《【新】アラフォーおっさん異世界へ!! でも時々実家に帰ります》第5話『おっさん、山賊と対峙する』

積み荷の1割もしくは若いひとり。

山賊からの要求はずいぶん良心的に思えるが、これは一般的なものである。

先日敏樹らが壊滅させた『森の野狼』のように、人もこそぎ奪う、というほうが異常なのだ。

積み荷の1割を失ったとしても、手腕次第で取り戻せる損失であるし、若いを差し出す場合は奴隷であることが多い。

主人には奴隷の安全を保証する義務はあるものの、盜賊に襲われるなど、急事態であれば大目に見てもらえることもあるのだ。

の罰金で済むことがほとんどなので、積み荷の価値次第では奴隷を差し出す場合もある。

他者の奴隷になっているものを売買することは本來できないのだが、いくらでも抜け道はあるので、山賊たちもそれで満足することは多い。

そして一件あたりの被害額がないと、憲などもく可能が低くなるということで、この手の山賊団は細く長く活するために、多くを要求しないのである。

「ひぃっ! は、離してくれぇ!!」

し離れたところから悲鳴が聞こえてくる。

そちらに目を向けると、日中話しかけてきた商人と従者のが拘束され、敏樹らの下へ連れてこられていた。

「わ、わかった! を差し出す! だからそれで勘弁してくださいぃっ!!」

商人はけない表で涙を流しながら頭を下げた。

「利口なやつだ。お前の積荷に手を付けないと約束しよう。なんなら安全なところまでウチのもんを護衛につけてやってもいい」

「あ、ありがとうございます……!!」

「さて、お前らはどうする?」

一味のリーダーと思しき男の問いかけに対し、敏樹が何かを言おうとしたところで、ガンドがそれを制した。

「すまぬが、こちらでし相談してもよいか?」

ガンドの提案に、リーダーの男が鷹揚に頷く。

ガンドは馬車の近くに全員を集め、小聲で話し始めた。

「さて、この場は依頼人の安全を最優先させていただくわけだが、どうすればいいと思うかね?」

こちらの護衛は10名、正面に現われた敵も10名。

「10対10なら余裕で倒せますけどね。ただ……」

敏樹はそこで言葉を切り、あたりを軽く見回す。

「囲まれてますね。全部で30人くらいですか」

「うむ。よくぞ見抜いたな。あと、いましがたトシキ殿はこちらの戦力を10と數えたが、そこは訂正させてもらう。試験と補佐は基本的に手を出さぬ」

「はぁ? なんでさ!! あんな連中、30だろうが40だろうがあたしらでパパッと片付けちまえば……」

そこまで言ったところで、ガンドがシーラを睨みつける。

「うぅ……」

ガンドの眼に気圧され、シーラは口をつぐんだ。

「では験者の諸君、まずは選択だ。要求をれるか、戦うか?」

「戦う、でいいんじゃないかな」

そう言って敏樹が見回すと、験者全員が頷いた。

「よろしい。では戦うとなった場合、ひとつ條件がある」

「條件、ですか」

「うむ。可能な限り、山賊は殺してしい」

「ころ……え?」

その言葉をけ皆一様に驚いたが、何か意図があるのだろうとガンドの言葉を待つ。

「生け捕りにしたところで馬車に乗せるわけにもいくまい。といって徒歩で同行させるとなると行程に大幅な狂いが生じる」

「拘束して置き去りにするというのは?」

「他に仲間がいればすぐに解放されてしまうし、仲間がいなければ魔にでも襲われて死んでしまうだろう」

「……なるほど。じゃあ殺したとして、死は?」

「死であれば【収納】が可能だ。もう隨分商都に近い場所にいるし、ドハティ商會であれば商都に収納庫を持っているであろうから、なんとかなるのではないかな」

【収納】の消費魔力は収納庫との距離と収納の大きさによって増減する。

ここからヘイダの町の収納庫へ死を【収納】するとなればかなりの魔力を必要とするだろうが、収納先が商都であれば、たとえば山賊を首だけにして容量を減らすことでなんとか収納できるだろうし、首さえあれば討伐の証明にはなるので、報奨金もけられるのだ。

「わかりました。では皆殺しの方向で」

「うむ。我らは馬車の護衛をしておるが、何かあれば手助けはいたす。ただしそれは……」

「減點の対象ってことですかね?」

「ふふ、よくわかっておる」

ガンドたちを殘して、敏樹らは馬車から離れた。

「なぁ、あたしらにもやらせてくれよ」

シーラは不満をわにしつつガンドに話しかけたが、彼は軽く首を振ってその要を拒否した。

「ならぬ。これも試験の一環である」

半ば睨むようにガンドを見ていたシーラが、ふと視線を逸して舌打ちをする。

「チッ……そういうことかよ」

試験を免除されたシーラたちだが、Dランク昇格の際にバイロンによる面談をけていた。

『人を殺したことはあるかの?』

山賊団『森の野狼』を壊滅させたことはできるだけ匿しておきたいので、シーラたちはそのことを適當にはぐらかしながらも、人を殺した狀況をできるだけ正確に説明した。

その答えに対し、バイロンが満足げに頷いていたのをシーラは思い出していた。

**********

は殺せても人は殺せない。

そういう冒険者は多なりとも存在する。

それはそうだろう。

狩りと殺人とでは神に掛かる負擔が違いすぎるのだから。

しかし、人を殺せない冒険者はDランクに昇る事ができない。

――依頼遂行のために躊躇なく人を殺せること。

これはDランク冒険者に求められるもっとも重要な能力である。

なにも冒険者ギルドは殺人を推奨しているわけではない。

ただ、Dランク冒険者は護衛の隨行ができるようになる。

その護衛要員が、今回のように山賊の類に襲われた際、依頼人の生命や財産を守るための人殺しを躊躇するようでは困るのである。

そのため、Dランク昇格試験では必ず人を殺す狀況が用意される。

今回はたまたま襲われたが、もしこの襲撃がなければ、ガンドは山賊のアジトを襲撃する予定だった。

無論、いつもいつも都合よく山賊のアジトが見つかるはずもないので、手頃な山賊討伐依頼が出されたタイミングで昇格試験は行われるようになっているのだった。

「こんなことなら昇格試験免除するんじゃなかったねぇ」

敏樹らの背中を見送りながらシーラは々悔しげに呟く。

なにせ彼は山賊討伐を最大の目的として、冒険者となったのだから。

「ふふ、心配するでない。お主の出番はまだあるのでな」

シーラのぼやきに対し、ガンドは意味ありげな笑みを浮かべるのだった。

「おい、待たせ過ぎだぞ」

「悪ぃ悪ぃ」

苛立たしげなリーダーの下へ、ジールを中心にランザとモロウが小走りに近づいていく。

「で、積み荷にするのかにするのか、決まったのか? ん? 待て、責任者はどこに行った?」

話し合いを終え、軽く散開したメンバーの中に敏樹の姿を確認できなかったリーダーはキョロキョロ戸當りを見回した。

「責任者ならいるぜ? そこによ」

ジールに指さされたリーダーは小首を傾げたが、その直後、首から派手にを吹き出して倒れた。

「えっ!?」

突然倒れたリーダーに驚く山賊たちの前に、敏樹の姿がゆらりと浮かび上がった。

「というわけでこれが俺らの答えだよ」

そう告げたあと、敏樹は再び闇に消えた。

何が起こったのか理解できず、戸う山賊たちの下へ、ジールとランザは無言で駆け寄り、一味が混から立ち直る前に各々武を振るった。

ジールの大剣は唸りを上げて一味のひとりを上下に分斷し、ランザの振り下ろす鉄槌に別の山賊が頭を潰される。

ふたりが踏み込むと同時に放たれたモロウの魔によって、さらにひとりが眉間を撃ち抜かれ、闇に紛れた敏樹の手によってまた別の山賊が首を切られた。

山賊たちは前後左右に人員を配置していた。

最初に接を図った連中を正面とした場合、左右にそれぞれ6人ずつ、後方に8人が配置され、正面の10人を合わせて総數30人からなる部隊だった。

敏樹がリーダーを倒したのを皮切りに、ロロアは素早く馬車に飛び乗って弓を構え、まず右側の6人を10秒で殺した。

6人目に対する矢を放った直後に振り返り、左側に控えながらいまだ事態を飲み込めていない6人を、10秒で全滅させた。

シゲルもロロアとほぼ同時にき始めた。

後方に陣取る8人に向かって突進し、まずはひと突き。

突きを放ちながら絶妙な力加減で軌道を修正し、そのひと突きで3人を仕留めた。

「え?」「あれ?」

突然傍らに立っていた仲間が倒れたことに戸いの聲をあげる山賊たちだったが、そのの2人が次の瞬間にはシゲルの薙ぎ払いをけた。

穂の刃で切られたものはすっぱりと分斷され、柄の部分をけたものも、骨を砕かれ、皮を引きちぎられながら結局分斷された。

「ひぃっ!」「わわっ!!」「た、たすけ……」

ようやく自分たちが襲われていることに気づいた殘る3人だが、シゲルが振り下ろした槍にによって頭を斬られ、あるいは砕かれて絶命した。

正面にいた10人も敏樹とジールたちによって倒され、山賊一味はリーダーの死から1分たらずで全滅したのだった。

「うむ、やはりトシキ殿たちは規格外であるな」

心しなんども頷くガンドの隣には、拘束されていた商人と従者のがいた。

戦闘開始直後にガンドが一応保護していたのである。

「は、ははは……す、すごくお強いのですね、みなさんは……」

商人は稱賛の言葉をらしつつも、顔は青ざめ、膝をガタガタと震わせていた。

従者のは無言のまま目を大きく見開いていた。

「おためごかしはよい。お主もどうせ一味なのだろう?」

「へ? あ、はは……ご冗談を……」

商人風の男は青ざめた顔のまま、そう答えた。

そこに、敏樹やジールたちが戻ってくる。

「そっちのぁさっき抜け出して向こうに走って行ってたよなぁ」

「おおかた仲間を呼びにでも行ってたんだろ?」

従者のが山賊のきた方向へこっそりと走っていったとき、見張り擔當だったシゲルとジールが追い打ちをかける。

「ふむ。晝のに標的になりそうな者と接し、仲間に伝えて襲わせるといったところかな」

さらに、山賊たちの要求をあっさり飲み、そうすれば安全が保証されるということをわからせるのもこの男の役目だろう。

「ご、ごご、誤解です! 私はあんな連中とは……!!」

「ははは、下手な噓だな。しかしお主、晝間それがしを見ておいてよく襲う気になったのぅ。酔斧槍のガンドといえば、そこそこ名が知れておると思っておったのだがなぁ」

「へ……酔……? ま、まさかBランク冒険者の……?」

どうやらこの山賊団、このあたりを縄張りにしてそれほど時間が経っておらず、ガンドの噂は知っていても、姿形は知らなかったようである。

「うむ。まぁどちらにせよアジトを襲撃するつもりではあったので、それがしを避けたところで意味はなかったのだがな」

どうやら今回襲ってきた連中は元々ガンドが討伐を予定していた山賊団の一味であるらしかった。

仮に今夜襲われていなければ、明日早朝にでもアジトへ向かい討伐していただろう。

「たしか50人規模の山賊団だったはずゆえ、後始末は試験と補佐でおこなうとしようか」

「へへ、そうこなくっちゃ!」

アジト襲撃にはガンドとシーラ、メリダ、ライリーの4人が戦闘要員として、索敵や探索、収納が得意な敏樹が補助要員として同行した。

無論、『報閲覧』や〈格納庫ハンガー〉について、ガンドに対しては明かしていない。

「なんか、雑魚ばっかだったね」

歩いて1時間ほどの雑木林に造られた幾つかの掘っ立て小屋からなる山賊団のアジトは、敏樹によってあっさりと発見され、ものの數分で制圧された。

「てめぇ! よりによってBランクに手ぇ出しやがって!!」

「知らない! 私は山賊の仲間じゃないっ! 信じてくれぇっ!!」

頭目のみ生け捕りにされ、他はすべて殺された上で敏樹の〈格納庫ハンガー〉に収納された。

そして頭目と商人風の男、従者のは馬車の屋に縛り付けて運ばれることになった。

「この時期に討伐依頼を出された己の不運を呪うがよい」

余談ではあるが、この山賊団による被害はまだそれほど多くなく、そのせいで約50人というそこそこ大きな規模にもかかわらず、まだ討伐報酬はそれほど高くなかった。

通常であればもうしばらくは見逃されていたはずだし、討伐されるにしても大半が生け捕りにされたであろう。

この段階で討伐され、ほぼ皆殺しにされたのは、昇格試験の課題に選ばれたからであり、そういう意味では々不運な連中かもしれない。

「不運なもんか。自業自得さ」

ガンドの言葉に対し、シーラは吐き捨てるように呟いた。

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