《【新】アラフォーおっさん異世界へ!! でも時々実家に帰ります》第6話『おっさん、親になる』後編
「あのよぉ……、おれ、親父と一緒に行きたいんだけど、ダメかなぁ?」
ふとシゲルが真顔になり、今度は伺うような視線を敏樹に向けてくる。
「一緒に!? 俺と……?」
「おう。ここでひとりでいてもつまんねぇしよぉ」
「ふむう……、しかしその姿はなぁ……」
そう言いながらも、なんとなく憎めない存在になってしまったシゲルのため、タブレットPCでいろいろと検索をかけていたところ、敏樹はひとつの方法を発見した。
「人化……?」
竜や悪魔など、高位の魔は自由に姿を変えることが出來るらしい。
その中で、人に姿を変えることを特別に〈人化〉という。
「あった、〈人化〉」
敏樹は『スキル習得』でシゲルの習得可能なスキルに〈人化〉があることを確認した。
シゲルはもともとオークの変異種であるが、それはおそらく最上位種であるオークエンペラーと同等の強さを誇る存在ではないかと思われる。
そのうえ名付けによって高い知を得ていたので、〈人化〉を習得出來るようになっているのだろう。
そしてその種族特かなにかが影響しているのか、シゲルは最初から〈人化〉をレベルマックスで習得できるようだった。
〈人化〉スキルだが、レベルが高いほど人に近づき、人化した際の能力の減衰がなくなる。
この世界の人類種は多種多様であるため、人に近づくというのがどの程度のものなのかは判斷はつかないが、人化した時に能力が下がりすぎるのもよくあるまい。
死と絶を近にじ、名付けという未知の経験を得たシゲルはそれなりにポイントを所有していたが、レベルマックスで〈人化〉を習得するとほぼゼロになる。
そのポイントを他のスキル習得に割り振れば、飛躍的に強くなれることは間違いない。
「なぁ、シゲルは強くなりたいのと俺についてくるのとどっちがいい?」
「親父についていくのがいい」
「でも、それを諦めるんなら凄く強くなれると言ったら?」
「そんなもん親父についていって稽古つけてもらやぁいいじゃねぇか。俺より強ぇんだからよぉ」
「……お前頭いいな」
これは敏樹にとっても悪くない話である。
ここ最近は武系スキルがび悩んでいた敏樹だったが、シゲルを相手に模擬戦などをすればいい刺激になるだろう。
「よし、じゃあ待ってろ」
敏樹はタブレットPCを作し、シゲルに〈人化〉をレベルマックスで習得させた。
「おお? 親父ぃ、何か変な気分だぞ?」
「おう。とりあえずあれだ、人になりたいと思ってみろ」
「ヒトに?」
シゲルは敏樹を一瞥したあと、何かを念じるように目を閉じた。
すると、シゲルのがを放つ。
「おおっ!?」
「わぁ……」
嘆の聲を上げる敏樹とロロアの前に、褐のをつ偉丈夫が現れた。
「ん? おお? おれ、なんか変わったか?」
「お、おう」
シゲルは不思議そうに自分の手足を見ていた。
「お前、なんか薄くなったな」
元ののは真っ黒だったので、敏樹の予想としては元の世界で言うところのアフリカ系な雰囲気になると思っていたのだが、のは濃いめの褐で、顔もどちらかというと東洋系に近いように見える。
オークにしては細だった格はそれほど変わらず、のと顔の形が変わったという印象だ。
「お前、どんなじで〈人化〉したんだ?」
「ん?、いや、ヒトっつってもよぉ、おれぁ親父しか知らねぇから、親父みたいになりてぇって思ったんだよ」
「それでか……」
言われてみれば、顔も敏樹に似てなくもないのかもしれない。
遠い親戚と言われれば、ああなるほど、という程度の類似なので、他人の空似以下ではあるのだが。
「しかし、ますますシゲルっぽくなったなぁ」
「そうかぁ? へへへ……」
敏樹の言っている意味もわからずひとしきり照れたあと、シゲルがロロアのほうを見る。
「なぁなぁ親父よぉ?」
「ん?」
「そのメスは親父の番つがいか?」
その言葉に、敏樹もロロアもしばし呆けた。
そして、ふたりとも徐々に顔が赤くなっていく。
「つ、つが……って、お前何言ってんの!?」
「そ、そそそうですよ!!」
と、耳まで真っ赤にしながら慌てふためく敏樹とロロアだった。
そしてひとしきりうろたえたあと、“この話題はもうおしまい”とばかりに、敏樹がパンっと手を叩いた。
「さ、さてと……、ひとつ確認しときたいんだけど、俺が気絶して目覚めるまでどれぐらい経ってる?」
「えっと、長いような短いような……」
「わりとすぐだったんじゃねぇかなぁ」
魔力枯渇に陥った場合、魔力が1割ほど回復した時點で目覚めると言われている。
敏樹の場合は〈無病息災〉のおで、1分におよそ1%ほど回復し、このペースはどうやら保有魔力量にかかわらず一定であるらしかった。
であれば、単純計算で10分はかかることになるようだ。
日常生活での10分ならともかく、戦闘中に10分間意識を失うというのは致命的である。
いくら〈無病息災〉があらゆる狀態異常を無効にできるといっても、HPが0になった際に訪れる死が不可避なように、MPが0になって訪れる気絶もまた不可避なのだろう。
魔力枯渇に関しては、より一層の注意が必要なようである。
「じゃあそろそろ帰ろうか」
「そうですね」
「おれも行っていいんだよな?」
し不安げな様子でシゲルは尋ねた。
「その格好……」
シゲルは現在、腰に革一枚巻いただけの格好である。
下帯などもにつけておるまい。
ギリギリセーフと言えばセーフなのだが……
「これ羽織っとけ」
敏樹は〈格納庫ハンガー〉からマントを取り出し、シゲルに投げてよこした。
〈格納庫〉の中には敏樹の著替えもあるのだが、サイズが合わないだろう。
長差は30センチ近くあり、腕や足は敏樹に比べ、シゲルのほうが二回りほど太い。
のあるジャージであれば著れなくもないだろうが、出來の悪い育教師のようになりそうなので、サイズに関係なくを覆えるマントを選択した。
「ありがとよ、親父。でも、これどうやって著るんだ?」
「えっと、これは、こうやって」
と、ロロアがシゲルのマントの裝著を手伝ってやる。
「おう、悪ぃなねーちゃん」
敏樹を親父と呼ぶ様子にどこか親近を覚えたのか、ロロアはとく怖れることなくシゲルに接することができるようだ。
マントを裝備したシゲルは、首周りがし窮屈そうではあるが、一応膝のあたりまでを覆うことが出來た。
「へへ……おれ、いまどんな恰好なんだ?」
「ほれ」
敏樹は姿見の鏡を出してやった。
「へええ。おれってこんな顔してたのかぁ」
「いや、元々そんな顔じゃなかったけどな」
支度を整えた3人は森を出て自車に乗った。
すっかり日も落ち、真っ暗になっていたが、ライトは目立つのでつけずに走った。
敏樹には〈夜目〉があるので走る分には問題ないが、一応進行ルートに人がいないことは『報閲覧』で確認しておいた。
「おお! なんかこれ楽しいなぁ!!」
の大きいシゲルは後部座席に座ることが困難だったので、助手席に座っている。
ガタガタと揺れる車で、シゲルはおおはしゃぎだった。
暗がりを走るのにかなりペースを落としたため、町に著くころには深夜に近い時間になっていた。
外壁の門の近くにいくつものテントが立てられている。
「あー、悪いね。場は日が昇ってからなんだ」
「あ、そうなんですね」
つまり、テントで休んでいるのは翌朝町にる予定の人たちというわけである。
「すいません、ひとり分証を持ってないやつがいるんですが、仮の分証発行も明日のほうがいいですかね?」
「いや、町にらないんだったらいいよ。じゃああなたが元引人になるってことでいいのかな?」
「そうですね」
「では分証を」
敏樹がギルド証を提示すると、警備兵はし渋い顔をした。
「うーん、Eランクですか……」
「あ、だめですか?」
「そうですねぇ。冒険者の方ですと、元引人になるにはCランク以上と決まっているんです」
「なるほど……。じゃあ町の知り合いに伝言なんかを頼んでも?」
「主要な施設あてでしたら通信を送れますけど」
通信とはいうが、メールや電話ではなく、【収納】の転移機能を利用した文書のやりとりである。
「ドハティ商會とバルナーフィルドホテルなんですけど」
「ああ、それなら大丈夫です」
そこで敏樹はドハティ商會で用意してもらったこの世界の紙とペンを取り出し、さらさらと二通の手紙を書いて警備兵に渡した。
「こっちがドハティ商會のクレイグさん宛て、こっちがバルナーフィルドホテルの支配人宛てね」
「確かに」
「じゃあ明け方にもう一度來ますね」
「かしこまりました」
門を離れた敏樹らは市壁からし離れた場所にテントを立てることにした。
ひとり用のコンパクトなテントに見えるが、空間拡張の効果が施されており、5~6人ほどは寢られそうな広さがある。
これもドハティ商會で買っただった。
(さて、ロロアとシゲルを同じテントで寢させてもいいのかどうかだか……)
広さ的には問題ないが、シゲルの格がわからないだけに判斷に迷うところではある。
オークと言えば異種族の雌に種付けすることで有名な魔であり、変異種かつ人化したとはいえシゲルは元々オークである。
敏樹のまぬことはしなさそうなイメージはあるものの、確証はない。
「親父たちはそこで寢るのか?」
敏樹がテントを立てつつ考えあぐねていると、シゲルが話しかけてきた。
「おう、そのつもりだ」
「そうか。おれぁ別に寢る必要ねぇからよぉ。外で見張りでもしとくぜぇ」
と、シゲルのほうから魅力的な提案がもたらされるのだった。
しんどくなったら遠慮なく聲をかけるようにと言い聞かせ、日本から持ってきたアウトドア用の折りたたみ椅子を出して座らせた。
そこそこいい値段のであり、シゲルはその座り心地をどうやら気にってくれたようだった。
ロロアは隨分と申し訳なさそうにしており、せめて見張りの代をと申し出たが、シゲルが聞きれてくれそうにないので最後は諦めて敏樹とともにテントにった。
帰り道からテントで眠りにつくまで、ロロアの口數が隨分とないことが、敏樹はし気がかりだった。
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