《【新】アラフォーおっさん異世界へ!! でも時々実家に帰ります》第9話『おっさん、依頼に參加する』
「はーい。では2時間を目処にここへ戻ってくださいねー。皆さまよろしくおねがいしまーす」
馭者の聲が森の中の街道に響く。
敏樹らの乗った上位ランク向けの馬車は森の街道を進み、ちょうどヌネアの森の中間部あたりで停まっていた。
ここからは各自街道を外れて森にって魔を駆除していく形となる。
街道は森を南北に分けているので、冒険者たちはまず二手に分かれるかたちとなった。
2時間というと労働時間としては短く思えるかもしれないが、森を探索しつつそれなりの頻度で戦闘を繰り返すとなると、短時間でもかなり疲れることになる。
とはいえ適宜休憩をはさみつつ計畫的に行すればより長時間の活は可能であり、そういった長時間の活を希するものは午前の便で森を訪れて午後の便の帰りに便乗するということも可能だ。
しかし、午前は午後よりも多くの魔に遭遇でき、2時間の活で充分な稼ぎを得ることができるので、1日通して活する冒険者はないのだが。
ちなみに停車中の馬車周辺は【結界】の効果を持つ魔道があるのでそれほど危険はなく、萬が一の時は馬車に逃げ込めばなんとかなるようになっている。
馬車そのものに【結界】の効果を付與できれば移中も神経質に魔を恐れる必要はないのだが、現在移しながら【結界】を張るという技は確立されていないので、どうしても対象は停止している必要があるのだった。
「悪いがトシキさんらは俺たちと一緒に南側でいいかな」
ジールが敏樹にそう提案してきた。
街道によって南北に分かたれた森だが、北の方により多くの魔が生息しているといわれている。
正確に調査されたわけではないが、それは過去何度も行われた討伐による経験則のようなものであった。
出來れば多くの魔を狩りたいと思っているシーラは骨に不満げな表を浮かべたが、初めての依頼で無理をすることはないと敏樹に説得され、渋々応じることになった。
「悪いな。そっちのお嬢ちゃんたちの実力がわかるか、ランクアップしてくれりゃあ次からは北の方も任せられると思うわ」
「こっちはまぁいいけど、そっちはいいの? 俺らに付き合って南の方に來て」
「しょーがねぇだろ、Fランクが3人もいるんだからよ」
「やっぱいい奴だな」
「だから、そういうことは思ってても言うなって」
今回の割り振りだが、森の北側にソロ3人と2人組パーティーの5人、南側に敏樹ら5人とジールのパーティー3人の8人という、しバランスの悪い構となった。
北側に行く冒険者だが、5人のDランクとEランクが2人ずつ、あと1人はCランク冒険者なので、多人數がないものの危険はないだろうと判斷された。
人數がない分取り分が多くなると、むしろ喜んでいるようだ。
ちなみに今回の依頼だが、參加するだけで1萬Gゴルドの日當が出ることになっている。
Gランク冒険者の中にはこの日當のみを當てにしている者も多い。
「じゃあ、お手並み拝見と行きますか」
「ふん」
ジールが不敵な笑みを浮かべながらシーラのほうを見たが、彼は不機嫌そうに睨み返しただけだった。
「さっきからずんずん進んでるけどよ、もうちょい周りを探ったほうがいいじゃねぇか? 狩りこぼしなんてのはもったいない上に後の憂いにもなりかねんぜ?」
敏樹に先導されながらどんどん森の深部へと進んでいる狀態に、ジールが苦言を呈した。
「大丈夫だよ。索敵にはちょっとだけ自信があってね。もうすぐオークの群れに行き當たるから」
敏樹は事前にこっそりと『報閲覧』で魔の配置を確認しており、効率よく回れるルートを歩いていたのだった。
「ほら、おいでなすった」
一旦進行をとめ、敏樹は聲を落として注意を促した。
「ほら、あそこ」
「まじかよ……、アンタすげぇな」
敏樹が指した先、木々が生い茂ってなかなか見づらいところではあるが、數匹のオークの群れが見えた。
「シーラたちだけでいけるか?」
「任せといて」
シーラ、メリダ、ライリーの3人が気配を殺してオークの群れに近づいていく。
「ほう……」
その様子にジールは心したような聲を上げた。
隠系スキルに関しては森の野狼討伐時に3人とも習得し、ある程度のレベルに達している。
おかげで下手な斥候よりも優れた隠行をとれるようになっているのだった。
シーラは雙剣を抜いた。
ドハティ商會で購したらしい鋼鉄製のもので、両刃の細い剣が木れ日を反して鈍くる。
刃の部分だけ輝きがし異なるのだが、これはミスリルがコーティングされているせいであった。
シーラは相変わらず出の多い格好だが、街中にも冒険者の中にも意外と似たような格好の者が多く、変に目立つと言うことはなかった。
まぁ容姿に優れていることに違いはないので、そういう意味で注目を集めることは多あったが。
シーラを後方から支援する形で、メリダとライリーが続く。
メリダの弓はシーラ同様ドハティ商會で購したコンポジットボウである。
張力はロロアのものに遠く及ばないものの、風魔法によるブーストをかけることでかなりの威力と命中度をもたせることが可能だ。
敏樹が日本から持ち込んだコンパウンドボウよりも魔法の乗りがいいらしく、張力當たりの威力はむしろ上がりそうだとメリダは見ていた。
防類はロロアに似ているが、服裝は明るめの合いでそろえており、ロロアがワンピースなのに対し、メリダは袖の短いシャツと短めのキュロットという格好だった。
ライリーは山賊討伐時に習得していた魔は使えなくなっていたものの、昨日冒険者ギルドへの登録が終了したあと魔師ギルドにも登録しており、とりあえず使い勝手のいい無屬の攻撃魔をいくつか習得していた。
ローブにトレント材の杖という裝備である。
魔士が持つ杖の多くには、魔を使う上で役に立つ効果が施されていることが多く、ライリーの杖にはわずかながら詠唱短と魔効果増大の能力があった。
シーラ1人が突出してオークの群れに近づく。
を隠しながら接近し、木から一気に踏み込んだ。
踏み込みつつ右手の剣を振り、一匹のオークの首を一閃。青銅並みに固いオークの皮だが、ミスリルでコーティングされた鋼鉄の剣とシーラの雙剣を前にあっさりと切り裂かれ、最初の一匹は頸脈から鮮を撒き散らした。
魔といってもオークのは赤い。
「ブフォッ!?」
ようやくシーラの襲撃に気づいだオークたちだったが、既に二匹目のオークが、を翻したシーラが突き出した左手の剣によって、を貫かれていた。
それでも最期の悪あがきとばかりに棒を振り下ろしたオークだったが、その攻撃はシーラの右手の剣で軽くいなされてしまう。
そしてに刺さった剣を抜かれると同時に2匹目のオークは力なく倒れた。
「おっさんには悪いけど、やっぱ突けるってのはありがたいね」
ちゃんとした雙剣を手にれるまで使っていたミリタリーマチェットは、丸みを帯びた切っ先の形狀から刺突には向かない武だった。
ようやく〈雙剣〉のスキルを十全に生かせる武を得たシーラは、どこか生き生きとして見えた。
別のオークが唸りを上げて斧を振り上げ、シーラに襲いかかる。
しかしメリダの放った矢を眉間にけ即死。
風魔法を纏ったメリダの矢は、オークの頭の上半分を完全に吹き飛ばしていた。
最後の1匹は事態を飲み込めないままオロオロしていたが、やがて音もなく首がころりと落ちた。
ライリーが放った無屬の中級攻撃魔【魔刃】によるものである。
「ま、こんなもんか」
「張り合いがないですわね」
「ん、楽勝」
発見から1分足らず、シーラが初撃を加えてから十秒程度が経過していた。
「すげぇ……」
ジール達は呆けたような表でシーラ達の戦いを眺めていた。
**********
ガギィイン!! と金屬同士がぶつかる重い音が森に響く。
それはジールのパーティーメンバーでありドワーフの戦士ランザの大盾が、オークの振り下ろした斧の一撃を弾き返した音であった。
金屬鎧を全にまとうランザは、インパクトの瞬間に重を乗せて盾を押し返していた。
渾の一撃を押し返されたオークは、のけぞるような形で勢を崩す。
ランザは右手に持ったハンマーを振りかぶると、軸足となっていたオークの左膝を薙ぐように振り抜き、怒鳴り聲を上げた。
「どないじゃボケェッ!!」
「ブヒイィィ!!」
膝を橫合いから砕かれたオークは悲鳴のようなびをあげながら、自の重を支えきれずに膝をつく。
そのすぐ近くには、すでにジールが大剣を振り上げながら、踏み込みつつあった。
そしてオークが膝をつき、頭の位置が下がったところへジールは大剣を振り下ろし、オークの頭を叩き割った。
さらにジールは視界の端で自分に襲いかかろうとしてた別のオークが弾かれるようにのけぞったのを確認した。
同じくパーティーメンバーである魔士のモロウが放った【雷弾】が、オークの頭に命中していたのである。
下級攻撃魔程度ではオークを倒すには至らないものの、牽制には充分だった。
【雷弾】の衝撃に加え、追加効果の雷撃によりオークは一瞬意識を失う。
そしてその一瞬が命取りとなった。
1匹目の頭を叩き割ったジールは、すでに半を翻して大きく踏み出しており、全を回転させるように両手で構えた大剣を橫薙ぎに振り抜いた。
「どっせぇぇい!!」
掛け聲とともに振り抜かれた大剣は、オークの上半と下半を完全に分斷した。
それは致命傷というには充分なダメージであるが、即死でない以上油斷はである。
下半と分かたれ上半のみで地面に落ちたオークは、最期の悪あがきとばかりに手に持った棒をジールに投げつけるべく振りかぶっていた。
大技を繰り出して無防備になっているジールにかわす余地はない。
が、オークは棒を振りかぶったままかなくなった。
そのオークはランザの振り下ろしたハンマーで頭を潰され、絶命していた。
「おぉ、見事な連攜だなぁ」
敏樹はジール達の戦いぶりをし離れた場所から見ていた。
魔の討伐ランクは、同ランクの冒険者3人以上で戦うことを前提に設定されている。
オークの討伐ランクはDなので、オーク1匹に対してDランク冒険者3人以上で當たるのがましいということになるのだが、ジールのパーティーは3人ともEランクである。
ランクのみで考えた場合、オーク1匹に対してさえ戦力は過小となる。
まして2匹同時に相手取るとなると、かなりの危険を伴うはずであり、敏樹はいつでも加勢する準備をしていたのだが、どうやらジール達はランク以上の強さを持っているようだった。
倒したオークの死骸をジールとランザが一箇所に集め、その処理をモロウが魔で行う。
まずは【抜き】から。
本來であれば獲が瀕死の狀態で行う必要のある抜きの作業だが、【抜き】の魔を使えば時間が経ってが凝固する前の段階であれば、死骸から無理やりを抜くことが可能だ。
【抜き】を終えた死骸を、今度は【冷卻】で冷やす。
これはその名の通り、対象から熱を奪って冷やす魔である。
この【冷卻】は時間をかけて重ねがけをすれば対象を冷凍することも可能だが、モロウは冷蔵レベルでとどめ、あとは冷蔵機能付きの収納庫へと【収納】して獲の処理は終了となった。
「あれ、冷凍したほうが長持ちするんじゃないの?」
解や時間停止機能のある〈格納庫ハンガー〉を持つ敏樹はこういった下処理が不要なため、通常冒険者がどうやって獲を処理しているかということを知らない。
彼自には必要のない報だが、シーラたちには有用だろうと思い、敏樹は素樸な疑問をモロウにぶつけたのだった。
「解済みのブロックなんかは冷凍したほうがいいですけどね。抜きだけを行ったものは冷蔵のほうがいいんです」
「それはなんで?」
「一度冷凍して解凍すると、であれ皮であれ品質が落ちますからね。といって冷凍のまま解するというのは難しいですから、冷蔵にしておいて、その日のに解に出すのが一般的です」
「へええ」
心したように返事をしたあと、敏樹はふと視線をじてそちらを向いた。
「おっさん、その……」
シーラたちが申し訳なさそうに敏樹を見ている。
たしかシーラたちが狩った獲は、ライリーが【抜き】をおこなったものの、そのあとは特に【冷卻】などせずに【収納】していたはずだ。
「実は、抜きだけした獲をそのまんま冷凍収納庫にぶっこんじまってさ……」
ジールたちに失態を知られたくないのか、敏樹に歩み寄ったシーラが耳元で囁く用に告げる。
そのあと、窺うような視線を上目遣いに向けるシーラに対して敏樹が頷くと、彼はほっとをなでおろした。
敏樹の〈格納庫ハンガー〉であれば、たとえ冷凍されていても問題なく解できるだろう。
その後も順調に狩りは続いた。
「いやぁ、南の方でこんだけ魔に出會えるとはねぇ」
敏樹の『報閲覧』のおで効率よく魔を狩ることができ、ジール達もほくほく顔だった。
「南側にしちゃあ上々の果だが、ちと深い所まで來すぎたかもな。トシキさん、そろそろ引き返そうや……、ってどうした?」
ジールが話しかけたとき、敏樹はし険しい顔で森の奧のほうをじっと見ていた。
「ん? ああ、そうだな。じゃあそろそろ帰ろうか」
その後、敏樹らは別のルートを通って帰り、さらに果を得ることができた。
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