《【新】アラフォーおっさん異世界へ!! でも時々実家に帰ります》第3話『おっさん、昇格試験をける』

「俺たちの計畫に天網監察の力が必要だってことはなんとなくわかったけど、どこにいけば會えるんだ?」

「天網監察署だね」

「それはこの町にも?」

「殘念ながら」

敏樹に問いかけにファランは軽く首を振りながら答えた。

「天帝直轄の組織っていうのは、どうしても數がなくてさ。監察署は各州の州都にしかないんだ」

「なるほど……。じゃあここケシド州だと、セニエスク……だったっけ? そこに行けばいいわけだ」

「そういうことになるね」

ここまで話したところでファランは立ち上がり、ソファにもたれかかって寢息を立てているベアトリーチェの肩をトントンと叩いた。

「というわけで、出発は3日後ね。ビーチェ、帰るよ」

「んがぁ……? んんー……っ!」

ベアトリーチェは大きくびをしたあとを起こし、パチパチと何度か瞬きをしたあと、まだ焦點の合っていない目をぼんやりと正面に向けた。

「………………っ!?」

そして、敏樹とロロアから生溫かい視線を向けられていることに気付き、軽く息を呑む。

「や、やだ……私ったら護衛なのに……」

両頬に手を添え顔を赤らめながら、照れた様子でを捩る。

そんなベアトリーチェに、3人はほぼ同時に笑いかけた。

「いいんだよ、ボクが寢てていいって言ったんだから」

その言葉をけ、ベアトリーチェはファランを見上げ、目をうるませて眉を下げた。

「あの……いびき、とか……?」

「んー、いびきは特に……。かわい寢顔と寢息だったよ、ねぇトシキさん?」

「ん、おう、そうだね」

「なっ……!?」

敏樹の答えをけたベアトリーチェは一瞬彼をみて目を見開いたあと、顔を真っ赤にしてうつむいた。

その様子を見て、ファランは人の悪い笑みを浮かべ、敏樹とロロアはし困ったように苦笑をらす。

うつむいたまま、しばらく肩を震わせていたベアトリーチェだったが、ふいに立ち上がると、暴にファランの腕を摑んだ。

「か、帰りますよ! ファラン……!!」

「わわっ! ちょ、ビーチェ!?」

熊獣人の膂力に抗えるはずもなく、ファランは腕を引かれて部屋の出り口へと連れられていく。

「おい、ファラン! 3日後って、商會に行けばいいのか?」

「あ、いや、詳しい話はギルドで聞いて!」

「ギルド? なんで?」

「行けばわかるからー!」

いまや半ばを抱えられながら、ファランが答える。

「ト、トシキさん、ロロアちゃん……し、失禮しますっ!」

「じゃーねー!」

バタンとドアが閉まり、ふたりの姿が消えた。

あえてここで追いかけて事を聞くまでもないと思い、多困ったように苦笑をらしつつ敏樹はふたりを見送り、その隣でロロアはニコニコと笑みを浮かべて手を振っていた。

――翌日。

「Dランク昇格試験?」

「はい。トシキさまとロロアさま、あとシゲルさまの昇格試験が、明後日に決まりました」

冒険者ギルドを訪れた敏樹らは、貓獣人の付嬢エリーに呼ばれてそのことを告げられた。

シゲルはこれまでの依頼達と訓練教としての功績により、GランクからFランクを経てEランクへと、順調にランクアップを済ませている。

しかし明後日となると、ファランに告げられた州都への出発日と被ってしまう。

「すいません、明後日は……いや、待てよ」

しかし昨日、詳細はギルドで聞くようにと彼は言っていたはずだ。

「すいませんけど、試験の容は?」

「護衛の隨行ですね」

雑用、採取、討伐、護衛。

多岐にわたる冒険者業務のうち、この4つは特に多い主要業務となる。

離れた町へ移する旅人や商人、商隊の護衛は、冒険者がけ持つ大事な仕事のひとつだ。

本來冒険者ギルド経由で護衛依頼をけることができるのはCランク以上だが、Dランクになると護衛の隨行が認められるようになる。

「試験としてCランク以上の冒険者が1名、試験管補佐としてDランク冒険者が3名同行します。試験をけるのはEランク冒険者6名ですね。護衛として商人を州都セニエスクまで送り屆ける、というのが依頼容となります。今回の試験にはドハティ商會さまが協力してくださいました」

「なるほどね……」

つまり、州都へ行くついでに敏樹らの昇格試験を行なってしまおうと、ファランが手を回してくれたようだ。

「しかし、試験や補佐含めて護衛が10人っていうのは、普通なんですか?」

「昇格試験としては隣のエトラシまで、2~3人の旅人を送り屆けるということで、試験ひとりに対して4~5人の験者が隨行する、というのが良くあるパターンですね。商都に用事のあるギルド職員が旅人役になることも多いです」

「なるほど。今回向かうセニエスクはエトラシより遠いんですよね、たしか」

「そうですね。日程にして3日ほど長くなりますでしょうか」

「それで人數が多くなったと」

「もちろん距離や日程の問題もありますけど、護衛対象が職員ではなく一般人で、5人とし人數が多いというのもありますね」

そこまで言ったあと、エリーはしだけ口元を緩めた。

「ま、なによりドハティ商會さまから依頼料をはずんでいただけた、というのが大きいですけどね」

「はは、なるほど」

軽く笑みをらしたエリーだったが、すぐに表が改まる。

「では、明後日の昇格試験、おけするということでよろしいですね?」

エリーの問いかけに敏樹がうしろを振り向くと、ロロアは無言で頷いたが、シゲルはいつものようにぼーっとつっ立ったまま特に反応を見せなかった。

「シゲル、明後日一緒に遠出するけど、いいよな?」

「おう、親父がいいならおれはいいぜぇ」

「……というわけで、全員參加します」

「かしこまりました。では出発前の準備からが試験ですので、萬全の制で臨んでくださいませ」

エリーは3人を見てそう告げると、再び笑みを浮かべるのだった。

**********

そして試験當日。

ヘイダの町正門前広場に、試験と補佐験者、依頼人が集合していた。

「昇格試験に挑むEランク冒険者の諸君! それがしはヘイダ町隨い……あー、いや、唯一のBランク冒険者にして當試験の試験、ガンドである!!」

敏樹ら験者を前に、ガンドが聲高に名乗る。

試験の條件はCランク以上。

つまり、Bランクのガンドであっても問題はない、というよりむしろ大歓迎と行ったところだろう。

「続けて、この3名が、今回の試験に補佐として隨行してくれるDランク冒険者たちである! では各々自己紹介をっ!!」

3名の冒険者は、ザッと一歩前に出ると、順番に名乗り始めた。

「ヘイダの町冒険者ギルド所屬、Dランク冒険者シーラだっ!」

「同じくヘイダの町所屬、Dランク冒険者メリダですわ」

「ん、同じくDランクのライリー」

3人が名乗りを終えたところで、微妙な空気が流れる。

「……なにやってんの?」

その微妙な空気のなか、敏樹が口を開いた。

「あはは。あたしたちはDランク昇格試験を免除してもらったからね。これまでの討伐依頼で順當に昇格できたってわけさ」

「そこで、今回試験補佐のお話をいただきまして、同行させていただくことになったわけですわ」

「ん、そういうこと」

「あー、なるほどね……」

「まてまてぇーい!!」

弛緩した空気が流れそうに鳴ったところで、ガンドが敏樹とシーラの間を遮るように立ちふさがる。

「我ら普段からの顔見知りではあるが、ここは厳正なる試験の場である。馴れ合いはよしていただこうか」

ガンドの言い分は最もなので、敏樹は表と姿勢を改めた。

「うむ。では験者諸君も自己紹介を。そうだな、お互い知っているとは思うが戦闘スタイルなども述べてもらおうか」

同じ依頼をけるものが、どういったスタイルの冒険者かということを知るというのは重要な事だろう。

茶番のように思えるかもしれないが、こういうのは形式が大事なのだ。

「えー、ヘイダの町冒険者ギルド所屬、Eランク冒険者の敏樹です。使用武は……戟と雙斧、ですかね。隠が得意です」

敏樹は魔も使えるが、魔師ギルドを通して習得したものではないのであまり知られる訳にはいかない。

「同じくヘイダの町所屬、Eランク冒険者のロロアです。弓を使います」

「あー、シゲルだ。槍が得意だな」

敏樹らのあとに続いて、他の3名も自己紹介を始める。

「知っての通り、Eランク冒険者のジールだ。大剣使いだな」

「ランザじゃ。武は鉄槌。盾使うんが得意じゃから、防は任せてくれてええぞ」

「魔士のモロウです。下級の攻撃魔は一通り使えますが、どちらかというと補助が得意です。一応回復々使えます」

というわけで、參加者は互いに気心の知れた者ばかりということとなった。

「では最後に護衛対象となる依頼人の方々もよろしければ自己紹介などしていただけるかな? 気心の知れた者も多數おられるようだが、これも試験ゆえの形式だと思って協力していただけるとありがたい」

「オッケー、じゃあボクから」

ガンドの提案をけて、依頼人の並びからファランが一歩前に出る。

「ボクはファラン。ドハティ商會に所屬する商人だよ。今回は商都と州都への荷運び、支店や各都市の視察が目的だね」

続けて同行者たちが名乗りを上げる。

「ファラン様の専屬護衛でベアトリーチェと申します。私はあくまでファラン様個人の護衛ですので、全の護衛は冒険者の皆様におまかせいたします」

私的には姉妹のように仲のいいファランとベアトリーチェだが、公的には主従に近い立場となる。

「ウチはクク。ドハティ商會所屬の職人や。今回は研修みたいなもんかな」

「ウチはココ。右に同じっちゅうことでよろしく」

「クロエといいます。町で実家の食堂を手伝っております。今回はドハティ商會さんの好意で同行させていただくことになりました」

「ラケーレですぅ。おっきな町でどんな洗剤が使われるのか見て回ろうかなぁって思ってますよぅ。あ、途中で服が汚れたらいくらでも洗いますから、遠慮なく渡してくださいねぇ」

(……結局いつものメンバーだな)

敏樹は心のなかで呟いた。

たちはもちろんだが、ジールたちとはよく依頼で一緒になるし、ガンドもシゲルと訓練するようになってから流が深まっているのだ。

(なぁなぁにならないよう、気をつけないとな)

そう思い、敏樹は姿勢を正すのだった。

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