《【新】アラフォーおっさん異世界へ!! でも時々実家に帰ります》第3話『おっさん、脅威に備える』
「あの直は面倒だよなぁ」
〈影の王〉はあの黒いオークに通用しなかった。
おそらく敏樹のスキルレベルを超える直力を備えているのだろう。
しかし、全く通用しないというわけではない。
直前までは気付かれなかったのだから、多の効果はあるはずだ。
「五をうまく刺激して、第六とも言うべきあの直を鈍らせる……ってじか?」
敏樹は異世界に行けるようになってから、いろいろなを購している。
その中には國で手にらないようなもあるのだが、インターネットが普及した昨今、金さえ払えば大抵のは手にるのである。
そして、敏樹には金があった。
「あれと、あれは……、たしか〈格納庫〉にあったな。あとは……、電気屋行くか」
今は取り出せないが、〈格納庫〉にれた覚えのあるを思い出し、めぼしいを頭のメモ帳に書き込んだあと、敏樹は家電量販店で必要なを購した。
「PCからこいつにこれを転送して……よしよし、じゃあ次……」
帰宅後はPCで作業を行ない、一通り終わった時點でもうすっかり夜も更けていた。
「くあーっ……! たまにはひとりってのもいいもんだな」
作業を終えた敏樹は、そのままベッドに寢転がった。
ここしばらくは常にロロアやシーラたちとともに過ごしている敏樹は、不意に訪れたひとりの時間を満喫しながらそのまま眠りにつくのだった。
結局風呂にもらず明け方まで眠り続けたあと、起き抜けにシャワーを浴び、テレビをつけて冷蔵庫を漁った。
めぼしいがなかったので、グラノーラに牛をかけ、朝のワイドショーを見ながらもそもそと食べ始めた。
「……やっぱひとりって寂しいかも」
朝食を終えた敏樹は、誰もいない実家のダイニングルームでそうつぶやくのだった。
**********
「ただいま」
夕方までひとりで作戦を考えていた敏樹は、待機時間が終わった時點で〈拠點転移〉を使ってホテルの自室に戻った。
「トシキさん!?」
「あ、ただいま、ロロア」
「トシキさん……!!」
敏樹の姿を認めるなりロロアは駆寄り、そのままの勢いで抱きついた。
「おおっと。なんだ、どうした?」
「うう……トシキさん……」
に顔をうずめて肩をふるわせるロロアをどう扱っていいものやらわからず、敏樹はとりあえず頭をでておいた。
「あのなぁ。あんなメモ1枚渡されて実家に帰られたらそりゃ心配もするだろうよ」
「あ、シーラたちもいたのか」
「いまのロロアをひとりにしちゃおけないからね」
そういいながら、シーラが肩をすくめる。
メリダとライリーの視線が若干痛い。
「で、どうだった?」
「あー、だめだった。とりあえず仕切り直し」
“だめだった”というところでロロアが顔を上げて敏樹を見上げる。
「大丈夫なんですか? 無理はしてませんか!?」
「は、はは……、してないしてない、ほらこの通り」
と、誇示するように敏樹が腕を広げると、ロロアは敏樹から離れて一通り観察し、ほっとをで下ろした。
(腹にを空けられたことは黙っておこう……)
ちなみにのあいた裝備や服も、〈格納庫ハンガー〉の機能で完璧に修復済みである。
「これからどうすんの?」
「ん? とりあえず次に転移を使えるようになるまでは仕掛けない。逃げ道は作っとかないとな」
「そのあいだ、あの黒いオークは放置しても問題ありませんの?」
「ああ。あと丸一日はけないようにしてある」
「ん、さすが」
「ってか、向こうがけないうちに袋叩きにしちゃえば?」
「あれほどのヤツのきを封じる以上いろいろ條件があってね。き出すまではこっちから手出しできない」
「はぁー、ままならんもんだねぇ」
「ま、1日かけてしっかり準備するさ。で、その一貫としてファランのところに行こうと思うんだけど……」
**********
「魔効果を高める裝備? あるよ、もちろん」
結局全員がついてくることになり、ドハティ商會の一角で敏樹とファランが話し合っていた。
ロロアはどうやら一時的な心配癥になってしまったようで、敏樹から片時も離れようとせず、敏樹のすぐ後ろにたたずんでいる。
シーラたちはククココ姉妹とクロエをって服飾店に行っており、賑やかに買いでもしているのだろう。
「魔全般? それとも屬限定?」
「どっちがいい?」
「そりゃ使い勝手がいいのは全般だろうね。でも効果を高めるなら屬を限定した方がいい」
「じゃ、屬限定かな。で、使おうと思ってるのが――」
「……えっと、それって生活魔じゃない?」
「まぁそうなんだけどさ」
「確かあれは水……じゃなくて火だったかな」
「あ、やっぱそうなるんだ」
「……トシキさんって頭いいの? ボクは何であれが火屬になるのかよくわかんないんだけど」
「熱をる……的な?」
「あー、そういうこと……。じゃあちょっと待って」
奧に引っ込んだファランが何やら父親と激しくやり合ったあと、細長い箱を持ってきた。
革張りのいかにも高級そうなケースを開けると、そこには1本の杖がっている。
それはうっすらと赤みがかった白のまっすぐな杖で、頭の部分に黒い寶石のようなが埋め込まれている。
その寶石の側には炎が渦巻いているに見えた。
「ほい、フレイムスタッフ」
「なんかすごい見た目の割りには普通の名前だな」
「はは、そーかな。とにかくウチにあるので一番効果が高いやつ」
「なんか変わった素材っぽいけど、何でできてんの?」
「杖自は火竜の骨で、頭の石がイフリートの心石っていう寶石」
「イフリートって火の霊、的なじ?」
「そうそう。それの心臓を生きたまま取り出して、本が死ぬ前に錬したとかなんとか。とにかく希価値が高いんだけど、その分効果も抜群だよ」
「うへぇ……。火の霊から心臓えぐり出しちゃって大丈夫なのか?」
「まぁ霊だし、いるところにはたくさんいるからね」
「あぁ、そういうもんなんだ。で、おいくら」
「1億だよん」
「はぁ!?」
ファランが得意げに笑い、敏樹が驚きの聲を上げる。
ロロアも敏樹の後ろでぽかんと口を開けていた。
「言っとくけどオークションに出したら、タイミング次第ではさらに十倍の値がついてもおかしくない逸品だからね」
「買えるかそんなもんっ!」
「うん。だから貸したげる」
「貸し……いいのか?」
「もちろん。普通はしないけど他ならぬトシキさんの頼みだもん」
「……いくらだ?」
「んふー、さすがトシキさん、わかってるねー。1日10萬でいいよ」
「よし。借りよう」
「まいどありー! 今日はもう遅いから、明後日の午前中までに返してくれたら1日分ってことでいいよ」
フレイムスタッフには火屬の魔効果を最大で10倍に上げる効果があった。
ただし、使用者の魔力を大量に消費するとう対価があり、倍の効果を得るのに消費魔力は4倍に、3倍にしようとしたら8倍に、と言った合に消費魔力が増えていき、10倍となると通常の1024倍の魔力が必要となる。
また、対象が杖から近ければ近いほど効果は高まるらしく、相手に著した狀態で魔を発すれば下手をすると百倍近い効果になる可能もあるのだとか。
油斷すればありったけの魔力を吸い取られるため、効果のわりには使い勝手の悪い杖ということで実戦で使われることはほとんどないらしい。
「……魔石、足りるかな?」
**********
「あの、そちらの方は昨日町を出たっきり戻ってないことになってるんですけど?」
「あー……」
翌日早朝、町を出ようとした敏樹は、思わぬ足止めを食らってしまった。
通常、ヘイダほどの規模の町は、分証を使った出りの記録が殘されているのである。
しかし敏樹は昨日町を出て黒いオークと対峙したあと、一度実家に戻ってそのままホテルへダイレクトに転移してしまったので、記録上はまだ帰ってきていないということになるのだった。
「おい、どうかしたか」
「あ、先輩、この人なんですけど――」
「ん? おー、アンタか!」
敏樹が冷や汗をかきながら言い訳を考えていたところ、奧から初日に場の手続きを取ってくれた壯年の警備兵が現れたので、現在擔當の若い警備兵が事を説明する。
「んー、もしかして仮の分証でっちゃった? あれだと記録が殘らないから……」
そう言いながら、壯年の警備兵が敏樹に目配せする。
「あ、あー……そうかも?」
「そっかそっか。じゃあこっちで記録を訂正しとくから行っていいよ」
「む……、そういうことですか……。次からはちゃんと正規の分証だしてくださいね」
「はい、すんません」
思わぬ助け船で無事町を出ることができた敏樹は、適度に街道を離れたところで自車を取り出した。
「いいか、夕暮れ前には帰るんだぞ?」
「わかってるよ」
この日はロロアとシーラ、そしてメリダとライリーが付いてきていた。
町や街道からある程度離れるまで歩いたあとは自車で荒野を走り、森に到著してからは歩いて黒オークを目指す。
敏樹は『報閲覧』で魔の位置を確認ながら森を進み、発見したものはロロアやシーラたちが狩っていく。
今回の作戦ではかなりの量の魔力が必要となるので、そのための魔石集めをロロアとシーラたちが手伝うことになったのだ。
敏樹はできるだけ力や魔力を溫存するため、タブレットPCをこまめにオン/オフしつつ索敵に集中した。
「うわぁ、見るからに兇悪なツラしてんなぁ」
午前中いっぱいを使って狩りをしながら森を進み、ようやく一行は黒いオークの元に到著した。
その姿を見て嘆の聲をあげるシーラだったが、どことなく怯えているようにも見える。
かないとわかっていても、その兇悪な姿からはそれなりの恐怖をけるのだった。
それからしばらく魔石集めを続けたあと、シーラたちが帰る時間となった。
「じゃあ、死骸のほうはもらっていいんだね?」
「もちろん。むしろ魔石をもらって申し訳ないくらいだよ」
「ま、あれだけ仕留められたのはおっさんの索敵のおかげだからな。これであたしらもEランクかな」
魔石を覗いた解済みの素材を【収納】したシーラたちは、そのままヘイダの町へ戻っていった。
「……で、やっぱ帰る気はないの?」
「ありません。邪魔にならないようにするので、一緒にいさせてください」
意志の強そうなロロアの視線をけ、敏樹は説得は無理だと悟った。
「戦いが始まる前には200メートル以上離れること。始まったら全力で息を潛めて絶対に近づかないこと。いいね?」
「わかりました」
ロロアもそれなりに隠系スキルを習得している。
200メートル離れた狀態で潛んでしまえば、いくら直に優れたこの黒いオークでもロロアを認識するのは不可能だろう。
まぁ自分以外に意識を向けさせた時點で敏樹の負けは確定なのだが。
「じゃあ準備だけ手伝って」
「はいっ」
敏樹とロロアは黒いオークの周りに家電量販店で買ったあるを配置していく。
さらに近くの木に何かが印刷されたA3の紙を點々とり付けていった。
「これ、1枚もらってもいいですか……?」
「いや、どうするの、そんなもん」
「うぅ……、だめですか?」
「まぁ、別にいいけど」
「やったっ!」
そんな一幕もありつつ、準備のほうは問題なく終了した。
「よし、そろそろ時間だ。ロロア」
「……はい」
ロロアは不満げだったが、さすがにこの段階でわがままを言うほどわかりが悪いわけではない。
「大丈夫。無理はしない。もしやばかったら短距離転移でロロアを抱えて遠くに飛ぶから」
敏樹はここから200メートルほど離れた場所を拠點に設定していた。
ロロアはそこに待機してもらい、萬が一の時は一度魔力を使ってそこまで転移し、そのまま別の離れた場所へ飛ぶという逃げ道を用意していた。
「あ、それから念のためこれかぶっといて」
と、敏樹は〈格納庫〉から取り出した偏バイザー仕様のジェットヘルメットをロロアに渡す。
「200メートル離れてるから大丈夫だと思うけどね。一応バイザーも下ろしといてな」
「はい。ではお気をつけて」
ロロアは何度も振り返りながら、離れていくのだった。
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