《【新】アラフォーおっさん異世界へ!! でも時々実家に帰ります》第11話『おっさん、監察署を訪れる』
州都のメインストリートからし外れた、人通りのない一角。
閑靜な住宅街じみた場所に、その建はあった。
2階建ての個人宅のような建だったが、ファラン曰くこれが天網監察署であるらしい。
「ほら、扉の上を見てごらんよ」
「…………桜?」
り口と思しき扉の上に、桜の花を模したような紋が掲げられていた。
「桜をモチーフにしたデザインていうのは、天帝とその直轄の組織しか使うことが許されていないからね。個人宅でこんなの掲げてたら、大変なことになっちゃうよ」
「へええ」
どうやらここで間違いないようなので、敏樹はさっそくり口の扉を開けようとしたのだが――、
「ん? 開かない?」
取っ手を何度か押し引きしてみたが、どうやら扉には鍵がかかっているらしく、開きそうにない。
扉にはノッカーがついていたので、それを使ってコンコンとノックしてみたが、特に反応はなかった。
「なぁ、ここの営業時間ってどうなってるの?」
「さぁ? 普通の人はここに來ることなんてないからね。窓口……があるのかどうか知らないけど、いつが休みとかそういうのはあんまり知られてないんじゃないなぁ」
ファランの返事をけて一応ロロアとベアトリーチェを見てみたが、雙方とも困ったように肩をすくめるだけだった。
そもそも州都についてファランがしらないことをあとのふたりが知っているはずもないので、それは予想通りの反応ではあったが。
「うーん。もしかすると先に役所とかに行ったほうがいいのかもしれないね。そこで、例えば通信箱なんかを使って先れを出してもらうとか?」
「なるほど。アポ無しじゃダメってわけか……。まぁかなり上位の組織みたいだし、當たり前っちゃあ當たり前か」
「といっても、役所こことに連絡網がつながってるかどうかも不明なんだけどね」
「役所がダメならどうする?」
「とりあえず商人ギルドに問い合わせてみようかな」
「じゃあ俺も冒険者ギルドに聞いてみるか……」
最後にもう一度ノッカーを叩いてみたが、やはり反応はない。
「あのー……?」
仕方がないので帰ろうかとしたところで、背後から聲をかけられた。
振り返ると、そこには買い袋を抱えたが立っていた。
「失禮ですが、お訪ね先をお間違えでは?」
明るい紫の髪を持つ、し背の低いそのは、穏やかな表とどこかのんびりとした口調でそう告げた。
「えっと、ここは天網監察署で間違いないですか?」
「はい、そうですけど?」
「俺たちはその天網監察署に用があって來たんですけど」
「あらあらあら、お珍しい。ウチに用がある人なんて滅多にいませんからねぇ。てっきりどこか別のお宅と勘違いされたのかと……」
「あの、もしかして今日は都合が悪かったりとかします?」
「いいえぇ! 天網監察署はいつでもみなさまをお迎えしておりますよ。私はただちょっと席を外していただけですから」
そう言いながら、は敏樹らの間を抜けてドアの前に立った。
「でもおかしいですねぇ。もうひとり中にいるはずなんですが……」
そこでは取っ手を摑んでガタガタと扉を押し引きする。
「鍵までかけて……。ほんとにあの子ったら……」
は呆れたように呟くと、ポケットから鍵を取り出してガチャリと鍵を開けた。
「ささ、どうぞー」
に促され、敏樹らは中に足を踏みれた。
外観は民家のようだったが、中は公共施設のようになっており、付カウンターや待合席などが設けられていた。
「ここで待っててくださいねぇ」
は一旦奧の部屋に消えたあと、荷を置いて現れ、カウンターの奧に座った。
「さて、大変おまたせして申し訳ありませんでした。わたしはここ天網監察ケシド州都署の監察員、マーガレットと申します」
マーガレットと名乗ったそのは、軽く一禮したあと穏やかに微笑んだ。
先ほどまでと比べると、しではあるが口調が固くなっているようで、どうやらこれが彼の営業モードであるらしい。
それでもなお穏やかな雰囲気はまとったままではあるが。
「さて、わざわざ起こしいただいて恐ですが、我々が相談に乗れる容というのはものすごく限られております。容によっては、お役所や憲兵、各ギルドへ行っていただく事になりますのでご了承くさいませ」
口調も表もあいかわらず穏やかではあるが、そこには軽く拒絶するようなが見て取れた。
おそらく管轄違いのことを相談されることが多いのだろう。
「相談前にひとつ確認しておきたいのですが」
「なんでしょう?」
「こちらでは、例えば高級役人や王族であっても、取り締まってもらえるということで間違いありませんか?」
その瞬間、マーガレットの顔から表が消え、纏っていた穏やかな雰囲気もなくなり、室の溫度がし下がったようにじられた。
その様子に4人は一様に息を呑んだが、マーガレットはすぐに穏やかな笑みを浮かべ、口を開いた。
「この國の人々は、天帝の名のもとにみな平等なのです。州牧? 三公? そんなものはただの肩書に過ぎませんし、王族などというのもそれにが生えたようなものでしょう。天網の前では庶民も同然ですよ」
要約すれば、役人だか王族だが知らんがウチらがイモ引くとでも思ってんのか? 舐めんじゃねーぞコノヤロー、といったところか。
侮られたと思ったのか、マーガレットは相変わらず穏やかな様子ではあるが、どことなくご機嫌がかたむいているように思えた。
「これは失禮しました。では俺たちの要件を話させていただきます」
「あ、先程も申しましたが、容次第ではこちらで対応しかねますからね。あくまで州法や王法の枠を超え、天網にれる場合のみ我々はきますから」
「わかりました。人の奴隷売買に関することでの相談なんですが……」
そこでマーガレットの表がキリっ引き締まる。
「詳しくお聞かせ願いましょうか」
マーガレットから天網監察としての矜持が見て取れたので、敏樹は森の野狼討伐に関わることをある程度詳しく話すことにした。
**********
「森の野狼を、ねぇ……。それにしても、よくこれだけの報を引き出せましたね」
敏樹からの説明を聞き終えたマーガレットは、1枚の紙に視線を落とした。
それには敏樹が調べ上げた、森の野狼とつながりのある人や組織の一覧が記されていた。
「命惜しさにペラペラ喋ってくれましたよ。バックに大がいるとわかればこちらが躊躇するとでも思ったんでしょう」
実際はタブレットPCの『報閲覧』機能を使って調べ上げたものだが、それも含めて伏せるべき點はしっかりと伏せてある。
「しかし、森の野狼が討伐されたなどという報はどこにも流れてないと思いますけど?」
「そりゃそうでしょう。どこにも報告してませんから」
「なぜです? 山賊団を壊滅させたとなると、報奨金も相當なものになると思いますが……」
「いや、その一覧見ていただければわかると思いますけど、相當厄介な連中がつながってますからね。逆恨みで仕返しされちゃあかないません」
「ではなぜ私に説明を?」
「マーガレットさんに天網監察としての矜持を見たから、ですかね」
その言葉に、マーガレットの口元が思わずほころぶ。
「信頼していただきありがとうございます」
しかし軽く一禮したあと、彼の表は再び厳しいものとなった。
「しかし、オオシタさまの報だけで軽々しくくわけには參りません」
まずこういった答えが返ってくるだろうことは想定なので、敏樹は無言で続きを促した。
「我々は大きな力を持っています。それこそ王族でさえ逆らえないほどの。だからこそ、容易にくことはできないということを、ご理解いただきたいのです」
「ええ、それはわかります。ではどうすればいいですか?」
「この度いただいた報は非常に有用なものであると思われますので、これを査し味したうえで適切な対応を取らせていただきたいと思います」
「……的にはいつごろ、どういてくれます?」
「それについては今の段階でお答えしかねます」
なんとも四角四面な答えではあるが、これも天監という組織の質上仕方のないことなのだろう。
「俺たちが獨自にくので、何かあったときに後ろ盾になっていただける、とかだとありがたいのですが……」
元々敏樹は自分たちの力だけで何とかするつもりだったのだが、天監という組織があるということを知ったので、あわよくば協力を得られのでは? ということでここに來ただけである。
「承服しかねます。天網の前に平等とはいえ、一般的には権力者と呼ばれる者を敵に回す形になるわけですから。それに、我々が協力するとしても、州法や王法の範囲でことを収められてしまうと、我々には手が出せなくなることも考えられますからね」
「危険があるのは百も承知ですよ。そのへんは自己責任で結構ですので」
「そう言われましても――」
「いいじゃないか」
そこへ、突然別の人が割ってった。
それは同じく天監と思われるで、マーガレットの背後から敏樹の提出したリストをサッと手に取る。
「ふむふむ……、このリスト、我々の調査結果と重なる部分が結構あるな……」
「ちょっと、あなた……」
マーガレットは背後の人を窘めたが、そのは特に気にするでもなくリストに目を通す。
「ほう、やはりヤツも関わっていたか。なるほど……、よくぞここまで調べ上げたものだ」
「あなた今までどこにいたのよ?」
「ん? 二階で寢ていたぞ?」
「はぁ……。私がいない間の応対くらいしなさいよ。鍵までかけて……」
「はは、すまんすまん」
彼はリストをマーガレットに返すと、敏樹を見據えた。
燃えるような赤い髪と貓を思わせる耳が印象的な、凜々しい獣人のだった。
「條件次第では協力できなくもないぞ?」
「ちょっと!!」
マーガレットの抗議を軽く手を上げて制し、彼は敏樹に微笑みかけた。
「それはどうも。あの、大下敏樹といいます。大下が姓です」
「ふむ。私は天網監察ケシド州都署に所屬する天網監察員で――」
そこまで言うと、は敏樹の前に手を出し、握手を求めた。
「――名をテレーザという。よろしくな」
- 連載中30 章
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***マンガがうがうコミカライズ原作大賞で銀賞&特別賞を受賞し、コミカライズと書籍化が決定しました! オザイ先生によるコミカライズが、マンガがうがうアプリにて2022年1月20日より配信中、2022年5月10日よりコミック第1巻発売中です。また、雙葉社Mノベルスf様から、1巻目書籍が2022年1月14日より、2巻目書籍が2022年7月8日より発売中です。いずれもイラストはみつなり都先生です!詳細は活動報告にて*** イリスは、生まれた時から落ちこぼれだった。魔術士の家系に生まれれば通常備わるはずの魔法の屬性が、生まれ落ちた時に認められなかったのだ。 王國の5魔術師団のうち1つを束ねていた魔術師団長の長女にもかかわらず、魔法の使えないイリスは、後妻に入った義母から冷たい仕打ちを受けており、その仕打ちは次第にエスカレートして、まるで侍女同然に扱われていた。 そんなイリスに、騎士のケンドールとの婚約話が持ち上がる。騎士団でもぱっとしない一兵に過ぎなかったケンドールからの婚約の申し出に、これ幸いと押し付けるようにイリスを婚約させた義母だったけれど、ケンドールはその後目覚ましい活躍を見せ、異例の速さで副騎士団長まで昇進した。義母の溺愛する、美しい妹のヘレナは、そんなケンドールをイリスから奪おうと彼に近付く。ケンドールは、イリスに向かって冷たく婚約破棄を言い放ち、ヘレナとの婚約を告げるのだった。 家を追われたイリスは、家で身に付けた侍女としてのスキルを活かして、侍女として、とある高名な魔術士の家で働き始める。「魔術士の落ちこぼれの娘として生きるより、普通の侍女として穏やかに生きる方が幸せだわ」そう思って侍女としての生活を満喫し出したイリスだったけれど、その家の主人である超絶美形の天才魔術士に、どうやら気に入られてしまったようで……。 王道のハッピーエンドのラブストーリーです。本編完結済です。後日談を追加しております。 また、恐縮ですが、感想受付を一旦停止させていただいています。 ***2021年6月30日と7月1日の日間総合ランキング/日間異世界戀愛ジャンルランキングで1位に、7月6日の週間総合ランキングで1位に、7月22日–28日の月間異世界戀愛ランキングで3位、7月29日に2位になりました。読んでくださっている皆様、本當にありがとうございます!***
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