《【新】アラフォーおっさん異世界へ!! でも時々実家に帰ります》第1話『おっさん、準備を始める』

それは敏樹が初めてドハティ商會を訪れたときのことである。

商會長でありファランの父親でもあるクレイグから、協力を惜しまないと言われた敏樹はさっそく彼の力を借りることにした。

「クレイグさんは奴隷を扱っていますか?」

「奴隷、ですか?」

奴隷という言葉を聞いて、クレイグの表がわずかに曇る。

もしかすると、山賊に囚われ、奴隷のような扱いをけていた娘のことを思ったのかもしれない。

この國の奴隷制度はそれなりにしており、奴隷は無制限に労働や奉仕を強制されることもないうえに、健康管理などもしっかりと行ってもらえる。

それでも自由を制限されることに変わりはなく、まぬ労働を強いられることはままあるようだ。

「殘念ながら、私どもは奴隷を扱っておりません」

「そうですか、すいません」

敏樹の口調や表から何かを察したのか、クレイグが慌てたように首を振る。

「ああ、いえ、こちらこそなにか気を使わせてしまったようですね。我が商會は、代々奴隷を扱っていないのですよ」

「ああ、そうなんですか」

「はい。奴隷というのは扱いが非常に難しいですからね」

売りとは言え人であることに変わりはない。

奴隷の在庫をかかえるということは、その間それだけの人を養わなくてはならないということだ。

そして奴隷商は奴隷の健康管理にも責任があるため、ぞんざいに扱って奴隷たちの健康を損なえば、それなりのペナルティーを科せられるのである。

「おみでしたら奴隷商への口利きは可能ですよ。この町に奴隷商はありませんが、需要がないわけではないので、そういったお客様には昔から仲介をしておりますから」

「いえ、俺がしいわけではないんです。できればクレイグさんに奴隷を引きけてほしいんですよ」

「私に、ですか……?」

「はい。実は奴隷として扱われている人のみさなんを解放しようと思っておりまして……」

この國において、人を奴隷として扱うことは固くじられている。

しかしそのを犯してでも人を扱おうとする商人は、わずかながら存在する。

その希故に価値が高く、力や魔力に優れているため単純に有能であり、なにより食事の世話が不要である、というこれら理由により、人の奴隷は違法であても人気が高い。

そして、違法であるがゆえに労働容の制限がないことも、好まれる理由であろう。

ただし、人の奴隷を扱っている、あるいは所有していることが判明した場合、ほぼ例外なく極刑に処されるのだが、こういった制品を扱える者というのは、大抵法の目をかいくぐるをもっているのだ。

「俺はグロウさん……、ロロアのお祖父さんに約束したんですよ、不當に囚われている人の皆さんを助け出すと」

「……なるほど。しかし、裏に人を扱えるということは、それなりに大きな力を持ってる組織、あるいは人になると思われますが……」

「大変でしょうけど、なんとかなるんじゃないかなと思ってます」

「そうですか……。だから私どもに奴隷を扱えと?」

「そういういことです」

人を奴隷から解放する。

その際、敏樹は人を扱う奴隷商などを可能な限り叩き潰そうと考えている。

その結果、奴隷商が廃業してしまった場合、その奴隷商が扱っていた奴隷たちが行き場を失う可能が大いにあるのだ。

ドハティ商會にはそのけ皿になってもらおうと、敏樹は考えたのだった。

「……扱う奴隷の中には、特殊家事奴隷もいるでしょうか?」

「ええ、おそらくは」

特殊家事奴隷とは文字通り特殊・・な家事・・を行なえる奴隷のことだ。

公的にはただの家事奴隷ということになるのだが、特殊な行為を容認するといった一文を契約に加えた者は特殊家事奴隷と呼ばれ、主人の夜の世話などに重寶されるようになる。

そのような存在を忌避するクレイグではないが、自分が扱うとなると抵抗があるのだろう。

「娘と、話をさせてください」

「ええ。急かすつもりはありませんから、ゆっくり考えてください」

これにてその日の話は終わった。

**********

それからしばらく経ったあとのことである。

いつものように早朝から晝までの討伐依頼を終えた敏樹ら一行がギルドに戻ると、ファランとベアトリーチェが待っていた。

「やっほートシキさん」

いつもの明るい調子で敏樹らを迎えるファランに対し、ベアトリーチェは軽く一禮するだけにどどまる。

一度は故郷に帰ったベアトリーチェだったが、先日ヘイダの町を訪れてから帰らなくなってしまった。

詳しいことを敏樹は聞いていないが、狹い村でのことである。

數年ものあいだ山賊に囚われていたが戻ればいろいろあるのだろう。

とりあえずベアトリーチェは冒険者として活を始めた。

敏樹らとともに何度か討伐依頼をこなしたが、どうも彼は、自分から積極的に魔を倒すという行為があまり好きではないようだった。

攻めることよりも守ることを得意とする、そんな彼に目をつけたのが、ファランの父親であるクレイグだった。

彼としてはもう二度と娘を危険な目にあわせたくないと思っており、可能であれば常にファランとともにいられる護衛を探していたのだ。

そういう意味で言えば、ファランとの親度といい能力といいベアトリーチェは適任といえるだろう。

「ベアトリーチェ、護衛の仕事は慣れた?」

「ええ、まぁ。護衛と行っても、半分遊んでるようなものですけどね」

ベアトリーチェがファラン専屬の護衛として雇われることが決まったあと、敏樹は彼に〈気配察知〉や〈敵意察知〉といった探知系スキルに加え、丸腰でも戦えるように格闘系のスキルをいくつか習得させていた。

「ビーチェのおかげで父さんも安心したみたいでさ。大助かりだよ」

そう言うとファランは、隣りにいたベアトリーチェに橫から抱きつき、腰に手を回した。

「お風呂も寢るのも一緒だもんね! 最っ高の護衛だよー」

「もう、ファランたら……」

抱きつかれたベアトリーチェは困ったような笑みを浮かべながらも、かわいらしい妹をでるように優しくファランの頭をでていた。

一応ベアトリーチェはドハティ商會に住み込みで雇われ、個室も與えられていたが、いまのところファランと同じ寢室で過ごしているようだ。

「で、今日は何の用だ?」

「例の件について、いろいろと打ち合わせをしたいと思ってさ」

「そうか。親父さんは?」

「父さんは後始末の準備で忙しいみたいだから、計畫の実行云々にかかわることはボクが引き継いできたよ」

「そっか。いいのか?」

「なにが?」

「……たぶん、嫌なものをたくさん見聞きすることになると思うけど」

「あはは。大丈夫だよ、地獄なら見慣れてるから」

こともなげにそう言うファランと、その言葉に大した反応を見せないベアトリーチェやシーラたちの様子に、敏樹はが痛む。

知らずロロアも敏樹にし寄り添ってきたが、心を表に出すことはしなかった。

「おーい、なんかむずかしい話ししてるけど、俺はもう行ってもいいのかぁ?」

微妙な空気になりかけたところに、シゲルの無遠慮な言葉が割り込んできた。

敏樹は々呆れたように苦笑をらしたが、心ホッとしていた。

「ああ、シゲルはもう行っていいよ」

「よーし! じゃあまたあとでな親父ぃ」

気楽な様子でそう言いながら、シゲルは訓練場へと向かった。

「あたしらも難しい話はパスで。必要なときはいつでも聲かけて」

「ではシゲルさまにとともに訓練場へ行きますので」

「ん、いってくる」

と、シーラたちもシゲルに続いた。

「さーてと、込みった話になるから個室とかがいいんだけど、ウチはいまバタバタしてるからなぁ」

「だったら俺たちの部屋にくるか?」

「ま、それが一番いいだろうねー」

冒険者ギルドを出た敏樹ら4人は、そのままバルナーフィルドホテルに向かう。

ロビーにると、支配人が出迎えてくれた。

「お待ちしておりましたよ、お嬢さま」

そして支配人はファランに対してうやうやしく一禮した。

「なんだ、最初から俺の部屋にくるつもりだったのか?」

「まぁね。もしだめならとりあえず別に部屋を用意してもらおう思ってたけどね。いろいろ見られて困るものが散らかってたりしたら大変だし―?」

ファランはそう言いながら、からかうような笑みを浮かべて敏樹とロロアを互に見る。

「ないない、そんなもんは」

「あははー。ま、なにかあってもトシキさんならすぐ収納できるかぁ」

「だから最初っからそんなもんないんだって」

「うんうん、そういうことにしといたげよー! ってことでおじさん」

そこでファランは支配人に目を向けた。

「悪いけど、ふたりの部屋に飲みとつまむもの適當に持ってきてよ。料金はウチにつけといてー」

「かしこまりました」

「あー、いや、軽食ぐらいなら俺が出すよ」

「まぁまぁ気にしないでトシキさん。ウチの商売の一貫だから、必要経費ってことで」

「……そういうことなら、遠慮するのも失禮か」

そんなやり取りを終え、4人は敏樹とロロアの部屋に向かった。

ふたりの部屋には寢室以外にそこそこ広いリビングと簡易なキッチンがある。

リビングには3~4人がけのソファが2腳、ローテーブルを挾むように設置されており、それぞれに敏樹とロロア、ファランとベアトリーチェが並んで座った。

最初ベアトリーチェは脇に立って待機しようとしたが、他の3人に説得されて座ることになった。

「さて、いろいろと計畫を話す前に、まずはトシキさんにこの國・・・のことを知っておいてもらわないといけないんだけど……、先に食べよっか」

4人が室したあと、ほどなくもこまれた軽食を適當につまみ、食事が一段落ついたところで、ファランは再び話始めるのだった。

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