《【新】アラフォーおっさん異世界へ!! でも時々実家に帰ります》プロローグ『おっさん、奴隷商館へ行く』後編

「な……、なにをしているっ!?」

客人の暴挙にいろいろと疑問は盡きないだろうが、まずドレイクの口から出たのはその言葉だった。

そして、ドレイクが口を開くより前にメイドたちはいていた。

部屋にった時點でふたりのメイドがドレイクのそば――敏樹から見て右手――に立ち、3人のメイドが敏樹らを警戒するよう左手に立っていたのだが、ドレイクのそばにいたうちのひとりと、左手にいた3人が同時に飛びかかってくる。

ドレイクのそばにいたひとりは短剣を手に襲い掛かってきたが、テレーザが前に出て、突き出された短剣を腕で弾き返した。

キィンッ! と金屬同士がぶつかる音が響き、短剣を弾かれたメイドは半歩下がって構え直す。

ローブの下から現われたテレーザの腕には白銀の手甲が見えた。

「ロロア、ベアトリーチェっ!!」

錠前を壊すのとほぼ同時に敏樹がび、ふたりはそれに頷くと、ロロアは鉄格子の隙間から室へと素早くり込み、ベアトリーチェは傍らにいたファランを小脇に抱きかかえた。

「わわっ!?」

事前の打ち合わせがあったとはいえ、思いのほか唐突な展開にファランが思わず聲をらす。

左手から3人のメイドが迫っており、錠前を壊すため敏樹はメイドたちに軽く背を向けるかたちになっていたが、〈格納庫ハンガー〉から強力なストロボを取り出し、そのまま背中越しに閃を放った。

「「「――っ!?」」」

想定外の攻撃に混したメイドたちの隙を突いて、敏樹は外開きになっている鉄格子の扉を勢いよく開け、その後ろに回り込んだ。

ストロボの閃による混からすぐに立ち直り、再度飛びかかったメイドたちだったが、目の前に迫る扉にたたらを踏む。

その隙に、先行していたロロアは室勢を整え、ベアトリーチェは扉をくぐって中に躍り込み、ファランを抱えたままさらに奧へと駆け込んだ。

「おおっと!」

3人が室り、ベアトリーチェがファランを護るように盾を構えたのを確認した敏樹は、鉄格子の側にはらずに扉を閉める。

それと同時に3人のメイドが一斉に飛びかかってきた。

左右の手にそれぞれ片手斧槍を構えた敏樹は、〈思考加速〉で時間を引きばし、ゆっくりと流れる時間の中で敵のきを見極め、3人のふたりの攻撃をけ止めた。

まだ閃の影響が殘っているのか、メイドたちの攻撃にはし甘い部分があり、敏樹は難なく防功する。

「ぐぁっ……!?」

そして余ったひとりの短剣が敏樹のに屆こうかというところで、そのメイドは肩を抜かれて弾き飛ばされた。

鉄格子の向こうで、ロロアが弓を構えていた。

「テレーザさん!」

メイドの攻撃を弾き返した敏樹は、片手斧槍1本をしまい、白い鞘に収められた剣を取り出してテレーザへと投げた。

「助かる!!」

數回、手甲によってメイドの攻撃を防いでいたテレーザは、敏樹に呼ばれた直後、反撃に出た。

これまで防戦一方だったテレーザの拳に顔面を狙われたメイドが、わずかに退いてよける。

その一瞬の隙に、テレーザは敏樹が投げてよこした剣を後ろ手に摑んで鞘を払った。

白銀に輝くレイピアの剣が姿を見せたのとほぼ同時に、テレーザは素早く踏み込み、突きを繰り出す。

目にも留まらぬ、とはまさにこのことで、これまでのきから相當な手練であると思われたメイドのひとりが、為すなく肩を貫かれた。

その間、左手のメイドたちだが、敏樹の攻撃によってきを制限されつつ、鉄格子の向こうからロロアが放った矢に、腕や肩を抜かれていた。

さらに、ドレイクの側に控えていたメイドも、鉄格子に背を向けていたため、背後からロロアに肩を抜かれた。

抵抗の意思を見せた者は腳をロロアによってたれるか、敏樹に膝を砕かれるか、あるいはテレーザによって腳の腱を切られるなどして、無力化された。

「ど、どうやって武を……? それにあの閃……、魔道も封じているはずなのに……。そもそも、貴様ら何が目的で……」

おそらくは護衛の要であっただろうメイドたちをあっさりを制圧され、ドレイクは恐怖に震えながらもなんどかそれだけは口にできた。

「武については彼のおかげ。魔道については知らん。目的はすぐに分かるさ」

テレーザは淡々と告げながら剣に付いたを払い、レイピアを鞘に収めた。

**********

敏樹らは薄暗い廊下を歩いていた。

メイドたちを拘束したあと、事態を飲み込めずに呆然とするミリアを目に、敏樹はタブレットPCを片手に彼の部屋を調べた。

その結果、本棚の後ろに隠し階段を見つけ、地下に降りた先にある廊下を歩いているのだった。

「こ、こんなことをして、ただ済むと思っているのか……?」

テレーザにレイピアの切っ先を突きつけられながら、先頭を歩かされているドレイクが、なんとか絞り出すように口を開いた。

「くくく……。この先に何があるのか楽しみだなぁ、ドレイク殿?」

「ぐぬ……」

廊下の突き當りに、金屬製の大きな扉が現われた。

「開けろ」

「斷る!」

扉には番號キーが設置されていた。

數字ボタンを押すことで魔力が流れ、正しい順序で押下すれば開くものだ。

(日本ではよく見るものだけど、こっちにもこういうのがあるんだなぁ)

と、敏樹は心しながら、ミリアの部屋捜索後に収納していたタブレットPCを再び取り出した。

「くく。オークションにかければ數百億にはなるハイエルフの牢とくらべて、えらく厳重じゃないか。何があるのか楽しみだなぁ」

「ふん! 私でなければここは絶対に開けられ――」

――ガチャン。

「おまたせ。開いたよ」

「――馬鹿なっ!?」

重要施設のセキュリティとして、個人の魔力パターンを登録し、認証させるというものがある。

しかしその場合、力づくで手などを押し當てられてしまえば解除されてしまうため、非力な商人であるドレイクはそれを採用せず、自分の意志で作しなければならない番號キーを設置していたのだった。

これであれば自分が協力さえしなければ開けることはできないはずだったのだが、敏樹の持つタブレットPCの『報閲覧』機能の前では無力だった。

「ダリウさん! デリアさん!」

扉が開くなり、ロロアがびながら中に駆け込んだ。

「まさか、ロロアか?」

「まぁロロアちゃん!?」

扉の向こうは広い部屋になっており、太い鉄格子で區切られていた。

その鉄格子の向こうから、ロロアの呼びかけに応える聲があがった。

「おうおう、よくもまぁこれだけの人を集めたものだ」

テレーザが半ば呆れつつも嘆の聲を上げる。

鉄格子の向うには十數名の人がいた。

ロロアに呼びかけられた蜥蜴頭のふたり以外にも、亀を思わせる者や蛇を連想させる者がおり、彼らは同じ水人でもグロウたちとは異なる氏族である。

さらに猿や狐、虎をのような頭の火人、鷲や鳶のような頭と背に翼を持つ風人、そして飛蝗バッタや蟻を連想させる地人らが囚われているのだった。

「ちょっと失禮」

鉄格子越しに再會を喜び合うロロアたちの後ろで、敏樹はドレイクの懐に手を突っ込んだ。

「なっ、貴様! 何をする!?」

「お、あったあった。これ、借りるよ」

と、敏樹はドレイクの懐から鍵を取り出した。

なんとか抵抗を試みようとしたたドレイクだったが、首の裏をチクリとレイピアで刺されて、すぐに固まってしまった。

「さすがにアダマンタイト製の錠前は壊せないからな」

ミリアの部屋にあった鋼鉄製の錠前であれば、片手斧槍で無理やり壊せるが、膂力に優れた人たちを閉じ込めておく牢と錠前には、鋼鉄よりも遙かに強いアダマンタイトが使用されており、さすがにそれを力づくで壊すのは困難である。

南京錠の部分であれば〈格納庫ハンガー〉にれられるのでは? と事前に試していたが、錠前をロックしている狀態では収納できないことが判明している。

そこで、ドレイクがつねに離さずここの鍵を持っているのは事前に調べていたので、それを拝借したというわけだ。

「さて、これだけの人を監していたのだ。言い逃れはできんぞ?」

敏樹、ロロア、ファラン、ベアトリーチェの4人が牢を開けて人たちを解放する中、テレーザは蔑むような笑みを浮かべてドレイクと対峙していた。

「だ、黙れっ! 私にこんなことをして、ただで済むと思っているのか!?」

「思っているさ。こうやって証拠も証人もある以上、お前が罪から逃れることはできない」

「ふん、馬鹿めっ!! 私は王族ともつながりがあるのだぞ!? もしこの場で拘束されようとも、すぐに釈放されるに決まっているのだ!! そうなれば、草のを分けてでも貴様らを見つけ出してやるからな」

突然いろいろなことがあり過ぎて揺していたドレイクだったが、王族とのつながりを思い出していい気になったのか、自ありげな、そしてどこか下卑た笑みを浮かべた。

「ふふふ……、貴様らの戦闘能力といい、あの男の意味不明な能力といい、何よりたちは人ぞろいときている。いい金になりそうだ……ふははは!!」

そんな言葉や笑いに、テレーザを始め敏樹らも特に揺を見せないため、自信ありげだった笑みが徐々に引きつる。

「王族といったな?」

「ああ、言ったとも。私は王族とも懇意にしている、王國隨一の商人だからなぁ!」

「それは、この人たちの監に、王族も関わっているということか?」

「ふ、ふふ。その通りだ!!」

その返事を聞き、片手でテレーザは顔を覆ってうつむいた。

ほどなく、彼は肩を震わせ始める。

「どうした? いまさら怖気づいたか? いいだろう。いまそいつらを牢に戻して私を開放すれば、貴様らは普通の奴隷落ちで済ませてやるぞ?」

「く……くく……」

「おい、どうした? 恐怖のあまり気でもれたか……?」

「くぁーっはっはっは!! おい、聞いたか? トシキ! 聞いたか!?」

突然高笑いを始めたテレーザに、ドレイクは顔をひきつらせ、敏樹は呆れ気味に苦笑をらした。

「ええ、聞いてますよ」

「あははは!! こいつ、この件に王族が関わっていると言ったぞ? たしかにそう言ったよな!?」

「そうですね。ってか最初からそう言ってるじゃないですか」

「あはは……くふふ……そうだったな。貴殿は最初からそう言っていた……。しかし、まさか本當に……くふふふ……」

狂ったように笑うテレーザも不気味だが、ドレイクにとっては敏樹のほうがより気味悪くじられた。

ミリアの部屋で隠し階段を見つけたり、この部屋の扉を開けたりという行も不気味だが、終始淡々と行し、王族の関わりを聞いたところでじることなく、まるで最初からすべてお見通しだとでもう言うような態度に、ドレイクはしずつ恐怖を覚え始める。

「い、言っておくが、私は王と直接面識もあるのだぞ? 王であっても、私を軽んずることはできないのだからな」

「ほほう、では王も関わっていると……?」

「そ、それは……」

テレーザの顔から笑みが消え、視線が鋭くなる。

それをけたドレイクは後ずさりしそうになったが、なんとか踏みとどまった。

「と……ともかくだ! いますぐここ去るのであれば、今日のところは見逃してやる。どうせ貴様らが何をしようと私が裁かれることはない! すべて徒労に終わるのだからな!!」

「そうか。しかし、これを見ても同じことが言えるか?」

そう告げたあと、テレーザはローブをぎ去った。

その下からは白銀に輝く甲を中心とした軽鎧が現れる。

「そ、それがどうし――、まさかっ……!?」

テレーザが魔力を流すと、無地だった甲の左に、桜の花を模した紋章が浮かび上がる。

「さ……桜の紋……。まさか、あなたは……」

「ふふ、さすがに知らんとは言えんよなぁ、この紋が意味するところを」

ダンッ! と一歩踏み込んだテレーザは、ドレイクを指差した。

「何人なんぴとたりとも天網てんもうを犯すことは許されん!! 王ごときが我々に逆らえるなどとは思わんことだな!!」

「あ……あぁ……」

テレーザの言葉をけて立っていられなくなったのか、ドレイクはその場にへたり込んだ。

*********

その後、タイミングを見計らって突したテレーザの仲間により、商館の関係者は一旦全員が拘束され、不當に監されていた人たちは保護された。

「おっさん、ロロア! 上手くいったみたいだな」

「4人ともご無事で何よりです」

「ん、よかった」

後続の部隊にはシーラたちが合流しており、逃げようとした者や隠れてやり過ごそうとした者の捕獲に、シーラの嗅覚やメリダの気配察知が大いに役立ったようだ。

また、激しく抵抗するものに対してはライリーの魔による無力化が功を奏し、無駄な犠牲を出さずに済んだと、あとになって禮を言われた。

「シゲルは?」

「訓練場。こっちにも名教の噂が屆いてたみたいで、くんずほぐれつの大騒ぎだよ」

「はは、そうかそうか」

シーラたちとの話が一段落ついたところで、テレーザが駆け寄ってきた。

「トシキ、今回は世話になった」

「いえいえ。俺も目的をひとつ果たせましたし」

そう言って敏樹が視線を送った先では、ロロアがダリウやデリアと楽しげに話していた。

「ふふ……。では、これからもよろしく頼むぞ?」

「ええ。こちらこそよろしくお願いします。まだ始まったばかりですからね」

そうやって話をしながら、一行は廊下を抜けてミリアの部屋に戻った。

そして、敏樹とテレーザの下へ、ミリアが恐る恐る近づいてくる。

「あ、あの……、これから私はどうなるのでしょうか?」

「うむ。君たちのように、法に基づいて奴隷となった者に関しては、殘念ながら我々のあずかり知らぬところだ。なので――」

そこでテレーザは敏樹の背中をバンッ! と叩いた。

「おわっ! とと……」

「あとのことは彼に聞いてくれ。ではな」

そう言い殘し、テレーザは仲間たちとともにその場を去っていった。

「あ、えーっと、どうも。改めまして、敏樹といいます」

「はい……」

しいハイエルフの奴隷に憂げな視線を向けられた敏樹は、再び鼓が早まるのをじた。

(枯れた老人でも一瞬でみなぎるな、こりゃ……)

このまま対峙するのはあまりよくないと思った敏樹は、あとのことをファランに任せてさっさと商館を出ることにした。

「くぁ……」

商館を出で大きくびをする敏樹のもとに、ロロアが小走りに近づいてくる。

「トシキさん、ありがとうございました」

そう言って頭を下げるロロアのしうしろで、ダリウとデリアも深々と頭を下げた。

「はは、うまくいってよかったよ」

「はい! トシキさんのおかげです!!」

「みんなが頑張ったからだよ。それに、まだ始まったばかりだ。これからも一緒に頑張ろうな」

「はいっ!!」

嬉しそうに返事をするロロアの姿に、敏樹は心地よいの高鳴りを覚えるのだった。

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