブリンやコボルトを相手にする。
Fランクの馬車は森の口からしったあたりの、オークが出現しづらいところを擔當するが、極稀にオークも出現するので、念のため各馬車に最低ひとりはEランク冒険者が乗っている。
Fランクが擔當する場所が最も魔の出現數が多く、そのため馬車の臺數も多い。
本來ならこのFランク用の馬車に乗る必要があったわけだ。
ちなみにこのFランク用馬車に乗るEランク冒険者には別途手當が出るので、この枠には意外と人気があったりする。
そしてEランク以上は森の半ば辺りまで進む。
そのあたりはオークが頻繁に出現するのである。魔の數もそれなりに多いのだが、Eランク以上の冒険者がないので馬車の數は1臺のみとなっている。
「かぁー。連れのパーティーたぁいいご分だねぇ」
それは敏樹に向けられた言葉だった。
彼が乗るEランク以上用の馬車には、合計13名の冒険者が乗っていた。
5名は敏樹とロロア、そしてシーラ達3人である。
殘り8名の、ソロが3名、2人組と3人組のパーティーがそれぞれ一組という訳だ。
敏樹に妬ましげな聲をかけたのは、男ばかり3人のパーティーのリーダーと思しき男だった。
「あー、見ようによってはハーレムパーティーに見えるかな」
「いやいや、ハーレム以外の何なんだっつーの!」
男は四十絡みのヒトのようで、鎖帷子の上に革の甲や手甲といった裝備であった。
座っているので正確なところは分からないが、敏樹よりは一回りほど大きいようである。悍な顔立ちの、無髭が似合う男だった。
「別に彼たちとはそういう関係じゃないから、僻まれても困るんですが……」
「ん? じゃあえば俺らと一緒に行してくれたりするわけ?」
と男はシーラたちに意味ありげな視線を送ったのだが。
「は? 薄汚ぇ男が目使ってんじゃねぇよ」
「まったくです。男なんて汚らわしい」
「ん、男嫌い」
「いやいやヒドくねー?」
と男は敏樹に抗議の目を向けるも、敏樹としては肩を竦めるしかない。
「ってかさぁ、そいつも男じゃんかよー。なんで一緒にいるわけ?」
「はは、おっさんはは別なの」
シーラの答えに、メリダとライリーも大いに頷いた。
「やっぱハーレムじゃねーか!!」
「あれ……?」
彼らの男に対する嫌悪だが、自分と普通に接しているので問題なく払拭されたと、敏樹は思っていた。
しかし、どうやら敏樹が特別扱いされているだけのようである。
いや、ファランの父、クレイグにもそれほど嫌悪を表していなかったので、ある程度親しい関係であれば問題ないのだろうが……。
「はああぁぁ……、ま、しゃーねぇか。そういやおたくら見ない顔だけど、新人さんかい? 俺ぁEランク冒険者のジールってんだ」
と、ジールと名乗ったその男は手を出してきたので、敏樹はその手を握り返した。
「俺は敏樹。同じEランクですよ」
「へええ、冒険者になって長いのか?」
「いや、昨日登録したばっかですけど?」
「マジかよ!? 何やらかしゃあ1日で2ランクもアップできるんだ?」
「これまで狩ってきた魔を100匹ぐらい納品したらバイロンさんが……」
「ああ、そうか。バイロンさんが決めたんなら問題ないんだろうなぁ」
どうやらあのバイロンという老人、冒険者からはそれなりの信頼があるようだ。
「ちなみにこのロロアもEですよ。んで、そっち3人は全員F」
「F? いやいや、Fランク冒険者がこの馬車乗っちゃダメだろ」
「あぁ? あたしらはEランクパーティなんだからいいじゃないのさ」
ジールの言葉にシーラが不機嫌さを全面に出しつつ抗議した。
「あのなぁ。ギルドランクってのは冒険者の安全のために設定されてるんだぜ? ルールがどうこうじゃねぇだろうがよ」
どうやらジールという男、Fランクのシーラ達を心配しているらしい。
「はは、ジールさんはいい人なんですね」
するとジールは真顔で敏樹に向き直った。
「そういうんじゃねぇ。弱いのがいるとこっちのが危なくなることもあるからな」
他のメンバーも同意を示すように頷いだ。
ジール達以外の同乗者も、シーラ達がFランクと聞いてからは怪訝そうな視線を敏樹らに向けている。
「言いたいことはわかりますけど、そこは心配しなくていいですよ。シーラ達がFランクなのはギルドの実績がないだけで、オークぐらいなら何度か倒したことありますから」
「だとしてもだ。それを証明する手段がない以上、俺らとしちゃあランクを當てにするしかないのさ」
「あんたねぇ――」
シーラがなにか文句を言おうとしたが、敏樹が制した。
「まぁ確かに。じゃあ俺らは5人だけで行するってことでどうです? 何かあっても自己責任ってことで」
「いや、そういう問題じゃねぇだろ。それでそっちに犠牲者が出たら寢覚めが悪ぃじゃねぇか」
「やっぱジールさんいい人だ」
「だからそういうんじゃねーんだって」
と、ジールはし照れたような表を浮かべた。
「うへぇ。四十絡みのおっさんが照れる姿ってのは……、あ、いや、失禮」
「う、うるせー! 俺ぁまだ三十になったばっかだよ!!」
「俺より十も下なの?」
「アンタ四十かよ!! エルフの混か?」
「いやいや、純のヒト……ですよ?」
「なんで自信なさげなんだよ……。あと、十も年上のおっさんに敬語使われるのも居心地悪いからため口でいいよ」
異世界人の敏樹はこちらの世界のヒトという種族に最も近いのだが、だからといってイコールとは言い切れない部分もある。
「そう? じゃあこれからは気楽なじでよろしく」
「おう、よろしくな……って、敬語使った方がいいか?」
「いや、べつに。っていうか、そういうの気にする人っているの?」
「まぁヒト同士だとたまにこだわるやつはいるな」
「へええ」
と、そんなことをやっているに馬車の速度が落ち始め、完全に停まった。
『はーい、目的地に到著しましたよー』
馭者の聲が車放送のような形で馬車の中に響き渡った。
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