《【新】アラフォーおっさん異世界へ!! でも時々実家に帰ります》第9話『おっさん、州都へ行く』

商都エトラシ北門前広場は、日の出直前のまだ薄暗い時間にも関わらず、多くの人や馬車でごった返していた。

ここにいるのはみな、商都から北北東に位置する州都セニエスクへ向かう者たちである。

商都から州都までは馬車で3日の距離だが、その途中には宿場町や小さな村が點在しており、早朝に出発すれば明るいに一番近い宿場町に到著できるので、毎日この時間の北門前広場は混雑するのだ。

ガンド率いる敏樹ら一行もその人混みの中にいた。

「くぁあぁぁぁ……」

「なんだよ、寢不足か?」

大きくあくびをするファランに敏樹が聲をかける。

「昨日は早めに切り上げたと思うけど」

「あはは……。いやね、昨日トシキさんと話したことを考えてたら楽しくなっちゃって、ちょっと寢るのが遅くなったんだよねー」

あくびのせいで出た涙を軽く拭いながら、ファランは照れたように微笑んだ。

「私がしっかり寢てますから、ファランさまは馬車でゆっくりお休みください」

「ありがと、ビーチェ。そうさせてもらうよ……ふぁ……」

最後にもう一度、小さなあくびをらしたファランは、護衛のベアトリーチェに促されて馬車に乗った。

「で、なんでロロアも眠そうなの?」

「ふぇ……?」

傍らであくびを噛み殺す気配をじた敏樹は、し呆れながらロロアに問いかける。

「ね、眠くなんてありませんよ……?」

と、応じるロロアは、噛み殺したあくびのせいで分泌されたであろう涙に潤む、充して真っ赤になった目を不用にそらす。

「あのあと結局遅くまで漫畫読んでたんだろ?」

「そ、そそそそんなこと、ありませんよ?」

昨夜ファランの部屋から戻ったあとも、ロロアはベッドに寢転がって漫畫を読んでいた。

『明日早いからいい加減切り上げて寢なよ』

『はーい』

というやり取りのあと、敏樹はさっさとシャワーを浴びてベッドにった。

幸い彼は多部屋が明るかろうが雑音があろうが、気にせず眠れる質なので、ほどなく眠りにつく。

そして翌朝、目が覚めてみると、読み終えた漫畫が散するベッドに突っ伏して眠るロロアの姿があったというわけである。

「あのさロロア、いまは大事な試験中なんだよ?」

「う……」

「それ以前に、護衛依頼をけてるわけ」

「……はい」

「ロロアが眠気のせいで油斷して、ファランたちに何かあったらどうするの?」

「あ……」

最後の言葉でようやく事の重大さに気づいたのか、ロロアは眉を下げた。

目に薄っすらの涙が溜まっているのは、あくびのせいだけではなさそうだ。

「……ごめん、なさい」

しうつむいたあと、ロロアは小さく呟いた。

「まぁまぁそう固いこというなよ、おっさん。あたしらもいるんだからさ」

「そうだぜぇ。おれひとりでも充分なくらいだぜぇ?」

シュンとこまるロロアを心配してか、シーラとシゲルがフォローにる。

「今回はな。でも毎回戦力が充実してるとは限らないだろ?」

「なーに、ロロアだったら大丈夫だって。ちゃんとするときはちゃんとするさ。おっさんだってそれくらいわかってるだろ?」

「そうかもしれんけど、こういうのは日頃の心がけがだなぁ……」

「あーやだやだ! おっさんは説教臭くていけないや」

「しょうがないだろうが、おっさんなんだから」

そこへロロアが割ってる。

「シーラ、いいの。今回は私が悪いから……。シゲルちゃんもありがとね……」

そしてロロアは敏樹に向き直り、姿勢を正して頭を下げた。

「トシキさんごめんなさい。ちょっと気が抜けてたというか……、みんながいるからって甘えてました。次からは気をつけます」

「あー、うん。わかればよろしい」

ちょっと言い過ぎたかな、としだけ心が痛んだが、こういうのは始めが肝要なので、これはこれでよかったと思うことにする。

「うぇ……ねみぃ……」

「フラフラするのぅ」

「……まったく。飲み過ぎなんだよふたりとも」

ロロアへの説教が一段落ついたところで、ジールたちが現われた。

「まったく……。【解毒】してあげたんだから宿酔ふつかよいは治ってるはずだろ?」

「頭痛ぇのは治ったがよ……」

「酒が抜けても寢不足はどないもならんわい!」

「いや、逆ギレするなよ……」

どうやら他にも心がけがなっていない者がいたらしく、敏樹は呆れたように天を仰いた。

**********

「前方は俺、後方はモロウさんにお願いします。シゲルは悪いけど馬車の上に乗って左右をメインに全方位を警戒」

「了解です」

「おう。任しとけぇ」

モロウとシゲルに指示を出し終えた敏樹は、殘る3人にし厳しい視線を向ける。

「ジール、ランザ、そしてロロアは、しっかり寢て眠気を取っておくように」

「おう、助かるぜ」

「すまんの。後半巻き返すよって」

ジールとランザは素直に禮を言って敏樹の指示をれたが、ロロアは納得がいっていないようである。

「あの、私はもう大丈夫ですから……」

「だめ。町から近い安全なにちゃんと疲れを取ってもらうよ。これはリーダーの命令です」

「うぅ…………わかりました」

ロロアが渋々指示をれたことを確認した敏樹は、視線を依頼人たちのほうに移す。

「ベアトリーチェ、悪いけど今日はそっちの馬車の警戒を頼む」

「えっと、それは別にいいですけど……」

「シーラ、メリダ、ライリーは悪いけど前の馬車に乗ってくれ」

「はぁ!? なんで……って、あー……」

一瞬抗議の態度を見せたシーラだったが、敏樹の意図を悟ったのか、し意地の悪い笑みを浮かべた。

「くくく……、しのロロアの護衛ってわけだね?」

「確かに、親しいとは言え男二人と同じ馬車に放置するというのは酷ですものね」

「ん、男はみんな狼」

「ちょっとみんな、なに言って……」

そんなシーラたちの言葉にロロアは顔を赤らめて軽く抗議したが、敏樹はし照れたような表を浮かべつつも無言で視線をそらすにとどまった。

「はぁ……ったく。心配しなくてもアンタのにゃ手を出さねぇよ」

「せやで。シゲルはんがオカンと慕うおなごにちょっかいかけるほど、ワシら無謀とちゃうで?」

出會った當初はロロアを『蜥蜴のねーちゃん』と呼んでいたシゲルだったが、ある日それを聞きとがめたシーラが「おっさんが親父ならロロアはお袋さんじゃね?」と言ったことから、それ以降ロロアを『かーちゃん』と呼ぶようになった。

以來ロロアはヘイダの町では一目置かれるようになり、酔ったガンドですらちょっかいをかけなくなっていた。

「と、とにかく! 晝まではこの布陣でいくから! 異議は認めません!!」

最後はピシャリと言い放った敏樹だったが、メンバーの大半はその様子をニヤニヤと見守った。

「ふむ、どうやら當面の行指針は決まったようであるな」

そしてここまで完全に空気だった――あえて口を出さなかったのだが――ガンドがまとめにる。

「メンバーの調を慮っての采配、見事であるぞ」

「ああ、どうも……」

ガンドから素直に褒められ、敏樹はし照れくさい思いをした。

**********

「そろそろ小腹が空いてきませんかー!? 歩きながら食べれる串焼きですよー!!」

「足りない、忘れはございませんかぁ? ウチなら大抵そろいますよーぅ!!」

「おつかれじゃないっすかぁ? 回復しまっせー!!」

類、寢、テントからちょっとしたの汚れまで、さっぱり綺麗になりたい方は是非こちらへっ!!」

「邪魔な荷ないかー? 【収納】代行やってるよー」

商都エトラシの北門を出てしばらく経った。

町を出た直後は人や馬車でごった返していたが、それぞれペースが異なるので1時間もすれば往來もまばらになってくる。

現在、敏樹らのすぐ近くに別の旅人や商隊などはいなくなったが、視界の先には人や馬車がチラホラと見え、広い街道の両側に店が立ち並んでいる。

そこからはひっきりなしに宣伝や勧の聲が飛びっており、この旅路は隨分と賑やかだった。

「……ねぇ、ガンドさん……、これ護衛って必要です?」

「まぁ、商都から州都への道は非常に安全ではあるな」

商都と州都を結ぶ街道は連日往來が激しく、その往來客をターゲットにした店もある程度の間隔で立ち並んでいる。

町の外に店を構える天商には腕に覚えのある者や、冒険者を護衛に雇っている者が多く、この街道を進む限り魔や山賊の被害に遭う可能は格段に低くなるのだ。

ただ、人が多くなれば中にはよからぬ考えを持つ者も現れる。

「盜難や寸借詐欺などの被害はままあるゆえな。油斷はであるぞ?」

ガンドの注意をけ、敏樹は気を引き締め直すのだった。

「ご迷をおかけしました。もう大丈夫です」

「すまねぇなみんな。こっからはちゃんと働くぜ」

「バリバリ見張ったるよって、ワシらに任しときっ!!」

出発から3時間ほどで一度休憩を取り、そこまで充分な睡眠を取ったロロアとジール、ランザはすっかり調子を取り戻していた

それ以降、安全とはいえ見張りは4人制となり、これといった事件もなく宿場町に到著。

その後も旅は順調に続き、商都を出て3日後、一行は無事州都セニエスクにたどり著いたのだった。

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