《【新】アラフォーおっさん異世界へ!! でも時々実家に帰ります》第11話『おっさん、訓練場に行く』

冒険者ギルド地下の訓練場には、部屋全に回復を促進する式が施されている。

ただし、この訓練場で負った傷に限る、という制約付きではあるが。

しかしその制約のおで、かなりの重癥であっても後癥なしに完治できるのだとか。

むろん、最初から怪我をしづらくなるような工夫も凝らされている。

例えば現在、だだっ広い訓練場の中心でギャラリーに囲まれて向き合う、シーラとガンドの持つ武がそうだ。

「ふむ。その短い剣2本で、それがしの間合いにれるかな?」

「ふん! 長柄のハルバードなんざ懐にっちまえばこっちのもんさ」

シーラの持つ雙剣も、ガンドの持つハルバードも、ギルドが貸與しているものだ。

どちらも怪我がないように刃が潰されているだけでなく、薄く明なに包まれていた。

「では始めるがよい」

バイロンは開始の合図を出すとすぐに下がり、敏樹の隣に立った。

「いつでもかかってくるがよい」

「じゃあお言葉に甘えて、いくよっ!!」

シーラは踏み込むと同時に、まず右の剣を上段から振り下ろした。

それをガンドはハルバードの斧頭でけ止めたが、ほぼ同時に繰り出された左の剣がを襲う。

しかしそれも、ガンドが巧みにったハルバードの柄によって防がれてしまう。

同士がぶつかり合っても金屬音はせず、代わりに質ゴムをぶつけ合うような鈍い音が鳴った。

「スライムゲル、でしたっけ?」

「そうじゃ。スライムの〈理耐〉を殘したまま錬した素材で、刃をコーティングしとるのよ」

敏樹の質問にバイロンが答える。

ふたりが持つ武の周りを覆う明な、すなわちスライムゲルのおで、訓練者は怪我を負いづらくなっているのだ。

「斬撃や刺突はほぼ無効化できるんじゃが、衝撃だけは半減といったところかのぅ」

「いや、半減できるだけでも大したものじゃないですか」

そんな會話を続けるふたりの前で、シーラとガンドは激しく打ち合っていた。

一見すればシーラが優勢で、ガンドのほうは防戦一方といった合だが、どうにも様子がおかしい。

「犬のねーちゃん、そろそろヤバいかもなぁ」

対戦をぼんやりと見ていたシゲルが、ボソリと呟いた。

見ればガンドはまだ余裕の表を浮かべていたが、対するシーラは息を切らせ、苦しそうに歯を食いしばっている。

ここまで30合ほど打ち合い、その間シーラが一方的に攻め続けてはいたが、その程度の連続攻撃でここまで疲弊するほど、彼のスタミナはなくないはずだ。

「もう終わりかな?」

「くっ……、まだまだぁっ!!」

びとともにシーラが踏み込み、打ち合いは再開されたが、相変わらずガンドは防戦一方だった。

「しかしあの熊のおっさん、おもしれぇことしてんなぁ」

「ん? じゃあガンドさんが何か仕掛けてるのか?」

「おう、そうだぜぇ」

「ふむう……」

シゲルにそう言われ、敏樹は〈思考加速〉を発した。

ゆっくりと流れる時間の中で、敏樹は目を凝らしてガンドの様子を凝視したが、スローモーションで見ても彼のきに不審な點はなさそうだ。

(……強いて言えば、全の筋が異様に強張ってるってことか)

シーラの剣は速いが軽い。

その軽い剣撃をけるにしては、腕だけでなく全に力がりすぎているように見えるのだが。

「ぐっ……!!」

さらに十數合打ち合ったところで、シーラの右手から剣が飛んだ。

すかさずガンドはハルバードを橫薙ぎに振ったが、剣を持ったままの左手はだらりと下がったまま上がらず、シーラは首に斧頭の刃をピタリと當てられた。

「それがしの勝ちだな」

「くそっ……!!」

悔しげに舌打ちしたあと、シーラの左手からも剣が落ちた。

「それまで。だれぞ彼を治療してやれ」

訓練場には數名の治療士が常駐しており、なにかあればすぐに怪我の治療ができるようになっているのだ。

「おつかれ」

「……悪ぃ、無様な戦い見せちゃって」

治療を終えたシーラに敏樹は聲をかけたのだが、彼はまだ悔しそうだった。

「なぁ、シゲル。ガンドさんはシーラに何を仕掛けてたんだ?」

「あの熊のおっさんはよぉ、犬ねーちゃんの攻撃けるたびに反撃してたんだよ」

「反撃?」

その答えに、敏樹は首を傾げ、うつむいていたシーラは弾かれたように顔を上げ、シゲルを見た。

「そのねーちゃんの攻撃がこう來たときに、當たる直前で全部の力を使ってドーン! ってじでよぉ」

「全を使って?」

「ふふ、お主の子分はよう見抜いたな」

敏樹とシゲルの會話を聞いていたバイロンが口を挾む。

「ガンドのやつはの、刃から拳ひとつ離れた位置にあれば、振りかぶることなく大木をなぎ倒すことができるんじゃよ。なんでも、腕の力をそれほど使わんでも、全の力をハルバードに伝えれば、それくらいのことはできるとかなんとか」

「ちっ……、そういうことかよ」

バイロンの言葉で察したのか、シーラが悔しげに呟く。

(寸勁みたいなもんか?)

敏樹の記憶が確かなら、中國拳法に似たような技があったはずだが、それができるからといって、シーラのあの猛攻に対して反撃を続けるというのは尋常ではない。

なにせシーラは、敏樹の補助があったとはいえ、刺突を制限された狀態で山賊団の頭目と互角にやりあえる実力の持ち主であり、あのころからさらに腕を上げているのだ。

「さて、今度はパーティーで挑んでみてはどうかな?」

しばかり人の悪そうな笑みを浮かべたバイロンが、敏樹にそう告げる。

「いや、俺はパスします。こういう育會系のノリはちょっと苦手で……」

「あ、じゃあ私も」

「たい、く……なんじゃ、そら?」

敏樹とロロアはバイロンの提案を斷り、シゲルは別枠ということになったが、治療を終えて調子を取り戻したシーラと、メリダ、ライリーはそれをけた。

しかし3人がかりで挑んでも、ガンドには敵わなかった。

比較的至近距離から放たれたメリダの矢はことごとく撃ち落とされ、ライリーの魔もハルバードの一振りで打ち消された。

そして反撃を恐れて攻めあぐねていたシーラも、あっさりと敗れ去ったのだった。

「ま、新人にしては悪くないきじゃったな。Dランク昇格試験の免除というところかの」

為すなく敗れたように見えた3人だったが、さすがギルドマスターと言うべきか、見るべきところは見ていたようだった。

**********

『おぬしの子分じゃが、手加減はできるんじゃろうな?』

訓練場へ向かう前、バイロンからそう問われた敏樹は、慌ててシゲルを連れてひと目のないところに移し、タブレットPCを使って〈手加減〉スキルを習得させていた。

シーラたちの挑戦が終わったあと、今度はシゲルとガンドが対峙する。

シゲルは訓練用の短槍を手に、特に構えるでもなくぼーっと突っ立っていた。

しかし、シゲルの前でハルバードを構えるガンドは、張し、冷や汗をかいている。

「では、參るっ!!」

「おう」

大きく振りかぶった狀態から踏み込んだガンドのハルバードが、豪快に振り下ろされる。

訓練場の空気全が震えるような、目にも留まらぬ斬撃を、シゲルはほんのをずらすだけで避けた。

しかしガンドはハルバードを振り下ろした狀態から、まるで武の重さをじさせぬように素早く橫薙ぎ振るも、軽く飛び退いたシゲルにあっさりとかわされてしまう。

その後もガンドの猛攻は続いた。

斧頭や穂だけでなく、石突きや柄をつかった連続攻撃は、雙剣を扱うシーラよりも手數が多い。

それらの猛攻を、シゲルはわずかにをひねるか、たまに槍で軽く軌道を変えるなどしてやすやすとわしていく。

「へへ、真似するぜぇ」

何十回も攻撃をかわし続けたシゲルが、ふと発したその呟きは、誰の耳にも屆かなかった。

そして、渾の力で振り下ろされたハルバードを、シゲルはその場にとどまってけ止めた。

「ぐぉっ!?」

シゲルのほうは普通にけ止めただけに見えたが、槍と當たった直後、ガンドはハルバードを大きく弾き返された。

そしてがら空きになったみぞおちに、シゲルは片手で槍を突きれる。

「ぐふぅっ……!!」

その直後、ガンドはその場に膝をつき、を吐いた。

「それまで!! 誰ぞっ!!」

バイロンの合図をけた治療士がガンドに駆け寄り、回復をかける。

訓練場の効果もあってか、ガンドはほどなく回復し、立ち上がった。

「參りました」

そしてシゲルに頭を下げるのだった。

「お、おい……。ガンドさん負けちまったぜ?」

「まじかよ、あいつなにもんだよ」

「あの人、酒癖はともかく腕だけはたしかなのにな……」

客からどよめきが起こる。

「まったく……、とんでもないやつを子分にしておるのぅ」

「いやほんとに」

バイロンの、どこか揶揄するような言葉に、敏樹は皮抜きで素直にそう答えた。

あのシゲルに自分などがよくぞ勝てたものだと、改めて心する。

「さて、儂の権限じゃとCランクまで飛び級が可能じゃし、それだけの実力はあると思うが、どうする?」

「いや、シゲルには々と経験を積ませてやりたいので、飛び級はなしでお願いします」

「ふむ、では優遇の類は不要かの?」

「ですね」

その後、シゲルは冒険者たちから賛辭を贈られるとともに、模擬戦を何度も申し込まれた。

敏樹は一旦人のから外れ、〈影の王〉で気配を消しつつタブレットPCを取り出し、先ほどの一戦で〈手加減〉スキルのレベルアップが可能になっているのを確認した。

以降、しばらくは復活したガンドと試合をしてもらいつつ、適宜〈手加減〉のスキルレベルを上げていき、ほどなくある程度力のある冒険者相手であれば、あまり怪我をさせずに戦えるようになった。

そして、シゲルをまじえた訓練は、バイロンが監督するなか、夕刻まで続いたのだった。

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